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第一章 出逢いと再会
犯人はあいつだ
しおりを挟む髪は闇色だ。軽く後ろに撫でつけていて、陽を浴びてつやつやと輝いている。
顔は恐ろしいほど整っていた。尖った顎に、はっきりとした鼻筋、血の通った頬、賢そうな薄い唇が、小さな輪郭の中に左右均等に収まっている。凜々しい眉の下には、吊り上がった瞳があった。エメラルドのように美しい鮮やかな緑だ。力強い光を放っている。一度見たら忘れられない程魅力のある眼だった。
彼は王立騎士団の漆黒の礼服を着ていた。詰め襟で、胸元にエンブレムが縫い付けられている。足下はロングブーツだった。肩から深紅のマントがなびいている。
「……」
男は無表情でこちらを見ていた。
(この人は誰……?)
シャーロットは男の冷たい美貌につい見とれていた。最大限まで開かれた蒼い瞳に、若い騎士が映っている。
兄とはまた違う、大人の男性の魅力に目が離せなくなる。
(怖そうだけど、なんて素敵な人なの。それに低くて色っぽいお声。こんなにいい声の殿方に初めてお会いましたわ……)
「どうしたのかと聞いている」
何も言わないシャーロットに焦れたのか、男が言った。
「あの、捜し物を」
シャーロットは立ち上がった。
「捜し物?」
男の表情が少し変化する。エメラルドのような綺麗な瞳がわずかに細められた。
「結婚指輪です。兄の」
「君はジョージの妹かい?」
「はい」
「どこで無くしたの」
「えっと……」
シャーロットは今朝の出来事を話す。男はしばらく黙ってシャーロットの説明に耳を傾けていた。
「――と、いうことなんです」
「なるほど」
男が煙草を燻{くゆ}らせる。
「それからどこを探しても見つからなくて……」
男は赤煉瓦{れんが}の壁により掛かりながら、黙って話を聞いていた。煙草を吸い終わると、身体を起こした。ポケットに両手を突っ込んで、あたりを見回す。
釣られてシャーロットも男の視線の先を追った。
(何があるのかしら)
今日は晴天で、教会は美しい木立に囲まれている。青々とした葉が風に揺られてカサカサと鳴り、辺りには色鮮やかな花々が咲いていた。
「這いつくばって探しても見つからないだろう。地面には無いのだから」
「え?」
「見なさい」
男は足下の石を拾うと、カラスが止まっている枝に向けて投げつけた。
「カカァッ!」
バサバサバサッと羽音を立てて、驚いたカラスが飛び去る。その足から、キラリと光る小さな何かが落ちた。
「犯人はあいつだ」
男は木の根元に近づき、それを拾うと、すぐに戻ってきた。そしてシャーロットの目の前でそっと掌{てのひら}を広げる。
「まあ……!」
兄の結婚指輪だった。間違いない。シャーロットは慎重に指輪を受け取ると、頬を赤らめて男を見上げた。
(すごい、すごいわ!)
「あ、ありがとう……! でも、どうしてお分かりになったの? 犯人があのカラスだって」
「簡単だよ。君の話を聞いて推理しただけさ。言っていただろう? 『静かにして、カラスさん』と」
「まあ……」
(き、聞いていましたの?)
独り言を聞かれて、シャーロットは少し恥ずかしくなる。
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