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12話
12話「キミと年越しそば」【1】
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「ハイ」
「お、おう……」
今は夜、日付は知らない。いや知ってる。明日で今年が終わるから今日は12月30日。1週間ぶりの1人暮らしを満喫しつつ今日の夕食時間が今まさに始まろうとしていた。大皿にこんもりとよそられた焼きそばに向かって手を合わせ、今日の糧に感謝を述べるかのような真剣なまなざしを自身の作品に向けながら一言。
「頂きます!」
「い、いただきます」
麺を持ち上げるとネチャリとした水っぽい音が聞こえる。箸で取ろうとして持ち上がったのは食べたい量のおよそ4倍、よそった全体量の半分くらい。それだけの麺が一度に一緒に持ち上がった。でも、構わず食べる。
「もっっっふぉ」
「お、おい……」
啜れない。何本か口に含んだ麺を全力で吸い上げようとしても一向に口に入って行かないので不本意ながらその地点で嚙み切った。モチョモチョした食感の麺の塊を噛みしめてみると殆ど味がしない。多分炒めている最中に振りかけた塩が混ざりきらずにどこかに固まっているんだろう。次はもっとまんべんなく───
「おいったら!」
……。
「なに?」
「そうまでして食わなくたっていいだろ?」
「食べて学ばなきゃ上手くならないでしょ?」
「美味くないもん無理して食う方が負担だと思うんだがな……」
「反論になってない。いいから食べて感想頂戴って言ってるじゃん。何のために作ってやってると思ってんの?」
日頃ロクな物を食べてないだろうからと思って恵んでやっているというのに、なんと恩知らずな大家なのだ。まるで狼に育てられた野生児が人間の食べ物を受け付けないってカンジ。これでは人間的な味覚欲しさにアイツに味見を頼んだ私の目論見も無駄に終わりそう。
───マッチャ……メッチョヤ……モッチャッ───
まぁ確かに、重たい。
「モッモッモッ」
「マッチョモチョ、んぐ」
「ムッグモチョ」
「もう少し静かに食べてよ」
「モムっぐ、噛んでも噛んでも飲み込めないんだよ……水が多すぎるんじゃないか?」
「分かってることばっかりじゃなくて良いところを見てくれない!?」
「良いところが見つからないから言ってんだろ!」
「あぁ!もぅ!」
お互いの皿の上が3分の1がようやく開いたところでようやく狂騒は終わる。飲み込んだはずなのにまだ喉の真ん中に突っかかっている感覚が残る小麦の塊、汁気を飛ばしたハズなのに濡れている口元に皿の上、確かにこれじゃあ失敗と言われてもしょうがない。
「ごめん」
「っく……あぁ、別に構わねぇよ。こっちも晩飯の用意しなくて済んだしな」
「こっちのも食べる?」
「そこ置いとけ」
「食べるの?」
「聞いていて疑ってんじゃねぇよ。今日は徹夜で張り付いてないといけなくてな、値が下がってから跳ね起きて朝飯の準備してたんじゃ大損なんだよゲェェフ」
乙女の前でも構わずにどデカいゲップを1発かまし、健史郎はモニター群の前に戻って行く。寂しげに残された6分目の焼きそば達を1つの皿にまとめてラップをかけて、一言言ってから部屋に戻ろうとすると背中越しに苦しそうな健史郎の声が聞こえる。
「飯、作ってんのか?」
「もう3回目の試食だって言うのに今更聞く?」
「いや、どうせなら処分も兼ねて押し付けようかと思ったんだよ。使うか?」
そう言ってアイツが指さしたのは芽衣子のカレーの際に発掘した古い炊飯器。型はかなり昔のモノだったはずだけど、前に使った時に比べていくらか清掃されているみたいだった。
「……ううん、いいや」
「ほーか、ならけぇれ」
「言われなくてもね。おやすみ」
「ん」
部屋を出るとそこには静かな夜がある。雲は何処にも見えず風も吹きつけないスカスカの空気。ただ冷たさだけが体を突き抜けて骨を揺らす。こんな夜は早く布団に入りたいものだ。まぁ入るんだけどね。
「ただいまぁ~」
誰がいる訳でもない我が家に入って鍵を閉めた。ちょっとした離れに行ってただけなので手洗いもうがいもそこまで丁寧にやる必要無いのは気が楽でいい。それが終われば間髪折れずに就寝準備、水を一杯錠剤2つ、その後はお風呂で歯磨きだ。目線を気にせず今までやってきていたルーティーンをあっという間に済ませると、ショーツ一丁でひんやりとした布団の海にダイブをかました。
「うっひゃあぁ~」
すべすべの表面は暖房の影響をものともせずにとってもいい塩梅の冷たさを保っていてお風呂上がりの熱りを冷ましてくれる。頬、首、胸、お腹、脚と剥き出しの部分を動物のようにこすりつけて行くうちに体の熱が布団に移って行って、程よく温まってきたのを見計らってそのまま掛け敷き布団の間に体を差し込む。これが新品の布団セットの再興に贅沢な使い方だ!
「気持ちいいぃー…‥」
もう狭い天井付近の一角で体を縮めて丸くなる必要も無い。2人分の布団の中はさながら太平洋の如き広大さ、私の矮小な体などいくら伸ばそうが広げようが暴れようが端にまで行きつくことは無い!内側で2つを跨ぎながらゴロゴロと転がるという子供じみた至福を思う存分、この4日間は堪能させてもらっている。ただ、私は興奮据える余りに自分の今のコンディションについて失念していたようだけど。
「ヴォエェ!」
奴重なる乱回転&乱運動によって胃袋の手前で立ち往生していた焼きそば一行が来た道を引き返し始めたのだ。ムカつきと吐き気をこらえようと動きを止めて真下に両手足で踏ん張ろうとしたらそこはちょうど2つの布団の真ん中で、真っ二つに割れたそこから冷たいフローリングの上に落着する羽目になった。
「……うぅ」
逆流する胃酸を戻し、深く息をする。冷たく硬い床はこういう気持ちを落ち着かせたい時に役に立ってくれた。嫌な熱を早く冷ましたくて背中を床に合わせて天井を仰ぎ見ていると体はみるみる冷えていき、それに比例するように頭は冴えていくような気がしていた。
あと4時間ちょっとで今日が終わる。昨日も一昨日も一昨昨日も、同じようなことを考えながら同じように終わっていって、そしてあと28時間後に今年が終わる。去年も一昨年もその前の年も同じように終わっていったのだから。今年は、違うのかと思っていたけど。
「テレビ買おうかなぁ?」
退屈だ。実に退屈だ。これまでは静かなことを気にしたことなんて無かった。家に帰ればベッドに直行してソシャゲか、パソコンを開いてすぐに動画を付けてたし、ベッドの真下にうずたかく積まれていた私有財産たちがこすれ合う音が一瞬の環境ノイズになってくれていたので私の耳は退屈とは無縁でいられた。でも今はゴミの山は無いし、どういう訳かパソコンを起動する気も起きない。元気が無い訳じゃない、ここ最近は体の調子も良い、良かったのだ。だから料理なんていう生産的な徒労をしようなんて気が起きる。
「……ふぅ、寝よ」
ようやく自分が全く無駄な思考を巡らせていることに気づいて布団の中に顔をうずめた。そもそも1人暮らしでテレビを置いて何を見るって言うんだ。資料目的の映画鑑賞ならパソコンでのサブスクやDVDがある。これ以上無駄な電力と体力を使わまいと決めて私はリモコンで電気を消しそのまま布団の中で目を閉じた。
夜の9時を過ぎくらいかな?仕事もしていないって言うのに眠気だけは電気を消したら律儀にやってくるから不思議なものだ。この頃は変な夢も見ないくらいに熟睡できている。明日起きたら取り敢えず、アルペンで朝ご飯と昼ご飯を適当に買って、一応書きも進めて……それからどうしよう?どう頑張っても2時あたりには筆は止まるだろうし、動画も最近追ってる面白そうなやつは見尽くしてしまった。ソシャゲは最近はログインもしてないからモチベ上がらないしどうしたもん───
「───あれ」
なんでログインしてなかったんだっけか?ホント歳取ると1週前の事すら思い出し辛くて困る。まぁ、明日の事は明日起きたら思いつくかな?じゃあ取り敢えず……おやすみ。
ふざけんな。
「ふっく!」
2枚の掛け布団が暗い宙を舞い、敷き布団はモーセの如く2つに割れる。腹から出したブレスと気合によって跳ね起きた自分の姿が結露の激しい窓にうっすらと映ると、そこには乳丸出しで息荒く肩を上下させる猫背の鬼が映っていた。
「あの女ぁ!!!」
ムカつくムカつくムカつく!テメェから喧嘩して疎遠になっておいていざ次の相手と過ごし始めたら自分の気持ちに自信が無くなっただぁ?!そんな生半可な甘っちょろい気分で付き合うようだからノンケのくせして相手に苦労すんだろうが!エリートリーマンのくせしていつまで研修生気分で恋愛してんだ腐れキューティクル!!!
「アガガガ!!!」
布団が落ちて足元に触れるたびに片っ端から蹴り上げ続ける。元は榊さんが買った物だけど使いたいと思って買った本人が帰ってこないのだからどう使おうと私の自由なはずだしそもそも私は自分の分まで頼んだ覚えはない訳でそういう風に考えていたもんだから届いた箱の大きさに違和感を感じて開封しちゃったせいで返品もできない上にこんなテーブル退かして床一面に全部広げて使わなきゃいけない羽目になってそれでご飯が部屋で食べ辛くなっちゃったから健史郎の部屋で食べることになったワケなんだけど流石に他所様の部屋に上がり込んでそこの食料まで食い散らかすのは気が引けるし最近のアイツが特に忙しそうで引きこもりっぱなしだから練習も兼ねてちょっとだけ料理もしている感じになってるけどこれはあくまで自分の為であって決して───
「ベックシ!」
くしゃみの瞬間に露出した肌が震えた。こうやって1人で堂々巡りに陥ったのが3度や4度じゃないからこそ、今はこうして比較的クリアな思考が出来る状態にまでなってるし、一昨日それを健史郎に目撃されたせいでアイツも試食してくれている。どこまで察しているのかは疑問だけど、まぁそもそもアイツには女心なんて分からないだろうし、私にだって男の子が考えることは分からないのだ。あの人には……そこが引っかかっちゃったのかもしれないけど。
「あーーーっく!」
今度こそ寝る!頭を閉じて瞼は自由に、自然の感情に身を委ねる。そうしている内に生きる荒波のような突発的な激しい睡魔がやってくるのだ。それにいつものように流されればもうそこは夢の中。そうだ寝よう。この煩わしい現実も少しの夢を挟んだ後に見れば、意外な良さに気づくことが出来るのかもしれないのだから。
「……フぐぅ」
墜ちていく、ただ墜ちていく。体や心を癒す為じゃなく、ただ現実から逃れるために。私は忌々しい”かつて”が見えるあの夢の中に墜ちていった。
「お、おう……」
今は夜、日付は知らない。いや知ってる。明日で今年が終わるから今日は12月30日。1週間ぶりの1人暮らしを満喫しつつ今日の夕食時間が今まさに始まろうとしていた。大皿にこんもりとよそられた焼きそばに向かって手を合わせ、今日の糧に感謝を述べるかのような真剣なまなざしを自身の作品に向けながら一言。
「頂きます!」
「い、いただきます」
麺を持ち上げるとネチャリとした水っぽい音が聞こえる。箸で取ろうとして持ち上がったのは食べたい量のおよそ4倍、よそった全体量の半分くらい。それだけの麺が一度に一緒に持ち上がった。でも、構わず食べる。
「もっっっふぉ」
「お、おい……」
啜れない。何本か口に含んだ麺を全力で吸い上げようとしても一向に口に入って行かないので不本意ながらその地点で嚙み切った。モチョモチョした食感の麺の塊を噛みしめてみると殆ど味がしない。多分炒めている最中に振りかけた塩が混ざりきらずにどこかに固まっているんだろう。次はもっとまんべんなく───
「おいったら!」
……。
「なに?」
「そうまでして食わなくたっていいだろ?」
「食べて学ばなきゃ上手くならないでしょ?」
「美味くないもん無理して食う方が負担だと思うんだがな……」
「反論になってない。いいから食べて感想頂戴って言ってるじゃん。何のために作ってやってると思ってんの?」
日頃ロクな物を食べてないだろうからと思って恵んでやっているというのに、なんと恩知らずな大家なのだ。まるで狼に育てられた野生児が人間の食べ物を受け付けないってカンジ。これでは人間的な味覚欲しさにアイツに味見を頼んだ私の目論見も無駄に終わりそう。
───マッチャ……メッチョヤ……モッチャッ───
まぁ確かに、重たい。
「モッモッモッ」
「マッチョモチョ、んぐ」
「ムッグモチョ」
「もう少し静かに食べてよ」
「モムっぐ、噛んでも噛んでも飲み込めないんだよ……水が多すぎるんじゃないか?」
「分かってることばっかりじゃなくて良いところを見てくれない!?」
「良いところが見つからないから言ってんだろ!」
「あぁ!もぅ!」
