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「ほんとお前は手のかかる奴だったよ。
足の悪い者同士ウマが合うかと思って選んだが、懐くまでに2年もかかるとは思わなかった。その間俺の腕は生傷が乾かなかったな・・・。
銀、聞いてるのか?
次に来た虎は、日課の散歩時に鴉に襲われてたんだよな。子供の癖に必死で牙向いてたっけ。
銀が世話やかないから、後ばっか追って影踏んで――
小春は路肩に転んでいたんだ。丁度蝉がうるさく鳴く日照り日で、小さかったが三色だったからよく見えたんだ。飢餓と脱水で死の淵だったからか、お前らよく気にかけたよな――
懐かしいなぁ、十数年なんざあっという間だった――」
慣れ親しんだ天井の木目を仰いで、ふと下を見下ろすと、上手く組合わない不格好な胡座の中で、猫は息を引き取っていた。
「銀・・・」
亡骸を箱に詰める手順が手馴れてきている体に、言いようのない喪失感を感じ、俺は焦燥に駆られるまま杖を立てた。
ふと気が付くと、俺は仏壇の前に座っていた。
畳と香と鉄の香り。
上から見下ろす白黒の写真。
俺にはそれだけなのかと、いやそれしか無いのかと――
口をついて出たのは久しく聞かない笑い声であった。
だが何故だ、ちっとも嬉しかない。
「虎、小春、銀次。ありがとな――
すまない、こんなオッサンの傍に置いちまった。今度は幸せになってくれ」
――いつも、何かに飢えていた。
こんな俺にだって名前はあるのだ。
周三。
誰にも呼ばれない、使う事の無い無為な代物。
「もし、次があるなら俺は・・・猫になるよ」
終.
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