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第五章 聖なる夜に(前編)
かわいすぎて心配
しおりを挟む「まさか。そんなこと言うわけないだろう。ミヤビに頼んで正解だった」
「あの……なんで急にこんなことしたんですか」
「ん?」
鷹城が目だけで訊いた。
「やっぱり、おれがダサいから、ですよね……。連れて歩くには恥ずかしいから……」
真琴は下を向いた。
いくらオシャレに興味がなくても、想い人と並んで歩くなら話は別だ。気にしてしまう。
「馬鹿。んなわけねえだろ」
鷹城が真琴の髪をぐしゃぐしゃとかき回した。
「わっ」
「お前はダサくなんかない。むしろ逆だ。ちったあ自分に自信を持て」
「でも……」
「だいたいお前はなぁ、自己評価が低すぎるんだよ。本当は素直で可愛いのに、怖がって素の自分を隠しちまう。悪い癖だぞ」
「先生……」
「でもま、ちょっとミヤビは張り切りすぎたな。これじゃあ俺の気が休まらねえぜ。ああ、心配だ」
「心配?」
真琴は首を傾げた。
「お前が可愛すぎて、悪い虫がつくんじゃないかってこと」
鷹城はぼそぼそと言った。聞こえるか聞こえないかの声量だ。
「え?」
「いや、いい。こっちの話だ。――そろそろ始まるな。行こう」
と歩き出した。
「あっ。待って下さい」
真琴は慌てて後を追った。
受付を終えてパーティーに入ると真琴は「わっ」と感嘆の声を上げた。
ホールの中は広々として、天井が高く、床はふかふかのカーペットが敷かれている。ちょうどいい音量で流れる『ジングル・ベル』。
左右の壁には、真っ白なテーブルクロスの上に立食用のごちそうが並んでいた。
魚のカルパッチョや、グリーンサラダや、ローストビーフや、果物やケーキなどのデザードが所狭しと置かれている。焼きたてのパンのいい匂いもする。
入り口の脇にはドリンクコーナーがあって、酒やジュースも豊富だ。
真琴はあたりの光景に目を奪われていたが、もっとも圧倒されたのは、中央に位置する巨大なクリスマスツリーだ。
五メートルくらいあるだろうか。立派なモミの木のてっぺんに大きな金星がすえられている。枝には赤や緑の丸いオーナメントや、天使の人形や、小さなプレゼントなどがたくさん飾られていた。
会場にはオシャレした参加者でいっぱいで、誰もが陽気な表情を浮かべている。
「すごい……」
真琴は目を輝かせながらつぶやいた。
「へえ。初めて来たけど立派なもんだな」
鷹城が言った。
「こんなに華やかな世界があるんですね。感激しました」
「直森賞の授賞式はこんなもんじゃないらしいぞ」
とにやりと笑う。直森賞とはエンターテイメント作品に贈られる有名な文学賞だ。
二人がホールの端で会話していると、人混みを縫って白川と理子がやって来た。
「鷹城さん。お待ちしてました」
白川がにこやかに言った。今日は地味な灰色のスーツだ。
「きゃー! 先生かっこいい」
と理子。
控えめな格好の白川とは反対に、理子の服は派手だった。大胆に背中が開いたブラックドレスに、耳にはルビーのピアス。まるでゲストのような装いだ。
「すごい人出だな。俺みたいなペーペーには居場所がないぞ」
鷹城が苦笑した。
「まさか。鷹城さんに会いたいって作家さん、いっぱいいますよ。今日はヤマダ先生やスズキ先生もいらしてるんです。……」
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