戦国稲荷御伽草子

笠緒

文字の大きさ
上 下
10 / 33
第二章 月影のその夜に

2-4

しおりを挟む
 暗闇に、二つの影があった。
 ジジ、という蝋燭の煙る音と共に、ゆらりと小さな火が動く。

「そろそろ、終わらせる必要が出てきたかもしれん」
「まさか……露見したのですか……?」

 幾分若い――否、幼いといっても過言ではない声が、語尾を持ち上げ訊ねた。

「いや、まだだ。まだ、本来の目的は見えてはいまいよ」

 すっと引き締まった頬が、不愉快そうに歪んだ。眉の間には皺が刻まれ、瞳の奧は苛立ちに満ちた色に染め上がっている。

「だが、途中まで嗅ぎ付けた」
「どなたが?」
「――直鷹なおたかだ。普段から立場も弁えず、乳兄弟の悪童わっぱと一緒にあちらこちらにフラフラと出歩くような粗忽者だが、でも、油断は出来ん」
「直鷹どの……」
「準備はどうなってる?」
「それはすでに進めてはおりますが……。次回は、当初の予定通りここです」

 手持ち用の燭台へと火を灯すと、コツリと音をたてて板間へと置いた。そして、すっと懐から[[rb:蝙蝠扇 > かわほりおうぎ]]を取り出し、床に広げていた地図の一点を指し示す。

「……使われてないのか」
「場所が場所ですし。半月ほど前に私も確認のため二、三度足を運びましたが、近隣に住まう者もなく、すでに使われなくなってから数十年と聞きました」
「そうか……」

 言葉少なく問う男の声に、予めわかっていた答え合わせをするかのように幼い声が返された。男は、その返事に漸く落ち着いたのか、溜め息のような吐息と共に言の葉を零す。

「では、来月だな」
「そう、ですね……」

 二人の呟きは、闇の中に溶けていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

自習室の机の下で。

カゲ
恋愛
とある自習室の机の下での話。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

処理中です...