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王立魔術学園編

12話 クラスマッチ・トランジスタ(後編)

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 「この魔術師高等教導学園の誉れ高きクラス対抗戦決勝の時間が、遂にやってまいりましたあ! 実況は学園広報科のセブン・G・ドーナが勤めさせていただきます。解説には学園教導科長のファミマ・クリニーク様にお越しいただいております! おっと? どうやら選手入場の準備が整ったようです。それでは・・・選手の入場です!!! まずは第三学年Aクラスから、リーダーのエドモア・ハーネスっ! 続いて、・・・


 グラウンドに一夜でできた特設観客席の最前列から、セブン女史は大仰な魔術道具を通して、3学年Aクラスのメンバーの紹介を会場に届ける。

 選手達は、紹介された順にグラウンドをとり囲む観客席の前を練り歩く。選手の進行に合わせて観客が立ち上がり、観客席には大きな人の波が幾つもうねっていた。

 「・・・続きまして、最後の選手の入場です。より景気良い拍手でお迎えください! ケイ・トーマスオ!」

 ローム、イブ、エーコに続き、ケイが入場門をくぐりグラウンドに降り注ぐ陽の光を浴びる。すると会場がざわつき出した。

 「既に満身創痍じゃないか、、、
 「平民だから服持ってないのかしら?
 「一体何があったんだ彼に?!

 入場行進するケイの態度は毅然としていたが、制服のジャケット、中に着ているシャツの袖がなかった。観客席のケイの両親も「準決勝の時はそんなに負傷したようには見えなかったのに、、」と首をかしげている。だかそれでも憮然とした彼の堂に入った態度のおかげか、入場は止まることはなく進みグラウンド中央に選手がでそろった。

 「それでは両者、互いに礼!」

 「「お願いします!!!」」

 「それでは各陣に散開した後に笛がなったら開始とする。制限時間は30分、胸の判定紋が反応した者は直ぐに退場するように。では散開!」

 各チーム凸凹と障害物が立ち並ぶ自陣へと消えていく。グラウンドをいっぱいに使ったフィールドはまるで戦場の様に仕立て上げられている。ケイ達は自陣の最奥で円陣を組んでいる。

 「さあここが正念場だ、色々と不幸な事故はあったが今は忘れよう。相手は言わずもがなこの学園の最強、作戦は通じないと思う。だから個人の判断を最優先させたいと思う。きっとそれが最適解だと信じてる。」

 「そうね、想定してたより相手はかなり強そうだものね。足を止めずに数的優位を作ることを心がけましょ。ケイは反省してるなら、イブちゃんに攻撃が来ないよう必死で駆けずり回りなさい、、、ね?」

 「了解いたしましたっ、エーコ様!」

 「え、どうしたのケイ君?! 何かエーコちゃんにしたの?」

 「いえ、なんでもありません! あと危険ですので半径2メートル圏内には入らないで下さい!」

 「おい始まるぞ、気合いれろ!俺達の絆を信じよう、ふああああいとおおおお!」

 「「「おおおおおお!」」」

 円陣から上がる声に被さるように戦いの始まりの笛が鳴り響いた。



 「さあ始まりました、決勝戦。最初に動いたのは、、、、3年生チームだあ!自陣中央から境界線まで一気に詰め寄り、お得意の高密度魔術爆撃だあ!!」 

 エドモア率いる3年生チームは、試合開始とともに敵陣に迫ると、魔術攻撃を障害物目掛けて放ち始めた。炎と氷の槍を四人が一定のリズムで放つ。その連射速度は1秒間に4回と恐るべき速さで、炎と氷でできた壁が続々と敵陣の障害物を爆砕していく。成人男性の背丈程の岩は、ゴリゴリと削られ、ケイ達の陣地に空白地帯が徐々に生まれていく。


 「何なのよ、障害物ごと蹴散らそうなんて馬鹿にしてるわ! イブちゃんハンマー出して貰えない?」

 「え? いいけど、多分あそこまでは届かないよ?!」

 「大丈夫、風の柱で打ち上げてみせるから!」

 「そっか! タイミングは任せるね、ストーンハンマー」

 イブが近くの岩に触れると、トゲトゲが成長して3年生チームの方向へと弾け出た。更にハンマー射出の瞬間にエーコがそのすぐ後ろで杖を振り、突風を生み出すと空気が割れるような速度でハンマーが飛んでいく。
 迫撃砲の様に相手に飛んでいったハンマーはエドモア達の動きを止めた。


 「おおっとこれは、一年生チーム巨大なトゲ付きハンマーが宙を舞う!! これにはさすがの三年生チームも回避に徹するようだあ! だがこの瞬く間に敵陣の五分の一を空白地帯に変えてしまった三年生の攻撃力たるや圧倒的だあ!」

