51 / 96
第四章 手のひらの熱
本心
しおりを挟む(そんなにすぐに読んでくれていたなんて……)
なんだかんだ言っても、真琴の魂ともいえる原稿を放置せずに読んでくれたのだ。そこに誠実さを感じた。
「大丈夫。書いたのは、下心を持つ前だから……媚びたりしてない……。全て……本心だ」
「……はい」
「小説に必要なのは……文章力や、才能じゃない……。情熱だ。お前には、それがある。くじけずに……書き続けろ」
「……っ! がんばります……」
真琴の目頭が熱くなり、声が震えた。こんなに嬉しいエールはもらったことがない。
暖かな沈黙が流れた。
「……悪かったな、最初の時、脅して」
しばらくして鷹城が目を開いた。天井を見ている。
あの時、鷹城は真琴の原稿をネットに晒すと言って、セックスを迫ったのだった。
「いえ……。でも、なんであんなことを言ったんですか?」
「……こう言ったら、嫌われると思うけど、お前を抱くための方便だった……。ごめん」
「もう、謝らないで下さい。見栄を張ったおれも悪いんですから」
「でも……お前の大事なはじめてを、奪った」
真琴は深く息を吐いた。
「……いつもあんな風に、好きでもない相手としてるんですか?」
しばらく沈黙が流れた。
「……正直にいうと、今まで本命と……したことがない」
鷹城はようやく言った。情けなさそうに腕で目を覆う。
「どうしてですか? つき合った方、大勢いたんでしょう?」
「全部セフレだよ……。誘われたから、抱いてやっただけだ」
「なんで、そんな付き合いばっかりしてるんですか?」
「……トラウマなんだよ」
「トラウマ?」
「詳しくは言わねえけど……高校の時、付き合ってた女と、ちょっと色々あってな……。それ以来、恋愛が怖くなった」
鷹城は静かに続ける。
「その時、学んだんだ……。恋愛ってのは、恐ろしいもんだ……。本気になればなるほど……深く傷つく、ってな……。だから、今まで避けてきた……。お前に会うまでは」
鷹城がこちらを向き、真琴を見詰めた。ドキッと心臓が大きく跳ねた。
「お前といると、調子が狂う……。懸命に作り上げてきた……今までの俺は、どこかに行っちまうんだ……。近頃はひとりで焦って、から回ってばかりで、情けない……」
「それでもいいと思います。気取った先生より、今の格好悪い先生の方が好きです」
真琴は反射的に言った。鷹城がはっとしたように目を見開く。
(……って、おれ今流れで好きって言ったよな……?!)
とんでもない恥ずかしい発言をしたことに気がついて、真琴の耳がじわじわと熱くなっていく。
「えっと、その……これはですね、この前動物園で先生がおれに言ってくれたように、そのままの自然な姿が一番好ましいと言いますか……人間無理しても続かないから、素が最もその人らしくて素敵だな……という意味でして、好きと言っても変な意味じゃなく、」
しどろもどろになる真琴に、鷹城がようやく歯を見せて笑った。
「あはは、お前おもしろいな……。分かってるよ。そういう意味じゃないってことぐらい」
顔をくしゃっとして笑う姿に、胸がキュンと疼(うず)く。
「でも……ありがとな。笑ったら、元気出た」
「それなら良かったですけど……」
1
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
ポメラニアンになった僕は初めて愛を知る【完結】
君影 ルナ
BL
動物大好き包容力カンスト攻め
×
愛を知らない薄幸系ポメ受け
が、お互いに癒され幸せになっていくほのぼのストーリー
────────
※物語の構成上、受けの過去が苦しいものになっております。
※この話をざっくり言うなら、攻めによる受けよしよし話。
※攻めは親バカ炸裂するレベルで動物(後の受け)好き。
※受けは「癒しとは何だ?」と首を傾げるレベルで愛や幸せに疎い。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
平凡腐男子なのに美形幼馴染に告白された
うた
BL
平凡受けが地雷な平凡腐男子が美形幼馴染に告白され、地雷と解釈違いに苦悩する話。
※作中で平凡受けが地雷だと散々書いていますが、作者本人は美形×平凡をこよなく愛しています。ご安心ください。
※pixivにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる