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第四章 手のひらの熱

本心

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(そんなにすぐに読んでくれていたなんて……)

 なんだかんだ言っても、真琴の魂ともいえる原稿を放置せずに読んでくれたのだ。そこに誠実さを感じた。

「大丈夫。書いたのは、下心を持つ前だから……媚びたりしてない……。全て……本心だ」
「……はい」
「小説に必要なのは……文章力や、才能じゃない……。情熱だ。お前には、それがある。くじけずに……書き続けろ」
「……っ! がんばります……」

 真琴の目頭が熱くなり、声が震えた。こんなに嬉しいエールはもらったことがない。 
 暖かな沈黙が流れた。

「……悪かったな、最初の時、脅して」

 しばらくして鷹城が目を開いた。天井を見ている。
 あの時、鷹城は真琴の原稿をネットに晒すと言って、セックスを迫ったのだった。

「いえ……。でも、なんであんなことを言ったんですか?」
「……こう言ったら、嫌われると思うけど、お前を抱くための方便だった……。ごめん」
「もう、謝らないで下さい。見栄を張ったおれも悪いんですから」
「でも……お前の大事なはじめてを、奪った」

 真琴は深く息を吐いた。

「……いつもあんな風に、好きでもない相手としてるんですか?」

 しばらく沈黙が流れた。

「……正直にいうと、今まで本命と……したことがない」

 鷹城はようやく言った。情けなさそうに腕で目を覆う。

「どうしてですか? つき合った方、大勢いたんでしょう?」
「全部セフレだよ……。誘われたから、抱いてやっただけだ」
「なんで、そんな付き合いばっかりしてるんですか?」
「……トラウマなんだよ」
「トラウマ?」
「詳しくは言わねえけど……高校の時、付き合ってた女と、ちょっと色々あってな……。それ以来、恋愛が怖くなった」

 鷹城は静かに続ける。

「その時、学んだんだ……。恋愛ってのは、恐ろしいもんだ……。本気になればなるほど……深く傷つく、ってな……。だから、今まで避けてきた……。お前に会うまでは」

 鷹城がこちらを向き、真琴を見詰めた。ドキッと心臓が大きく跳ねた。

「お前といると、調子が狂う……。懸命に作り上げてきた……今までの俺は、どこかに行っちまうんだ……。近頃はひとりで焦って、から回ってばかりで、情けない……」
「それでもいいと思います。気取った先生より、今の格好悪い先生の方が好きです」

 真琴は反射的に言った。鷹城がはっとしたように目を見開く。

(……って、おれ今流れで好きって言ったよな……?!)

 とんでもない恥ずかしい発言をしたことに気がついて、真琴の耳がじわじわと熱くなっていく。

「えっと、その……これはですね、この前動物園で先生がおれに言ってくれたように、そのままの自然な姿が一番好ましいと言いますか……人間無理しても続かないから、素が最もその人らしくて素敵だな……という意味でして、好きと言っても変な意味じゃなく、」

 しどろもどろになる真琴に、鷹城がようやく歯を見せて笑った。

「あはは、お前おもしろいな……。分かってるよ。そういう意味じゃないってことぐらい」

 顔をくしゃっとして笑う姿に、胸がキュンと疼(うず)く。

「でも……ありがとな。笑ったら、元気出た」
「それなら良かったですけど……」
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