異世界で生産技術コンサルタント始めました!~魔術と現代技術で目指す勝ち組人生~

輝き続けるんだ定時まで

文字の大きさ
上 下
1 / 25
王立魔術学園編

1話 幼少期の記憶(ケイとイブの場合)

しおりを挟む
 僕の前世はこの世界とは異なる世界の人間だ。
 前世の僕はケイイチと呼ばれ"サラリーマン"として働き、あっけなく30歳を迎える前に死んだ。この世界のヒューマン種の寿命からしても短いぞ前世の僕。死因がなんだったのか記憶にないが、3、4日徹夜で働き抜くことも普通だった記憶から過労とか栄養失調とかつまらない理由だと推測している。


 自然の猛威溢れる”ジダマ”に僕はケイ・トーマスオとして生を受けたわけだが、前世の記憶がまるごと残っていると転生したような感覚に陥る時がある。今世の僕が異世界の知識を手に入れたのか、前世の僕が記憶をそのままに生まれ変わったのか未だに”曖昧”だ。
 だが一つ、新生児のまっさらな脳にそんなモノぶち込むとか世界の理は割とガバガバなんじゃないかと思う。


 当然僕の成長には前世の人格が色濃く影響してくるわけで、僕は世間一般に言う普通からは外れた幼少期を過ごした。


 産まれた当初は意識も自我もはっきりしてなかったからだろう、母曰く極々一般の赤ん坊だったらしい。さすがに0歳、1歳の記憶は残っていない。


 最初の変化は喋り始めた2歳頃に現れた。
 2歳になるまでの僕は、およそ赤ん坊らしくない悩みを抱えたが為に自閉し喋らなかった。揺り籠に揺られても、糞尿で汚れたおしめを替えてもらっても、離乳食を食べさせてもらっていても、眉を極限までしかめてブスッとしていた。それは、頭の中にしきりに浮かぶ断片的な前世の記憶のせいだった。
 両親が話す言葉とは似ても似つかない言葉で綴られる記憶が自分の中に存在したせいで、曖昧で脆弱な自我が盛大にぶれた。赤ん坊の脳の処理が遅いせいで記憶と現実を切り分けられなかったのだと思う。そんな不気味な赤子に両親が我慢強く愛溢れる世話をしてくれたおかげで道が開ける。2歳になる頃に、この世界の簡単な言葉と自我をうっすらと理解できるようになったのだ。運が悪ければ自我が壊れていてもおかしくなかったと今は思う。
 自我と言葉の概念を獲てからの順応と成長は凄まじく早かった。以前は恐怖していた前世の記憶に愛しささえ覚え始め、前世の記憶を繋ぎ、組み換え、昇華させて前世の言語と知識を手にし始めた。同時にこちらの世界の言葉も、雛鳥のように両親からねだった。たとえ両親がノイローゼ気味になってもひたすらに、オウムのように喋りつづけて言葉を求めた。


 3歳になる頃には、頭に蘇る前世の記憶も断片的なモノから成熟し始めた。それが僕の人格形成を加速させ始め、こちらの世界の言葉までも不自由なく使いこなし始めてた。赤ん坊の脳の柔軟さはすごいと自身で感心したくらいだ。喋り始めが遅かっただけに、両親は僕の急成長を心から喜んでくれた。
 またその頃から僕はオウム返し学習法は不要となり、今度は外の世界の事を知り始めた。隙あれば家から抜け出す勢いで興味を持ったため、両親に軽く軟禁されたほどだ。それでも窓から飛び降りて抜け出し、両親には本当に心配をさせた。

 それほどまでに僕の興味を掻き立てた外には何があったか。
 外の世界には魔法使いが雨雲を呼び、火の玉を撃ち、雷を降らせる圧倒的な光景が日常的に広がっていたのだ!

