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2巻 神さま修行と嫁修業!?
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そんな鈴の気持ちを白妙が汲んでくれて、結婚は鈴がいぬがみ湯の女将として一人前になってから、ということになったのだ。
祖母がため息をついた。
「結婚に反対はしないけど、おばあちゃんも早いんじゃないかなと思っていたんだ。けど、白妙さまはなんといっても地主神さまだからね、あまり強くは言えなかった。それをお母さんはきっぱりはっきり言ってくれたという話じゃないか。頼もしいね、さすがは孝子さんだ」
「強くは言えなかった……」
鈴からしてみれば、祖母は白妙と喧嘩のようなやり取りをして、言いたいことを言っているように見えるのに『強くは言えなかった』とは驚きだ。
「鈴が悪いわけじゃないよ。若いころは、気持ちが燃え上がってとにかく早く一緒になりたいと思うものだ。それを諌めるのが年長者の役割だというのに。まったく……白妙さまは!」
眉を寄せて、祖母はぶつぶつと言っている。何やら雲行きがあやしくなってきた。
「とにかく、今は女将の仕事を頑張るんだよ、鈴。その間に、気が変わったってそれはそれで仕方がない。それも含めての猶予期間なんだから。そのときは相談してくれれば、おばあちゃんがなんとかするから」
祖母が腕を伸ばして、鈴の手を取り力説する。
気が変わる……なんてありえないと鈴は思うが、祖母の気迫に圧倒されてこくこくと頷いた。祖母と白妙の間には長年の因縁、とまではいかないが、一筋縄ではいかないものがあるようだ。まさに触らぬ神に祟りなし、だ。
「正式に結婚するまでは、白妙さまが鈴に手を出さないよう太郎と次郎にしっかりと見張らせているから何もないとは思うけど。……とはいえ、あの白妙さまのことだ、おとなしくしているとも思えない。ああ、心配だ。鈴? 太郎と次郎が見てないところで白妙さまに何か……」
「あ、今日は、酒屋のおじさんが来る日だった。私もう戻らなきゃ」
祖母の言葉を遮って、鈴は立ち上がった。
「おばあちゃん、また来るね。リハビリ頑張って」
「……ああ、また。困ったことがあるなら相談するんだよ」
そう言って手を振る祖母に手を振り返して、鈴はそそくさと病室をあとにした。
祖母には毎日会いたいが、会うとたびたびこのような話になるため、鈴は返答に困ってしまう。今のところ鈴と白妙は、想いが通じ合う前と同じように、夜一緒に寝ているくらいだが、白妙が何もしていない、とは言えないだろう。
病院を出ていぬがみ湯へ向かう道すがら、幾人かの見知った顔から声をかけられる。
「こんにちは、鈴ちゃん。佳代さんとこかい? 具合はどう?」
いぬがみ湯の常連客だ。
「こんにちは、だいぶ元気になりました。リハビリも順調でゆっくりなら歩けるようになりました」
鈴はなるべく大きな声ではっきりと答えた。
「ああ、よかった。安心したよ。また今夜、行くからね」
「はい、お待ちしております」
そんなやり取りをしてから、鈴はまたいぬがみ湯に向かって歩き出す。
そのあとも会う人会う人に声をかけられる。この村はそもそもほとんどの人が顔見知り。地主神を祀るいぬがみ湯は村の中心だから、皆鈴のことは知っている。
以前ならこういうとき、鈴はうつむいて小さな声で最低限のことを答えるのが精一杯だった。うまく笑顔を作ることができないからだ。無表情だ、無愛想だと言われるのが怖くて、誰かに話しかけられるとうつむく癖があった。
でも今は、いぬがみ湯の女将なのだ。笑うことはできなくても、せめて目を逸らさずに大きな声で受け答えするようにしていた。
番台に座るようになってから半年あまりが経って、ずいぶん慣れた。他の人にしてみれば、当たり前のことだが、鈴にとっては大きな進歩だった。
午後四時、天河村は日が傾きかけている。鈴が玄関に小豆色の暖簾をかけると、待ちかねたように入浴客が詰めかけた。この時間から来るのは、たいてい朝の早い年寄りだ。
「いらっしゃいませ」
鈴は番台に座り彼らを迎える。
「こんばんは、鈴ちゃん」
入浴客たちも朗らかに答えて、番台の前に置いてある古い賽銭箱にチャリンと入湯料を入れていく。その後ろで誰もいないのにガラガラと戸が開いて、何かがふわふわと入ってくる。山から下りてきた野のあやかしだ。ここは人だけでなくこの地に住むもの皆が疲れを癒す場所なのだ。
「鈴ちゃん、こんばんは。よいしょっと、ああ、寒くなったねえ」
そう言って番台脇に置いてある丸い椅子に座ったのは、村の商店街にある豆腐屋の女将だ。彼女は風呂に入るだけではなく、いつもこうやって、鈴の隣に座り話をしていく。
「今日は寒いですね、雪が降らないといいけど」
「ああ、雪が降ると橋が滑って危ないからね。だけどうちの坊主は降ってほしいと毎朝大騒ぎだよ」
彼女の話は、たいてい孫のことだった。店を切り盛りしている息子夫婦の代わりに毎日子守りをしていて、やんちゃで手を焼いているらしい。その攻防戦はいくら聞いていても飽きない。
「雪が降ったらかまくらを作りたいんだとさ。まだ降ってもないのにスコップを買ってくれって騒いじゃって」
話をするといっても鈴はほとんど聞いているだけだ。
以前ならこんなとき、何か気の利いたことを言わなくてはと居心地の悪い気持ちになっていた。でも今は逆に楽しみだった。
彼女に『話を聞いてもらえるだけでいい』と言われたからだ。以来鈴は、無理に何かを言おうとはせずに、聞き役に徹している。
「……でさ、あのやんちゃ坊主。今日はあまり外へ行かなかったから、元気がありあまっちゃって、プロレスしようって言って、私に飛びかかってきたんだよ。年寄り相手に、まったくどういう躾をしてるんだか……って躾をしてるのは私か」
女将の話に、鈴は思わずぷっと噴き出した。時々、商店街で見かける彼女の孫の元気いっぱいな様子が目に浮かぶようだった。
「プロレスはちょっと無理ですよね……!」
そのままくすくす笑っていると、女将がにっこりと笑った。
「鈴ちゃん、最近よく笑うようになったね。鈴ちゃんの笑顔を見るとなんだか心がぽかぽかするわ。明日はいい一日になりそうって気分になる」
「え? ……そうですか? 自分ではわからないですけど」
意外な言葉に鈴は首を傾げた。でもよく考えてみればそうかもしれない。
いぬがみ湯の女将を始めたころはとにかく緊張して笑うどころの話ではなかったが、今は顔見知りの常連も増えてリラックスして番台に座っている。
愛想笑いが苦手だといっても、鈴だって本当に心からおもしろいと思ったときや嬉しい気分になったら自然と笑顔になる。
「もし私がそうだとしたら、お客さんたちに優しく声をかけてもらえているからです。仕事にも少し慣れましたし」
「そうでしょうね。鈴ちゃんは昔から佳代さんと話すときはにこにこしていたし。でもそれだけかなぁ?」
豆腐屋の女将はそう言って、大袈裟に首を傾げた。
「え……?」
「白妙さまとのご結婚が決まったからじゃないの?」
「え? ええ!? そ、それは関係ないと思います……」
思いがけない指摘に、鈴は面食らった。結婚と自分が笑うことがどう繋がるかまったくわからない。
「そんなことないわよ。婚約中って一番幸せな時期だもの、自然と笑顔が増えるものよ」
「そ、そうでしょうか……」
「それに、笑顔もだけど可愛くなったって評判よ」
「え!」
女将の言葉に、また鈴は目を丸くする。
女将がふふふと笑った。
「恋をすれば女は綺麗になるって言うじゃない? そう思っているのは、私だけじゃないわよ。鈴ちゃんがこんなに可愛いなんて気がつかなかったって商店街の青年会の子たちが言ってるのを、私聞いたもの」
「それは聞き捨てならないね」
機嫌よく割って入ってきた声に、鈴は驚いて振り返る。いつの間にか白妙が鈴のすぐ後ろにいた。
「鈴は私のものだ。いくら可愛いと気がついてもお前たちの相手ではないよと村中に言って回る必要がありそうだな」
女将の冗談に乗っかって、そんなことを言う白妙に鈴は声をあげる。
「し、しろさま……!」
豆腐屋の女将が声をたてて笑った。
「あらあら、それは皆わかっておりますよ、白妙さま。鈴ちゃんは、白妙さまの大切な子ですから、手を出すような者はおりません。ふふふ」
「ならいいけれど。でも神は案外やきもち焼きなんだよ。鈴が可愛いのは間違いないが、他の男に注目されるのは複雑だ。なんといっても私の唯一無二の嫁なんだから」
「まあまあ、お熱いこと! だけど、白妙さまが夢中になられるのは納得ですよ。鈴ちゃん本当にいい子だから……」
鈴そっちのけで話をするふたりに、鈴は真っ赤になってしまう。さらにその会話を、他の入浴客たちがにこにこして聞いているのも恥ずかしくてたまらなかった。
「鈴ちゃん、オレンジジュースをひとつくださいな」
身の置きどころがないような気になっていた鈴は、別の客から声をかけられてハッとする。
