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王立魔術学園編
6話 トラワレコイル(後編)
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動物の頭部の被り物を被った六人組に拉致され、殺されそうになりながらも生き延びたケイ。その身の無事を案じてくれていた幼馴染みのイブと感動的な再会も略し、ある場所へと急いでいた。クラスメイトで、今や竹馬の友のなりかけているイケメンのローム・サリンダーと共に。
前を急ぐケイに対してロームが不思議そうに声をかける
「おい、そんなに急いでどうしたんだ? イブさんずっと心配してたんだぞ? もう少し優しくしてもいいんじゃないのか?」
「いいんだよ心配性なだけだから。ああして一番に心配してくれるけど、この過剰なまでの装備類の性能を一番に理解してるんだぜ? それより今回はちょっと困ったことになったんだ。部室で話す」
そのまま廊下の突き当りまで進んだケイとロームは、正面に構える両開きのドアを開けて中へと滑り込むように入った。
ここはケイ・トーマスオが今春設立した新しい部活 "異世界生産技術部(仮)" の部室だ。会社の部署みたいな名前に問題があったが、ケイが全く譲らなかったので(仮)が愛すべき妥協点となった。部員はケイ、ローム、ケイの幼馴染みのイブ・ロータンとその親友のエーコ・アクエリウス、そしてロームの護衛として入学したのに成績が足りずクラスが別になってしまった残念護衛のダブ・リーだ。ダブは名前は不吉だが、すごく好青年で二つ返事で怪しげな部活にも入ってくれたマッチョだ。顧問は担任の教導官であるウエンジョー先生である。
その少し大きめの部室の中に入ると、声を潜めてケイが、こうして急いだわけを話し出す。
「今回は誘拐されて殺されそうになった。あろうことか僕をゴブリンの洞穴に投げ込んだんで、犯人達をいつもの如く身ぐるみ剥いできたんだけど、その中の一人がやばい奴だった。聞いて驚くなよ、ローバー君の中の人は、第八王子のオッタッタ様だったんだ!!」
「途中はしょり過ぎてるのと、謎のモンスター出てきてるけど、誘拐犯の一人が王子のオッタッタ様ということでいいのか?!」
ケイは犬の様にフンフン頷いた。それをみて大体のことには動じないロームも額に汗をたぎらせ始めた。嫌な沈黙が二人を包むなか、ロームがなんとか話をつづける。
「まさか、殺したとかじゃないよな?」
ケイが今度は犬の様に首を横にブンブンふる。
「・・・じゃあ拷問にかけたとかか?!」
またもケイは食い気味に首を横にブンブンふる。
「ローム君が心配してるような最悪のケースにはなってないよ、気絶させて安全なとこに放ってきただけ。問題は脅迫用に私物をパクってきたことなんだ。」
「おい、なにパクった?」
「怒らない?」
「いいから言え、憲兵につき出すぞこのやろう」
「ひどい、こっちが被害者なのに。。。整理してたら出てきたんだよ、“王城の紋章鍵”と“地図”が。王城の地図をざっとみたところ、これが殆どの扉の鍵を突破できそうな上位鍵だったんだよ、宝物庫とか禁書庫とかも行けるっぽいね。」
ケイは地図と鍵をテーブルに広げて、鍵と同じマークが地図の殆ど全ての扉の横に印字されていることを指でしめした。
「oh...」
ロームは何とも言えない顔で数秒固まった。だがフリーズから素早く復帰すると、彼のハイスペックさを余すことなく発揮し始めた。
まずはオッタッタ様が、この学園に通われる第二学年の生徒であること、オッタッタ様を護衛している集団のリーダーとは家ぐるみで付き合いがあり、面通しを頼めそうなことを説明する。
今度はサリンダー家の執事に迅速な情報収集を命じると、ローム自身も第二学年の棟へと向かっていった。ケイも行こうかと言ったが、乱闘のせいで目をつけられているから邪魔なので置いていかれた。その後、一旦普通に教導を受けたロームだったが、休み時間の度に伝令を受けては何か指示を飛ばしていた。
ーーそして時は放課後の部室まで流れる。
ローム、ケイ、イブ、エーコ、ダブの五人が楕円形の会議卓を囲んでいる。ロームの後ろの黒板には、"ローバー君、再会作戦"とポップな字面が並んでいるが、対称的に全員の顔には凄まじい悲壮感が浮かんでいた。
まずロームによりこれまでの経緯と情報収集の結果が報告された。彼の説明によれば事態は難しい方にころがり始めていた。というのは、ケイ暗殺に失敗したローバー君ことオッタッタは学園を休み、直接王城へも戻られたらしい。オッタッタ次第だが、最悪ケイによる王城マスターキー盗難の罪が架けられ死罪確定することもあり得る事態とのことだ。
だが天が味方したのか、未だ王城の軍部及び暗部、街の憲兵隊に動きが全く見られないらしく首はつながっている。しかしすぐにでも事態は急転直下しかねないため、慎重かつ迅速に動く必要があった。
もう一つロームから朗報があった。最近オッタッタは変な上級生の集団に目をつけられ、そいつらとつるむ様になってしまったそうだ。オッタッタの護衛から聞き出したので間違いはない。つまりケイ暗殺はオッタッタの意思ではない可能性が結構出てきたのだ。
ロームは机に両肘をつき、両手を組み深く思案するポーズのまま他の四人を見渡し、口を開いた。
「事態は思ったよりもやばい、最悪ケイは打ち首になる。それを回避するためにも皆に策を出してもらいたい。あ、エーコ、そのままケイをつき出すは無しだ。そんなことになれば、イブさんそのまま田舎に帰っちゃっう可能性高いぞ。」
「チッ」
エーコが忌々しそうに舌打ちしながらロームを見る。ケイはいつものことなので、気にせずになにか他のことを考えていた。
次は、イブが手をあげた。
「鍵をどこか捨てるのはだめなんでしょうか?」
そもそも論を始めてしまった。エーコが横からすかさず指摘する。
「そんな便利なモノが他国や悪党に渡れば、この国は、いつの間にかひっそり死んじゃうんだよ。」
「・・・あ、そうですよね、ごめんなさぃ」
「ダブは何か無いか?」
司会となっているロームがダブに話しを振る。
「ローム様、王城に忍び込んでこっそり返すというのはどうでしょうか?まだ、バレていないなら、鍵盗難はなかったことにすればケイ殿は極刑を免れるのでは?」
「うーん、どうだろう。地図も鍵もあるけど、そうすると本当の反逆者になるからな。ちょっと難しいかな」
ダブは反省のつもりか椅子から立って、敬礼をしだした。そしてまたもイブから手が上がる。
「じゃあ手紙を書くっていうのはどうかな? 護衛の人に頼んで渡してもらうの。“暗殺のことをバラされたくなかったら、指定の場所に来い!”とか書けば来てくれないかな?」
「さすがイブちゃん、それしかないわ! かわいいだけでなく策士でもあるなんて最強だわ!」
「うーん俺もそれが無難かとはおもってたが、どう思うケイ? それとも何かあるか?」
全員の眼がケイに向けられた。ケイは少し悩む素振りをみせ「それでいいよ」とあっけなく言った。
ローム君は偽物でも見るように訝しむ。
「ケイ!どうしたんだお前らしくない! いつもなら王城を攻め滅ぼすくらいするじゃないか! 流石に怖くなってきたのか??」
「お前が僕をどう思ってるのかよくわかったよ、全く。なんだろう確かなことはなにも言えないんだけど、この件は大丈夫な気がする。イブの言う様に待っておく方がいいと思うんだ。」
「・・・んーなんか気が狂うな。まあいいか、じゃあ作戦は決まったな、親書は、そうだな、、、、、、俺が書こう。」
ロームは周りを見渡して誰一人まともな手紙を書けそうな人間がいなかったため、自ら書をしたためることを強く決めた。
その後は、いつもの部活のようにお茶をして、解散になったが、念の為ケイはロームの家に匿われることになった。この機に乗じて、エーコがイブをエーコ宅で匿うことを主張したのは言うまでもない。
イブは家に帰ろうとごねたが、平民二人の身の安全のために、ケイが説得し提案に乗ることになった。
手紙を出してから2日たち、3日経ったが不気味なことに音沙汰がなかった。そしてその間、オッタッタも学園には顔を出すことなかった。直接面会する機会も狙えず、会議に参加した面々の緊張はどんどん上がり続けた。黒髪ロングの美女エーコに関しては、事件が進展してしまいエーコ宅からイブが出ていってしまうことに緊張していた。
事件から四日目の朝にまさかの事態がケイを待っていた。ローム・サリンダーの家をオッタッタが自ら訪ねてきたのだ。
サリンダー家は鯉の生簀にパンくずを投げ入れたかのように大慌てだった。オッタッタを貴賓室にお通しして、朝からフルコースをせっせと運びこんだ。同じくオッタッタと共に貴賓室に押しこまれたロームとケイは、この大胆な切り込み方に困惑しながら同じテーブルについていた。
3人以外いなくなった貴賓室にて、交渉が始まる。
「あのーオッタッタ様、おはようございます。あ、私ケイ・トーマスオと申します、平民でごさいます。質問をしてもよろしいでしょうか?」
訪問したときから泰然とした態度で、崩れることの無い高貴な笑みを浮かべているオッタッタは短く答えた。
「許す、どうぞ」
ケイとロームはお互いに視線をあわせ、どう質問していいか悩んだ。ロームが顎をオッタッタの方に振ったので、しょうがなくケイが続けた。
「えー、僭越ながら、御顔の上半分を覆ってらっしゃる布にはどのような意図があるのでしょうか。」
「答えはお主の中にある。そうであろう、ネズミーマウスマン三世よ!」
ゆっくりと自信満々に答えたオッタッタの鼻から上には、大きな丸い耳と、大きな鼻が突き出た、クリクリお目めのネズミの被り物が被せてあったのだ。白黒調のデフォルメされたネズミも、いやに高貴な気品を漂わせていた。
「(いや意味わからないんですけど。その豊かなドヤ顔をいますぐやめてください。あと三世に関しては僕は何も関与していない!)」
ケイは心の中で絶叫した。
ロームにいたっては言葉の真意を探ろうと、思考の海原へ漕ぎ出し、ばっちり遭難してしまっている。ロームに、ネズミの覆面を被って賊を返り打ちにしたことを黙っていたことをケイは後悔した。
そこからはしばらく無言の間が続いた。ロームが脱落し、早くもケイが一対一になったのだが、計り知れない高貴な器にビビってしまったのだ。
そんなケイを察してか、オッタッタ自ら声をかけた。
「真心の、こもった親書を、ありがとう。迷惑をかけたのに、こうして王室の鍵と地図を返してくれる、器の大きさに感銘を受けた。
一度目はローバーに、飲み込まれそうになったところを。二度目は止めを、刺さずにいてくれたことを、感謝している。命を助けてくれた恩を、返したいのだが、どうしたらいいだろうか?」
そしてオッタッタは覆面を取り机におくと、頭をすっと垂れた。
ケイは大変聞き取りづらいお言葉を解析していてあっけに取られてしまった。だが、いち早くロームが復帰して、オッタッタの頭をあげさせるべく手を止めるように促した。
そして、ロームの懸命のお願いにより頭を上げたオッタッタの額には、"負け犬"の文字が刻まれていた。
「Oh...」
今度はケイが意識をいち早く手放し、ロームの追求を躱した。そのロームは、それはもうブチ切れのご様子で、額に青筋何本も浮かべてケイとオッタッタを見比べていた。
ケイの黙秘も虚しく、事情は全てオッタッタから明かされた。
ネズミの覆面を被り、ダークヒーローの様にかっこよかったこと、気を失ったあとは服を剥かれ額に消えないインクで負け犬と書かれたこと。口につっこまれた紙には"お前らの身元は割れた。今後こちらに関われば親類縁者諸とも無事では置かない"と血文字風で書かれた脅迫文があり、痺れるほど憧れたこと。オッタッタは聞かれてもないことをペラペラとロームへと話した。