 家にいるときは全く気づかなったのだが、この世界には魔法がそこら中に存在していた。前世で言えば明治時代の様な文明度の世界に不便さを嘆いていたのだが、それは全くの失礼だった。前世で想像の産物でしかなかった超常の現象が、目の前に発現しているのだ。ファンタジー小説ファンとしての記憶が僕を興奮させないわけがなかった。



 4歳になる頃、両親にねだりにねだり倒して初心者用の魔術教本を買ってもらった。僕の考え方はどうも前世の異世界基準っぽくなっており、さほど珍しくもない魔術にどうしたって強いときめきを感じてしまっていたのだ。
 また、2歳になって出来始めた自我により切り分けられたと思っていた前世の記憶が、いつの間にか僕の中に深く根付いていることに気づいた。前世で果たすことなく、道半ばで潰えた夢を形にしたいと漠然と考えるになるほどに。

 僕はごく自然に魔術の習得に励むようになったのだけど、周りからは小さな変わり者と言われた。この世界において魔術師は数ある職業の一つでしかなく、習得難易度やコストに比べて利益が出にくいことから一般人には人気がなかったのだ。識字率がそれほど高くないことや、自然科学系の教養が体系化されていない社会背景も普及の足を引っ張っていた。
 


 5歳になると、こちらの世間一般の風習である街の”教導所”通いが始まった。僕ももれずに同年代の子らと通うことになるのだが、見事に浮いた。早熟した喋り方をし、分不相応に魔術の本なんか舐めるように読んでいたせいか、すぐに悪魔の子と陰口を叩かれるようになったのだ。
 街の教導所は基本的な読み書き、計算、一般常識や簡単な自然科学、芸術や農学、歴史と幅広く教えてくれる。僕は必要なところだけ効率的に学習し、後は独学で魔術の勉強を続けた。そんな不真面目な態度が周りの反感を買って、悪魔の子から悪魔に昇格を果たすのにはさほど時間はかからなかった。

 だが外聞を犠牲にして魔術に傾倒したおかげで教導所で得たものが2つあった。

 一つはこの世界の魔術の理みたいなものだ。まず前提として、この世界の魔術とは、超常現象と科学現象をごった煮にしていた。すごく簡単な例をいえば、物がこすれあって生じる静電気も魔術に分類されていたし、幾何学模様の紋章と触媒を使って放つ豪速球の火の玉も同じく魔術だった。ここからの魔術は後者とするが、魔術の行使には紋章と触媒が必要だった。その2つの鍵は空間を満たす不可視のエネルギー、前世でいうエーテルのような物質を変質させて、魔術として発現させるのだ。紋章に刻まれた幾何学模様がエーテルの通り道で、触媒が通り道に満ちるエーテルに圧力をかけて押し出す。意味を持ったパスを通ることでエーテルは変質し、火の玉や雨雲や氷の柱として発現するのだ。紋章と触媒が持つ効果を知り得るだけ学習した。
 時にこの世界の魔術は事前準備、調整、可変性に難があり、実際には使えない技術として認知されてしまっている。前世のファンタジー世界のように、呪文を唱えてパッと自由に現象を制御できたならこの世界での価値は変わったかもしれない。
 
 教導所で得たもう一つはイブ・ロータンという魔術好きの友だちだ。イブは悪魔の子と噂される僕に恐れることなく声をかけてきた。

 「ケイ君は魔術を使えると聞いたんだけど、ほんとですか?わたしも使いたいんですけど、教えてくれませんか?」
 見ず知らずの女の子が小首を傾げながら、そう話しかけてきたときには驚いたものだ。だがそれ以来、教導所では二人で過ごすことが多くなった。魔術の勉強だったり、イブの家族の話だったり、今日のお昼ご飯だったり、同じクラスの子に意地悪された話だったり、子供らしく裏表なく色々な話をした。魔術オタクとして二人で孤立していたため、必然遊ぶことも多くなった。おままごともしたし、街の探検もした。この世界の花形職業であるハンターの姿をこっそり眺めたり、街の屋台に焼き菓子を買いに行ったり、2人でできそうな遊びはだいたいした。

 前世の知識を得て普通を通り超して成熟したと言っても、僕の中身は結局子供だったということにイブには気づかされた。大人ぶっていても年相応に人恋しさを抱いてたらしく、彼女が友達でいてくれたおかげで割とまっすぐに成長することができた。両親からは変わらず愛されていたが、やはり肉親以外の他人からの優しさは別だったらしい。彼女の存在は僕の中で大きくなっていた。



