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第四章 手のひらの熱
応援メッセージ
しおりを挟む〈まだまだ荒削り。でも丁寧な心理描写や情景描写はよい。長所を生かせる題材が他にあるはず。がんばって!〉
長い間ずっと憧れていた相手からの、直筆の応援メッセージ。真琴の心は甘い痛みでギリギリと締めつけられる。
(先生はいつもそうだ。なんでこんなに良くしてくれるんだろう……。おれなんかのために。おれは先生に、何ひとつ、返せていないのに)
鷹城は真琴にいつも欲しい言葉をくれる。落ち込んだ時、ネガティブになった時、自己嫌悪した時……。
それがなぜか、どうしてかは、いつも本人が口にしていた。
――お前が好きな人としかしねえって言うから、そうなってもらえるように努力してんだろうが。
(本当なのかな。先生は、本当におれを……)
ふいに、先月白川と理子が訪ねてきた時の感情が蘇った。しかもあの時よりも、ずっと重さを増して迫ってくる。
相手はベストセラー作家で、才能があり、一回り以上も年上で、異性にもモテる。比べて自分は、ちょっと家事が出来るだけの、冴えない大学生。
すごい人だと思えば思うほど、自分との距離が開いていく気がした。
(おれと先生じゃ、差がありすぎる……)
包丁が刺さったみたいにズキンと胸が痛んだ。
肩書きや、容姿だけの問題ではない。推理作家として遙か先を走っている、ということも苦く感じた。
自分は推理作家を目指していながら、まだ三次選考を通過したことさえない。小説家志望といえば聞こえはいいが、世間から見れば、ただのお気楽な夢追い人だ。
それに元はといえば、真琴と鷹城は、ファンと売れっ子作家だった。何百万人といる内のひとり。
考えれば考えるほど、自分がちっぽけな存在に感じた。
真琴は深い溜息をついて書斎を出た。原稿を胸に抱いたまま、足が勝手に寝室に向かい、扉の前に立つ。
(たった一枚のドアを隔てているだけなのに、先生が遠い……。こんな気持ちになったの、生まれて初めてだ)
立ち尽くしていると、扉の向こうから声が聞こえた。はっとして立ち去ろうとしたが、しかし切れ切れに呼びかけられて、どうしても無視することが出来なかった。
真琴は少しドアを開けた。
「……どうした……?」
ベッドから鷹城のかすれた声がした。
「すみません。うるさかったですか?」
真琴は小声で返した。
「いや……、嫌な夢を見てた……。……入れよ」
真琴はどうしようか迷ったが、そっと中に入った。持っていた鍵を元の場所にしまい、同じ椅子に腰掛ける。
鷹城は仰向けで目を閉じていた。
「あの、添削ありがとうございました。びっしり書き込みがしてあって驚きました」
真琴は声量を落として言った。
「喜んでくれたなら……良かった」
「いつ書いたんですか?」
「預かった、次の日……」
「えっ……」
真琴が家政夫として下宿し始めてすぐだった。
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