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王立魔術学園編
19話 デザートはレールガン(後編)
しおりを挟むその頃ロームの別荘では、買い物から帰ってきたエーコ達三人とロームが何やら広い庭を飾り付けていた。庭の中央には石製のかまどがあり、その上で木の幹程の太さの肉が鉄棒にささってこんがり焼かれている。その近くに設えられた木製の大テーブルには、料理が次から次へと並べられていく。庭木には魔術ランプが幾つも吊るされ、地面を覆う芝生の上には杖型の発光器が何個も刺さって、迫りくる夕闇の中で幻想的な光景を作っていた。買ってきた花を白磁の花瓶に差しながらイブはぼやいた。
「ケイ君すねて家出しちゃったかな?」
庭木間にハンモックを設置しながらロームは答えた。
「そんなたまじゃないだろ、また多分ひょっこりギギギ先輩みたいにサプライズゲストを連れて帰ってくるかもしれないぞ?」
巨大肉を焼いていたギギギが大きな声を上げる。
「ケイ戻ッタ、魔力感ジル! 隣ニナンカ大キナ魔力有ルケド、ナンダロ」
それから少しして、大きなトランクを抱えるケイと、その後ろを歩く3メートル弱の筋肉隆々とした亜人の大男に全員が口をポカンとしてしまった。
「遅くなってごめん。こちらヨーさんって言うんだけど、街に散歩に行ったら仲良くなっちゃって。あれ、今日って何かパーティの予定だった?! ザ・フラワーの面白い話しをしてくれるんだけど、催しとしてヨーさんも出ちゃまずいかな?!」
あくせく働く四人に慌てるケイにロームが代表して答えた。
「今日はサプライズで、お前の快気祝いとギギギ先輩の歓迎会をやることになったんだよ! それにちょうどまた誰ぞやを連れてくるかもって話しをしてたんだ、お前の後ろのお方さえよければ構わないよ」
ケイは嬉しそうに両手を広げて芝居がかった口調でロームとヨーにむけて口を開いた。
「ローム・サリンダー! 君はなんて懐の深い男なんだ! ヨー、まずはご飯を食べよう、皆僕の仲間だ。あそこで肉焼いてんのが亜人のギギギ先輩で、あっちが幼馴染で平民のイブと、あっちのモデルみたいなのが貴族のエーコだ。」
そう紹介するケイの後ろで、ヨーは片膝をついて頭を垂れていた。
「私の様な卑しき身の訪問をお許し下さり、感謝致しますサリンダー家次期当主ローム様」
「ヨーさん頭を上げてください。俺はただのケイの友人で、あなたも同じくこの奇天烈な男の友人だ。寧ろあなたの様な立派な人物を捕まえてくるケイが失礼だと思います、ヨー・ザ・デザートフラワー元守備隊総隊長殿」
ロームが丁寧に礼をするのでケイはあっけに取られたように、間抜け面で振り返る。
「え何それ、知り合いなの?! ていうかヨーさんの名前なんか仰々しくない?!」
そんなケイにロームはやれやれと言った顔で首を振り、ヨーをテーブルまでエスコートした。またそれぞれ準備が終わったエーコ達も続々と集まり、ヨーさんに元気に挨拶をしながらテーブルについた。
ぼんやりとした灯りに照らされたロームがグラスを手に席を立つ。
「それではさっきも言ったが、急なサプライズゲストのヨーさんを迎えて、これからケイの快気祝いとギギギ先輩の歓迎会を始めます。それでは皆様グラスをお持ちください! 乾杯!」
「「「「乾杯」」」」
透き通る鈴の音の様なグラス同士がぶつかる音を皮切りに宴を始まった。最初は緊張していたヨーさんもロームの人柄や、ギギギの自由な振る舞いに心を開き、ケイ達5人にザ・フラワーの不思議な力や、伝説、賊との死闘の数々を面白可笑しく話してくれた。特にギギギは同じ亜人ということで、痛く感動したのかメインの肉を切り分ける際に自分の分までやろうとする程だった。さすがに涙を浮かべながら肉を突き出されても、受け取るに困ったヨーと、イブの説得で気持ちだけということになったのには皆が笑ってしまった。メイン料理も片付けて、テーブルの上に広がる料理が色鮮やかなデザートに切り替わり、お茶が注がれるとケイがふと話しを皆に向けて切り出した。
「皆聞いてくれ、今夜未明にザ・デザートフラワーの蕾が盗まれる恐れがある。ヨーさんが二十歳の時から十五年守ってきた蕾がだ。これは僕の勝手な我が儘なんだが、それを守りたい。どうか力を貸してくれないだろうか!」
頭を全力で振り下げるケイに、隣にいたヨーもすくっと立ち上がり頭を下げた。そんな二人に分かっていたと言わんばかりにロームとエーコが答えを告げる。
