人形の家

あーたん

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第一章

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『とはいえ、ムトウはもういない。だとすると、ゲームプランナーの部長に話を聞くことになるが……』

 シュウさんの元々読み取りにくい表情。だけどその表情でも分かる。自分から口に出したとはいえ、自分でもいい案だと思っていない表情。

「いえ、部長さんに聞くのは得策ではないと思います。もし部長さんが何か知っているとするなら、こちらが何か探っていると思われても、まずい気がするので」

 私の言葉に、シュウさんが少しだけ安堵の表情を浮かべる。

『……そちらも、そう考えてくれるか』
「はい」
『えー、何かまずいかなぁ。聞いた方が早くない?』

 画面の向こうで、シュウカさんが首をかしげている。

「人を疑うのはよくないですが。もし、部長さんが本当にムトウさんが考えたゲームのアイデアを盗んだとして、それを隠したかったとしたら。ムトウさんが元々のゲームのアイデアを考えたということを他の人に知られたら、どうすると思います?」

 私の言葉に、シュウカさんは顔をしかめる。

『部長さんがもし、自分のアイデアではないものを、自分のアイデアですって言って提案して、それが採用されてって流れを、ムトウさん以外知らなくて。それを他の人に知られてしまったらってことだよね。そりゃ、口止めしたくなるよね』

『その口止めの方法がただ、言わないでくれと懇願してくるだけならいいがな?』

 シュウさんがシュウカさんを見る。

『あー……。危ない橋、渡りたくないもんねぇ』

 シュウカさん、納得した表情。私も、ゲットしたばかりの正社員雇用を早々に棒に振りたくないし、なおかつ命を脅かされるのだけはごめんだ。

『ムトウはクビになるだけで済んだ……とこちらは考えているわけだが、他の人間もそれだけで済むとは限らないからな』

「それに、もし本当にWFOのアイデアがムトウさんの考えたものだったとしたら。アイデアを奪われたあげく、人の功績にされ、自分はクビになったのですから、ショックはかなり大きいと思います」

 ムトウさんが本当にゲームプランナーの仕事が好きで、その「好き」という気持ちであんな素敵な「WFO」という世界のアイデアを作ったんだとしたら。

 それを奪われ、自作発言される痛みが、私には分かる。
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