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第一章 出逢いは突然に
先生はおれの憧れ
しおりを挟む「あはは、無理しなくてもいいよ。俺の本を読んでくれる人がいるってだけで本当に幸福なことなんだから。でも本当いうと・・・・・・君からの手紙、喉から手が出るほど欲しいな」
鷹城はセクシーな流し目をした。真琴はどきりとした。
(最初から格好いい人だと思ってたけど、鷹城先生だと思うと三割増しで素敵に見える)
邪(よこしま)な考えを振り払うように真琴は微笑した。
「先生はおれの憧れなんです。実はおれも推理作家を目指していて・・・・・・でも落選続きなんです。〈江戸川散歩賞〉も毎年応募してるんですが、いつも二次選考まで残るけど、どうしてもそこから上にいけなくて。やっぱりプロになるって難しいですよね」
鷹城は「ふむ」と呟いてから、体ごと真琴に向き直った。
「〈江戸川散歩賞〉は応募要項には『面白ければなんでもあり』って書いてあるけど、結構正統派だからね。トリックに整合性はある? キャラクターは矛盾してないかな? リアリティは大事にしてる?」
矢継ぎ早に質問が飛んで真琴は驚きながらも答える。
「えっと、今書いているのは古代史をテーマにしたもので、アリバイものです。モデルの○×遺跡に取材に行ったので、整合性とリアリティは大丈夫だと思います。でもキャラクターは・・・・・・」
「もしかしてトリックに夢中になって、しっかりと考えたことない?」
「正直」
「じゃあまずそこを直したらどうかな。そうすれば二次は通るかもしれない」
「本当ですか?」
真琴はぱっと目を輝かせた。
「待てまて、まだ上手くいくって決まった訳じゃないから。過信しないで。原稿を読んでみないとなんとも言えないよ」
「じゃあ、今度持ってきます。いいですか?」
真琴は言った。そして、あっと思う。
「すみません、お忙しいですよね。ただでさえ二足のわらじ状態ですし・・・・・・」
鷹城は苦笑いした。
「まあ、めちゃくちゃ忙しいけど、原稿用紙千枚超えの大長編でもなければその位の時間はあるよ」
「じゃあ、見ていただけるんですか」
真琴は上目遣いで訊いた。
「まあ、創作の相談くらいなら、乗れるんじゃないかな」
「お願いします!」
「ご期待に添えるか分からないけど」
「大丈夫ですっ」
鷹城は目を細くした。
「やれやれ、突然かわいい弟子が出来てしまったな」
「あっ・・・・・・今更ですが、ご迷惑でしたか」
「気にしないで。だけど君はどうなの。大学とアルバイトで創作の時間が無いんじゃない? 小説家になるのに読書の時間がとれないのは致命的だよ。というか本を読まないで作家になるのは無理だよ」
真琴は図星をつかれて内心「うっ」とうめいた。
「それは分かってるんですが、奨学金には出来るだけ手をつけない、というのが我が家の方針なので・・・・・・」
「堅実な考えだけど、それじゃあ本末転倒じゃない。俺も大学生の頃から働いてて、今ではもっと大学時代を大切にすれば良かったと思ってる人間だから、若い人にはおすすめしないな」
至極もっともな意見に真琴は俯いた。
元はと言えば、大学が実家から通える距離にありながら、一人暮らしを希望した自分のせいでもあった。そうすれば実家にいるより執筆に打ち込めると思ったのだが、しかし現実は甘くない。
大学の講義と、細々とした家事と、ようやく慣れてきた家政夫のアルバイトをこなすのに精一杯で、小説を書く暇はほとんどないのが現状だ。
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