 エドモア達の攻撃で出来た空白地帯は一年生チーム自陣の約五分の一に達していた。攻撃をやめた三年生チームは早くも、その見通しの良くなった空白地帯を駆け出し始めた。

 エーコ達が遠距離戦を仕掛けてる間、ケイとロームは前線近くまで進み、岩の影に潜んでいた。

 「敵は遠距離殲滅戦は辞めたらしい、全員突っ込んでくるぞ! どうするケイ?」

 「僕が三人引きつける。合図したら左側の二人に全力で攻撃を叩き込んでくれ。多分右側から一人抜けてくから、そしたらイブ達の所まで下がって早めに片付けて戻ってくれ。」

 「了解だ、ただ無茶はするなよ! すぐ戻ってくるからな!」
 
 「ああ任せろよ。3、2、1 セイっ!」

 横並びで迫りくる四人に向けて、ケイとロームは限界速度で攻撃を連射した。ロームは上位魔術である極太の炎柱"ファイアランス"をミサイルの様に9本連続で飛ばす。短杖が熱に耐えうる限界まで連射されたその攻撃は、巨大な爆炎を空白地帯に巻き起こした。ケイはエアコントロールを連発する。1発の威力は低いが、精密にコントロールされた連弾は、相手の呼吸を乱して足を止める。だが三年生も的確に攻撃をさばき、攻撃の密度が低かった右端から一人が抜けた。

 「イブ、エーコ、敵が一人そっち行くからそれまで攻撃は緩めるなよ! ロームは全速力で三対一を作ってくれ、こっちは持って3分だ」

 「「「わかってる(よ)」」」

 ロームは逆サイドを抜けた敵を一人全速力で追いかけ始める。相手も信頼があるのか、それともケイでは足止めにならないと判断したのか一人を先行させた。ケイはロームを見送ると、岩陰から立ち上がり魔術抄本と杖を両手に三年生3人と対峙する。


 「お相手よろしくお願い致します」

 恭しく行われたケイの決闘礼に、リーダーのエドモアが一歩前に出た。

 「時間稼ぎのつもりか知らないが、そんなに甘くはないぞ? 多少遅れたところでヌジャが一年生三人に負けることはないからな。ただ優秀な一年がいると聞いてな、せっかくだから手合わせしておきたいと思っていたんだ。ハンデ付きでどうだ?」

 「先輩方には小細工は通じないと思っておりますが、その上で僕は三人を信じております。先輩方にはここに後3分はいてもらいます。ハンデはくれるならほしいです」
 
 「ふ、フフっ、ははは! 不遜だなあ、お前! でも嫌いじゃないな、いい不遜な気がする! じゃあ、やるかっ!!」

 そういうと先輩達は左手に持った本をすっと突き出し、右手で指揮でもするように短杖を振り始めた。美しく伸びた背筋に、熱く優雅な手元の杖さばきは、まるでオーケストラの指揮者のようであった。そして三方向から押し寄せる怒涛の攻撃に、ケイは同じく待機させていた魔術を発動する。

 「"磁界生成"」

 ケイを飲み込まんと魔術の津波が押し寄せてきた瞬間、無数の黒い棒が壁となってケイの目の前に現れる。そして魔術同士が衝突した瞬間、会場を揺るがす程の爆発が起こり、土煙が辺りの視界を遮った。

 
 「おっと、なんという攻撃だあ!いくら非致死性加工されているとは言え、これじゃ無事か怪しいぞお!! 生きてるかケイくーん!」

 実況の声に、会場中が息を飲んでグラウンド中央を見つめる。


 「磁界生成」

 土煙の中からケイの声とともに、30本を超える黒い棒が飛び出し、三年生を急襲する。まだ視界が確保できないなか、飛んでくる黒棒を最小限で躱すエドモア達は笑っていた。

 「おい、凄いじゃないか!! こんな魔術見たことないぞ! これは何なんだケイ?」

 エドモアが土煙の中心に向かって叫ぶと、ゴホゴホとした声がかえってきた。

 「鉄は国家なりですよ、先輩。ゴホッ」

 「おお、あれは鉄かあ。 これはやばいかもしれんな。多少手荒でもいいか?」 

 「ゴホっ、お手柔らかに頼みますよ、ゲホっ」
 
 未だ互いの姿が見えない状態だというのに、エドモア達は杖を発動待機状態にして走り始めた。爆心地を取り囲む様に散開した三年生チームは、一矢乱れぬタイミングで杖を振るった。

 「「「アースウォール」」」

 墓石のような重厚感あふれる石がケイを押しつぶさんと勢い良く迫る。そしてそれらはケイがいるであろう爆心地を囲むように折重なりあい、堅牢な牢獄を作り上げた。さらにいつの間にか石材の上に登っている先輩たちが、その淵から石牢の中に無慈悲にも杖を振るった。さきほどよりも優雅で苛烈で、どこか楽しげなタクトの動きに合わせ、炎と雷と氷が一定のリズムで穴の底に注がれる。

 「あああっと、さきほどより苛烈かつ美しいまでに恐ろしい攻撃がケイ君を襲うううう! 大丈夫かケイ君、生きているかケイ君、早く姿を見せてくれ!」

 先輩たちが魔術で作り上げた巨大な石牢獄の外側に、小さな穴が一つ空いていた。その穴はまるで何か棒状のものを型抜きしたかのように、ぽっかりと空いている。そう人一人がなんとか通れるほどの穴の中にはボロボロになったケイがいた。そして呼吸は荒く、何か焦ったような表情をしてマイクに話しかけている。

 「やばい、やばい、やばい、あの魔術は非致死性加工されていない。さっきの炎がかすっただけで皮膚は焦げたし、雷槍のせいで左手が痺れて動かねえ。さっきからノイズがひどくてイブたちと連絡取れねえし、くそどうしたらいいんだ。」
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