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第一章 出逢いと再会
猟犬騎士様
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「やだ……見て、あのドレス。ダサいわね」
「あんな酷い格好でここに来るなんて、どんな神経をしているのかしら」
「待って、あの子、シャーロットよ。ほら、没落したウォーレン家の」
「ウソ。貧乏貴族の? まだあのボロい屋敷にいたのね。とっくに都落ちしたと思ってた」
扇で口元を隠していても、ヒソヒソと声が届いてくる。
(……っ)
ズキンと胸が痛んだ。シャーロットはサッと顔を背けて早歩きになった。
(気にしちゃダメよ。貧乏は悪いことじゃないんだから。あの子達のように、心まで醜くなってはダメ。オリヴァー様を探すのよ)
シャーロットは人でごったがえすホールを縫うように歩き、オリヴァーがどこかにいないかと辺りと見回す。
その時、背後から黄色い女性の声が聞こえた。
「きゃっ、見て、オリヴァー様よ! 猟犬騎士様だわっ」
ハッとして振り返ると、ホールの隅に人だかりが出来ているのが見えた。壁に寄りかかる一人の騎士に、着飾った令嬢達が群がっている。
そこには十年ぶりに見るオリヴァーがいた。
(オ、オリヴァーさま……っ!)
三十二歳になった彼は、あれからまた背が伸びたのか、記憶の中よりずっと長身になっていた。足がとてつもなく長く、腰の位置が常人より高い。ぱっと見ほっそりとした印象だが、よく観察するとたくましい太股や、がっしりした首などで、かなり鍛えているのが窺える。要所要所はがっちりした感じがあるのにも関わらず、手袋をした指は、すらりとして色っぽい。
騎士団の制服を無表情で着こなす様は、とても決まっていて、文句がつけようがない。漆黒の詰め襟に純金のボタン。肩から斜めにかかるサッシュと呼ばれる深紅の帯。胸にはたくさんの勲章が輝いている。
「あんな酷い格好でここに来るなんて、どんな神経をしているのかしら」
「待って、あの子、シャーロットよ。ほら、没落したウォーレン家の」
「ウソ。貧乏貴族の? まだあのボロい屋敷にいたのね。とっくに都落ちしたと思ってた」
扇で口元を隠していても、ヒソヒソと声が届いてくる。
(……っ)
ズキンと胸が痛んだ。シャーロットはサッと顔を背けて早歩きになった。
(気にしちゃダメよ。貧乏は悪いことじゃないんだから。あの子達のように、心まで醜くなってはダメ。オリヴァー様を探すのよ)
シャーロットは人でごったがえすホールを縫うように歩き、オリヴァーがどこかにいないかと辺りと見回す。
その時、背後から黄色い女性の声が聞こえた。
「きゃっ、見て、オリヴァー様よ! 猟犬騎士様だわっ」
ハッとして振り返ると、ホールの隅に人だかりが出来ているのが見えた。壁に寄りかかる一人の騎士に、着飾った令嬢達が群がっている。
そこには十年ぶりに見るオリヴァーがいた。
(オ、オリヴァーさま……っ!)
三十二歳になった彼は、あれからまた背が伸びたのか、記憶の中よりずっと長身になっていた。足がとてつもなく長く、腰の位置が常人より高い。ぱっと見ほっそりとした印象だが、よく観察するとたくましい太股や、がっしりした首などで、かなり鍛えているのが窺える。要所要所はがっちりした感じがあるのにも関わらず、手袋をした指は、すらりとして色っぽい。
騎士団の制服を無表情で着こなす様は、とても決まっていて、文句がつけようがない。漆黒の詰め襟に純金のボタン。肩から斜めにかかるサッシュと呼ばれる深紅の帯。胸にはたくさんの勲章が輝いている。
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