スパダリ猟犬騎士は貧乏令嬢にデレ甘です！【R18／完全版】

第一章 出逢いと再会

魔王ギリェルモ

　シャーロットはポケットからレースのハンカチを出し、おじいさんに渡した。母の形見である。

「おおう、ありがとう……。なんて心が綺麗なんだ。あんたはとても美人だし、優しいし、わしみたいな老いぼれも大事に扱ってくれる。素晴らしいお嬢さんだ。特にほら、その金に輝く巻き髪……海に沈む太陽みたいにキラキラしてる。美しくって溜息が出ちゃうよ」

　おじいさんはハンカチで涙をぬぐう。

「うふふ、おじいさん。大げさよ」
「そんなことあるかい。わしゃ昔は詩人を目指してたんだ。シャーロットちゃんの美しさは髪の毛だけじゃない。その大きくてクリッとした蒼い目。サファイアを千個集めたってあんたの瞳の輝きには適いはしない。まるで青々とした海のひと雫のようだ」
「ふふ、おじいさん、また〈海〉よ」
「なに？　わしのポエムが平凡だとな？　なんのこれしき。……」

　しばらく、シャーロットはおじいさんとの会話を楽しんだ。

（もう、おじいさんったら褒め上手なんだから）

　シャーロットは店を出た。春だというのに空は鉛色の雲で覆われている。
　彼女の豊かな胸には先程買った中古のドレスがあった。シャーロットはちらりとそれを見る。

（おじいさんが言うように確かに流行遅れかもしれないわ。でも、それでも今着ているものよりはマシよ）

　シャーロットは立ち並ぶ店屋の窓に目をやった。自分のみすぼらしい姿が映っている。
　天然の巻き髪は一つにくくられ、飾りは何もない。さらにお洒落する時間も、お金もないので、全体的に野暮ったい。もちろん化粧もしていない。しかし素顔のシャーロットは、美人と評判だった母そっくりだ。
　くりっとした大きい瞳。やや垂れた目尻は愛らしい印象だ。長いまつげは自然と上を向き、深く蒼い瞳を縁取っている。
　ふっくらとした小さい唇はみずみずしく、口紅を塗ったわけでもないのに、薔薇のように赤い。頬は淡いピンク色だ。
　そして染み一つ無い肌。「まるで雪のような、という例えはシャーロットのためにある」と、生前父が嬉しそうに言うくらい、透明感が高かった。

（だけど……）　

　視線を首から下に移して、シャーロットは悲しげにキュッと唇を噛んだ。
　薄汚れた灰色の服。つま先が傷ついた靴。髪の毛だってよく見たら艶がなく、毛先もありこち痛んでいる。

（ネズミみたい。こんな姿を見たら、オリヴァー様はなんて言うかしら）

　ズキッと胸が痛んだ。しかし自分に言い聞かせる。

（ううん、大丈夫よ、シャーロット。遠くから見るだけですもの。オリヴァー様がケガをしていないかどうか、確認するだけ）

　――それだけ、それだけよ。一対一でお話するようなチャンスは、決してないわ。

　シャーロットは今夜、オリヴァーを見に王宮のパーティーにに忍び込むつもりなのだ。
　三日前、魔王ギリェルモ討伐に行っていた王立騎士団が都に帰って来たのだ。五年ぶりである。