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第三章 取材orデート?
ライバル女・理子
しおりを挟む真琴は深い溜息をついた。
(こんなガキ、本気にするわけがない。……って、先生が誰とつき合おうが、おれには関係ないことだけど)
真琴は気を取り直すように深呼吸をし、手作りクッキーと、淹れたてのコーヒーをお盆に乗せる。
「じゃあ理子、お茶持ってきますね」
テーブルの上が綺麗になると、理子が弾けるような笑顔で席を立った。キッチンに入り、真琴の側に来る。
「どいて」
理子が仏頂面で言った。がらりと態度が変わっていたので、少し驚いた。
「あ、はい。重たいですよ」
「分かってるっうの。……チッ、うっせー」
と、じろりと真琴を見た。真琴はつい眉を寄せる。
どうやら理子は表と裏があるらしい。
こういう女は苦手だった。真琴のような冴えない男を馬鹿にするのは、理子のようなタイプの女が多かったからだ。
理子は真琴からお盆を奪い取ると、軽い足取りでキッチンを出て行く。そして「お待たせしましたあ」と語尾にハートマークでもつきそうな声を出して、配り始めた。
なんだよ、と思った。
真琴は不快な気持ちを残したまま、ちらし寿司の仕上げに取りかかる。新鮮な切り身も買ってきたし、酢飯も用意出来ているので、後は飾りつけだ。オーブンではアップルパイを焼いている。バターのいい匂い。お土産用にマドレーヌも作ってあった。
真琴を除く他の三人がしばらく歓談した後、食事になった。真琴は空いたコーヒーカップを片付け、色鮮やかなちらし寿司と、澄んだお吸い物などをダイニングテーブルに運んだ。
それを見て白川がわっと声を上げる。
「すごい。綺麗だね。これ、本当に君が作ったの?」
「はい」
真琴は恥ずかしげに返事をした。
「早く食おうぜ」
「理子お腹空いたぁ」
「そうですね。では、いただきます」
三人が合掌し、銘々の漆の器を持って食べ始めた。
「んっ、うまい。酢飯の感じもちょうどいい」
白川が目を見開いた。
「だろ。さすがうちの家政夫だ」
鷹城が笑った。
「君、料理が上手なんだね。俺のお嫁さんにしたいくらいだな。あはは」
「何言ってんだ、白川。こいつはやらねえ。俺の嫁だ」
「ちょ、先生……!」
真琴は頬をぽっと赤くした。
「お前も一緒に食べようぜ。飯持ってこいよ」
と鷹城。
「いや、でもおれ部外者ですし」
「関係ないよ。一緒に食べよう」
にこっと白川が笑う。
その時、三人のやり取りをぶすっと見ていた理子が騒ぎ出した。
「今日はいい天気ですねっ。そうだ、皆でバルコニーで食べませんか? そっちの方が気持ちいいですよ」
三人はバルコニーを見た。そこにはテーブルと椅子が三脚しかない。誰もがあっ……と思った。
真琴は気を利かせてぎこちない笑みを浮かべた。
「おれは中で食べるんで。皆さん外でどうぞ」
「おい、お前……」
「家政夫くんもそう言ってるんで、さあ、行きましょう! 先生、早くはやく」
理子は鷹城と白川のグラスを持つと、さっさとバルコニーへ出て行った。二人は目配せした。
「ごめんね」
白川が申し訳なさそうに言った。鷹城も苦虫を噛んだような顔して、二人は外に出た。
気にしない、と真琴は心の中で何度も唱えた。あちらは仕事で来ているのだ、邪魔してはいけない。
残された真琴はちらし寿司と冷めたお吸い物を持って、下宿部屋に向かった。
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