お互いの皿の上が3分の1がようやく開いたところでようやく狂騒は終わる。飲み込んだはずなのにまだ喉の真ん中に突っかかっている感覚が残る小麦の塊、汁気を飛ばしたハズなのに濡れている口元に皿の上、確かにこれじゃあ失敗と言われてもしょうがない。
「ごめん」
「っく……あぁ、別に構わねぇよ。こっちも晩飯の用意しなくて済んだしな」
「こっちのも食べる?」
「そこ置いとけ」
「食べるの?」
「聞いていて疑ってんじゃねぇよ。今日は徹夜で張り付いてないといけなくてな、値が下がってから跳ね起きて朝飯の準備してたんじゃ大損なんだよゲェェフ」
乙女の前でも構わずにどデカいゲップを1発かまし、健史郎はモニター群の前に戻って行く。寂しげに残された6分目の焼きそば達を1つの皿にまとめてラップをかけて、一言言ってから部屋に戻ろうとすると背中越しに苦しそうな健史郎の声が聞こえる。
「飯、作ってんのか?」
「もう3回目の試食だって言うのに今更聞く?」
「いや、どうせなら処分も兼ねて押し付けようかと思ったんだよ。使うか?」
そう言ってアイツが指さしたのは芽衣子のカレーの際に発掘した古い炊飯器。型はかなり昔のモノだったはずだけど、前に使った時に比べていくらか清掃されているみたいだった。
「……ううん、いいや」
「ほーか、ならけぇれ」
「言われなくてもね。おやすみ」
「ん」
部屋を出るとそこには静かな夜がある。雲は何処にも見えず風も吹きつけないスカスカの空気。ただ冷たさだけが体を突き抜けて骨を揺らす。こんな夜は早く布団に入りたいものだ。まぁ入るんだけどね。
「ただいまぁ~」
誰がいる訳でもない我が家に入って鍵を閉めた。ちょっとした離れに行ってただけなので手洗いもうがいもそこまで丁寧にやる必要無いのは気が楽でいい。それが終われば間髪折れずに就寝準備、水を一杯錠剤2つ、その後はお風呂で歯磨きだ。目線を気にせず今までやってきていたルーティーンをあっという間に済ませると、ショーツ一丁でひんやりとした布団の海にダイブをかました。
「うっひゃあぁ~」
すべすべの表面は暖房の影響をものともせずにとってもいい塩梅の冷たさを保っていてお風呂上がりの熱りを冷ましてくれる。頬、首、胸、お腹、脚と剥き出しの部分を動物のようにこすりつけて行くうちに体の熱が布団に移って行って、程よく温まってきたのを見計らってそのまま掛け敷き布団の間に体を差し込む。これが新品の布団セットの再興に贅沢な使い方だ!
「気持ちいいぃー…‥」
もう狭い天井付近の一角で体を縮めて丸くなる必要も無い。2人分の布団の中はさながら太平洋の如き広大さ、私の矮小な体などいくら伸ばそうが広げようが暴れようが端にまで行きつくことは無い!内側で2つを跨ぎながらゴロゴロと転がるという子供じみた至福を思う存分、この4日間は堪能させてもらっている。ただ、私は興奮据える余りに自分の今のコンディションについて失念していたようだけど。
「ヴォエェ!」
奴重なる乱回転&乱運動によって胃袋の手前で立ち往生していた焼きそば一行が来た道を引き返し始めたのだ。ムカつきと吐き気をこらえようと動きを止めて真下に両手足で踏ん張ろうとしたらそこはちょうど2つの布団の真ん中で、真っ二つに割れたそこから冷たいフローリングの上に落着する羽目になった。
「……うぅ」
逆流する胃酸を戻し、深く息をする。冷たく硬い床はこういう気持ちを落ち着かせたい時に役に立ってくれた。嫌な熱を早く冷ましたくて背中を床に合わせて天井を仰ぎ見ていると体はみるみる冷えていき、それに比例するように頭は冴えていくような気がしていた。
あと4時間ちょっとで今日が終わる。昨日も一昨日も一昨昨日も、同じようなことを考えながら同じように終わっていって、そしてあと28時間後に今年が終わる。去年も一昨年もその前の年も同じように終わっていったのだから。今年は、違うのかと思っていたけど。
「テレビ買おうかなぁ?」