 そして街の教導所での5年が過ぎ、10歳の今、現在、今日、僕はかねてから志望していたこの国の首都にあるという魔術師高等教導学園へと旅立つ。しかも一人では不安だからと両親であるカイ・トーマスオとミズーリ・トーマスオまで一緒に首都へと来てくれることになっている。父のカイと母のミズーリは点在する街間を行き来する商人であり、息子の頑張る姿を応援したいと、伝手を頼って活動拠点を首都へと移してくれたのだ。

 「なあケイ、お前は本当に立派な息子で誇らしいよ。魔術はいざという時役に立たないなんていう人達がいるけれど、父さんはそんなことないと思う。ケイの思う通りに、頑張りなさい」

 「そうよケイ、赤ん坊のころはあなたの緩急ついた成長に一喜一憂したけれど、もう心配なんかしないわ! 私たちの子供にしては、できすぎた自慢の息子よ! それに、イブちゃんとも離れ離れにならなくてよかったわね!」
 
 「父さん、母さん本当にありがとう。大変なのに一緒に首都に来てくれて本当に嬉しいよ。イブもまさか一緒に受かるとは思っていなかったから、居候の件を含めて父さん母さんが来てくれて本当に助かるよ」


 引っ越しの荷造りを終え、慣れ親しんだ我が家にお別れをしていると、大きな大きな皮袋を背に抱えたイブがこちらへ嬉しそうにやってくる。イブは僕らの姿を見つけると荷物を置き深々とお辞儀をした。

 「おじさん、おばさん、ふつつかものですが、どうかよろしくお願いします。両親が”狩りのため見送りにいけず申し訳ない、娘をお願いします”と言っておりました」

 「あらあらイブちゃんいいのよ! それにご両親からは昨日ちゃんと挨拶もらってるしね! さあさあ、いきましょ! これからは家族と思ってくれてもいいのよ? ふふふっ」

 「ミズーリさんありがとう! この街を離れるのは不安だけど、カイさんとミズーリさんにこうして受け入れてもらえて、とても嬉しいです!」 

 そう、友達のイブもこれから首都にある魔術師高等教導学園に行くのだ。だが少し問題があった。

 僕は試験がうまくいき学費免除に成功したのだがイブは半額免除だったのだ。イブの家もうちと同じく平民で、お金はそんなにない。イブの両親は学園の高額な学費を払うために今も狩りに励んでいるくらいだ。そこで母親のミズーリからイブの両親へ提案があった。
 「もし、よければイブをこの度首都へと引っ越す我が家に居候してもらっても構いませんが、いかがですか?」
 僕とイブの両親同士も必然仲良くなっていたので、母ミズーリから居候の件を提案された時にイブの両親は泣いて喜んでくれた。学費の節約にもなるし、なにより愛する娘を一人で危ない首都に出さないで済むということで、僕の両親は何度も感謝されていた。


 「ケイ君、これから3年間よろしくね。はあああん、魔術師専門の教導所なんて楽しみだね!」
 
 「おうよろしくな。イブは本当に魔術が好きだよな、僕も負けないから一緒にがんばろうな!」

 「うん! あ、でも魔術以外も楽しみなんだよ? ほんとだよ!」



 こうして4人で荷馬車へと乗り込み、首都への道のりを進み始めた。さあ、夢へと至る第一歩だ、今まで学べなかったあれこれへの期待に胸を膨らませて僕は馬車に揺られた。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生王子はダラけたい

朝比奈 和
ファンタジー
 大学生の俺、一ノ瀬陽翔(いちのせ はると)が転生したのは、小さな王国グレスハートの末っ子王子、フィル・グレスハートだった。  束縛だらけだった前世、今世では好きなペットをモフモフしながら、ダラけて自由に生きるんだ!  と思ったのだが……召喚獣に精霊に鉱石に魔獣に、この世界のことを知れば知るほどトラブル発生で悪目立ち!  ぐーたら生活したいのに、全然出来ないんだけどっ!  ダラけたいのにダラけられない、フィルの物語は始まったばかり! ※2016年11月。第1巻  2017年 4月。第2巻  2017年 9月。第3巻  2017年12月。第4巻  2018年 3月。第5巻  2018年 8月。第6巻  2018年12月。第7巻  2019年 5月。第8巻  2019年10月。第9巻  2020年 6月。第10巻  2020年12月。第11巻 出版しました。  PNもエリン改め、朝比奈 和(あさひな なごむ)となります。  投稿継続中です。よろしくお願いします!

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

処理中です...