周三

不知火美月

文字の大きさ
上 下
1 / 10

1

しおりを挟む


いつも、何かに飢えていた――



暑い・・・食べたい。
何でもいい、苦しい、頭が痛い。
足の裏が熱い、膝がガクガクで歩けない。
もう嫌だ、止まろう。
寝転がって休めば治るかもしれない。

「はぁ、はぁ、はぁ」

熱い・・・お腹を出したのにさっきよりも暑くなる。
見えるのはどこまでも黒い地面。
変だな・・・ぐにゃぐにゃした物が地面から出ているよ。

「はぁー、はぁー、はぁー」

ぐにゃぐにゃぐにゃぐにゃ・・・
変だな・・・全部ぐにゃぐにゃ・・・
水なのか?カサカサで熱い口から舌をいくら伸ばしても冷には届かない。
何も無い、暑い・・・何も感じない。
歩か・・・ないと・・・

「君どうしたの!?大変!!すっごく熱くなってる!」

な・・・に?明るくて見えない・・・う、浮かび上がってるの?俺捕まった・・・?食べられるの・・・?





「熱中症ですね、もう少し遅かったら危なかったと思いますよ。大分痩せてますけど、体に異常は無いようです。お前ラッキーだったな!いい人に見つけて貰って、感謝するんだぞ?」

うわ!?何このオスの人間!何で急に俺の頭をぐちゃぐちゃにするの!?
すっごく嫌だ、普通初対面でそんな事する?
失礼にも程があるよ!

「よかったぁ、大事がなくて。先生ありがとうございました。さ、行こうか君」

暗くて狭い。ここはママといた所に似てて好き、安心する。ただ少し揺れるのが嫌い。

「君は野良なのにいい子だね。ママが人に餌でも貰ってたのかな?まだ子供だし返してあげたいけど、見つけるのは難しいかな・・・
ウチで飼ってあげたいんだけど、お父さんが猫アレルギーなんだよね・・・
でも大丈夫よ!私が責任もって飼い主を探してあげるからね。こう見えても顔広いのよ?最悪幼なじみもいるから、大舟に乗った気持ちでいてね!」



それからは人間の巣の中で生活をした。
これが案外快適で驚いた、ママは人間が危険だと言っていたけど、まぁそこそこかな。

小春こはる、猫のトイレ掃除忘れてるわよ!」

小春のママは厳しい、そこは人間も猫と同じらしい。

「聞いた?周三しゅうぞう、たまには掃除してくれてもいいと思わない?そうよね!周三は本当いい子ね」

小春だけは、いつもこっそり俺に周三しゅうぞうという。それが何かは知らない。


長い間ここで過ごし、俺は成猫になっていた。
そろそろ子孫を残しても良い頃だ。
そう思っていたある日、小春はいつもと違って目から水を出して俺を強く抱き締めた。
何回も周三と言ったがやっぱり何かは分からなかった。


次に日が昇った時、俺は知らない人間の巣に移された。
そこの人間達も、小春達と同じような事を繰り返して生きている。
何が楽しいのかは知らないが、そいつらは俺に周三とは言わない。
快適ではあるが、そろそろ巣の中でなく外で生きなくてはならないと、外を見る度俺の何かが言っていた。

そして、人間が巣から出た瞬間を狙って、俺は人間ではなく猫に、本来の自分に戻った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ネオンと星空

Rg
現代文学
歓楽街で生まれ育った家出少女は、汚れきったその街で何を思うのだろう?

六華 snow crystal 5

なごみ
現代文学
雪の街、札幌を舞台にした医療系純愛小説。part 5 沖縄で娘を産んだ有紀が札幌に戻ってきた。娘の名前は美冬。 雪のかけらみたいに綺麗な子。 修二さんにひと目でいいから見せてあげたいな。だけどそれは、許されないことだよね。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

夏風邪

ルリコ
現代文学
風邪をひいて見た“夢” じゃあ……現実の男は? 約2000文字完結。 代表作もお読みください。 キャラ文芸大賞&恋愛小説大賞にエントリーした作品あり。 [ポイント表] 初日:596pt 2025/01/17:1042pt

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

処理中です...