「は、はい百二十円です」
代金を受け取ろうとしてうまくいかず、小銭をこぼしてしまう。
「あ……! すみません」
「いいよいいよ」
客は、床に落ちた小銭を拾い上げ鈴の手に乗せて、オレンジジュースを手に休憩処へ歩いていく。
「ふふふ、なんにせよ、白妙さまと鈴ちゃんが仲睦まじいと村の皆が安心しますよ。あーまだお風呂にも入っていないのに、のぼせそうだわ」
そう言って豆腐屋の女将は、よいしょと立ち上がり大浴場へ足を向ける。
「じゃあね、鈴ちゃん。白妙さま、失礼します」
「ごゆっくり」
豆腐屋の女将に声をかける鈴に、白妙が囁いた。
「鈴が可愛いことを皆に知られるのはいいけれど、ライバルが増えるのはいただけないな。昔は健太郎くらいだったのに」
「あんなのおばさんの冗談ですよ」
鈴はフルフルと首を振った。
「冗談なんかじゃないよ、鈴。鈴の笑顔は、あやかしだけではなくて人の心も惹きつけるのだろう。番台に座っているときは仕方がないが、それ以外のときは気をつけるように。特に商店街に行くときは……」
「白妙さま!! あー! やっぱりここにいた!」
太郎が渡り廊下をこちらに向かってやってきた。
「目を離すとすぐに鈴さまにべったりするんだから。営業時間ですよ!」
小言を言いながら番台のところまで来て、白妙の袖を引っ張った。
「ほらタイル画へお戻りください」
白妙がため息をついた。
「うるさい番頭だ。主人に働くことを強要するしもべなど、古今東西探してもお前たちくらいだよ」
「これほどぐうたらな神さまも白妙さまくらいですよ」
そんなやり取りをしながらふたりは大浴場へ戻っていく。
鈴はホッと息をついた。
白妙と鈴が許嫁になったという話は村の皆が知っている。だから白妙も今みたいにすべてをオープンに口にするようになった。
鈴はそれが少し複雑だった。
彼と想いが通じ合ったことは幸せだけれど、そういうときにどうしたらいいかわからなくて困ってしまう。何せ鈴にとっては彼との恋が初恋で、超恋愛初心者なのだから。
仕事中にああいうふうに振る舞われると、ドキドキして業務に集中できなくなる。さっき小銭を落としたみたいに、失敗してしまうのだ。
正直言って思いもよらない事態だった。
彼への想いを自覚してその気持ちを伝えるまで鈴は散々悩んだのだ。紆余曲折を経て、彼と想いが通じ合い結婚すると決まったときは、もうそういう思いには惑わされないと安心した。
これからはただ仕事に邁進すればいいだけなのだと思っていたのに……
これでは先が思いやられる。
『女将として一人前になったら結婚する』と約束して、それまで彼に待ってもらっているというのに、それはいつのことになるのやら。
そんなことを考えて、鈴はため息をついた。
「今年も一年お疲れさまー!」
野田律子が、元気に言ってビールのグラスを掲げる。
「お疲れさま」
「お疲れ!」
鈴と林健太郎もそれぞれのグラスをカチンと合わせた。
「たっくんもお疲れさま」
鈴が律子の息子拓真の飲んでいるパックのジュースにも軽くグラスを合わせると、拓真は嬉しそうにニコッとした。
十二月半ばを過ぎたこの日、いぬがみ湯の定休日に合わせて幼なじみ三人が律子の母親がやっている居酒屋『赤暖簾』に集まった。座敷を借りての忘年会である。
座卓にはおでんや唐揚げ、湯豆腐など、律子の母親の心尽くしの料理が並んでいる。彼女は、カウンターの向こうで「鈴ちゃん、健ちゃんお疲れさま」と声をかけてくれた。
「今年はいろいろあったけど、終わってみればよかったよ。こうして鈴と飲めるんだから」
ビールを豪快に飲み干して、律子がニカッと笑った。
「鈴は?」
「私も、りっちゃんと仲直りできたのがすごく嬉しかった。どこにも就職できなくて村に帰ってきたときは、こんなふうになれるとは思わなかったから。他に仕事を見つけて早く出ていきたいと思ってたくらいだもん」
甘い桃の酎ハイをひと口飲んで鈴は素直な言葉を口にした。
「私もだよ、鈴! 離婚してひとりで生活できなくてさ、帰ってくるしかなかったときは惨めで仕方がなかったけど、今となっては帰ってきてよかった! そう思えるのは鈴がいてくれたからだよ」
「りっちゃん……!」
「おいおい、ふたりとも俺を忘れてるな? 俺は初めから村にいるのに」
健太郎がビールのグラスを置いて言う。
その言葉に、鈴と律子は顔を見合わせて笑った。
学生時代は健太郎以外に親しい友人ができなかった鈴にとっては、友人との飲み会など初めての経験だ。参加したことはなくとも想像から苦手な場だと思っていたが、律子と健太郎となら安心なうえに楽しい。
「それで、鈴。どうなのよ、最近」
ほとんどの料理を食べ終えたころ、酔いが回り少し赤い顔になった律子が鈴に向かって問いかけた。
「最近って?」
「白妙さまとの関係よ! うまくいってるの? 鈴は恋愛初心者だから心配だなぁ」
律子からの思いがけない質問に、鈴はゴホゴホとむせて桃サワーを座卓に置いた。
健太郎が嫌そうに律子を見る。
「律子、お前……俺の前で……」
彼は昔から鈴のことが好きだったのだ。
その想いを打ち明けられて、鈴が応えられないという出来事があってから数ヶ月が経つ。ふたりは完全に以前のような関係に戻ったとはいえ、彼の前で出す話題ではないのはたしかだった。
でも律子はどこ吹く風だ。がっくりと肩を落とす健太郎を見て、呆れたような声を出した。
「健太郎、まだ吹っ切れてないの? 案外情けないんだね。幼なじみに戻るって宣言したんでしょ?」
「そうだけど、……ったく、恋バナするなら俺を呼ぶなよな」
そう言う彼の腕を、拓真が引っ張っている。
「けん! けん!」
お腹いっぱいになったから退屈になり、遊んでほしいのだろう。
「健太郎がいたら拓真と遊んでくれるから私、ゆっくり飲めるじゃん」
悪びれることなく律子は言う。
造園業を営む実家の会社で働いている健太郎は、仕事帰りによくこの赤暖簾に飲みに来るため律子の息子拓真は、すっかり彼に懐いているのだ。三人でいぬがみ湯に来ることもよくある。
「子守り要員かよ。まぁいいや。拓真、男は男同士で楽しもう」
健太郎はため息をついて立ち上がり、慣れた様子で拓真を抱いて店を出て行く。カウンターの中から律子の母親が「いつも悪いね、けんちゃん」と声をかけた。
その様子に不謹慎だと思いながらも、鈴はおかしくて笑ってしまう。健太郎と律子は喧嘩をしつつも仲よしで、小学生のころもこんなやり取りをしていた。
「たっくん、嬉しそうだね」
「すっかり健太郎に懐いてるよ」
くすくす笑っていると、律子がからかうようなことを言ってくる。
「鈴、よく笑うようになったよね。可愛くなったって評判だよ」
「ええ!?」
律子の言葉に、鈴は笑うのをやめて目を丸くした。
「評判って、そんなことないよ」
「そんなことないことないよ。『サンマート』のお客さんが言ってたもん」
サンマートは赤暖簾の向かいにあるコンビニだ。彼女はそこでパートとして働いている。
「白妙さまのお嫁さんになるのがちょっと惜しいってさ。今ごろ気がついても遅いよねえ。ふふふ、最近いぬがみ湯に若い男の客が増えてるんじゃない?」
「そ、そんなのわかんないよ」
鈴が首を振ると、律子は座卓に頬杖をついてにやにやした。
「四六時中、白妙さまのことを考えてるから、他の男なんか目に入らないか」
「もう……」
律子があははと笑った。
「まぁ、困ったことがあったらさ、私に相談してよ。鈴と私は同い年だけど、恋愛に関しては先輩だからさ」
胸を張る律子の言葉に、カウンターの向こうから母親が口を挟んだ。
「先輩って、失敗したくせにねえ」
「ま、そうだけど。でもそれを言うならお母さんもじゃん」
律子が肩をすくめて舌を出した。
彼女の母親も、律子が小さいころに夫と別れて女手ひとつで律子を育てた。
「親子して男運がないなんて、似てほしくないところが似るもんだねえ」
「そうか、私の男運のなさはお母さんに似たんだね。なら私の離婚はお母さんのせいだ」
ぽんぽんと言い合う母娘のやり取りに鈴はくすくす笑った。
「だけど、たっくんを授かったんだもん。運がなかったとは言えないんじゃないかな」
一歳の拓真は、今やいぬがみ湯どころか村の人気者だ。商店街を少し歩くだけで、小さな手には持ちきれないくらいおやつやジュースをもらうという。鈴も彼のファンのひとりだ。いぬがみ湯に来てくれるのを毎日心待ちにしている。
律子の母親がにっこりと笑った。
「あらぁ、鈴ちゃんいいこと言うねぇ。そうなんだよ、私もひとりになったときはどうしようかと思ったけど、律子がいたから立ち直れた。今や孫まで見られるんだもの幸せな人生だよ」
律子のほうも両腕を広げて鈴に抱きついた。
「鈴~! やっぱり鈴は、いい子だよ。鈴は幸せになってね?」
「あはは、りっちゃん、酔ってるね」
「酔ってるよ。でも本心だよー! 相手は神さまだから、元旦那みたいに、浮気なんてことはないだろうけど、鈴は真面目だし初心者だから戸惑うことばっかりだと思う! 私がしっかりサポートするからね」
