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第10話 不毛大作戦!
恋だか変だか、何かそんな感じ(3)
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カフェで張り込みしてるアタシとカメさんの方がよっぽどデートっぽいで?
「くぅっ、歯がゆい……!」
カメさん、ギリギリと唇を噛んでいる。恐ろしい形相だ。
埒が明かない、2人の間に色気がなさすぎる。
そう呻いてカメさんは立ち上がった。
皿に残っていたケーキを急いで口の中に放り込んでモゴモゴ言ってる。
「トラブルを起こして……モゴモゴ。2人を急接近させモゴましゅモゴ! 俺に任せてください!」
「カメさん、何言ってんの? 何でアンタがそんな努力すんの? 今日は十分やろ。あえてトラブル演出すんのはやめとき──その顔で! 警察呼ばれんで」
強盗にでも扮してワンちゃんを人質に取る気かと思いきや、しかしカメさんの発想はアタシのとはちょっと違ってた。
「モゴせめてケーキを……甘やかなムードを醸しゅ為モゴ、イチゴのショートケーキをモゴ差し入れて……」
その発想、根っからの乙女やで。
カワイイんかウザイんか分からんわ。
2人には面が割れてますので──そう言ってカメさんはサングラスをした。
ああ、この顔……たった今、9人目を殺ってきたマフィアって感じそのものや。コワイ。
彼の内面をよく知っているアタシですら一瞬、意味なく土下座して謝りそうになった。
カメさんはいかつい身体をユラリと揺らしながら、お持ち帰り専用のコーナーへ向かう。
並んでいたお客さんが蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。
「イチゴショートを、ふたちゅモゴくだちゃいモゴ」
「ヒッ! あ、ありません。申し訳ございません。ありませ……すみません。こんな私でごめんなさい」
店員、相当パニくってる。
自覚のないカメさんは、まだ口の中のイチゴを飲み込むのが惜しいようにモゴモゴを繰り返していた。
「ないなら仕方にゃいモゴ。それならモゴモゴちょこっとかねめのもんくれ」
「?」
アタシの思考は一瞬停止した。ちょこっと金目の物くれ?
ん?
──ああ「ショコラッテ・クリーム・モンクレ」か。
新発売のショコラのケーキ。ピンクと赤が可愛らしい。
うん、カメさん好きそうや。
それは些細な行き違いやった……。
「ちょこっと金目の物くれ」
マフィアにそう言われた店員、ヒーッと金切り声をあげる。
「ち、違うんです。違うんです!」
アタシは慌てて立ち上がる。
「モゴ……チョコットカネメノモンクレ」
カメさん、果敢にもその台詞を繰り返す。
ちょっとは自分の外観、自覚してや!
店員の悲鳴に、奥からベテランらしきオバチャン店員が飛び出してきた。
「この強盗マフィアがぁッ!」
叫ぶが早いか、ショーケースからホールケーキを取り出した。
目にも留まらぬ早業で手首のスナップを利かせる。
「ご、誤解だ。俺は……」
ようやく事態を飲み込んだカメさん、絶妙なタイミングでサングラスを外した。
その顔面にケーキが激突する。
ボゴッ!
空気の潰れるような強烈な音に、カメさんの悲鳴が重なる。
更にフワッフワの生クリームケーキが立て続けに顔面に吸い込まれた。
周囲のざわめきが一瞬、凍りつく。
「カ、カメさ……」
コント以外でこんな光景初めて見た。
ものすごく悪いと思いながらも、アタシは喉の奥がヒーヒー笑いそうになるのを必死で堪えていたのだった。
どうやってフォローしていいかも分からず、とりあえずアタシは他人のふりした。
騒ぎに気付いて店の奥から店長らしき女の人が飛び出してくる。
「大丈夫ですか、お客様!」
大丈夫なわけないやん。目の前の光景見てぇな。
しかしカメさん、顔からボトボトとクリームを落としながらも「だ、大丈夫です」と答えた。
ほとんど反射的な回答や。
多分、車に撥ねられてもこの人は「大丈夫です」って言うんやろな。
さすがに放っておくわけにもいかず、アタシはハンカチを手にカメさんの側へ駆け寄る。
もう桃太郎とワンちゃんの姿も見失ってしまった。
さすがにこの人も尾行は諦めるやろ。
「ホンマに大丈夫? カメさん」
カメさん、さり気なくクリームをペロリと舐めてる。
「だ、大丈夫です」
──いえ、むしろ幸せです。美味しいです。
小さい声で付け足した。
「さぁ、リカさん。2人を追いましょう」
お化けマフィアみたいなすごい姿で店を飛び出す。
「キャーッ!」という悲鳴が断続的に商店街に響き渡った。
カメさんよ、アンタのその執念はどこから来るの?
