周三

不知火美月

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※     ※     ※


いけない、少しうたた寝をしていたようだ。

遠くに見える山の装いが変わりつつある。
この前まではあんなに笑っていたのに、もうこんなに滴って――

窓の間からひょいと滑り込んできた風に目を細める。

今日は日差しが心地よい。

なんだか懐かしい夢を見た気がする・・・





「ウッス銀次!久しぶり!元気にしてたかよ?」

「ちょっと大河!もう子供じゃないんだからズケズケと入ってかないの!」


お客さんか、珍しいな・・・

ん?

前に何処かで聞いた声のような――


「おう、来たか。コイツだよ俺の右足――」

「「「周三しゅうぞう!!!」」」

「あ?何でお前らコイツの名前知ってんだよ」

「うそうそっ周三なの!?こんなに大きくなってぇ。私よ小春、ってもう忘れちゃたよね」

「俺は!?俺の事は覚えてるよな周三!?すげぇリハビリ頑張ったもんなぁ――元気そうで良かった」


あぁ、そうか。覚えてる――

大河は相変わらずうるさいけど、小春は少し大きくなった。


「おい、周三は俺の猫だぞ!お前らどういう事か説明しろ!」



良かった。銀次も楽しそうだ。



『クロちゃん、お願いが1つだけあるの。
銀ちゃんもね事故で片足を失ったの、それからはずっと元気がなくてね・・・
クロちゃん、銀次の友達になってあげてくれないかな?』


多分俺は銀次の、銀次は俺の足になったんだ。


人間は俺を撫でると笑顔になる。
俺はその顔や声が好きだ。


俺は、野生に帰る事を諦めようと思う。



「おい、周三!」
「ねー、周三!」
「な、周三!」


残された寿命は彼等への恩返しに使いたいと、俺はあの日に決めたから。
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