「ありがとう」
言いながら、鈴の頭にあることが浮かぶ。
祖母がため息をついた。
「結婚に反対はしないけど、おばあちゃんも早いんじゃないかなと思っていたんだ。けど、白妙さまはなんといっても地主神さまだからね、あまり強くは言えなかった。それをお母さんはきっぱりはっきり言ってくれたという話じゃないか。頼もしいね、さすがは孝子さんだ」
「強くは言えなかった……」
鈴からしてみれば、祖母は白妙と喧嘩のようなやり取りをして、言いたいことを言っているように見えるのに『強くは言えなかった』とは驚きだ。
「鈴が悪いわけじゃないよ。若いころは、気持ちが燃え上がってとにかく早く一緒になりたいと思うものだ。それを諌めるのが年長者の役割だというのに。まったく……白妙さまは!」
眉を寄せて、祖母はぶつぶつと言っている。何やら雲行きがあやしくなってきた。
「とにかく、今は女将の仕事を頑張るんだよ、鈴。その間に、気が変わったってそれはそれで仕方がない。それも含めての猶予期間なんだから。そのときは相談してくれれば、おばあちゃんがなんとかするから」
祖母が腕を伸ばして、鈴の手を取り力説する。
気が変わる……なんてありえないと鈴は思うが、祖母の気迫に圧倒されてこくこくと頷いた。祖母と白妙の間には長年の因縁、とまではいかないが、一筋縄ではいかないものがあるようだ。まさに触らぬ神に祟りなし、だ。
「正式に結婚するまでは、白妙さまが鈴に手を出さないよう太郎と次郎にしっかりと見張らせているから何もないとは思うけど。……とはいえ、あの白妙さまのことだ、おとなしくしているとも思えない。ああ、心配だ。鈴? 太郎と次郎が見てないところで白妙さまに何か……」
「あ、今日は、酒屋のおじさんが来る日だった。私もう戻らなきゃ」
祖母の言葉を遮って、鈴は立ち上がった。
「おばあちゃん、また来るね。リハビリ頑張って」
「……ああ、また。困ったことがあるなら相談するんだよ」
そう言って手を振る祖母に手を振り返して、鈴はそそくさと病室をあとにした。
祖母には毎日会いたいが、会うとたびたびこのような話になるため、鈴は返答に困ってしまう。今のところ鈴と白妙は、想いが通じ合う前と同じように、夜一緒に寝ているくらいだが、白妙が何もしていない、とは言えないだろう。
病院を出ていぬがみ湯へ向かう道すがら、幾人かの見知った顔から声をかけられる。
「こんにちは、鈴ちゃん。佳代さんとこかい? 具合はどう?」
いぬがみ湯の常連客だ。
「こんにちは、だいぶ元気になりました。リハビリも順調でゆっくりなら歩けるようになりました」
鈴はなるべく大きな声ではっきりと答えた。
「ああ、よかった。安心したよ。また今夜、行くからね」
「はい、お待ちしております」
そんなやり取りをしてから、鈴はまたいぬがみ湯に向かって歩き出す。
そのあとも会う人会う人に声をかけられる。この村はそもそもほとんどの人が顔見知り。地主神を祀るいぬがみ湯は村の中心だから、皆鈴のことは知っている。
以前ならこういうとき、鈴はうつむいて小さな声で最低限のことを答えるのが精一杯だった。うまく笑顔を作ることができないからだ。無表情だ、無愛想だと言われるのが怖くて、誰かに話しかけられるとうつむく癖があった。
でも今は、いぬがみ湯の女将なのだ。笑うことはできなくても、せめて目を逸らさずに大きな声で受け答えするようにしていた。
番台に座るようになってから半年あまりが経って、ずいぶん慣れた。他の人にしてみれば、当たり前のことだが、鈴にとっては大きな進歩だった。
午後四時、天河村は日が傾きかけている。鈴が玄関に小豆色の暖簾をかけると、待ちかねたように入浴客が詰めかけた。この時間から来るのは、たいてい朝の早い年寄りだ。
「いらっしゃいませ」
鈴は番台に座り彼らを迎える。
「こんばんは、鈴ちゃん」
入浴客たちも朗らかに答えて、番台の前に置いてある古い賽銭箱にチャリンと入湯料を入れていく。その後ろで誰もいないのにガラガラと戸が開いて、何かがふわふわと入ってくる。山から下りてきた野のあやかしだ。ここは人だけでなくこの地に住むもの皆が疲れを癒す場所なのだ。
「鈴ちゃん、こんばんは。よいしょっと、ああ、寒くなったねえ」
そう言って番台脇に置いてある丸い椅子に座ったのは、村の商店街にある豆腐屋の女将だ。彼女は風呂に入るだけではなく、いつもこうやって、鈴の隣に座り話をしていく。
