21 / 45
仲直りのところてん
かどかわし
しおりを挟む
その夜の晃之進の帰りは遅く朔太郎が寝たあとだった。一階の小上がりで、のぶが作った田楽と鮎の南蛮漬けを美味そうに食べる彼に、のぶが昼間に徳次に聞いた話をすると彼は難しい顔になった。
「おれも捜索に加わっていたんだが、まだ見つからねえんだ」
「おまえさんが? でも材木町は別の親分の縄張りでしょう?」
事件の捜索は普通その場所を縄張りにしている岡っ引きが行う。
そもそ晃之進は隠密廻同心である倉之助の手先だから、縄張りがない。
奉行所から指示された公事ごとになっている事件や、広範囲に渡る事件に関わることがほとんどだ。
材木町で発生した迷い子かかどかわしかわからない事件に関わっているのが意外だった。
「実はここひと月の間に、深川界隈で子がいなくなることが続いている。材木町の小料理屋で四件目だ。大店の子、裏店の子、男女がばらばらなんでそれぞれに関係はないと奉行所は見ていたんだが、こう続くとなると、もしかした同じ犯人の仕業かもしれねえという話になった」
それで、倉之助が捜査にあたることになったのか。
「四件も……。まだどれも見つかっていないんですか?」
「ああ、子が出てくるどころか、子が連れ去られるとこを見たという者も出てこねえ。どれもいなくなったのは昼間だってえのに、妙な話だ。大抵はこういうとき、身内の中に親に恨みを持っているやつがいるとか、子が岡場所に売り飛ばされたとか何かしら出てくるもんなんだが、……こんなのは初めてだ」
倉之助の手先として数々の事件に携わってきた彼の言葉に、のぶはぶるりと震えた。
近くで子が行方不明になったというだけでも恐ろしいのに、深川界隈で続いている知って、もう居ても立っても居られないほどだ。
迷い子かかどかわしかもわからず、ただ子が消えるだけというのも気持ちが悪い。
かどかわしならば、大店の子のを狙うだろうし、手っ取り早く岡場所へ売ろうといるならば女の子を連れていくだろう。
「さくちゃんから目を離さないようにしないと」
のぶは呟くと、晃之進が頷いた。
「ああ、そうしてくれ。おれはしばらく帰れなくなるかもしれねえ」
「おれも捜索に加わっていたんだが、まだ見つからねえんだ」
「おまえさんが? でも材木町は別の親分の縄張りでしょう?」
事件の捜索は普通その場所を縄張りにしている岡っ引きが行う。
そもそ晃之進は隠密廻同心である倉之助の手先だから、縄張りがない。
奉行所から指示された公事ごとになっている事件や、広範囲に渡る事件に関わることがほとんどだ。
材木町で発生した迷い子かかどかわしかわからない事件に関わっているのが意外だった。
「実はここひと月の間に、深川界隈で子がいなくなることが続いている。材木町の小料理屋で四件目だ。大店の子、裏店の子、男女がばらばらなんでそれぞれに関係はないと奉行所は見ていたんだが、こう続くとなると、もしかした同じ犯人の仕業かもしれねえという話になった」
それで、倉之助が捜査にあたることになったのか。
「四件も……。まだどれも見つかっていないんですか?」
「ああ、子が出てくるどころか、子が連れ去られるとこを見たという者も出てこねえ。どれもいなくなったのは昼間だってえのに、妙な話だ。大抵はこういうとき、身内の中に親に恨みを持っているやつがいるとか、子が岡場所に売り飛ばされたとか何かしら出てくるもんなんだが、……こんなのは初めてだ」
倉之助の手先として数々の事件に携わってきた彼の言葉に、のぶはぶるりと震えた。
近くで子が行方不明になったというだけでも恐ろしいのに、深川界隈で続いている知って、もう居ても立っても居られないほどだ。
迷い子かかどかわしかもわからず、ただ子が消えるだけというのも気持ちが悪い。
かどかわしならば、大店の子のを狙うだろうし、手っ取り早く岡場所へ売ろうといるならば女の子を連れていくだろう。
「さくちゃんから目を離さないようにしないと」
のぶは呟くと、晃之進が頷いた。
「ああ、そうしてくれ。おれはしばらく帰れなくなるかもしれねえ」
20
お気に入りに追加
205
あなたにおすすめの小説
深川あやかし屋敷奇譚
笹目いく子
歴史・時代
第8回歴史·時代小説大賞特別賞受賞。コメディタッチのお江戸あやかしミステリー。連作短篇です。
大店の次男坊・仙一郎は怪異に目がない変人で、深川の屋敷にいわく因縁つきの「がらくた」を収集している。呪いも祟りも信じない女中のお凛は、仙一郎の酔狂にあきれながらも、あやしげな品々の謎の解明に今日も付き合わされ……。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
三賢人の日本史
高鉢 健太
歴史・時代
とある世界線の日本の歴史。
その日本は首都は京都、政庁は江戸。幕末を迎えた日本は幕府が勝利し、中央集権化に成功する。薩摩?長州?負け組ですね。
なぜそうなったのだろうか。
※小説家になろうで掲載した作品です。
和ませ屋仇討ち始末
志波 連
歴史・時代
山名藩家老家次男の三沢新之助が学問所から戻ると、屋敷が異様な雰囲気に包まれていた。
門の近くにいた新之助をいち早く見つけ出した安藤久秀に手を引かれ、納戸の裏を通り台所から屋内へ入っる。
久秀に手を引かれ庭の見える納戸に入った新之助の目に飛び込んだのは、今まさに切腹しようとしている父長政の姿だった。
父が正座している筵の横には変わり果てた長兄の姿がある。
「目に焼き付けてください」
久秀の声に頷いた新之助だったが、介錯の刀が振り下ろされると同時に気を失ってしまった。
新之助が意識を取り戻したのは、城下から二番目の宿場町にある旅籠だった。
「江戸に向かいます」
同行するのは三沢家剣術指南役だった安藤久秀と、新之助付き侍女咲良のみ。
父と兄の死の真相を探り、その無念を晴らす旅が始まった。
他サイトでも掲載しています
表紙は写真ACより引用しています
R15は保険です
証なるもの
笹目いく子
歴史・時代
あれは、我が父と弟だった。天保11年夏、高家旗本の千川家が火付盗賊改方の襲撃を受け、当主と嫡子が殺害された−−。千川家に無実の罪を着せ、取り潰したのは誰の陰謀か?実は千川家庶子であり、わけあって豪商大鳥屋の若き店主となっていた紀堂は、悲嘆の中探索と復讐を密かに決意する。
片腕である大番頭や、許嫁、親友との間に広がる溝に苦しみ、孤独な戦いを続けながら、やがて紀堂は巨大な陰謀の渦中で、己が本当は何者であるのかを知る。
絡み合う過去、愛と葛藤と後悔の果てに、紀堂は何を選択するのか?(性描写はありませんが暴力表現あり)
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
出雲屋の客
笹目いく子
歴史・時代
短篇です。江戸堀留町の口入屋『出雲屋』は、乳母奉公と養子縁組ばかりを扱う風変わりな口入屋だった。子を失い、横暴な夫に命じられるまま乳母奉公の口を求めて店を訪れた佐和は、女店主の染から呉服商泉屋を紹介される。
店主の市衛門は妻を失い、乳飲み子の香奈を抱えて途方に暮れていた。泉屋で奉公をはじめた佐和は、市衛門を密かに慕うようになっていたが、粗暴な夫の太介は香奈の拐かしを企んでいた。
夫と離縁し、行き場をなくした佐和を、染は出雲屋に雇う。養子縁組の仕事を手伝いながら、佐和は自分の生きる道を少しずつ見つけて行くのだった。
藤散華
水城真以
歴史・時代
――藤と梅の下に埋められた、禁忌と、恋と、呪い。
時は平安――左大臣の一の姫・彰子は、父・道長の命令で今上帝の女御となる。顔も知らない夫となった人に焦がれる彰子だが、既に帝には、定子という最愛の妃がいた。
やがて年月は過ぎ、定子の夭折により、帝と彰子の距離は必然的に近づいたように見えたが、彰子は新たな中宮となって数年が経っても懐妊の兆しはなかった。焦燥に駆られた左大臣に、妖しの影が忍び寄る。
非凡な運命に絡め取られた少女の命運は。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる