おとぎ話の結末

咲房

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運命のつがい

〈 side.藤代 〉ビビディ バビディ ブゥ~僕でいい?

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〈  side. 藤代 〉 

時は少し遡る───

 日野くんは日に日に傷が増えていった。
 我慢をしてしまう子だから、今まで幾重にも幾重にも、手を伸ばしやすいよう細工をしてきた。助けを求めろとも言ったし、魔法の鏡も魔法の子馬も用意した。君が笑うならピエロにもなるし、助けるためなら魔法使いにもなる。
 だから日野くん、早く、早く僕を呼んで!
 僕は君を助けたいんだ。でも君が求めてくれないと助けに行けない。僕から行ってその場限りで助けても何の解決にもならない。運命の鎖はそんなことじゃ切れるほど脆くない。鎖を切るには君の強い意志が必要なんだ。君が自分の意志で僕を呼んで、自分の意志で決断する、強い意志が欲しい!
 
 僕は君の鎖を断ち切って、君のつがいになりたい。
 運命なんかには、渡さない。




 やっと日野くんから携帯が掛かってきた。
 大変な事態になってないといいのだが。僕は緊張した気持ちを隠して通話ボタンを押した。

「はい、日野くん、どうしたの、何があった」
「………っ、」

 何かを耐えるような無言が続く。ただならぬ事態が起こっているのか!
 急に焦りが生まれた。日野くん、何とか言ってくれ!

「日野くん、日野くん!」
「………ううっ、うーっ、ひっく、ひっく。うっ、うっ」
「!」
「ひっく、ひっく」
「……晶馬くん」

 押し殺せなかった嗚咽が止まらないらしい。彼の我慢は限界なのだ。なのに優しいこの子は僕をおもんばかって助けを呼べない。

 僕の胸は彼を思って甘く、苦しく、切なくなった。
 ああ、晶馬、もういいだろ?君は十分頑張ったよ。運命の相手との相性が悪いのは君のせいじゃない。もう、鎖を断ち切ろう。僕にはそれが出来る。君は僕に助けを求めて、僕を番と認めてくれるだけでいい。

「ねえ、呪文を覚えているかい?何でも望みが叶う呪文。君は唱えるだけでいい。ほら、唱えてごらん」

 呪文。望みが叶う魔法の言葉。きみの魔法使いがやってきて願いを全て叶えるよ。

「晶馬くん……晶馬、ほら」
「……ひっく、……ひっく、……ビ……ビビディ……バビディ、ブゥ」
「いい子だ晶馬。すぐに助けるよ!」



 僕が急いで彼のもとへ行くと、彼は部屋の隅の隙間に小さく蹲っていた。部屋の惨状から彼がヒート状態を独りで耐えていたことを知る。タオルケットを被り、泣きながらガタガタ震える姿が可哀想でたまらない。なのにまだ我慢をしている。

「せ、ん輩。ご、ごめんなさい。だいじょうぶ、僕だいじょうぶだから」
「どこが!出ておいで」

僕が手を伸ばしたのを壁側に後ずさってよける。

「駄目!汚れる!ぼく汚い」
「大丈夫」

 そう言ってテーブルの下に潜ってバスタオルでくるんだ。
 すると、彼は腕とお腹をその布でこすって拭いた。それから首と胸を拭き、そのあとは布ではなく手で直接二の腕と腿をぬぐった。脇と手先を。それから引っ掻くようにまた首筋と腹を。
 まずい……これは危険だ。だんだん力が込もっていき、爪を立てて掻くようになっていた。

「駄目だよ、日野くん。止めるんだ」

 だがもう僕の静止が聞こえないようだった。そしてまた引っ掻くように……
 僕は日野くんの手首を掴んだ。

「止めるんだ、日野くん……日野くん!晶馬!晶馬くん!」

 ハッ!

「あ……」

 彼は自分が何をしていたのか分かっていなかった。かなり危険な精神状態だ。僕はバスタオルの上から彼を強く抱きしめた。
 もういい、堕とそう。これ以上は待てない。彼を導き、〈運命のつがい〉を否定して僕をつがいとして認めさせよう。
 そう決心して彼の手を取り、顔の至近距離でペロリと舐めた。彼は一瞬ビクリとしたが、僕の仕草を熱で赤くなった顔で瞳を潤ませて眺めていた。
 指先を舐め、口に含んでしゃぶり、指の股にも舌を這わす。

「先輩、汚い、汚れる」
「汚くないよ」

 指が終わると手の平、それが終わると手の甲を。僕の俯いたまつげやうごめく舌に彼の視線を感じる。

「どう?まだ汚い?」
「ううん、キレイになった」

 僕が聞くと、どこか茫洋とした瞳で手にうっとりと頬ずりをした。本当に可愛らしい。

「さあ、出ておいで。全部綺麗にしてあげる。中も外も、頭のてっぺんからつま先まで。他は?何がしてほしい?」

 僕は抱き抱えるようにベッドに誘った。そして頭のてっぺんと頬にキスをして涙の跡を舌でぬぐい、さっきと反対の手を舐め始めた。

「痛い?苦しい?何をしてほしい?ほら、言ってごらん」

 さあ。ほら。

「熱い。出したい。でない。触ってもでない。苦しい。せんぱい、せんぱいぃ」

 ふぇ。また涙が盛り上がってきてぽろぽろと零れ落ちた。

「いきたい。出したいよぅ、ううっ、ヒック。うぅ。」
「分かった。イきたいんだね。でも中に出されないとイけないでしょ。どうする?高村さん呼ぶ?」

 呼ぶ気は更々ないが否定させるために敢えて口にする。

「やだあ。高むらさんとするのもうやだ。こわい。やだ。やだぁ」

 ふぇえ。えっ、えっ。ヒック。
 本当はいつも怖かった。平気、平気って思ってきたけどもうしたくない。こわい。
 小さな声が呟いていたので、そう。と小さく頷いた。
 ずっと我慢していたのだろう、彼はすぐに自分から彼を否定した。

「泣かないで、晶馬くん。じゃあどうする?僕が抱くかい?僕でいい?」
「せんぱいが?ぼくを?いいの?汚いよ、いいの?」

「汚くなんかない。でも僕は運命のつがいじゃないよ。君の体は受け付けないからこじ開けなきゃいけない。痛いよ。それでも僕がいいの?」
「痛くてもいい。せんぱいがいい。せんぱいじゃなきゃダメ。誰もダメ。せん輩じゃなきゃやだぁ」
「あぁ。可愛い。僕の晶馬。君は僕だけの晶馬くん?」
「うん。先ぱいだけのぼく。」
「じゃあ、高村さんやめて、僕の番になってくれる?首、噛んでもいい?大事にするから、お願い。噛ませて」
「うん。うん、うん。なる。せんぱいのつがいになる。かんでぇ。くび、かんで。」
「痛くても我慢出来る?」
「せんぱいがしてくれるならいたくてもぼくがまんできるよ。」
「痛くても途中で止めないよ。いい?」
「いい。せんぱいのになるならぼくいたくてもいい。つがいにして。せんぱい。ぼく、つがいになりたい。おねがい」

 なんていい子なんだ。誘導したのは僕だけど、こんなに一途でかわいらしい子は見たことがない。よく出来ました、って唇にちょんとキスをしたら驚いて目を大きくして、初めてチュウしたって笑った。
 奴にあんなに犯され続けていたというのに、全く擦れてない。なんて清らかな体とこころ。

「分かった。晶馬、君を私のつがいにする。君の鎖を断ち切るよ」
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