「11.不毛サスペンス~コインランドリーでオカシナ体験」につづく
「くぅっ、歯がゆい……!」
カメさん、ギリギリと唇を噛んでいる。恐ろしい形相だ。
埒が明かない、2人の間に色気がなさすぎる。
そう呻いてカメさんは立ち上がった。
皿に残っていたケーキを急いで口の中に放り込んでモゴモゴ言ってる。
「トラブルを起こして……モゴモゴ。2人を急接近させモゴましゅモゴ! 俺に任せてください!」
「カメさん、何言ってんの? 何でアンタがそんな努力すんの? 今日は十分やろ。あえてトラブル演出すんのはやめとき──その顔で! 警察呼ばれんで」
強盗にでも扮してワンちゃんを人質に取る気かと思いきや、しかしカメさんの発想はアタシのとはちょっと違ってた。
「モゴせめてケーキを……甘やかなムードを醸しゅ為モゴ、イチゴのショートケーキをモゴ差し入れて……」
その発想、根っからの乙女やで。
カワイイんかウザイんか分からんわ。
2人には面が割れてますので──そう言ってカメさんはサングラスをした。
ああ、この顔……たった今、9人目を殺ってきたマフィアって感じそのものや。コワイ。
彼の内面をよく知っているアタシですら一瞬、意味なく土下座して謝りそうになった。
カメさんはいかつい身体をユラリと揺らしながら、お持ち帰り専用のコーナーへ向かう。
並んでいたお客さんが蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。
「イチゴショートを、ふたちゅモゴくだちゃいモゴ」
「ヒッ! あ、ありません。申し訳ございません。ありませ……すみません。こんな私でごめんなさい」
店員、相当パニくってる。
自覚のないカメさんは、まだ口の中のイチゴを飲み込むのが惜しいようにモゴモゴを繰り返していた。
「ないなら仕方にゃいモゴ。それならモゴモゴちょこっとかねめのもんくれ」
「?」
アタシの思考は一瞬停止した。ちょこっと金目の物くれ?
ん?
──ああ「ショコラッテ・クリーム・モンクレ」か。
新発売のショコラのケーキ。ピンクと赤が可愛らしい。
うん、カメさん好きそうや。
それは些細な行き違いやった……。
「ちょこっと金目の物くれ」
マフィアにそう言われた店員、ヒーッと金切り声をあげる。
「ち、違うんです。違うんです!」
アタシは慌てて立ち上がる。
「モゴ……チョコットカネメノモンクレ」
カメさん、果敢にもその台詞を繰り返す。
ちょっとは自分の外観、自覚してや!
店員の悲鳴に、奥からベテランらしきオバチャン店員が飛び出してきた。
「この強盗マフィアがぁッ!」
叫ぶが早いか、ショーケースからホールケーキを取り出した。
目にも留まらぬ早業で手首のスナップを利かせる。
「ご、誤解だ。俺は……」
ようやく事態を飲み込んだカメさん、絶妙なタイミングでサングラスを外した。
その顔面にケーキが激突する。
ボゴッ!
空気の潰れるような強烈な音に、カメさんの悲鳴が重なる。
更にフワッフワの生クリームケーキが立て続けに顔面に吸い込まれた。
周囲のざわめきが一瞬、凍りつく。
「カ、カメさ……」
コント以外でこんな光景初めて見た。
ものすごく悪いと思いながらも、アタシは喉の奥がヒーヒー笑いそうになるのを必死で堪えていたのだった。
どうやってフォローしていいかも分からず、とりあえずアタシは他人のふりした。
騒ぎに気付いて店の奥から店長らしき女の人が飛び出してくる。
「大丈夫ですか、お客様!」
大丈夫なわけないやん。目の前の光景見てぇな。
しかしカメさん、顔からボトボトとクリームを落としながらも「だ、大丈夫です」と答えた。
ほとんど反射的な回答や。
多分、車に撥ねられてもこの人は「大丈夫です」って言うんやろな。
さすがに放っておくわけにもいかず、アタシはハンカチを手にカメさんの側へ駆け寄る。
もう桃太郎とワンちゃんの姿も見失ってしまった。
さすがにこの人も尾行は諦めるやろ。
「ホンマに大丈夫? カメさん」
カメさん、さり気なくクリームをペロリと舐めてる。
「だ、大丈夫です」
──いえ、むしろ幸せです。美味しいです。
小さい声で付け足した。
「さぁ、リカさん。2人を追いましょう」
お化けマフィアみたいなすごい姿で店を飛び出す。
「キャーッ!」という悲鳴が断続的に商店街に響き渡った。
カメさんよ、アンタのその執念はどこから来るの?
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