結果、事件としては予想を遥かに上回る平和的解決にいたった。その代わりにケイはロームによってサリンダー家の牢屋に一週間ぶちこまれた。
前を急ぐケイに対してロームが不思議そうに声をかける
「おい、そんなに急いでどうしたんだ? イブさんずっと心配してたんだぞ? もう少し優しくしてもいいんじゃないのか?」
「いいんだよ心配性なだけだから。ああして一番に心配してくれるけど、この過剰なまでの装備類の性能を一番に理解してるんだぜ? それより今回はちょっと困ったことになったんだ。部室で話す」
そのまま廊下の突き当りまで進んだケイとロームは、正面に構える両開きのドアを開けて中へと滑り込むように入った。
ここはケイ・トーマスオが今春設立した新しい部活 "異世界生産技術部(仮)" の部室だ。会社の部署みたいな名前に問題があったが、ケイが全く譲らなかったので(仮)が愛すべき妥協点となった。部員はケイ、ローム、ケイの幼馴染みのイブ・ロータンとその親友のエーコ・アクエリウス、そしてロームの護衛として入学したのに成績が足りずクラスが別になってしまった残念護衛のダブ・リーだ。ダブは名前は不吉だが、すごく好青年で二つ返事で怪しげな部活にも入ってくれたマッチョだ。顧問は担任の教導官であるウエンジョー先生である。
その少し大きめの部室の中に入ると、声を潜めてケイが、こうして急いだわけを話し出す。
「今回は誘拐されて殺されそうになった。あろうことか僕をゴブリンの洞穴に投げ込んだんで、犯人達をいつもの如く身ぐるみ剥いできたんだけど、その中の一人がやばい奴だった。聞いて驚くなよ、ローバー君の中の人は、第八王子のオッタッタ様だったんだ!!」
「途中はしょり過ぎてるのと、謎のモンスター出てきてるけど、誘拐犯の一人が王子のオッタッタ様ということでいいのか?!」
ケイは犬の様にフンフン頷いた。それをみて大体のことには動じないロームも額に汗をたぎらせ始めた。嫌な沈黙が二人を包むなか、ロームがなんとか話をつづける。
「まさか、殺したとかじゃないよな?」
ケイが今度は犬の様に首を横にブンブンふる。
「・・・じゃあ拷問にかけたとかか?!」
またもケイは食い気味に首を横にブンブンふる。
「ローム君が心配してるような最悪のケースにはなってないよ、気絶させて安全なとこに放ってきただけ。問題は脅迫用に私物をパクってきたことなんだ。」
「おい、なにパクった?」
「怒らない?」
「いいから言え、憲兵につき出すぞこのやろう」
「ひどい、こっちが被害者なのに。。。整理してたら出てきたんだよ、“王城の紋章鍵”と“地図”が。王城の地図をざっとみたところ、これが殆どの扉の鍵を突破できそうな上位鍵だったんだよ、宝物庫とか禁書庫とかも行けるっぽいね。」
ケイは地図と鍵をテーブルに広げて、鍵と同じマークが地図の殆ど全ての扉の横に印字されていることを指でしめした。
「oh...」
ロームは何とも言えない顔で数秒固まった。だがフリーズから素早く復帰すると、彼のハイスペックさを余すことなく発揮し始めた。
まずはオッタッタ様が、この学園に通われる第二学年の生徒であること、オッタッタ様を護衛している集団のリーダーとは家ぐるみで付き合いがあり、面通しを頼めそうなことを説明する。
今度はサリンダー家の執事に迅速な情報収集を命じると、ローム自身も第二学年の棟へと向かっていった。ケイも行こうかと言ったが、乱闘のせいで目をつけられているから邪魔なので置いていかれた。その後、一旦普通に教導を受けたロームだったが、休み時間の度に伝令を受けては何か指示を飛ばしていた。
ーーそして時は放課後の部室まで流れる。
ローム、ケイ、イブ、エーコ、ダブの五人が楕円形の会議卓を囲んでいる。ロームの後ろの黒板には、"ローバー君、再会作戦"とポップな字面が並んでいるが、対称的に全員の顔には凄まじい悲壮感が浮かんでいた。
