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恋人の距離
挿話〈IF END〉メメント・モリ
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藤代李玖は考える。
晶馬が高村に鎖から解き放たれたことを伝えた時、彼は二人が運命の番であった事実をこの世界から抹消しようと考えた。しかし、晶馬という碇の存在にストップを掛けられて思いとどまった。
もしそのまま皆の記憶を消し、全てを無かった事としていたら、李玖と晶馬はどのような結末を迎えたのであろう。
未来は数多ある選択肢の中からひとつだけ選んだ行動の結果であり、選ばなかった行動の結果は捨てられ続けている。
よって、並行世界では捨てられた結果の結末が無数に存在している事であろう。
彼が選択しなかった未来、それはどのようなものであったのか。
このように、孤独で幸福なものであっただろう──
【挿話〈IF END〉メメント・モリ】
私、藤代李玖は、高村と晶馬が運命の番であった事実がこの世から消え去る事を望んでいた。晶馬のうなじを噛み、私の番とした今ならばそれも可能である。
高村に彼の運命の相手であった晶馬の死を告げ、新たに命を吹き返した晶馬が私のものであると告げると、彼は私の足元に頽れて慟哭した。
カフェテラスはそこに居合わせた者たちのざわめきで騒然となった。
(嘘だろ、運命の番が入れ替わるなんて)
(どういう事よ、あの子高村さんの相手だったじゃない)
一人のΩを巡った、稀少種と運命の相手の対立。二人のやり取りを固唾を飲んで見守っていた者たちは、頽れた高村を見て思い思いの事を囁き合っていた。
(稀少種はそんなことも出来るのか)
(ははっ、高村ざまぁ)
(何だよあいつ、運命の相手がいたのに藤代さまを誑し込んだのかよ)
ざわ……ざわ……
(でも……)
(だから……)
パンッ、と私は手を打った。
「静かに」
そのひと言でざわついていたテラス内が水を打ったかのように静まり返った。
「皆、その場を動くな。私を見よ」
声で皆の視線を私の目に集中させる。私は、捕らえたそれらの目に暗示を掛けた。
「見たであろう?これが真実だ。本来なら決して起こりえないない現象であり、稀少種である私が望み、相手が応えたからこそ起こり得た奇跡である。私は、彼らが運命の番であった事実をこの場で抹消する。
”高村昇と日野晶馬は〈運命の番〉ではなかった。このΩは初めから私の番であった”
これが新しい真実である。この先、高村と日野の関係を口にする者にはこの事実を伝えよ。
お前たちの告げる言の葉は私の名において言霊となり、その者の記憶を上書する」
「ハイ……わかりました藤代さま......」
「分かりました藤代サン……」
「藤代さま……ハイ……」
皆は夢遊病者のようにフラフラとなり、虚ろな瞳で返事をした。
「あんた……一体何を……」
「皆からこの子がお前の相手だったという記憶を消した。誰に聞いてもこの子は最初から私のものだったよ。これでもうお前の〈運命の番〉は地上から消えた。ハナから存在していない」
「やめろ!やめてくれ、消さないでくれ、頼むから!」
高村はガバリと立ち上がり藤代の脚を掴んだ。
「存在していたんだよ、俺の番!俺だけの匂いをさせて何をしても俺を否定しなかった、俺をずっと待っててくれた存在が!いたんだよ!なあ頼むから!その過去さえも無かったことにしないでくれ……頼むよ……いたんだよ……俺の晶馬……」
「名前を口にするな!これは私のものだ!」
藤代の怒気に気圧されて、縋っていた高村の体が大きくよろめき、後ずさった。
「この子にお願いされて一度お前を許している。二度目はない。次に近づいたらもう許さない。お前の存在を消すよ。
お前の番は死んでしまい、過去からも消えてしまった。人々の記憶にも残っていない彼は、もはやお前の中にしかいない存在だ。お前はひとり、空の棺の墓守りになるがいい」
「!」
高村はガクリと膝から頽れた。見上げる目は、絶望の色しか映していない。宙をさまよった手が下に落ち、床を掻き毟る。
「……ぅぁ、ぁぁああああああ!!」
藤代は晶馬を抱きかかえ、カフェテリアを後にした。
あとに残されたものは暗示の切れていない人々の茫洋とした瞳と、高村の絶望の声であった。
(晶馬くん、君の記憶も消すよ。ごめんね)
藤代は、心の中で謝罪した。
(高村があっさり引けば何もしないつもりだったんだ。
でも奴は反省するどころか君に執着を見せたから、どうしても見過ごせなかった。奴には自分のしでかした過ちを自覚させたうえで、奴から君を完璧に取りあげたかった。君を傷つけた報いを一生背負わせたかった。
晶馬くん、こんな怖い僕は嫌い?
もし君の記憶を消さなかったなら、君は僕に何と言ったのかな……)
僕は晶馬くんの部屋に戻り、彼をベッドに横たえた。上着をハンガーに掛けてシャツを脱がせ、肌を露わにした。そして彼の薄っすらと残った傷跡に舌を這わせた。
僕の唾液には沢山の薬用成分が含まれている。抗炎症成分、消炎鎮痛成分、新陳代謝促進物質、ヘパリン類似物質、ビタミンなどである。大抵の傷はこれで治る。
これまでに晶馬くんが受けた数多の傷は、彼を番にした時に舐めて治しておいた。残っているのは、治癒能力を高めても未だ完治に時間を要する酷い傷や、跡が残りそうな深い傷だ。
全く、大した魔法使いだ。
自分の存在にいささか呆れる。しかしこれらの能力が全て彼を救うために活かされたのだ。
僕が稀少種に生まれてきたのは、君と結ばれるためだったのかもしれないね。
これを運命と言わずに何を運命と言うんだい?
親猫が仔猫を舐めるように丁寧にしっかりと舌を這わしてゆく。
記憶と一緒に、彼の心の傷も消えるように。痛かったことも、怖かったことも憶えてなくていい。体の傷も心の傷も僕が治す。奴と出会う前の真っさらな君に戻れるように。
晶馬くん、新しく憶えてね。君の純潔は僕が貰ったんだよ。
あいつなんかと出逢っていない。君は最初から全て、僕のものだったよ──
大学の講義後、いつものように李玖先輩と構内のカフェテリアで合流した。
今日の最後の講義は安永君と田中君も受講している。一緒に来て、四人掛けのテーブルで皆でひと息ついている。このあと、二人はそれぞれのサークルに行くらしく、僕は先輩の家でお泊りデートだ。
先輩におねだりされて僕のプリンパフェをアーンで分けたら、田中君が
「く~っ、ラブラブでいいなあ。俺も早く番が欲しい」
って言ったので、僕はちょっと赤くなった。
「焦らない焦らない。そのうち〈運命の番〉と出逢えるかもしれないだろ」
運命の番。それはひと目で恋に落ち、一生を共にする相手。
「そんな偶然ないって。だから現代のおとぎ話だろ。ま、ネットか何かで必死に探したら、もしかしたら奇跡的に見つかるかもね」
「でもこの人かも!って思っても、相手がもう番ってたらフェロモンの匂いで判別する事が出来ないもんな。下手すりゃ横恋慕と間違われて、そいつの相手に殺されるぞ」
「だよな。怖っわ」
「俺、素直に恋人作ろうっと」
「まず好きになってくれそうな子探せよ」
「道は果てしないな~」
ハハハハハ。
僕は、随分前から李玖先輩と付き合ってて、既にうなじも噛んでもらってるから、安永君と田中君の話を笑い話として聞いていた。すると先輩が僕に聞いた。
「晶馬くんは〈運命の番〉に会ってみたかった?」
「えっ、うーん、どうだろう……うん、会わなくて良かったです。だって僕、その人と出逢えても李玖先輩以上に好きになれる自信がないもん。その人も相手が僕じゃ可哀想です。先輩の番になったから、この先出逢ってももう気付けないけど、きっとその人にも素敵な恋人がいて幸せになってるって信じてる。だから今は、その人の幸せを影から願うだけだよ」
「晶馬くんはいい子だね。僕の番は世界一優しくて世界一可愛いから、僕は世界一の幸せ者だ」
「うわっ出たよ藤代さんの晶馬ばか」
「藤代さん恰好いいのに、日野の事に関してだけデロンデロンに甘くなっちゃうから見てらんない」
穴があったら入りたい!
今に始まったことじゃないけれど、先輩は大げさなんだよ!僕は恥ずかしくて真っ赤になり、俯いて黙々とプリンパフェ頬張っていた。
そんな僕の耳に少し離れた席の話が聞こえてくる。
「……でさ、……で、……なんだって。え?お前、なに急に泣いちゃってんの?いきなり何?びっくりするわー。なんだよマジ泣きじゃん。彼女にでも振られたの?ハハハ、高村まじウケる」
何気なくそっちの方を向こうとしたら、李玖先輩が僕の頬を挟み、顔を覗き込んだ。
「晶馬くん、よそ見?浮気しちゃ嫌だよ、他の人見ないでっ」
「浮気だなんて。先輩ときどき無茶苦茶言いますよね。もう、どこまで本気か分からないんだから」
「はははっ」
またからかわれた。
「そうそう、おとぎ話といえば、最近新しいの流行ってるけど、知ってるか?」
新しいおとぎ話?
「ううん、知らない。どんなの?」
「えっとな、要約すると、こんなん」
“どうしても相手と相性の悪かった〈運命の番〉が、王子様と恋をして愛の力で運命の鎖を切った”
「そんなことが可能なの?凄いね」
「どうやって切るんだろう。王子様が切ったのかな。てか、王子様って何よ。現代版おとぎ話なのにそこだけ中世みたい」
「俺は王子じゃなくて魔法使いって聞いたけど」
「訳わからん」
「噂の出どころは分からないけど、ロマンチックじゃん」
「魔法使いっていうなら李玖先輩みたいな人なのかな」
「何で藤代さんなんだよ」
「あれ?……ホントだ。何でそう思ったんだろ」
「何だよ結局日野もかよ、この先輩ばか」
「ふぅ~熱い熱い。お似合いですよバカップル」
「もうっ!」
「ははははは……」
「あはははは……」
" 変えられぬ運命を愛の力で乗り越えた者たちがいた "
いつの頃からか、静かに広がりつつあった新しいおとぎ話。
しかし、この話の出どころを知っている者は誰もいなかった──
〈 IF END 了 〉
晶馬が高村に鎖から解き放たれたことを伝えた時、彼は二人が運命の番であった事実をこの世界から抹消しようと考えた。しかし、晶馬という碇の存在にストップを掛けられて思いとどまった。
もしそのまま皆の記憶を消し、全てを無かった事としていたら、李玖と晶馬はどのような結末を迎えたのであろう。
未来は数多ある選択肢の中からひとつだけ選んだ行動の結果であり、選ばなかった行動の結果は捨てられ続けている。
よって、並行世界では捨てられた結果の結末が無数に存在している事であろう。
彼が選択しなかった未来、それはどのようなものであったのか。
このように、孤独で幸福なものであっただろう──
【挿話〈IF END〉メメント・モリ】
私、藤代李玖は、高村と晶馬が運命の番であった事実がこの世から消え去る事を望んでいた。晶馬のうなじを噛み、私の番とした今ならばそれも可能である。
高村に彼の運命の相手であった晶馬の死を告げ、新たに命を吹き返した晶馬が私のものであると告げると、彼は私の足元に頽れて慟哭した。
カフェテラスはそこに居合わせた者たちのざわめきで騒然となった。
(嘘だろ、運命の番が入れ替わるなんて)
(どういう事よ、あの子高村さんの相手だったじゃない)
一人のΩを巡った、稀少種と運命の相手の対立。二人のやり取りを固唾を飲んで見守っていた者たちは、頽れた高村を見て思い思いの事を囁き合っていた。
(稀少種はそんなことも出来るのか)
(ははっ、高村ざまぁ)
(何だよあいつ、運命の相手がいたのに藤代さまを誑し込んだのかよ)
ざわ……ざわ……
(でも……)
(だから……)
パンッ、と私は手を打った。
「静かに」
そのひと言でざわついていたテラス内が水を打ったかのように静まり返った。
「皆、その場を動くな。私を見よ」
声で皆の視線を私の目に集中させる。私は、捕らえたそれらの目に暗示を掛けた。
「見たであろう?これが真実だ。本来なら決して起こりえないない現象であり、稀少種である私が望み、相手が応えたからこそ起こり得た奇跡である。私は、彼らが運命の番であった事実をこの場で抹消する。
”高村昇と日野晶馬は〈運命の番〉ではなかった。このΩは初めから私の番であった”
これが新しい真実である。この先、高村と日野の関係を口にする者にはこの事実を伝えよ。
お前たちの告げる言の葉は私の名において言霊となり、その者の記憶を上書する」
「ハイ……わかりました藤代さま......」
「分かりました藤代サン……」
「藤代さま……ハイ……」
皆は夢遊病者のようにフラフラとなり、虚ろな瞳で返事をした。
「あんた……一体何を……」
「皆からこの子がお前の相手だったという記憶を消した。誰に聞いてもこの子は最初から私のものだったよ。これでもうお前の〈運命の番〉は地上から消えた。ハナから存在していない」
「やめろ!やめてくれ、消さないでくれ、頼むから!」
高村はガバリと立ち上がり藤代の脚を掴んだ。
「存在していたんだよ、俺の番!俺だけの匂いをさせて何をしても俺を否定しなかった、俺をずっと待っててくれた存在が!いたんだよ!なあ頼むから!その過去さえも無かったことにしないでくれ……頼むよ……いたんだよ……俺の晶馬……」
「名前を口にするな!これは私のものだ!」
藤代の怒気に気圧されて、縋っていた高村の体が大きくよろめき、後ずさった。
「この子にお願いされて一度お前を許している。二度目はない。次に近づいたらもう許さない。お前の存在を消すよ。
お前の番は死んでしまい、過去からも消えてしまった。人々の記憶にも残っていない彼は、もはやお前の中にしかいない存在だ。お前はひとり、空の棺の墓守りになるがいい」
「!」
高村はガクリと膝から頽れた。見上げる目は、絶望の色しか映していない。宙をさまよった手が下に落ち、床を掻き毟る。
「……ぅぁ、ぁぁああああああ!!」
藤代は晶馬を抱きかかえ、カフェテリアを後にした。
あとに残されたものは暗示の切れていない人々の茫洋とした瞳と、高村の絶望の声であった。
(晶馬くん、君の記憶も消すよ。ごめんね)
藤代は、心の中で謝罪した。
(高村があっさり引けば何もしないつもりだったんだ。
でも奴は反省するどころか君に執着を見せたから、どうしても見過ごせなかった。奴には自分のしでかした過ちを自覚させたうえで、奴から君を完璧に取りあげたかった。君を傷つけた報いを一生背負わせたかった。
晶馬くん、こんな怖い僕は嫌い?
もし君の記憶を消さなかったなら、君は僕に何と言ったのかな……)
僕は晶馬くんの部屋に戻り、彼をベッドに横たえた。上着をハンガーに掛けてシャツを脱がせ、肌を露わにした。そして彼の薄っすらと残った傷跡に舌を這わせた。
僕の唾液には沢山の薬用成分が含まれている。抗炎症成分、消炎鎮痛成分、新陳代謝促進物質、ヘパリン類似物質、ビタミンなどである。大抵の傷はこれで治る。
これまでに晶馬くんが受けた数多の傷は、彼を番にした時に舐めて治しておいた。残っているのは、治癒能力を高めても未だ完治に時間を要する酷い傷や、跡が残りそうな深い傷だ。
全く、大した魔法使いだ。
自分の存在にいささか呆れる。しかしこれらの能力が全て彼を救うために活かされたのだ。
僕が稀少種に生まれてきたのは、君と結ばれるためだったのかもしれないね。
これを運命と言わずに何を運命と言うんだい?
親猫が仔猫を舐めるように丁寧にしっかりと舌を這わしてゆく。
記憶と一緒に、彼の心の傷も消えるように。痛かったことも、怖かったことも憶えてなくていい。体の傷も心の傷も僕が治す。奴と出会う前の真っさらな君に戻れるように。
晶馬くん、新しく憶えてね。君の純潔は僕が貰ったんだよ。
あいつなんかと出逢っていない。君は最初から全て、僕のものだったよ──
大学の講義後、いつものように李玖先輩と構内のカフェテリアで合流した。
今日の最後の講義は安永君と田中君も受講している。一緒に来て、四人掛けのテーブルで皆でひと息ついている。このあと、二人はそれぞれのサークルに行くらしく、僕は先輩の家でお泊りデートだ。
先輩におねだりされて僕のプリンパフェをアーンで分けたら、田中君が
「く~っ、ラブラブでいいなあ。俺も早く番が欲しい」
って言ったので、僕はちょっと赤くなった。
「焦らない焦らない。そのうち〈運命の番〉と出逢えるかもしれないだろ」
運命の番。それはひと目で恋に落ち、一生を共にする相手。
「そんな偶然ないって。だから現代のおとぎ話だろ。ま、ネットか何かで必死に探したら、もしかしたら奇跡的に見つかるかもね」
「でもこの人かも!って思っても、相手がもう番ってたらフェロモンの匂いで判別する事が出来ないもんな。下手すりゃ横恋慕と間違われて、そいつの相手に殺されるぞ」
「だよな。怖っわ」
「俺、素直に恋人作ろうっと」
「まず好きになってくれそうな子探せよ」
「道は果てしないな~」
ハハハハハ。
僕は、随分前から李玖先輩と付き合ってて、既にうなじも噛んでもらってるから、安永君と田中君の話を笑い話として聞いていた。すると先輩が僕に聞いた。
「晶馬くんは〈運命の番〉に会ってみたかった?」
「えっ、うーん、どうだろう……うん、会わなくて良かったです。だって僕、その人と出逢えても李玖先輩以上に好きになれる自信がないもん。その人も相手が僕じゃ可哀想です。先輩の番になったから、この先出逢ってももう気付けないけど、きっとその人にも素敵な恋人がいて幸せになってるって信じてる。だから今は、その人の幸せを影から願うだけだよ」
「晶馬くんはいい子だね。僕の番は世界一優しくて世界一可愛いから、僕は世界一の幸せ者だ」
「うわっ出たよ藤代さんの晶馬ばか」
「藤代さん恰好いいのに、日野の事に関してだけデロンデロンに甘くなっちゃうから見てらんない」
穴があったら入りたい!
今に始まったことじゃないけれど、先輩は大げさなんだよ!僕は恥ずかしくて真っ赤になり、俯いて黙々とプリンパフェ頬張っていた。
そんな僕の耳に少し離れた席の話が聞こえてくる。
「……でさ、……で、……なんだって。え?お前、なに急に泣いちゃってんの?いきなり何?びっくりするわー。なんだよマジ泣きじゃん。彼女にでも振られたの?ハハハ、高村まじウケる」
何気なくそっちの方を向こうとしたら、李玖先輩が僕の頬を挟み、顔を覗き込んだ。
「晶馬くん、よそ見?浮気しちゃ嫌だよ、他の人見ないでっ」
「浮気だなんて。先輩ときどき無茶苦茶言いますよね。もう、どこまで本気か分からないんだから」
「はははっ」
またからかわれた。
「そうそう、おとぎ話といえば、最近新しいの流行ってるけど、知ってるか?」
新しいおとぎ話?
「ううん、知らない。どんなの?」
「えっとな、要約すると、こんなん」
“どうしても相手と相性の悪かった〈運命の番〉が、王子様と恋をして愛の力で運命の鎖を切った”
「そんなことが可能なの?凄いね」
「どうやって切るんだろう。王子様が切ったのかな。てか、王子様って何よ。現代版おとぎ話なのにそこだけ中世みたい」
「俺は王子じゃなくて魔法使いって聞いたけど」
「訳わからん」
「噂の出どころは分からないけど、ロマンチックじゃん」
「魔法使いっていうなら李玖先輩みたいな人なのかな」
「何で藤代さんなんだよ」
「あれ?……ホントだ。何でそう思ったんだろ」
「何だよ結局日野もかよ、この先輩ばか」
「ふぅ~熱い熱い。お似合いですよバカップル」
「もうっ!」
「ははははは……」
「あはははは……」
" 変えられぬ運命を愛の力で乗り越えた者たちがいた "
いつの頃からか、静かに広がりつつあった新しいおとぎ話。
しかし、この話の出どころを知っている者は誰もいなかった──
〈 IF END 了 〉
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