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アラビアンナイト
アラビアンナイト
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狂おしく求め合った初日の激情の波が落ち着くと、二日目からは終始穏やかに繋がっていた。発情期特有の熱に浮かされたようなふわふわした状態はずっと続いていて、番という存在に寄り添う安心感で幸せでたまらなかった。
大好きだったりぃが番になってくれて本当によかった。
「あっ、あっ、あん。りぃ、りぃ」
「かわいい。晶馬、私の晶馬」
腕で、声で、眼差しで。
呼べば必ず応えてくれる。
吸い付くようにぴたりと重なった肌、絡んだ足。胎内で繋がっている楔。僕たちは二人でひとつの生き物になったようにずっと離れなかった。
でも体力の差は大きくて、疲れ果てた僕は何度も意識を飛ばすように眠りに落ちた。
ちゃぷん……
水音がこだました。湯気を吸い込むと肺にマグノリアの香りが広がる。
ここは寝室の奥にある浴室だ。
心ゆくまで愛し合い、満足した二匹の獣はバスタブにゆったりと体を伸ばして寛いでいた。
バスタブの淵にはシャワーヘッドと一体化した金色のカランがある。つるりと白い浴槽は可愛らしい猫足で、カランと同様にアンティーク調、壁と床は真っ白なタイル。端に置いてある観葉植物の鮮やかな緑が眩しい。
浴槽はミルク色のお湯で満たされ、全てがお洒落な外国映画のようだ。
浴室といい、寝室といい、発情期間を過ごしている部屋はまるで別世界だ。
僕はこのバスタブでりぃに背中を預けてお湯に浸かっていた。
「りぃ」
名を呼ぶと、応えるように後ろから温かな湯がとろりと肩に掛けられた。
目線を向けると金の瞳が愛おしげに細められた。辿るように撫でられた腕の柔らかな部分には愛された跡が赤く残っている。それは腕だけじゃなく、僕の体の至るところに付いている。
嬉しい。その場所を触ってりぃの首元に擦り寄ったら、細くて長い指が僕の頭を撫でた。
汗だか体液だかでドロドロになった体と髪を丁寧に洗われてさっぱりとなり、バスローブで包まれて部屋に運ばれた。
寝室に戻ったら、りぃは僕を寝椅子に下ろして新しいシーツと枕でベッドメイキングを行っていった。それから柔らかい手つきで僕の髪にドライヤーを掛け、ナイトウェアを手早く着せる。テキパキとした手際の良さは執事の熟練した技みたいで僕は目を丸くした。
全てが終わると、カウチソファーから恭しく抱えられてベッドの端に降ろされた。
新しいシーツのさらさらとした手触りが気持ちいい。
広いベッドの周りを囲む幾重にも重なる薄布とレースには、宝石や刺繍がふんだんに手縫いされている。足元には柔らかなフットライトの明かり、頭上にはモザイク模様を浮かび上がらせる幻想的なトルコランプ。天井から吊るされたティアドロップのフローライトは空から落ちる星のよう。
異国情緒あふれる豪奢な寝室に美しい従者が傅いている。
「王よ、なんなりとご命令を」
彼は金に輝く瞳を伏せ、胸に手を当てて恭しくお辞儀をした。
僕はわくわくした。金色のりぃは僕の魔法使いだ。望みはなんでも叶えてくれる。そしてここは僕たちの夢の世界。
千夜一夜みたいなこの場所では、彼はさながらアラビアンナイトに出てくるランプの精だ。だったら願いは……
「魔法のじゅうたんで砂漠を飛びたい」
「お易い御用」
妖しく美しい魔人は唇の両端を上げた。
りぃは僕を片腕に抱え、ベッドの中央に運んだ。上掛けを捲って僕を横たえ、自分も寄り添い、上掛けを閉じた。
シーツのさらさらとした肌触りが気持ちいい。
ふうぅ……包まれる腕の重さに安心して、思わず満足の吐息が出た。
異国の王もこうやってシェヘラザードの寝物語で夢の中へと誘われていったのかな。
僕もりぃに抱きしめられて夢の中へと滑り落ちていった。
寝物語の続きはじゅうたんの上で。
砂漠を足下に、満点の星を見ながら。
大好きだったりぃが番になってくれて本当によかった。
「あっ、あっ、あん。りぃ、りぃ」
「かわいい。晶馬、私の晶馬」
腕で、声で、眼差しで。
呼べば必ず応えてくれる。
吸い付くようにぴたりと重なった肌、絡んだ足。胎内で繋がっている楔。僕たちは二人でひとつの生き物になったようにずっと離れなかった。
でも体力の差は大きくて、疲れ果てた僕は何度も意識を飛ばすように眠りに落ちた。
ちゃぷん……
水音がこだました。湯気を吸い込むと肺にマグノリアの香りが広がる。
ここは寝室の奥にある浴室だ。
心ゆくまで愛し合い、満足した二匹の獣はバスタブにゆったりと体を伸ばして寛いでいた。
バスタブの淵にはシャワーヘッドと一体化した金色のカランがある。つるりと白い浴槽は可愛らしい猫足で、カランと同様にアンティーク調、壁と床は真っ白なタイル。端に置いてある観葉植物の鮮やかな緑が眩しい。
浴槽はミルク色のお湯で満たされ、全てがお洒落な外国映画のようだ。
浴室といい、寝室といい、発情期間を過ごしている部屋はまるで別世界だ。
僕はこのバスタブでりぃに背中を預けてお湯に浸かっていた。
「りぃ」
名を呼ぶと、応えるように後ろから温かな湯がとろりと肩に掛けられた。
目線を向けると金の瞳が愛おしげに細められた。辿るように撫でられた腕の柔らかな部分には愛された跡が赤く残っている。それは腕だけじゃなく、僕の体の至るところに付いている。
嬉しい。その場所を触ってりぃの首元に擦り寄ったら、細くて長い指が僕の頭を撫でた。
汗だか体液だかでドロドロになった体と髪を丁寧に洗われてさっぱりとなり、バスローブで包まれて部屋に運ばれた。
寝室に戻ったら、りぃは僕を寝椅子に下ろして新しいシーツと枕でベッドメイキングを行っていった。それから柔らかい手つきで僕の髪にドライヤーを掛け、ナイトウェアを手早く着せる。テキパキとした手際の良さは執事の熟練した技みたいで僕は目を丸くした。
全てが終わると、カウチソファーから恭しく抱えられてベッドの端に降ろされた。
新しいシーツのさらさらとした手触りが気持ちいい。
広いベッドの周りを囲む幾重にも重なる薄布とレースには、宝石や刺繍がふんだんに手縫いされている。足元には柔らかなフットライトの明かり、頭上にはモザイク模様を浮かび上がらせる幻想的なトルコランプ。天井から吊るされたティアドロップのフローライトは空から落ちる星のよう。
異国情緒あふれる豪奢な寝室に美しい従者が傅いている。
「王よ、なんなりとご命令を」
彼は金に輝く瞳を伏せ、胸に手を当てて恭しくお辞儀をした。
僕はわくわくした。金色のりぃは僕の魔法使いだ。望みはなんでも叶えてくれる。そしてここは僕たちの夢の世界。
千夜一夜みたいなこの場所では、彼はさながらアラビアンナイトに出てくるランプの精だ。だったら願いは……
「魔法のじゅうたんで砂漠を飛びたい」
「お易い御用」
妖しく美しい魔人は唇の両端を上げた。
りぃは僕を片腕に抱え、ベッドの中央に運んだ。上掛けを捲って僕を横たえ、自分も寄り添い、上掛けを閉じた。
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ふうぅ……包まれる腕の重さに安心して、思わず満足の吐息が出た。
異国の王もこうやってシェヘラザードの寝物語で夢の中へと誘われていったのかな。
僕もりぃに抱きしめられて夢の中へと滑り落ちていった。
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砂漠を足下に、満点の星を見ながら。
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