まずロームによりこれまでの経緯と情報収集の結果が報告された。彼の説明によれば事態は難しい方にころがり始めていた。というのは、ケイ暗殺に失敗したローバー君ことオッタッタは学園を休み、直接王城へも戻られたらしい。オッタッタ次第だが、最悪ケイによる王城マスターキー盗難の罪が架けられ死罪確定することもあり得る事態とのことだ。
だが天が味方したのか、未だ王城の軍部及び暗部、街の憲兵隊に動きが全く見られないらしく首はつながっている。しかしすぐにでも事態は急転直下しかねないため、慎重かつ迅速に動く必要があった。
もう一つロームから朗報があった。最近オッタッタは変な上級生の集団に目をつけられ、そいつらとつるむ様になってしまったそうだ。オッタッタの護衛から聞き出したので間違いはない。つまりケイ暗殺はオッタッタの意思ではない可能性が結構出てきたのだ。
ロームは机に両肘をつき、両手を組み深く思案するポーズのまま他の四人を見渡し、口を開いた。
「事態は思ったよりもやばい、最悪ケイは打ち首になる。それを回避するためにも皆に策を出してもらいたい。あ、エーコ、そのままケイをつき出すは無しだ。そんなことになれば、イブさんそのまま田舎に帰っちゃっう可能性高いぞ。」
「チッ」
エーコが忌々しそうに舌打ちしながらロームを見る。ケイはいつものことなので、気にせずになにか他のことを考えていた。
次は、イブが手をあげた。
「鍵をどこか捨てるのはだめなんでしょうか?」
そもそも論を始めてしまった。エーコが横からすかさず指摘する。
「そんな便利なモノが他国や悪党に渡れば、この国は、いつの間にかひっそり死んじゃうんだよ。」
「・・・あ、そうですよね、ごめんなさぃ」
「ダブは何か無いか?」
司会となっているロームがダブに話しを振る。
「ローム様、王城に忍び込んでこっそり返すというのはどうでしょうか?まだ、バレていないなら、鍵盗難はなかったことにすればケイ殿は極刑を免れるのでは?」
「うーん、どうだろう。地図も鍵もあるけど、そうすると本当の反逆者になるからな。ちょっと難しいかな」
ダブは反省のつもりか椅子から立って、敬礼をしだした。そしてまたもイブから手が上がる。
「じゃあ手紙を書くっていうのはどうかな? 護衛の人に頼んで渡してもらうの。“暗殺のことをバラされたくなかったら、指定の場所に来い!”とか書けば来てくれないかな?」
「さすがイブちゃん、それしかないわ! かわいいだけでなく策士でもあるなんて最強だわ!」
「うーん俺もそれが無難かとはおもってたが、どう思うケイ? それとも何かあるか?」
全員の眼がケイに向けられた。ケイは少し悩む素振りをみせ「それでいいよ」とあっけなく言った。
ローム君は偽物でも見るように訝しむ。
「ケイ!どうしたんだお前らしくない! いつもなら王城を攻め滅ぼすくらいするじゃないか! 流石に怖くなってきたのか??」
「お前が僕をどう思ってるのかよくわかったよ、全く。なんだろう確かなことはなにも言えないんだけど、この件は大丈夫な気がする。イブの言う様に待っておく方がいいと思うんだ。」
「・・・んーなんか気が狂うな。まあいいか、じゃあ作戦は決まったな、親書は、そうだな、、、、、、俺が書こう。」
ロームは周りを見渡して誰一人まともな手紙を書けそうな人間がいなかったため、自ら書をしたためることを強く決めた。
その後は、いつもの部活のようにお茶をして、解散になったが、念の為ケイはロームの家に匿われることになった。この機に乗じて、エーコがイブをエーコ宅で匿うことを主張したのは言うまでもない。
イブは家に帰ろうとごねたが、平民二人の身の安全のために、ケイが説得し提案に乗ることになった。
