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第三章 取材orデート?
お父さんみたい
しおりを挟む「俺のことは置いといて。お前はまだ若いんだから、失敗したことをいちいち悔やむのは止めなさい」
「先生、お父さんみたい」
真琴は微笑んだ。
鷹城の言葉は優しくて暖かい。まるで安心できる腕の中に包まれている気分だ。
「なんだとう。誰がお父さんだ」
鷹城が真琴の頭を脇に挟み、ぐりぐりと撫でた。真琴としては褒めたつもりだったのに、どうやら違う風に受けとめられたらしい。
「わっ、止めて下さいよ」
「こんな大きい息子いないぞ」
「あはは、すいませんでした」
真琴は声を出して笑った。
「やっと元気が出てきたようだが、まだ足りないな。明日いいところに連れて行ってやる」
「いいところ?」
「動物園」
鷹城がにやりと笑った。
「なんでいきなり動物園なんですか?」
真琴は目をぱちくりさせた。
「取材だよ、取材」
「ミステリのですか」
「ん? ミステリの取材っつうか、まあ、ぶっちゃけデートというか……」
「え?」
「いや、何でもない。とにかく、最近そこでパンダの赤ちゃんが生まれたらしくてな。家族連れやカップルに人気なんだってよ。白川が言ってた」
「いつの間にそんな話を」
「あいつそういうの詳しいんだよ。スケコマシだから。――で、もちろん行く、でいいよな?」
「まあ、なんの予定もありませんが……」
明日は日曜だった。
「じゃあ決まり。出発は九時だ。用意しておけよ」
鷹城は真琴を離すとひらりと手を振って去って行った。 残された真琴は、鷹城のやや外れた口笛を聞いていた。
(先生と動物園か……)
二人で出かけるのだと思うと、何故か胸が高鳴った。
(いや別に、楽しみになんかしてないし。ただの取材だしっ)
真琴は照れを隠すため、ひとり百面相をしていた。
◇
翌日は素晴らしい秋晴れだった。鷹城と真琴は動物園にいた。
広々とした園内は緑で溢れ、獣の匂いが爽やかな風に乗って流れていく。
中はほどほどに込んでいて、小さな子供を連れた親子や、老夫婦を連れた家族や、恋人たちがいた。
人々のざわめきと、動物たちの鳴き声や足音がして、立っているだけで楽しい気分になった。
柵の向こうには、定番のライオンやゴリラ、アルパカまでいる。お目当てのパンダの赤ちゃんは一番奥にいるようだ。
「うわあ、久しぶり。動物園」
真琴は目を輝かせた。
今日は灰色のパーカーにデニムを合わせ、手には大きめのバスケットを持っている。
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