はかい荘のボロたち

コダーマ

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第10話 ボンジュールちゃん、ハジける

芽生えるかもしれない、恋が

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~~~予言~~~
   ※リストバンド中崎・魂のポエムその11

夜中にこってりしたものが食べたくなる
必ずと言っていいほど食べたくなる

バターとハチミツたっぷりのった
ぶ厚いトーストにチョコレートソースを投入

   これは戦争だ
   食欲という名の戦いなのサ

アイスクリームとクッキーと生クリームホイップとプリンで
パフェをつくる

アイスは3色 なんて言わずに5種類使おう
そこにチョコレートソースを投入

   これは戦争だ
   スイーツ代理戦争なのさ


毎晩こんなかんじ
毎晩だいたいこんなかんじ
来月には30になる

今朝 体重3キロ増えてた 24時間で3キロだ
コレってどういうこと?

考えたら分かるだろ
体重計にネコがイタズラしただけ 最初から目モリズレてたわけ

ぼくは太ってない むしろヤセぎみ
運動する意味なんてどこにもない

今夜も夜中にこってりしたものが食べたくなる
そうた コンビニに肉まん買いにいこう


  ※  ※  ※

「お前をイメージして書いた」

 中崎が平然と言った。……ってオマエ、新作『予言』のことかよ。

「オレは来年三十歳じゃねぇ!」

 久々に腹の底から絶叫した。
 オレはまだ二十五歳だ。四捨五入とか、そういうことする意味なんてない。

「ネガティヴすぎんだろ。何だよ、この詩! 何だよ……か、悲しすぎんだろ」

 マルチーとか貧乏とか……人生の色々なつらいことが浮かんでは消える。

「そもそもラッキョウはヘビメタバンドなんだ。コミックバンドじゃねぇ! もっとヘビメタっぽいポエム作れよ! 頭蓋骨とかコロッセウムとか……そういう単語、一個もないだろ!」

 オレがそうやって怒鳴ったものだから、中崎はうつむいてしまった。

「頭蓋骨、コロッセウムって……どんだけ貧相な語彙なの。今までボクの詩は無条件で褒めてくれてたのに。いや、今回はちょっと適当に作りすぎたかな。マンネリ化は意識してたんだ」

 ヤツは静かにそう言った。
 何となく寂しげに見えてオレは一瞬後悔する。病み上がりの中崎に向かって怒鳴るなんて、しかも作品をけなすなんてひどいことした。

「ゴメン、オレ本当は肉まん大好きなんだ」
「シン、肉まんっておいしいのか? ボクは想像の中で食べただけ」

 後頭部をポカリ。叩かれた。

「キサマら、気持ち悪いぞ」
 振り向くとボンジュールちゃん、赤ジャージで仁王立ちだ。
「あの服はドコだ? ワタシがここに来た時着ていた、白いセーターとヒラヒラのスカート。『クラブ・ワールド・Fカップ』から取ってきたやつ。ナイんだよ。ドコ探してもナイんだよぅ!」

 ブラマジのロケを見に行くのに、赤ジャージではマズイらしい。

「いいじゃん、ジャージで。楽チンだしあたたかいし。ボクは大好き」
「ウルサイ! キサマは一生ジャージ着てろ! ワタシはイヤだよぅ。タロット様に会えるのに! もしかしたら恋が芽生えて結婚するカモしれナイのに!」

 何言ってんだ、この子は。妄想ふくらましすぎだ。

「ボクのジャージ貸したげよっか?」
「ウルサイ! 色が違うだけで、ジャージはジャージだろ。赤でも青でも黒でも!」

 朝の四時に叩き起こされ、この騒ぎだ。
 撮影はたしか昼すぎの筈。
 オレと中崎が変なテンションになるのも頷けるだろう。
 とにかく眠いんだよ。着替えでも化粧でも、一人で起きて一人でやれよ。正直、そう思う。

「例の大ソウジ騒動で一緒くたに捨てちゃったんじゃないっスか?」

 そう言うと、オレは悪くないのに睨まれた。

「オノレ……仕方あるまい。この上は化粧をがんばるしかナイだろう」

 赤ジャージで、顔中メッタクタに塗ったくる。

 そんな調子で、出かける頃にはボンジュールちゃん、ものすごいことになっていた。
 よく持っていたな。 ジェルやムースを総動員。
 その頭は何て言うか……。

「カメラあったら良かったのに」

 中崎がボソッと呟いた。
 そう、まさにそんな感じだ。
 一生のうち、こんな面白い格好した人には二度とめぐり合えないだろう。

 特にその頭!
 テッペンに、右に、左に。ニョキっとでかい金色のキノコが突き出しているみたいだ。ガッチガチに固めた団子がいくつも積み重なって、でっかいリボンで結んである。その隙間をミツアミが這っていて、まるで塔か建物か変なオブジェみたいだ。
 顔にもピンクとオレンジを塗りたくって、それはヒドイ有様だ。

「ボンジュールちゃん、超ブサイク。いつものがずっとカワイイよ」

 いずれにしても言いにくいことを面と向かって言える中崎が、ちょっと格好いいと思った。
 しかしボンジュールちゃんは、かなり気に障った様子だ。

「ハン、ボロの分際でワタシをけなすか」

 顔面を歪めて中崎をせせら笑う。

「ああ、そう。じゃあその姿で出てって恥かけよ!」
「ああ、よせったら。二人とも、そんな言い方……」

 オレの制止の声なんて、二人は聞いちゃいない。

「ああ、そうするサ!」

 ボンジュールちゃん、そう言って勇ましく出てった。
「ギャッ!」と悲鳴が。
 興奮して、床の破れに久々にはまったようだ。
 仕方がない。オレたちもボンジュールちゃんの後を付いていった。
 何だかんだ言って、中崎もブラマジのロケは見たいらしい。
 ボンジュールちゃんが楽しみに、本当に心から楽しみにしているのも分かる。

 ブラマジは春に映画になるらしい。
 人間ドックで騙されて、殺人兵器に改造されたジェネラルが総裁X様を惨殺。四天王たちと戦うストーリーらしい。
 一回も姿を現さないうちにX様、死ぬの? と、オレは思ったものだ。
 タロットファンのボンジュールちゃんは、そんなこと気にも留めてないようだが。

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