「今日は寒いですね、雪が降らないといいけど」
「ああ、雪が降ると橋が滑って危ないからね。だけどうちの坊主は降ってほしいと毎朝大騒ぎだよ」
彼女の話は、たいてい孫のことだった。店を切り盛りしている息子夫婦の代わりに毎日子守りをしていて、やんちゃで手を焼いているらしい。その攻防戦はいくら聞いていても飽きない。
「雪が降ったらかまくらを作りたいんだとさ。まだ降ってもないのにスコップを買ってくれって騒いじゃって」
話をするといっても鈴はほとんど聞いているだけだ。
以前ならこんなとき、何か気の利いたことを言わなくてはと居心地の悪い気持ちになっていた。でも今は逆に楽しみだった。
彼女に『話を聞いてもらえるだけでいい』と言われたからだ。以来鈴は、無理に何かを言おうとはせずに、聞き役に徹している。
「……でさ、あのやんちゃ坊主。今日はあまり外へ行かなかったから、元気がありあまっちゃって、プロレスしようって言って、私に飛びかかってきたんだよ。年寄り相手に、まったくどういう躾をしてるんだか……って躾をしてるのは私か」
女将の話に、鈴は思わずぷっと噴き出した。時々、商店街で見かける彼女の孫の元気いっぱいな様子が目に浮かぶようだった。
「プロレスはちょっと無理ですよね……!」
そのままくすくす笑っていると、女将がにっこりと笑った。
「鈴ちゃん、最近よく笑うようになったね。鈴ちゃんの笑顔を見るとなんだか心がぽかぽかするわ。明日はいい一日になりそうって気分になる」
「え? ……そうですか? 自分ではわからないですけど」
意外な言葉に鈴は首を傾げた。でもよく考えてみればそうかもしれない。
いぬがみ湯の女将を始めたころはとにかく緊張して笑うどころの話ではなかったが、今は顔見知りの常連も増えてリラックスして番台に座っている。
愛想笑いが苦手だといっても、鈴だって本当に心からおもしろいと思ったときや嬉しい気分になったら自然と笑顔になる。
「もし私がそうだとしたら、お客さんたちに優しく声をかけてもらえているからです。仕事にも少し慣れましたし」
「そうでしょうね。鈴ちゃんは昔から佳代さんと話すときはにこにこしていたし。でもそれだけかなぁ?」
豆腐屋の女将はそう言って、大袈裟に首を傾げた。
「え……?」
「白妙さまとのご結婚が決まったからじゃないの?」
「え? ええ!? そ、それは関係ないと思います……」
思いがけない指摘に、鈴は面食らった。結婚と自分が笑うことがどう繋がるかまったくわからない。
「そんなことないわよ。婚約中って一番幸せな時期だもの、自然と笑顔が増えるものよ」
「そ、そうでしょうか……」
「それに、笑顔もだけど可愛くなったって評判よ」
「え!」
女将の言葉に、また鈴は目を丸くする。
女将がふふふと笑った。
「恋をすれば女は綺麗になるって言うじゃない? そう思っているのは、私だけじゃないわよ。鈴ちゃんがこんなに可愛いなんて気がつかなかったって商店街の青年会の子たちが言ってるのを、私聞いたもの」
「それは聞き捨てならないね」
機嫌よく割って入ってきた声に、鈴は驚いて振り返る。いつの間にか白妙が鈴のすぐ後ろにいた。
「鈴は私のものだ。いくら可愛いと気がついてもお前たちの相手ではないよと村中に言って回る必要がありそうだな」
女将の冗談に乗っかって、そんなことを言う白妙に鈴は声をあげる。
「し、しろさま……!」
豆腐屋の女将が声をたてて笑った。
「あらあら、それは皆わかっておりますよ、白妙さま。鈴ちゃんは、白妙さまの大切な子ですから、手を出すような者はおりません。ふふふ」
「ならいいけれど。でも神は案外やきもち焼きなんだよ。鈴が可愛いのは間違いないが、他の男に注目されるのは複雑だ。なんといっても私の唯一無二の嫁なんだから」
「まあまあ、お熱いこと! だけど、白妙さまが夢中になられるのは納得ですよ。鈴ちゃん本当にいい子だから……」
鈴そっちのけで話をするふたりに、鈴は真っ赤になってしまう。さらにその会話を、他の入浴客たちがにこにこして聞いているのも恥ずかしくてたまらなかった。
「鈴ちゃん、オレンジジュースをひとつくださいな」
身の置きどころがないような気になっていた鈴は、別の客から声をかけられてハッとする。
「は、はい百二十円です」
代金を受け取ろうとしてうまくいかず、小銭をこぼしてしまう。
「あ……! すみません」
「いいよいいよ」
客は、床に落ちた小銭を拾い上げ鈴の手に乗せて、オレンジジュースを手に休憩処へ歩いていく。
「ふふふ、なんにせよ、白妙さまと鈴ちゃんが仲睦まじいと村の皆が安心しますよ。あーまだお風呂にも入っていないのに、のぼせそうだわ」
そう言って豆腐屋の女将は、よいしょと立ち上がり大浴場へ足を向ける。
「じゃあね、鈴ちゃん。白妙さま、失礼します」
「ごゆっくり」
豆腐屋の女将に声をかける鈴に、白妙が囁いた。
「鈴が可愛いことを皆に知られるのはいいけれど、ライバルが増えるのはいただけないな。昔は健太郎くらいだったのに」
「あんなのおばさんの冗談ですよ」
鈴はフルフルと首を振った。
「冗談なんかじゃないよ、鈴。鈴の笑顔は、あやかしだけではなくて人の心も惹きつけるのだろう。番台に座っているときは仕方がないが、それ以外のときは気をつけるように。特に商店街に行くときは……」
「白妙さま!! あー! やっぱりここにいた!」
太郎が渡り廊下をこちらに向かってやってきた。
「目を離すとすぐに鈴さまにべったりするんだから。営業時間ですよ!」
小言を言いながら番台のところまで来て、白妙の袖を引っ張った。
「ほらタイル画へお戻りください」
白妙がため息をついた。
「うるさい番頭だ。主人に働くことを強要するしもべなど、古今東西探してもお前たちくらいだよ」
「これほどぐうたらな神さまも白妙さまくらいですよ」
そんなやり取りをしながらふたりは大浴場へ戻っていく。
鈴はホッと息をついた。
白妙と鈴が許嫁になったという話は村の皆が知っている。だから白妙も今みたいにすべてをオープンに口にするようになった。
鈴はそれが少し複雑だった。
彼と想いが通じ合ったことは幸せだけれど、そういうときにどうしたらいいかわからなくて困ってしまう。何せ鈴にとっては彼との恋が初恋で、超恋愛初心者なのだから。
仕事中にああいうふうに振る舞われると、ドキドキして業務に集中できなくなる。さっき小銭を落としたみたいに、失敗してしまうのだ。
正直言って思いもよらない事態だった。
彼への想いを自覚してその気持ちを伝えるまで鈴は散々悩んだのだ。紆余曲折を経て、彼と想いが通じ合い結婚すると決まったときは、もうそういう思いには惑わされないと安心した。
これからはただ仕事に邁進すればいいだけなのだと思っていたのに……
これでは先が思いやられる。
『女将として一人前になったら結婚する』と約束して、それまで彼に待ってもらっているというのに、それはいつのことになるのやら。
そんなことを考えて、鈴はため息をついた。
「今年も一年お疲れさまー!」
野田律子が、元気に言ってビールのグラスを掲げる。
「お疲れさま」
「お疲れ!」
鈴と林健太郎もそれぞれのグラスをカチンと合わせた。
「たっくんもお疲れさま」
鈴が律子の息子拓真の飲んでいるパックのジュースにも軽くグラスを合わせると、拓真は嬉しそうにニコッとした。
十二月半ばを過ぎたこの日、いぬがみ湯の定休日に合わせて幼なじみ三人が律子の母親がやっている居酒屋『赤暖簾』に集まった。座敷を借りての忘年会である。
座卓にはおでんや唐揚げ、湯豆腐など、律子の母親の心尽くしの料理が並んでいる。彼女は、カウンターの向こうで「鈴ちゃん、健ちゃんお疲れさま」と声をかけてくれた。
「今年はいろいろあったけど、終わってみればよかったよ。こうして鈴と飲めるんだから」
ビールを豪快に飲み干して、律子がニカッと笑った。
「鈴は?」
「私も、りっちゃんと仲直りできたのがすごく嬉しかった。どこにも就職できなくて村に帰ってきたときは、こんなふうになれるとは思わなかったから。他に仕事を見つけて早く出ていきたいと思ってたくらいだもん」
甘い桃の酎ハイをひと口飲んで鈴は素直な言葉を口にした。
「私もだよ、鈴! 離婚してひとりで生活できなくてさ、帰ってくるしかなかったときは惨めで仕方がなかったけど、今となっては帰ってきてよかった! そう思えるのは鈴がいてくれたからだよ」
「りっちゃん……!」
「おいおい、ふたりとも俺を忘れてるな? 俺は初めから村にいるのに」
健太郎がビールのグラスを置いて言う。
その言葉に、鈴と律子は顔を見合わせて笑った。
学生時代は健太郎以外に親しい友人ができなかった鈴にとっては、友人との飲み会など初めての経験だ。参加したことはなくとも想像から苦手な場だと思っていたが、律子と健太郎となら安心なうえに楽しい。
「それで、鈴。どうなのよ、最近」
ほとんどの料理を食べ終えたころ、酔いが回り少し赤い顔になった律子が鈴に向かって問いかけた。
