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1.20歳~21歳

ラスト枠は突然に

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「いや、ごめん、これは放送では見せられないわ、というか俺が見せたくない」

放送画面は活気づいている。
放送に出せない程過激なの?個人的に裏で送ってくれる?
そんなコメントが流れている。
みんな確認したいのだろう。
私がどの程度の物を送り付けたのか。

なんの事はない、ただ下着オンリーの眼鏡をかけた痴女がいい感じに顔を半分隠した詐欺だらけ写メでしかないと言うのに。

私は流れるコメントを尻目に、片手間で作業をしていた。
さっき送ったのは三枚のうちの一枚。
反応が良ければ他の二枚も送るつもりだった。
徒労に終わるのはしゃくにさわるので、一枚送ってから微調整を始めたのだ。

『あんまり映りが良くないので、ボツにしようかと思ったものがまだ・・・』

コメントを流して様子を見る。
彼はまださっきの画像を眺めていると言った。
好きなタイプリストは私のハンドルネームを最後に全く動いていない。
しかしリスナーのコメントだけは絶えず流れる。

初見さん無理しないで、こんな奴に送るのはもったいないよ。
そのコメントだけが妙に目に付いた。
もしこのリスナーが私のような釣られやすい干物なら、要するに「新参がこれ以上引っかき回すな」という意味が込められているだろう。

私の干物歴を甘く見るでない、被害妄想はお手の物だ。

『むしろ私の顔みてメガネさんが無理してないか心配です』

そうコメントを返したと同時に、二枚目を送信した。
もちろん、放送に受信音が乗った。
一瞬、リスナー達のコメントが止まる。
出方を伺っているのだろうか。

「おおおおぉぉぉ・・・うみさん、あの、冗談抜きで好みなんですけど」

そう笑う彼の声をキッカケに、コメントがまた流れ出す。
ようやくコメントを拾い始めた彼は、それでもちらちらと画像を見ている様子だった。

「いやね、水着って言ったけど、下着の破壊力すごいわ。しかもメガネかけてんの。黒髪で超キレイ・・・」

あぁ、こんなにも褒められたのはいつぶりか?
良かった、私の女としての価値はまだ残っていた。
例えその画像の八割が詐欺に近しいものだとしても、
素敵な声の持ち主にそこまで褒められれば、私のわずかばかりのプライドも守られたというもの。

彼は唐突に、この放送で今日の配信は終わると告げた。
時間を見れば、もう夜も更けている。
完全夜型生活になっている私には、むしろこれからが活動時間なのだが・・・そういえば彼は何歳だろう?

放送は間もなく終わる。
少し寂しく感じた。
一応、終わったら無料通話ソフトの方でメッセージを送るつもりではいたが、もし本当に寝てしまうのであれば返事は来ないかもしれない。
明日もこの時間に放送するのか?
それもわからない。

放送主も、リスナーも、そして送った本人の私も、
全員が何となくふわふわしたような空気で、
その日の放送は幕を閉じた。
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