はかい荘のボロたち

第１話 ラッ教始動

夢っていうなら…

「夢っていうなら……一回、素っ裸で外歩いてみたい。いや、今のこんな状態じゃなくて。もっと明るく楽しく。みんなに見てもらいたいんだ。拍手とかされてすっぱだかマシーンとか言われたい。裸がまずいんなら葉っぱとか貝殻で一応隠すから。軽いノリじゃないか。そういうのが、すんなり許される世の中になって欲しいとオレは思う」

　もちろん、無闇に実行しようとは思わない。オレだってバカじゃない。警察に捕まったことがないってのが唯一の自慢だ。
　ただ、ちょっと気持ちいいかなって……ヘンな快感が背筋を這い上がってきただけ。
　うん、それだけ。ちょっと考えただけ。
　中崎はオレを見下ろして「ハハッ！」と脱力気味に笑っただけだった。

「お前はただの変態だよ……何喜んでんだよ？」
「い、いや、何も……」

　オレはニヤニヤ緩んだ頬を叩いた。ヤツはオレを見下ろしたまま遠くに視線を投げる。

「ボクはね、こっそりラッ教を開きたいんだ。ラッ教祖が居て、信者はみんなラッ教徒って呼ばれるんだ」

　何だ、それ。空想か？　さっきの続きかよ。

「こぎれいなマンションの一室を本部にしてさ。ラッ教徒はみんなそこで暮らすんだ。ご飯はみんなラッキョウ。酢のパワーでみんな健康」

　オレは「はぁ」と返事した。
　何かアホらしくなって、ヤツの足から身を放す。そういやオレらのバンド『ラッキョウ』の名付け親もこの中崎だった。
　あの頃、ヤツはまだ小学生だったっけ。
　ラッキョウが好きなのか？　つまり、そういうことなのか？

「本日のラッ教祖様ってタイトルのブログを、毎日更新するんだ。ラッ教祖様は本日脱皮の儀式の最中ですとか、本日酢漬けの儀式を行いますとか。どう？」

　どうって言われても……。

「オレは……いやぁ、意味がよく……。そのラッ教祖？　そいつがオマエなのかよ」

　しかし中崎は首を振った。

「いや、ボクは教祖にはならない。お前が教祖やれよ。いや無理か。カリスマ性ゼロだもんな。ラッ教徒５くらいでちょうどいいくらいか。教祖には誰か適当な奴をスカウトして……」

　そんな変な会の教祖なんてしたくもないが、ヤツの言い方はそれはそれで傷つく。
　ラッ教徒５って何だよ。それってエライのか？　それとも下のほうなのか
　中崎は遠くを見つめたままスゴイ顔をした。
　カパッと口を開いて……オイ、それは笑顔なのか？　それより頼むから服貸してくれ。お願いだからパンツだけでも貸してくれよ。

「何にしろボクみたいな普通の高校生がバックに居るとは誰も思うまいよ。やりたい事をやるなら決して表に出ては駄目だ。バックに居て人を操るんだ。クックック」

　何考えてんだ、コイツ。空想が趣味……にしても程がある。オレはあきれた。

「そんならオマエ、小説書けよ」
「嫌だよ。お前こそ何か書けよ。その前に服を着ろ」
「え、今更言う…？」

　オレはためらった。作文は苦手だ。
　でもすっかりその気になって、ちょっと書いてみることにした。
　さしずめ第1話は『ラッ教始動！』か。
　ヤツが隣りで叫んでる。

「ラッ教のモットー第一は『貧乏に負けない！』だ！」





～～～小人がシャウト！～～～
　　　※リストバンド中崎・魂のポエムその１

小人がいるのが見える
かなり凶悪な目してる
赤い服着てる　時々大声で叫ぶ

外国まで追ってくる　多分手荷物に隠れてる
朝になるとしゃべり出す
最初　隣りのラジオと思ってた

野太い声してる
かなりおっさんの小人


小人が２匹に増えた
緑の服着た　多分メス
結婚しますと紹介された　すごいフクザツな気分


オレには彼女いない　友達もいない　仕事は先月辞めた
お母さんと時々電話で話す
それくらい

ためしにパンツをかぶる
オレの中で何かが弾けた

窓から飛び出す　生まれて初めて職務質問
実家に電話されお母さん迎えにくる
姉ちゃんも付いてきた


小人　知らぬ間にどんどん増えてる
おそらく子供　それとも幻？
　　　　　　　それとも幻？

全部オレの幻
そのうちあの世へ行くオレのみた幻世界

小人がシャウト！