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恋人の距離
泣いてもいい
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「あの時、君の記憶を消しちゃってたら、この先ずっと僕は君を守ることだけしか考えられなかったんだろうな。君の望みも本当の姿も知らず、甘える事なんて思いもよらなかった筈だ。弱い部分を隠し、目隠しをした君の手を引きながら進む。それはなんて孤独で悲しい生き方だったのだろう。記憶を消さなくて良かったって心底思うよ。
僕は稀少種のαの宿命として、人としては過分な力を振るわなければならない時がある。自分でも呆れるぐらい冷酷な処遇もする。だけど誰が非難しても拒絶しても、君だけは僕を許すだろう。もう僕は独りじゃない。一人ぼっちには戻れない。
君は僕の碇にして唯一の良心だ。そして僕が甘えられる唯一の存在。ねえ、僕は君の前じゃ稀少種じゃなくてもいいよね」
「もちろんです。先輩は、恋人で番でイケメンで優しい先輩で、あとなんだろう、つまり "稀少種" はおまけです」
「おまけ!皆はそれが一番って言うのに。あはは。やっぱり晶馬くん最高!」
先輩の魅力は稀少種って事だけじゃない。優しかったり人の気持ちに寄り添えたり行動がスマートだったり、力とは関係のない部分だって恰好よくて素敵な人なんだ。
「あっはっは。笑い過ぎて涙が出そう」
僕は先輩の目元に唇を近づけ、目じりにキスをした。
「晶馬くん……?」
「先輩……李玖さん。泣きたい時は泣いていいんですよ?」
笑ってるのに、何故だか泣くのを我慢してると思ったんだ。
多分先輩は泣けないんだ。苦しそうな顔や悲しそうな顔は何回か見たけど、一度も涙を見ていない。
稀少種だからどんな時も独りで耐えてきたんじゃないかな。僕も仲良くなるまでは、先輩は完璧な人だと思ってたもん。誰の助けがなくても何でも軽々とやれると思ってた。でも先輩だって人間なんだ。力は持ってても悩んだり苦しんだりしてる。
僕はΩだから何の力も持たないけれど、あなたの涙を拭う事なら出来る。
指先で、唇で、胸元で。身体で、心で。僕の全てで、貴方の瞳の涙も、心の涙も拭おう。
だから、弱さも見せてよ。
「完璧じゃなくてもいいですよ。弱くてもいい。僕の前じゃ貴方はただの一人の人間、藤代李玖だ」
先輩の目が大きく見開かれて、それから向日葵が咲いたような笑顔になった。
「ありがと、晶馬くん。でも僕、今嬉しいんだ。すっごく嬉しい。涙なんて出ない……あ、あれ?おかしいな」
言葉とは裏腹に涙がポロリと出て、それから続けてポロポロと転がり落ちた。初めて見た先輩の涙。
「凄いね、涙って嬉しくても出るんだ。知らなかった」
僕は、真珠のように転がる涙をキスで吸って先輩の頭を胸元に抱き込んだ。シャツが少しだけ暖かく湿った。
「ははは。僕が呪いを解く筈だったのに、僕の方が呪いから解き放たれてしまった。晶馬くん、ありがとう。やっぱり君って凄いや」
呪い?あっ、そうだった、僕の呪いを解くって言ってたんだ!
「僕にこんなに影響を与えた君だけど、どう?これでもまだ "僕なんか" って言っちゃう?」
「!」
誰もが敬愛する稀少種、藤代李玖。その彼の碇で良心で、彼に影響を与えられる唯一の存在。ずっと前から大事にされてきた存在。
そんな事を言われておきながら、それを僕自身が軽んじる発言なんて──
「言いません。言える訳がない」
内側からじわじわと上ってくる高揚感。
Ωの中でも地味で魅力のなかった存在が、先輩の言葉でキラキラした存在に変貌を遂げた。
「……凄い、僕ホントに魔法にかかっちゃった。すっごく偉くなった気分。うわあ、どうしよう。凄い、先輩凄いや」
イタズラが成功した子供みたいに得意そうな顔をしている先輩に抱きついた。
嬉しくて、夢を見てるみたいにフワフワする。
「先輩って本当に魔法使いだったんだね。呪いを解くどころか、新しい魔法にかかっちゃった!」
「その魔法は一生消えないよ」
チュッ
嬉しくて居ても立っても居られなくなり、大胆にも先輩の唇を掠めとった。すると、唇と頬に軽いバードキスが返ってきた。
チュッチュッ
ふふ。くすぐったくて笑い声が漏れる。笑いながら互いに顔のあちこちにキスしてたら、唇を触れ合わせたまま先輩が言った。
「エッチする?」
「!!」
バッと胸を押し返し、唇を覆い隠す。油断も隙も無い。
「まだ駄目かー。晶馬くんの小悪魔。あんまり焦らすと……知らないよ?」
上唇を舐める仕草が壮絶な色気を放った。
イケメンの色気って破壊力半端ない……僕は耳まで赤くなった。
僕は稀少種のαの宿命として、人としては過分な力を振るわなければならない時がある。自分でも呆れるぐらい冷酷な処遇もする。だけど誰が非難しても拒絶しても、君だけは僕を許すだろう。もう僕は独りじゃない。一人ぼっちには戻れない。
君は僕の碇にして唯一の良心だ。そして僕が甘えられる唯一の存在。ねえ、僕は君の前じゃ稀少種じゃなくてもいいよね」
「もちろんです。先輩は、恋人で番でイケメンで優しい先輩で、あとなんだろう、つまり "稀少種" はおまけです」
「おまけ!皆はそれが一番って言うのに。あはは。やっぱり晶馬くん最高!」
先輩の魅力は稀少種って事だけじゃない。優しかったり人の気持ちに寄り添えたり行動がスマートだったり、力とは関係のない部分だって恰好よくて素敵な人なんだ。
「あっはっは。笑い過ぎて涙が出そう」
僕は先輩の目元に唇を近づけ、目じりにキスをした。
「晶馬くん……?」
「先輩……李玖さん。泣きたい時は泣いていいんですよ?」
笑ってるのに、何故だか泣くのを我慢してると思ったんだ。
多分先輩は泣けないんだ。苦しそうな顔や悲しそうな顔は何回か見たけど、一度も涙を見ていない。
稀少種だからどんな時も独りで耐えてきたんじゃないかな。僕も仲良くなるまでは、先輩は完璧な人だと思ってたもん。誰の助けがなくても何でも軽々とやれると思ってた。でも先輩だって人間なんだ。力は持ってても悩んだり苦しんだりしてる。
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指先で、唇で、胸元で。身体で、心で。僕の全てで、貴方の瞳の涙も、心の涙も拭おう。
だから、弱さも見せてよ。
「完璧じゃなくてもいいですよ。弱くてもいい。僕の前じゃ貴方はただの一人の人間、藤代李玖だ」
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「ありがと、晶馬くん。でも僕、今嬉しいんだ。すっごく嬉しい。涙なんて出ない……あ、あれ?おかしいな」
言葉とは裏腹に涙がポロリと出て、それから続けてポロポロと転がり落ちた。初めて見た先輩の涙。
「凄いね、涙って嬉しくても出るんだ。知らなかった」
僕は、真珠のように転がる涙をキスで吸って先輩の頭を胸元に抱き込んだ。シャツが少しだけ暖かく湿った。
「ははは。僕が呪いを解く筈だったのに、僕の方が呪いから解き放たれてしまった。晶馬くん、ありがとう。やっぱり君って凄いや」
呪い?あっ、そうだった、僕の呪いを解くって言ってたんだ!
「僕にこんなに影響を与えた君だけど、どう?これでもまだ "僕なんか" って言っちゃう?」
「!」
誰もが敬愛する稀少種、藤代李玖。その彼の碇で良心で、彼に影響を与えられる唯一の存在。ずっと前から大事にされてきた存在。
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「言いません。言える訳がない」
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「……凄い、僕ホントに魔法にかかっちゃった。すっごく偉くなった気分。うわあ、どうしよう。凄い、先輩凄いや」
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チュッ
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