「最近って?」
「白妙さまとの関係よ! うまくいってるの? 鈴は恋愛初心者だから心配だなぁ」
律子からの思いがけない質問に、鈴はゴホゴホとむせて桃サワーを座卓に置いた。
健太郎が嫌そうに律子を見る。
「律子、お前……俺の前で……」
彼は昔から鈴のことが好きだったのだ。
その想いを打ち明けられて、鈴が応えられないという出来事があってから数ヶ月が経つ。ふたりは完全に以前のような関係に戻ったとはいえ、彼の前で出す話題ではないのはたしかだった。
でも律子はどこ吹く風だ。がっくりと肩を落とす健太郎を見て、呆れたような声を出した。
「健太郎、まだ吹っ切れてないの? 案外情けないんだね。幼なじみに戻るって宣言したんでしょ?」
「そうだけど、……ったく、恋バナするなら俺を呼ぶなよな」
そう言う彼の腕を、拓真が引っ張っている。
「けん! けん!」
お腹いっぱいになったから退屈になり、遊んでほしいのだろう。
「健太郎がいたら拓真と遊んでくれるから私、ゆっくり飲めるじゃん」
悪びれることなく律子は言う。
造園業を営む実家の会社で働いている健太郎は、仕事帰りによくこの赤暖簾に飲みに来るため律子の息子拓真は、すっかり彼に懐いているのだ。三人でいぬがみ湯に来ることもよくある。
「子守り要員かよ。まぁいいや。拓真、男は男同士で楽しもう」
健太郎はため息をついて立ち上がり、慣れた様子で拓真を抱いて店を出て行く。カウンターの中から律子の母親が「いつも悪いね、けんちゃん」と声をかけた。
その様子に不謹慎だと思いながらも、鈴はおかしくて笑ってしまう。健太郎と律子は喧嘩をしつつも仲よしで、小学生のころもこんなやり取りをしていた。
「たっくん、嬉しそうだね」
「すっかり健太郎に懐いてるよ」
くすくす笑っていると、律子がからかうようなことを言ってくる。
「鈴、よく笑うようになったよね。可愛くなったって評判だよ」
「ええ!?」
律子の言葉に、鈴は笑うのをやめて目を丸くした。
「評判って、そんなことないよ」
「そんなことないことないよ。『サンマート』のお客さんが言ってたもん」
サンマートは赤暖簾の向かいにあるコンビニだ。彼女はそこでパートとして働いている。
「白妙さまのお嫁さんになるのがちょっと惜しいってさ。今ごろ気がついても遅いよねえ。ふふふ、最近いぬがみ湯に若い男の客が増えてるんじゃない?」
「そ、そんなのわかんないよ」
鈴が首を振ると、律子は座卓に頬杖をついてにやにやした。
「四六時中、白妙さまのことを考えてるから、他の男なんか目に入らないか」
「もう……」
律子があははと笑った。
「まぁ、困ったことがあったらさ、私に相談してよ。鈴と私は同い年だけど、恋愛に関しては先輩だからさ」
胸を張る律子の言葉に、カウンターの向こうから母親が口を挟んだ。
「先輩って、失敗したくせにねえ」
「ま、そうだけど。でもそれを言うならお母さんもじゃん」
律子が肩をすくめて舌を出した。
彼女の母親も、律子が小さいころに夫と別れて女手ひとつで律子を育てた。
「親子して男運がないなんて、似てほしくないところが似るもんだねえ」
「そうか、私の男運のなさはお母さんに似たんだね。なら私の離婚はお母さんのせいだ」
ぽんぽんと言い合う母娘のやり取りに鈴はくすくす笑った。
「だけど、たっくんを授かったんだもん。運がなかったとは言えないんじゃないかな」
一歳の拓真は、今やいぬがみ湯どころか村の人気者だ。商店街を少し歩くだけで、小さな手には持ちきれないくらいおやつやジュースをもらうという。鈴も彼のファンのひとりだ。いぬがみ湯に来てくれるのを毎日心待ちにしている。
律子の母親がにっこりと笑った。
「あらぁ、鈴ちゃんいいこと言うねぇ。そうなんだよ、私もひとりになったときはどうしようかと思ったけど、律子がいたから立ち直れた。今や孫まで見られるんだもの幸せな人生だよ」
律子のほうも両腕を広げて鈴に抱きついた。
「鈴~! やっぱり鈴は、いい子だよ。鈴は幸せになってね?」
「あはは、りっちゃん、酔ってるね」
「酔ってるよ。でも本心だよー! 相手は神さまだから、元旦那みたいに、浮気なんてことはないだろうけど、鈴は真面目だし初心者だから戸惑うことばっかりだと思う! 私がしっかりサポートするからね」
「ありがとう」
言いながら、鈴の頭にあることが浮かぶ。
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