「ケイがただの客を連れて来るとは思ってない、俺たちを甘く見るなよな」
「そうよ、この街の亜人文化発展の功労者をゲストに呼ぶなんて本来なら不可能よ。高額な出演料がいるくらいだわ。さあ、続きを聞かせなさいよ」
そんな二人にケイとヨーは喜びの表情を浮かべ、直ぐに席について話しを始める。ヨーさんを始めとする警備隊が貴族の差金で辞めさせられ、手引きされた襲撃が起こることを伝えるとロームは怒りの表情を浮かべた。ケイはそれを横目に続ける。
「現在、ヨーさんはザ・フラワー上層へ行くための通行紋を没収され、現警備隊からもマークされている。強行突破して行けたとしても、直ぐに逮捕死罪となり結局その後蕾は盗まれるという始末で手が出せない。そこで今回は、敵の侵入を確定させつつ、堂々と応援に向かい駆逐するという結末を描きたい。ロームには迷惑をかけるが、ヨーさんの正当性を示す証人になってもらいたい。」
「いや、賊を生かしたまま捕まえて吐かせよう。腐敗はその元から取り除かなきゃ駄目だ。そっちも俺に任せてくれ」
「だがケイよ! 多分内部情報を握っている賊の速度は速くて後追いでは蕾が守れないんじゃないか?」
ヨーは提案された作戦の穴を見事についた。貴族に雇われた一流の賊の速さと連携は尋常でない。一同がケイを見つめた、だがケイに焦りはなく足元のトランクを机に取り出して、皆の不安な視線を堂々と受け止めた。
「例えば1キロ先、3キロ先にいる敵を威嚇、撹乱に狙撃したい時ってありますよね! そんな時にはこれ、商品ナンバー2番"複合魔術式レールガン"! 使い方は簡単、レバーを握るだけで信じられない速度の金属弾が、まっすぐに目的地まで飛んでいきます!」
ケイは大きなトランクを開けると中にぎっしりと詰まったゴチャゴチャした黒い金属の塊を取り出し始めた。まずはトランクの下半分程の大きさで、表面に深い溝が長手方向にびっしりと刻まれた箱をドンと机に置いた。
「これがレールガンの心臓の電源部。魔術で生み出した超高電流をコンデンサに溜めて、トリガーが引かれた瞬間一瞬だけ開放します。その際、冷却魔術による発熱対策で火傷も起こりません。」
こんどは電源部と同じ長さの黒い四角い柱を二つ取り出して、電源部の先端二股に割れている一方ずつに取り付けだした。
「そしてこれがレール部、ギギギ先輩から貰った銅をふんだんに使用しております。こちらは磁界魔術による更なる加速を実現し、金属弾は光の矢となって飛んでいくでしょう」
最後にジャラジャラと黒色の大きめの飛び針が出てきた。
「私これが一番大変でした、しかしまた手を差し伸べてくれたというか、鉱石をくれたのがギギギ先輩! 頂いたタングステン鉱石から精密切削した弾丸に、銅芯と銅コートを施し、マグネシウムの雷管を取り付けた特別仕様! まっすぐ飛んでいって着弾すれば半径10メートルは吹き飛ばす自信作です!」
ギギギはとりあえず褒められたことに照れたのかニヤニヤとして頭を掻き、イブはとうとう世間に出たことが嬉しいのかワクワクと弾んでいた。他の面々は口をあんぐり開いていた。
ケイはその様子に満足気にゴテゴテした兵器の下部にあるグリップを握って、レールガンを脇に挟んで胸の高さに構えると、サイドにある摘みを最小に調整してからトリガーを引いた。
キイイイインという甲高い音の後、2本のレールの間から細い白光が迸った。もはやレーザーと化した弾丸は目にも止まらない光速で、ロームの家の庭の端にある巨岩を粉々に吹き飛ばした。ケイ以外は誰しもその速さについていけず、今の爆発がケイのレールガンによるものなのか判別つかないほどだった。
呆気にとられる皆に振り返ると、ケイは最後に締めくくった。
「今回は特別に、一丁ご要望の方にはおまけでもう一丁つけましょう! というわけで、このレールガン2丁の攻撃で賊の足止めをします。よろしいか?」
だんだんとその強大な兵器に対する理解が追いついてきたのか、燻っていたくヨーの闘志がようやく舞い上がってきた。ヨーは立ち上がりケイと固く握手を交わす。
「ケイお前すごいな、何もんなんだよ。ザ・フラワーの幹は直ぐに再生する、この程度の爆発なら日常茶飯事だから気にせずやってくれ、頼む!」
いつの間にか全員がケイとヨーの周りに集まり、次々と手を握手に重ねていく。
これから待つ大仕事に向けて、サリンダー家別荘の庭からは短く景気のよい雄叫びが上がった。
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