手紙を出してから2日たち、3日経ったが不気味なことに音沙汰がなかった。そしてその間、オッタッタも学園には顔を出すことなかった。直接面会する機会も狙えず、会議に参加した面々の緊張はどんどん上がり続けた。黒髪ロングの美女エーコに関しては、事件が進展してしまいエーコ宅からイブが出ていってしまうことに緊張していた。
事件から四日目の朝にまさかの事態がケイを待っていた。ローム・サリンダーの家をオッタッタが自ら訪ねてきたのだ。
サリンダー家は鯉の生簀にパンくずを投げ入れたかのように大慌てだった。オッタッタを貴賓室にお通しして、朝からフルコースをせっせと運びこんだ。同じくオッタッタと共に貴賓室に押しこまれたロームとケイは、この大胆な切り込み方に困惑しながら同じテーブルについていた。
3人以外いなくなった貴賓室にて、交渉が始まる。
「あのーオッタッタ様、おはようございます。あ、私ケイ・トーマスオと申します、平民でごさいます。質問をしてもよろしいでしょうか?」
訪問したときから泰然とした態度で、崩れることの無い高貴な笑みを浮かべているオッタッタは短く答えた。
「許す、どうぞ」
ケイとロームはお互いに視線をあわせ、どう質問していいか悩んだ。ロームが顎をオッタッタの方に振ったので、しょうがなくケイが続けた。
「えー、僭越ながら、御顔の上半分を覆ってらっしゃる布にはどのような意図があるのでしょうか。」
「答えはお主の中にある。そうであろう、ネズミーマウスマン三世よ!」
ゆっくりと自信満々に答えたオッタッタの鼻から上には、大きな丸い耳と、大きな鼻が突き出た、クリクリお目めのネズミの被り物が被せてあったのだ。白黒調のデフォルメされたネズミも、いやに高貴な気品を漂わせていた。
「(いや意味わからないんですけど。その豊かなドヤ顔をいますぐやめてください。あと三世に関しては僕は何も関与していない!)」
ケイは心の中で絶叫した。
ロームにいたっては言葉の真意を探ろうと、思考の海原へ漕ぎ出し、ばっちり遭難してしまっている。ロームに、ネズミの覆面を被って賊を返り打ちにしたことを黙っていたことをケイは後悔した。
そこからはしばらく無言の間が続いた。ロームが脱落し、早くもケイが一対一になったのだが、計り知れない高貴な器にビビってしまったのだ。
そんなケイを察してか、オッタッタ自ら声をかけた。
「真心の、こもった親書を、ありがとう。迷惑をかけたのに、こうして王室の鍵と地図を返してくれる、器の大きさに感銘を受けた。
一度目はローバーに、飲み込まれそうになったところを。二度目は止めを、刺さずにいてくれたことを、感謝している。命を助けてくれた恩を、返したいのだが、どうしたらいいだろうか?」
そしてオッタッタは覆面を取り机におくと、頭をすっと垂れた。
ケイは大変聞き取りづらいお言葉を解析していてあっけに取られてしまった。だが、いち早くロームが復帰して、オッタッタの頭をあげさせるべく手を止めるように促した。
そして、ロームの懸命のお願いにより頭を上げたオッタッタの額には、"負け犬"の文字が刻まれていた。
「Oh...」
今度はケイが意識をいち早く手放し、ロームの追求を躱した。そのロームは、それはもうブチ切れのご様子で、額に青筋何本も浮かべてケイとオッタッタを見比べていた。
ケイの黙秘も虚しく、事情は全てオッタッタから明かされた。
ネズミの覆面を被り、ダークヒーローの様にかっこよかったこと、気を失ったあとは服を剥かれ額に消えないインクで負け犬と書かれたこと。口につっこまれた紙には"お前らの身元は割れた。今後こちらに関われば親類縁者諸とも無事では置かない"と血文字風で書かれた脅迫文があり、痺れるほど憧れたこと。オッタッタは聞かれてもないことをペラペラとロームへと話した。
結果、事件としては予想を遥かに上回る平和的解決にいたった。その代わりにケイはロームによってサリンダー家の牢屋に一週間ぶちこまれた。
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