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第三章 取材orデート?

ごめんなさいとありがとう

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(また気づいてくれた……)

 鷹城が真琴の変化に気づいたのは二回目だった。
 一度目は先月の体調不良の時。今のはその時よりもっとささいな違いだったが、見逃さなかったらしい。
 元気のない理由は外れていたが、十分だった。胸がぎゅーっと締めつけられる。
 堪らなくなって、真琴はパンダのぬいぐるみを抱きしめた。今度は針ではなく、甘酸っぱいような、切ないような、甘い痛みだった。

(謝らなくちゃ)

 真琴はベンチから立ち上がり、後を追う。
 空は青に茜色を流したような、美しいグラデーションを作っていた。
 レンガ道に二人の影が長く伸びる。風にざわめく木の葉の音。園内のカフェから薫るコーヒーのこうばしい匂い。
 真琴は鷹城に追いつくと、勇気を出して、袖の端をそっと摘まんだ。
 情けない顔を見られないよう俯(うつむ)いたまま、つぶやく。

「……ごめんなさい」


 ぴたっと鷹城が止まった。背中がかすかに強ばった気がした。

「先生のせいじゃないんです。実はおれ、昔いじめられてて……そいつらに『根暗』って言われてたんです。それを思い出して、感情的になってしまいました。ごめんなさい」

 一気に言った。
 途中で止まると、またゴチャゴチャ考えてしまって、本音を話せないと思ったからだ。

(お礼も言わなくちゃ)

 勇気が欲しくて、再びパンダのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。

「それと……ありがとうございました」

 真琴はそっと囁いた。

「今なんて言った?」

 鷹城が今度は振り向いた。

「だから、その……。あ、ありがとうございました。連れてきてくれて」

 真琴は思いきって顔を上げ、鷹城を見詰めた。

「……」

 鷹城は目を見開いていた。どうやら驚きすぎて固まっているらしい。

「本当に楽しかったです。パンダの赤ちゃんも、ヤギも、コウキくんも……。久しぶりにこんなに楽しい気持ちになりました。先生のおかげです。このぬいぐるみも、大事にします。本当に、ありがとうございました」

 精一杯の感謝を込めて言った。
 しばらく沈黙が落ちる。返事がないので、何か変なことを言ったのか、と真琴は不安になりかけた、その時。

「――――っ!」

 鷹城が声にならない声を出した。顔を逸らして頭をガリガリと掻く。横顔は真っ赤に染まり、喜びと悔しさが混ざったような、面白い表情をしていた。

「……くそっ! なんでそうやって急にデレるんだよ」
「デレる?」

 真琴はぽかんとした。

「ああ、もう本当に天然だなっ。お前はおれを振り回す天才だよ」

 鷹城は裾を摘まんでいた真琴の手を奪い、引き寄せて抱きしめた。

「わっ! 先生っ……」

 真琴は耳たぶまで火がついたように熱くなった。

「ちっ……。最近の俺はどうかしてるぜ。お前の言動に一喜一憂してる。昼頃までよく笑ってたから、連れてきて良かったと思ったんだ。でもコウキと別れた辺りからなぜか元気なくなるし……。こんな子供だましのぬいぐるみで喜んでくれるかなって、ビクビクしながら買ってきたんだぞ。それなのに今度は急に怒り出すし……」
「ご、ごめんなさい」
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