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第一章 出逢いと再会
女の子と猟犬騎士
しおりを挟む髪型は、以前と変わらず軽いオールバック。やや癖のある、カラスの濡れ羽色だ。吊り上がった目は眼光鋭く、睨まれたら例え狼でもすくみ上がるだろう。エメラルドに似た鮮やかな緑の瞳も、溜息が出るほど美しい。他にも顔のパーツ全てが完璧に整っており、尖った顎、凜々しい眉、高い鼻、賢そうな薄い唇と、騎士にしておくにはもったいなくらいの美貌だった。
実際彼のファンが「オリヴァー様のお顔だけは傷つけないで」と魔族にお願いに行った、という笑い話もあるくらいだ。
とにかく、相変わらずとてつもない色男ぶりで、
「あの冷たい瞳が甘く細められるのを見たい」と、貴族のご婦人方の人気が引きも切らない様子である。
実際に今も、令嬢達がうっとりした表情で彼を褒め称える声が聞こえてくる。
「オリヴァー様、三十路を越えてますます渋みがましましたね」
「本当。あのクールなまなざし、ドキドキしちゃう。立ち姿は、まるでドーベルマンみたいに手足が長くて、凛々しいわ」
「それに低くてセクシーなお声。たまりませんわ。あの声で名前を呼ばれてみたい」
「ああん、素敵ぃ~! 私もあの方の獲物になって狩られたいわ~」
令嬢達の声が見事なハーモニーを作った。
(ああ……オリ、オリヴァーさま……!)
十年ぶりの一方的な再会に、シャーロットは感極まって呼吸をするのを忘れていた。両手で口元を押さえ、じわっと目頭が熱くなる。
(ご無事だったのね……。お元気そうだわ)
――良かった。本当に、良かった……!
遠くから見ているだけだが、シャーロットの心は幸福で満ちていた。
(オリヴァー様……)
ずっと片想いしていた初恋の人。実ることはないと分かっているから、こうして眺めているだけで胸がいっぱいになるのだ。
一方オリヴァーは令嬢達に儀礼的な対応をしている。シャーロットにはもちろん気づいていない。
(いいの。見ているだけで)
しばらくそうして見詰めていると、オリヴァーの元に三歳くらいの女の子が駆け寄っていくのが見えた。
「いた! オリヴァーさまっ」
女の子は令嬢達を掻き分け、オリヴァーの長い脚にしがみつく。
「おっと」
オリヴァーが下を見た。
「パパからきいたわ。あなた、つよいのね! りょうけんきしというのでしょ?」
女の子は元気に言った。服装から見て、どこかの御令嬢のようである。
女の子のとんでもない発言に令嬢達が「ヒッ」と青くなった。オリヴァーは普段は落ちているが、戦いになると魔物たちも震え上がるほどの人物なのだ。
(だ、大丈夫かしら)
シャーロットがはらはらしながら見ていると、オリヴァーは膝を折って女の子と目を合わせた。
「そうですよ。私は貴女のような可愛らしくて、未来ある方をお守りする立場です」
オリヴァーが優しく微笑んだ。エメラルドの瞳が細くなる。それだけでぐっと親しみやすい印象だ。
「そう、えらいわね! ほうびをあげましょう。わたしがおおきくなったら、いちばんのきしにしてあげますわ。それでわたしや、ママや、パパをまもるのです」
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