21 / 113
第二章 ドキドキの同居生活
第二章 ブランドン公爵家
しおりを挟むユーグリッドとレオンが結婚して番になったのは三年前だ。
18歳で上級学校を卒業し、レオンはすぐにクリスタニア家の研究所員となった。学校でも無事に生活し、Ωであるという認識が、危機感が無くなっていた。薬でフェロモンも発情期もコントロール出来ていると思っていた。
その過信が良く無かった。
セルトレインのように少なくとも番を作ってから勤めればよかったと、後悔しても遅い。
レオンは研究所内で予期せぬ発情を迎えた。
二週間前に発情期は終わっていた。三か月周期のそれが起こるはずがなかったのだ。
混乱した。
とにかく一緒に居たβの研究員に両親のどちらかを呼んでもらうようお願いして、身を隠せる場所を探した。
番のいるΩは不特定多数のαを惑わせるフェロモンを出すこともなければ、番以外のαから発情を誘発されることもない。だが番のいないレオンのフェロモンは不特定多数のαを惑わすし、αからの発情期の誘発も受けた。
(誰かがΩを発情させようとしたのかな?)
誤ってそれが自分に起きてしまったのかもしれない。
第二性を扱う研究の多い場所だ。αも多いためその扱いは慎重に行われているが、番のいないΩの研究員はレオンだけだった。
そもそもΩの研究員は数が少ないので、今までの設備ではこういった抜けが出来てしまっているのかもしれない。
(原因追求はとりあえず後回しだ。今は隠れないと……)
他の研究員、特に優秀なαに迷惑がかかってしまう。
そんな突然の発情期や、αの傲慢にΩが利用されないよう、カトラシアは法律で建物内に一定間隔でΩが逃げ込める避難場所を作る様に定められている。
それらは不備がないように、抜き打ちで国家組織が点検をするくらい徹底したものだ。
研究所にもΩが避難できる場所があることを小さい頃から出入りしているレオンは当然知っていた。
だが、その入り口のことごとくにαがいた。
そのうちの一人の顔を見た時に、数日前の会議を思い出す。
(そうか! 俺は実験に利用されてるんだ!?)
今、レオンは首にフェロモンの消臭が期待できる素材で作ったネックガードを嵌めている。その素材の効果をどのように確認するか、先日話し合っていた。この技術が進めば急なΩの発情が起きても、理性を失ったαに襲われる確率はさらに下げることができる。
番夫婦に頼んで発情期に検証してもらうということで決まったが、その話し合いの中で「番ったΩではフェロモンが変わってしまっているから、番ってないΩで試さなければ意味がないんじゃないか」という意見も出た。
十数名居た会議室の中、数名のαがレオンを見た。その視線にゾワリと背筋が凍る。αの威圧を感じたからだ。
「それは時期尚早だろう。番のいるΩで効果の確認が取れてからでなければ無駄な実験になる」
そのレオンにとっては気持ちの悪い空気を吹き飛ばすように、静かな声が会議室に響く。会議に参加している中で一番上役であるユーグリッドが否と言えばその話は無効になった。
会議の後、せっかくだから使ってみたらどうかとβの研究員に渡されたネックガードを、レオンは身に着けていた。
実験をするにしても、Ωに手出しが出来ないようにαを拘束した状態で行ったり、フェロモンに影響を受けないβを同席させるべきだ。
もしネックガードの効果がなく、発情中のΩのフェロモンが作用してしまえばαは欲望を止めることが出来ない。発情し運動機能を低下させたレオンにも抗う術がない。
そんなことは考えたくなかったが、避難場所に行ったが最後、どうなるか判ったものじゃない。
研究所内でレオンは顔は悪いが優秀なΩと認識されていた。
αばかりの学校を優秀な成績で卒業した事実は大きい。
顔が悪くて魅力が無かろうが、番のないΩのフェロモンはαを強制的に発情させるのだ。レオン相手でも発情し、優秀な子どもを産ませることができる可能性は高い。
(いやそんな事じゃなくて、ネックガードの効果実験……だ、間違いない)
自分が狙われるなんて思えなかったが、震える身体を叱責しながらどうにか足を進める。
フェロモンを消臭するネックガードはきちんと効果があったのだろう。αに捕まることなく、気付けばユーグリッドの執務室の前にたどり着いていた。
扉をそっと開ければふわりと大好きなユーグリッドの匂いがする。
レオンはふらふらと室内に入り執務机の足元のスペースに身を隠した。そのままユーグリッドの匂いの濃い椅子へ頭を乗せる。
レオンの記憶がはっきりしているのはここまでだった。
1
お気に入りに追加
375
あなたにおすすめの小説

【完結】呪いを解いて欲しいとお願いしただけなのに、なぜか超絶美形の魔術師に溺愛されました!
藤原ライラ
恋愛
ルイーゼ=アーベントロートはとある国の末の王女。複雑な呪いにかかっており、訳あって離宮で暮らしている。
ある日、彼女は不思議な夢を見る。それは、とても美しい男が女を抱いている夢だった。その夜、夢で見た通りの男はルイーゼの目の前に現れ、自分は魔術師のハーディだと名乗る。咄嗟に呪いを解いてと頼むルイーゼだったが、魔術師はタダでは願いを叶えてはくれない。当然のようにハーディは対価を要求してくるのだった。
解呪の過程でハーディに恋心を抱くルイーゼだったが、呪いが解けてしまえばもう彼に会うことはできないかもしれないと思い悩み……。
「君は、おれに、一体何をくれる?」
呪いを解く代わりにハーディが求める対価とは?
強情な王女とちょっと性悪な魔術師のお話。
※ほぼ同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

辺境伯と幼妻の秘め事
睡眠不足
恋愛
父に虐げられていた23歳下のジュリアを守るため、形だけ娶った辺境伯のニコラス。それから5年近くが経過し、ジュリアは美しい女性に成長した。そんなある日、ニコラスはジュリアから本当の妻にしてほしいと迫られる。
途中まで書いていた話のストックが無くなったので、本来書きたかったヒロインが成長した後の話であるこちらを上げさせてもらいます。
*元の話を読まなくても全く問題ありません。
*15歳で成人となる世界です。
*異世界な上にヒーローは人外の血を引いています。
*なかなか本番にいきません
引きこもり令嬢が完全無欠の氷の王太子に愛されるただひとつの花となるまでの、その顛末
藤原ライラ
恋愛
夜会が苦手で家に引きこもっている侯爵令嬢 リリアーナは、王太子妃候補が駆け落ちしてしまったことで突如その席に収まってしまう。
氷の王太子の呼び名をほしいままにするシルヴィオ。
取り付く島もなく冷徹だと思っていた彼のやさしさに触れていくうちに、リリアーナは心惹かれていく。けれど、同時に自分なんかでは釣り合わないという気持ちに苛まれてしまい……。
堅物王太子×引きこもり令嬢
「君はまだ、君を知らないだけだ」
☆「素直になれない高飛車王女様は~」にも出てくるシルヴィオのお話です。そちらを未読でも問題なく読めます。時系列的にはこちらのお話が2年ほど前になります。
※こちら同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※
泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。
待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。

白狼王の贄姫のはずが黒狼王子の番となって愛されることになりました
鳥花風星
恋愛
白狼王の生贄としてささげられた人間族の第二王女ライラは、白狼王から「生贄はいらない、第三王子のものになれ」と言われる。
第三王子レリウスは、手はボロボロでやせ細ったライラを見て王女ではなく偽物だと疑うが、ライラは正真正銘第二王女で、側妃の娘ということで正妃とその子供たちから酷い扱いを受けていたのだった。真相を知ったレリウスはライラを自分の屋敷に住まわせる。
いつも笑顔を絶やさず周囲の人間と馴染もうと努力するライラをレリウスもいつの間にか大切に思うようになるが、ライラが番かもしれないと分かるとなぜか黙り込んでしまう。
自分が人間だからレリウスは嫌なのだろうと思ったライラは、身を引く決心をして……。
両片思いからのハッピーエンドです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる