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人間と魔族
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部屋から出ると、城の中は酷い状態だった。
あちこちに破損した物や内装の破片が散乱し、息絶えた人や魔族も転がっている。
確かにこの世の終わりのようだ。
「あ、あの・・・魔王サギノミヤイツキ様?
さっきのエリートとかヒキートとかって何です?」
「一煌で構わん。君は我が社の記念すべき1人目の社員だからな、特別に教えてやろう。
エリートとは、語源はラテン語らしいが、フランス語で社会の中で優秀とされ、指導的役割を持つ人間や集団の事だ。
ヒキニートとは、自宅に引きこもり、仕事や通学、家事などをしていない人を言う。」
「よく分かりませんが、エリートの方がいいんじゃないですか?
それと一煌様、魔族は1人じゃなくて1体と数えるんですよ」
砕けた硝子が革靴の下で音を立てる。
人間は1人、魔族は1体――
「何故だ?比べるものでは無い、ただの適材適所だ。
それが分からないから悲しみが生まれる。
異人の俺にとっては人間も魔族も同じだ。
我が社の社員は1人と数えるし、見た目や種族等気になどしないさ」
壊された両開きの豪華な扉を踏みつけて外に出ると、そこは正に戦の真っ只中であった。
空は赤紫の雲で覆われ、外だというのに暗い鬱とした空気に、血と灰の匂いが混ざり肺が呼吸を拒絶する。
「一煌様、コレを被って頭を低くしてついて来てください!」
彼は、もう必要のない兵士から防具を剥ぎ取ると、手早く俺の体に着せて、仕上げに兜を頭に被せた。
甲冑を着た兵士とゴブリン達が入り乱れる中、腰を低くした人間がゴブリンの後をついてまわる。そんな奇妙なものが通っても大丈夫かと思ったが、案外分からないものである。
「ここまで来れば一先ずは安心です。お怪我などありませんでしたか!?」
近くの林まで走ったところで振り返った彼に、俺は形の変わった兜をとって笑顔を向けた。
「あぁ、平気だ。君の案内が優秀なおかげで助かった。しかしあれだな、アスファルトでないと歩きにくいものなのだな。こんな事なら、もう少し運動をしておくんだった」
「いや兜ベッコベコーーーー!?!?
一煌様大丈夫ですか!?!?
いやこれ大丈夫な訳ないですよ!!
それに鎧!胸も背中も欠けやデコボコだらけじゃないですか!!本当にお怪我は無いのですか!?」
うむ、通りで少し息苦しいわけだ。
彼は真っ青な顔で慌てて壊れた防具を脱がせると、体のあちこちを確認した。
それはもう念入りで、特に頭は猿に毛繕いをされている気分で、くすぐったさと可笑しさで笑わずにはいられなかった。
「笑っている場合ですか!それともやっぱり頭を打って・・・」
「違う違う。野を駆けたのも、人に心配されたのも初めてだったのでな、童心に帰ってしまった。もし友がいたら君のようだったのだろうな――」
今まで丁寧に掻き分けていた髪を乱暴にグチャグチャにすると、彼はそっぽを向いて傷だらけの盾を拾い上げる。
「また魔族を人扱いして・・・大抵の奴は人間が嫌いです。そういうのはやめた方が身のためですよ。君ではなく、テルとお呼び頂けると助かります」
「そうか、ありがとうテル。
だがすまない、俺は魔王として間違える訳にはいかない。許してくれ」
俺は彼に右手を差し出した。
ここの文化や風習は分からない――
でもきっと――
「本当・・・変な人ですね魔王は――」
右手と右手を握り合えば、そこに平和が生まれるのだ――
気のせいかさっきまで青かったゴブリンの顔が赤っぽく変わった気がした。
あちこちに破損した物や内装の破片が散乱し、息絶えた人や魔族も転がっている。
確かにこの世の終わりのようだ。
「あ、あの・・・魔王サギノミヤイツキ様?
さっきのエリートとかヒキートとかって何です?」
「一煌で構わん。君は我が社の記念すべき1人目の社員だからな、特別に教えてやろう。
エリートとは、語源はラテン語らしいが、フランス語で社会の中で優秀とされ、指導的役割を持つ人間や集団の事だ。
ヒキニートとは、自宅に引きこもり、仕事や通学、家事などをしていない人を言う。」
「よく分かりませんが、エリートの方がいいんじゃないですか?
それと一煌様、魔族は1人じゃなくて1体と数えるんですよ」
砕けた硝子が革靴の下で音を立てる。
人間は1人、魔族は1体――
「何故だ?比べるものでは無い、ただの適材適所だ。
それが分からないから悲しみが生まれる。
異人の俺にとっては人間も魔族も同じだ。
我が社の社員は1人と数えるし、見た目や種族等気になどしないさ」
壊された両開きの豪華な扉を踏みつけて外に出ると、そこは正に戦の真っ只中であった。
空は赤紫の雲で覆われ、外だというのに暗い鬱とした空気に、血と灰の匂いが混ざり肺が呼吸を拒絶する。
「一煌様、コレを被って頭を低くしてついて来てください!」
彼は、もう必要のない兵士から防具を剥ぎ取ると、手早く俺の体に着せて、仕上げに兜を頭に被せた。
甲冑を着た兵士とゴブリン達が入り乱れる中、腰を低くした人間がゴブリンの後をついてまわる。そんな奇妙なものが通っても大丈夫かと思ったが、案外分からないものである。
「ここまで来れば一先ずは安心です。お怪我などありませんでしたか!?」
近くの林まで走ったところで振り返った彼に、俺は形の変わった兜をとって笑顔を向けた。
「あぁ、平気だ。君の案内が優秀なおかげで助かった。しかしあれだな、アスファルトでないと歩きにくいものなのだな。こんな事なら、もう少し運動をしておくんだった」
「いや兜ベッコベコーーーー!?!?
一煌様大丈夫ですか!?!?
いやこれ大丈夫な訳ないですよ!!
それに鎧!胸も背中も欠けやデコボコだらけじゃないですか!!本当にお怪我は無いのですか!?」
うむ、通りで少し息苦しいわけだ。
彼は真っ青な顔で慌てて壊れた防具を脱がせると、体のあちこちを確認した。
それはもう念入りで、特に頭は猿に毛繕いをされている気分で、くすぐったさと可笑しさで笑わずにはいられなかった。
「笑っている場合ですか!それともやっぱり頭を打って・・・」
「違う違う。野を駆けたのも、人に心配されたのも初めてだったのでな、童心に帰ってしまった。もし友がいたら君のようだったのだろうな――」
今まで丁寧に掻き分けていた髪を乱暴にグチャグチャにすると、彼はそっぽを向いて傷だらけの盾を拾い上げる。
「また魔族を人扱いして・・・大抵の奴は人間が嫌いです。そういうのはやめた方が身のためですよ。君ではなく、テルとお呼び頂けると助かります」
「そうか、ありがとうテル。
だがすまない、俺は魔王として間違える訳にはいかない。許してくれ」
俺は彼に右手を差し出した。
ここの文化や風習は分からない――
でもきっと――
「本当・・・変な人ですね魔王は――」
右手と右手を握り合えば、そこに平和が生まれるのだ――
気のせいかさっきまで青かったゴブリンの顔が赤っぽく変わった気がした。
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