退屈だ。実に退屈だ。これまでは静かなことを気にしたことなんて無かった。家に帰ればベッドに直行してソシャゲか、パソコンを開いてすぐに動画を付けてたし、ベッドの真下にうずたかく積まれていた私有財産たちがこすれ合う音が一瞬の環境ノイズになってくれていたので私の耳は退屈とは無縁でいられた。でも今はゴミの山は無いし、どういう訳かパソコンを起動する気も起きない。元気が無い訳じゃない、ここ最近は体の調子も良い、良かったのだ。だから料理なんていう生産的な徒労をしようなんて気が起きる。
「……ふぅ、寝よ」
ようやく自分が全く無駄な思考を巡らせていることに気づいて布団の中に顔をうずめた。そもそも1人暮らしでテレビを置いて何を見るって言うんだ。資料目的の映画鑑賞ならパソコンでのサブスクやDVDがある。これ以上無駄な電力と体力を使わまいと決めて私はリモコンで電気を消しそのまま布団の中で目を閉じた。
夜の9時を過ぎくらいかな?仕事もしていないって言うのに眠気だけは電気を消したら律儀にやってくるから不思議なものだ。この頃は変な夢も見ないくらいに熟睡できている。明日起きたら取り敢えず、アルペンで朝ご飯と昼ご飯を適当に買って、一応書きも進めて……それからどうしよう?どう頑張っても2時あたりには筆は止まるだろうし、動画も最近追ってる面白そうなやつは見尽くしてしまった。ソシャゲは最近はログインもしてないからモチベ上がらないしどうしたもん───
「───あれ」
なんでログインしてなかったんだっけか?ホント歳取ると1週前の事すら思い出し辛くて困る。まぁ、明日の事は明日起きたら思いつくかな?じゃあ取り敢えず……おやすみ。
ふざけんな。
「ふっく!」
2枚の掛け布団が暗い宙を舞い、敷き布団はモーセの如く2つに割れる。腹から出したブレスと気合によって跳ね起きた自分の姿が結露の激しい窓にうっすらと映ると、そこには乳丸出しで息荒く肩を上下させる猫背の鬼が映っていた。
「あの女ぁ!!!」
ムカつくムカつくムカつく!テメェから喧嘩して疎遠になっておいていざ次の相手と過ごし始めたら自分の気持ちに自信が無くなっただぁ?!そんな生半可な甘っちょろい気分で付き合うようだからノンケのくせして相手に苦労すんだろうが!エリートリーマンのくせしていつまで研修生気分で恋愛してんだ腐れキューティクル!!!
「アガガガ!!!」
布団が落ちて足元に触れるたびに片っ端から蹴り上げ続ける。元は榊さんが買った物だけど使いたいと思って買った本人が帰ってこないのだからどう使おうと私の自由なはずだしそもそも私は自分の分まで頼んだ覚えはない訳でそういう風に考えていたもんだから届いた箱の大きさに違和感を感じて開封しちゃったせいで返品もできない上にこんなテーブル退かして床一面に全部広げて使わなきゃいけない羽目になってそれでご飯が部屋で食べ辛くなっちゃったから健史郎の部屋で食べることになったワケなんだけど流石に他所様の部屋に上がり込んでそこの食料まで食い散らかすのは気が引けるし最近のアイツが特に忙しそうで引きこもりっぱなしだから練習も兼ねてちょっとだけ料理もしている感じになってるけどこれはあくまで自分の為であって決して───
「ベックシ!」
くしゃみの瞬間に露出した肌が震えた。こうやって1人で堂々巡りに陥ったのが3度や4度じゃないからこそ、今はこうして比較的クリアな思考が出来る状態にまでなってるし、一昨日それを健史郎に目撃されたせいでアイツも試食してくれている。どこまで察しているのかは疑問だけど、まぁそもそもアイツには女心なんて分からないだろうし、私にだって男の子が考えることは分からないのだ。あの人には……そこが引っかかっちゃったのかもしれないけど。
「あーーーっく!」
今度こそ寝る!頭を閉じて瞼は自由に、自然の感情に身を委ねる。そうしている内に生きる荒波のような突発的な激しい睡魔がやってくるのだ。それにいつものように流されればもうそこは夢の中。そうだ寝よう。この煩わしい現実も少しの夢を挟んだ後に見れば、意外な良さに気づくことが出来るのかもしれないのだから。
「……フぐぅ」
墜ちていく、ただ墜ちていく。体や心を癒す為じゃなく、ただ現実から逃れるために。私は忌々しい”かつて”が見えるあの夢の中に墜ちていった。
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