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2巻 神さま修行と嫁修業!?
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第一章 いぬがみ湯ふたたび
天河村は、天河山のふもとに広がるのどかで小さな村である。緑の山々を縫うように走る赤い電車と無人駅、タクシーが一台だけ停まっている駅前ロータリー。
その先は山を登るように商店街が続いている。
村唯一の温泉宿いぬがみ湯は、和風建築の古い建物である。
山から源泉を引いている大浴場は、地元の人たちの憩いの場になっていて、毎日暖簾をかけるやいなや多くの入浴客たちが詰めかける。
季節は少し早く冬となり、日中はそれほどでもないのだが、やはり夜は冷える。
夜明け前、番台裏の和室で布団と毛布を被って寝ていた、いぬがみ湯の女将大江鈴は、肌寒さを感じてうっすらと目を開けた。起きるまでにはまだ時間がある。
いぬがみ湯は夜遅くまで営業しているため、鈴がすべての業務を終えて眠りにつくのはたいてい日付が変わるころ。その代わりに朝は少しゆっくりだ。
もう一眠りしようと隣で寝ているもふもふとした白い狼に身を寄せて腕を回しギュッと抱きつくと途端に替えたての畳のような大好きな香りに包まれる。温かい幸せな気持ちで胸をいっぱいにしながら、鈴はまた目を閉じた。
チュンチュンという雀の鳴き声を聞き、朝の清々しい空気を感じて鈴が次に目を覚ますと、抱きついていたはずの白狼はいつの間にか消えている。代わりに銀髪の男性が枕に腕をついてにっこりと微笑んでいた。
「おはよう、鈴」
しじら織の浴衣姿で少し長い髪を肩から流している彼こそが天河山の地主神、白妙だ。
白狼の神さまである彼は、こんなふうに人の姿になることもできるのだ。
「おはようございます、しろさま。起きていらしたんですね……」
「うん、鈴の可愛い寝顔を見ていたんだ」
そう言って彼は満月色の綺麗な目を細めると腕を伸ばして布団の中でギュッと鈴を抱きしめた。
「ゆっくり眠れたかい? 昨日も夜遅くまで一生懸命働いていたんだ。まだ寝てていいんだよ」
白妙は甘い言葉を口にしながら、鈴の髪に頬ずりをする。そんな彼の行動に、鈴の心臓は跳びはねるが、鈴も彼に問いかける。
「ぐっすり眠れました。しろさまは、ゆっくりお休みになられましたか?」
今は温泉宿兼銭湯として経営が成り立っているいぬがみ湯だが、その昔は彼を祀る神社だった。天河村は、地主神である白妙を祀るために開かれた村なのだ。そのときから現在にいたるまで、村人たちは彼に見守られて幸せに暮らしている。
鈴が女将になるまでは、彼はずっと大浴場のタイル画の中にいた。大浴場の白狼のタイル画はいぬがみ湯のシンボルだ。それは今も基本的には変わらないが、夜はタイル画から出てきてひとつの布団で一緒に寝てくれる。
昼間どれほど忙しく働いてくたくたに疲れたとしても、夜彼にくっついて眠れば朝には元気いっぱいになるのだ。
「私もよく眠れたよ。鈴とこうしていると心から安らぐのだろう、ついつい眠りすぎてしまう」
そう言って彼が鈴を包む腕に力をこめて至近距離からジッと見つめると、鈴の頬は熱くなる。
白狼姿の彼にはいつも自分から抱きつくけれど、人の姿のときはそうはいかない。しじら織の浴衣からチラリと覗く胸元と、自分を見つめる綺麗な目を直視することができなかった。
鈴が彼への恋心を自覚して、さらに想いが通じ合ってからしばらく経つが、こういう反応は、いつまでたってもそのままだった。
「鈴……」
彼の手が寝起きの鈴の髪を優しく梳いていく。視線がゆっくりと降りてきて、あと少しで唇と唇が触れ合うというところで……
「「おはようございまーす!」」
元気な声とともに番台と和室を隔てるガラス戸がガラリと開く。白妙の動きがぴたりと止まり、ため息をついた。
ガラス戸の向こうに並んでいる二匹の小猿、太郎と次郎が声をあげる。
「あー! また、うちの神さまは! 鈴さまと一緒に寝てはならないと、あれほど佳代さまに言われているのに!」
「まったく油断も隙もない!」
鈴は慌てて起き上がり布団の上に正座した。あらぬところを見られてしまい真っ赤になる。
白妙も起き上がり、彼らをじろりと睨んだ。
「無粋な猿たちだ。主人のいいところを邪魔するしもべなど聞いたことがない」
太郎と次郎は、まだここが神社だったときの守り神で、夜は宿の前にある鳥居のそばで石像になって眠っている。白妙とは、ここが神社だったころから主従関係だ。温泉宿となってからは、番頭として働いている。
「だいたい私と鈴は夫婦になると約束した仲なんだ。同じ布団で眠るのにいったいなんの問題があるというのだ」
白妙が腕を組み不満そうにぶつぶつと言う。
太郎と次郎は白妙にというよりは、どちらかというと前女将であり鈴の祖母でもある大江佳代に忠誠を誓っているふしがあり、彼女の言うことをよくきく。
祖母は、昔から白妙が鈴を嫁にしたいと言っていたことに反対だったのである。
それは鈴に苦労をさせたくないという愛情からだったが、鈴自身が彼と夫婦になりたいと願うようになり、しぶしぶ了承してくれた。しかし、まだ正式に結婚していないうちに白妙が鈴に手を出すことがないよう見張ってくれと太郎と次郎に厳命しているというわけだ。
祖母自身は、村の病院で療養中だ。
「まだ夫婦ではありません。許嫁にございます」
太郎が白妙に言い返すと、彼は呆れたようにため息をついた。
「お前たちは、人の常識を知らないな? 許嫁同士ならば、一緒に寝るくらいは当たり前だ」
次郎が目をパチパチさせた。
「人の常識って……。ですが佳代さまも人ですよ」
「佳代はもう年寄りだから、時代遅れなんだよ」
そんなやり取りをしながらも、太郎と次郎は白妙の髪を結んだり、浴衣を整えたり彼の身支度を始める。口でやり合うほど両者の関係は悪くないのだ。
鈴も布団を畳んで押し入れにしまい、窓を開けて朝の空気を取りこんだ。十二月の晴れた朝の空気は冷たいけれど心が澄み渡るようで気持ちいい。
和室の窓の外はいぬがみ湯の裏庭になっている。天河山の森の木立ちの間から鹿がこちらを覗いていた。
「おはようございます」
少し大きな声で鈴が言うと、鹿は驚いたように耳をピンと立ち上げて、すぐに森の中へ消えていった。
「あれはただの鹿ですね」
いつの間にか隣に来ていた太郎が言う。
もとは神社の守り神だった太郎次郎が番頭をしているいぬがみ湯は、むろんただの温泉宿ではない。よろずの神さまが泊まりにくる温泉宿だ。普段は人間の願いを叶えることに忙しい神さま方に、ゆるりと過ごしていただき、宿代として天河村にご利益をいただく決まりになっている。そのおかげで天河村は、山深い場所にありながら活気に満ちている、というわけだ。
神さまたちの宿泊予約は、使いである鹿が伝えてくれる。だから鈴は、山の鹿を見かけるたびにこうして声をかけることにしている。
「この時期は、秋の収穫から新しい年を迎えるための準備で神さま方もお忙しいですから、お泊まりになられる方は少ないです」
太郎の言葉に、鈴は頷く。
宿のほうに余裕があるうちに、新年を迎えるための準備をしなくてはならない。なにせ、銭湯だけでも毎日忙しいのだ。合間を見て少しずつ……
そんなことを考えているうちに鈴の頭が女将モードに切り替わった。
胸いっぱいに冷たい空気を吸いこむと、完全に目が覚める。
今日もいぬがみ湯の忙しい一日が始まった。
本格的に女将を引き継いでから新調したあずき色の作務衣に着替えて、朝食を済ませた鈴がまず向かったのは、裏庭の水場だ。
山からの湧水が竹の筒からチョロチョロと流れ出ている。コップ一杯ぶんくらいを鉄瓶に入れ、台所へ戻り火にかけた。しばらくして沸騰した湯を、湯呑みに注ぐ。白妙に風呂上がりに飲んでもらうための白湯だ。
いぬがみ湯の湯は恵みの湯として地元の人たちに愛されている。湯に浸かると年寄りでも肌はつやつや、足腰はぴんしゃんすると評判だ。それにはもちろん秘密があって、地主神である白妙に一番風呂に入ってもらうことで、温泉がご利益を発揮するからだ。
以前は彼は白湯だけを飲んでいたのだが、鈴が女将になってからはラムネも好んで飲むようになった。水色の瓶に入った甘いラムネを嬉しそうに楽しんで、最後に白湯で喉を潤すのだ。
次に鈴が向かうのは、二階の客室だ。水を張ったバケツと雑巾を持って番台の脇の階段を上る。宿泊客がいなくても毎日簡単に掃除をすることになっている。まずは和室と廊下を隔てる襖と窓をすべて開けて空気を入れ替える。そして畳を乾拭きしてから、机や廊下を水拭きしていく。
ひと通りのことを終えて、鈴が階段を下りると、番台の横に太郎がいた。
「鈴さま。大浴場をお願いします。『ててて』たちが待ちかねておりまして、次郎が困っております」
「てててたちが? わかりました」
鈴は頷いて、大浴場へ続く渡り廊下へ向かう。渡り廊下では、『せわし男』が「せわし! せわし!」と言いながら走り回っていた。
彼はいぬがみ湯に住み着いているあやかしで、時折こうやって出てきては、居合わせた人をなんだか忙しい気持ちにさせるのだ。鈴が女将になってからは毎日出てくるようになった。
「おはようございます、せわし男さん」
鈴が声をかけると、はたと立ち止まり頷いてどろんと消えた。
大浴場の手前に休憩処があり、その先に藍色と朱色の暖簾が下がっている。暖簾の奥が脱衣所だ。休憩処の窓からは、天河村を見渡すことができる。日が差しこむ明るい中に、お坊さんが座ってゆらゆらと身体を揺らしていた。
「崔老師、おはようございます。今日もよろしくお願いいたします」
鈴が声をかけると、彼は揺れるのをやめて振り向き頷く。そしてまた向こうを向いて揺れ始めた。
彼はあんま師のあやかしで、入浴客の中に疲れた人がいれば、休憩処にて勝手に身体を揉む。恵みの湯といわれているもうひとつの秘密だ。
鈴が男湯の暖簾をくぐると、脱衣所にはたくさんの白くて丸いものが次郎を取り囲んでいる。てててだ。
「あ、鈴さま、よかった。てててたちが早く鈴さまに会いたいと言っていて」
次郎が鈴の姿を見てホッとしたような表情になった。
すると、次郎のまわりのてててたちが、鈴に気がついてぴょんぴょんと跳びはねながらこちらへやってくる。あっという間に今度は鈴が彼らに取り囲まれた。
ててては、いぬがみ湯の床掃除を手伝ってくれるあやかしだ。白くてぷにぷにの身体で廊下や脱衣所をててて、てててと転げ回り、床を綺麗にしてくれる。
「おはよう。今日もよろしくね」
声をかけながらひとりずつ撫でていく。すると、彼らは嬉しそうにくすくすと笑って、仕事に取りかかった。
脱衣所と廊下の床はてててたちに任せて、鈴は大浴場の掃除に取りかかる。脱衣所から浴場へ続く戸をガラガラと開けると、男湯女湯両方にまたがる大きなタイル画が鈴を迎えた。いぬがみ湯のシンボル、白狼のタイル画だ。
壮大な天河山を背にして、白狼姿の白妙が寝そべっていた。
「しろさま、今からお掃除をさせていただきます。うるさくして申し訳ありません」
彼に向かって鈴がそう断ったのは、営業時間外で彼がタイル画にいるときは、寝ていることが多いからだ。太郎と次郎はそんな彼をぐうたら神さまと言うけれど、営業時間中は入浴客のために、神さまらしくカッコよくポーズを決めていてくれる。今くらいゆっくりとしてほしかった。
「いや、かまわないよ。掃除をする鈴を見るのは好きだ。一生懸命で可愛らしい」
そう言ってタイル画の彼は白い尻尾をふりふりとした。
「そ、そうですか……では……」
『好きだ』『可愛らしい』という言葉に鈴の頬が熱くなる。うまく返事ができないまま掃除を始めた。腕まくりをして桶や椅子、鏡を磨いていく。その間、彼はにこにこ笑って鈴を見ていた。
大浴場が終わると、てててたちと一緒に脱衣所や渡り廊下、番台がある玄関の床掃除をする。ひと通りのことを終えると、一旦休憩に入る。
掃除が終わったことを白妙に伝えて一番風呂に入ってもらうようお願いするため、鈴は大浴場へ引き返した。
「しろさ……、きゃあ!」
暖簾をくぐると、彼は脱衣所にいた。浴衣を半分脱いでいる。
「すすすみません!」
慌てて鈴は回れ右をして出ていこうとするが、手を引かれて腕の中に閉じこめられてしまった。
「謝ることなど何もないよ、鈴。私たちの仲じゃないか。風呂に入ってくれと言いに来たんだろう?」
「そ、そうです。でででも、あの……!」
上半身裸の彼に抱きすくめられているという状況に、鈴は頭から茹で上がるような心地がする。どこを見ていいかわからずに目を閉じてジタバタする。
それなのに彼のほうはその鈴の動揺をまったく意に介さずに、平然としてあろうことか鈴の頭に口づける。
「今日もピカピカに掃除をしてくれたね。鈴が掃除をしてくれたあとの一番風呂は、これ以上ないくらいに心地よい」
そんなことを言いながら今度は頬に口づける。その甘い感覚に鈴の鼓動は跳びはねた。
「鈴も一緒に入ろう。たくさん動いて汗をかいただろう? 気持ちいいよ」
もはやこのまま大浴場に連れていかれそうな勢いである。慌てて鈴は首を横に振る。
「い、一緒に⁉ そ、そういうわけにはいきません」
鈴の言葉に白妙が残念そうにした。
「どうしてだ? 嫌なのか? 毎日一緒に寝ているのに」
もちろん嫌だというわけではない。でもご利益をいただくための大切な一番風呂に、人間の鈴が一緒に入るわけにいかない。それにこれから女将としての仕事がある。何より……
「ふたりでお風呂はちょっと……」
鈴はごにょごにょ言ってうつむいた。
ひとつの布団で寝るのとはわけが違うと思う。何せ服を脱ぐのだから。最後まで言えない鈴の考えを、白妙はお見通しのようだ。彼はにっこりと笑って真っ赤になっている鈴の頬を突く。
「可愛いなぁ鈴は。じゃあ、風呂はまたにしよう。でも、許嫁同士なんだからこのくらいは慣れてもらわないと」
「慣れるって、……どうしてですか?」
「どうしてってそりゃあ……」
そのとき。
「あー! 白妙さま! またべたべたしてる!」
次郎が暖簾から顔を出し、大きな声をあげる。
白妙が舌打ちをして鈴をつかまえていた腕を緩めた。
鈴は慌てて、彼から離れた。
「そうだ! 私、おばあちゃんのところへ行かなくちゃ」
掃除が終わったあとの休憩を利用して、鈴は毎日祖母の見舞いに行くことにしているのだ。
「じろちゃん、お留守番をお願いね。しろさま失礼します!」
今度こそ回れ右をして、暖簾をくぐり玄関を目指して渡り廊下を早足で歩く。火照る頬に手を当てて冷やそうとするけれど、なかなかもとに戻らなかった。
祖母が入院している病院は、天河村役場の近くにある。太郎と次郎に留守を頼み、鈴が病室を訪れると意外な先客がいた。
母、大江孝子である。
彼女は、ベッドの脇のパイプ椅子に座って祖母と話をしていたようだ。鈴の姿を見ると腕時計を見て立ち上がった。
「あら、鈴。ちょうどよかった。お母さんもう戻らなくちゃならないの。お昼休みで抜けてきたのよ。そしたらお義母さん、また」
祖母にそう言って、病室を出ていった。
母が校長として勤めている天河小学校はここからすぐ近くだから、仕事を抜けて祖母の顔を見に来たのだろう。着替えを届けに来たのかもしれない。
それ自体はいつものことだ。それよりも鈴が意外に思ったのは、母が病室に腰を落ち着け祖母と話をしていたことだった。
鈴の記憶にある限り祖母と母の関係は良好なものとは言えなかった。同じ村に住んでいながら互いの家を行き来することはほとんどなかったのだから。
祖母が倒れて入院してから、母はよく病院へ足を運んでいるけれど、それはただ息子の妻としての役割をこなしているだけだと鈴は思っていた。荷物を届けているのは知っていたが、あんなふうに話をしていたのが意外だった。
「最近は、よく話をするんだよ」
鈴の考えを読んだように祖母が言った。
「そうなんだ」
鈴はさっきまで母が座っていたパイプ椅子に腰を下ろした。
「おばあちゃんとお母さんは、お互いに嫌いなわけじゃないんだけど、似たところがあるからね。嫁と姑という関係だし、距離を取るほうが平和だという暗黙の了解があったんだよ。鈴には申し訳ないことをしたけど」
「それは別に……」
鈴は首を横に振った。関係が良好でないのは感じ取っていたが、ふたりともお互いの悪口を鈴に言うようなことはなかった。
「私が倒れてからお母さんにはずいぶん世話になったし、お母さんからは鈴がいぬがみ湯をやるサポートをしてやってほしいと頼まれてね。よく話をするようになったんだよ。お互いに歳を取って丸くなったのもあるだろうけど」
穏やかに微笑む祖母の笑顔に、鈴の胸があたたかくなる。鈴にとって大切な人たちが仲よくしてくれるのが嬉しかった。
「それに今回のことで、おばあちゃん、お母さんを見直したんだよ」
「今回のこと?」
「鈴と白妙さまの結婚のことだよ。お母さんが、まだ早いって白妙さまを止めてくれたんだろう?」
その言葉に鈴は頷いた。
「う、うん。まぁ……」
蛇のあやかし蛇沢喜一に、天河村を乗っ取られそうになるという事件のあと、想いが通じ合った鈴と白妙はそのまま夫婦になるつもりだった。それに、待ったをかけたのが、母だったのである。
鈴はまだ二十歳で女将を始めたばかりなのだから、まずは仕事に専念するべきだと主張して。
教師である母らしい意見に、鈴も納得した。
想いが通じ合った直後は、白妙を恋しく想う気持ちが先行して、すぐにでも夫婦になりたいと願った。しかし、冷静になって考えると女将の仕事だけでも毎日てんてこまいなのだ。同時に地主神の妻としての役割までできる自信はない。何より母には心から祝福してもらいたい。
天河村は、天河山のふもとに広がるのどかで小さな村である。緑の山々を縫うように走る赤い電車と無人駅、タクシーが一台だけ停まっている駅前ロータリー。
その先は山を登るように商店街が続いている。
村唯一の温泉宿いぬがみ湯は、和風建築の古い建物である。
山から源泉を引いている大浴場は、地元の人たちの憩いの場になっていて、毎日暖簾をかけるやいなや多くの入浴客たちが詰めかける。
季節は少し早く冬となり、日中はそれほどでもないのだが、やはり夜は冷える。
夜明け前、番台裏の和室で布団と毛布を被って寝ていた、いぬがみ湯の女将大江鈴は、肌寒さを感じてうっすらと目を開けた。起きるまでにはまだ時間がある。
いぬがみ湯は夜遅くまで営業しているため、鈴がすべての業務を終えて眠りにつくのはたいてい日付が変わるころ。その代わりに朝は少しゆっくりだ。
もう一眠りしようと隣で寝ているもふもふとした白い狼に身を寄せて腕を回しギュッと抱きつくと途端に替えたての畳のような大好きな香りに包まれる。温かい幸せな気持ちで胸をいっぱいにしながら、鈴はまた目を閉じた。
チュンチュンという雀の鳴き声を聞き、朝の清々しい空気を感じて鈴が次に目を覚ますと、抱きついていたはずの白狼はいつの間にか消えている。代わりに銀髪の男性が枕に腕をついてにっこりと微笑んでいた。
「おはよう、鈴」
しじら織の浴衣姿で少し長い髪を肩から流している彼こそが天河山の地主神、白妙だ。
白狼の神さまである彼は、こんなふうに人の姿になることもできるのだ。
「おはようございます、しろさま。起きていらしたんですね……」
「うん、鈴の可愛い寝顔を見ていたんだ」
そう言って彼は満月色の綺麗な目を細めると腕を伸ばして布団の中でギュッと鈴を抱きしめた。
「ゆっくり眠れたかい? 昨日も夜遅くまで一生懸命働いていたんだ。まだ寝てていいんだよ」
白妙は甘い言葉を口にしながら、鈴の髪に頬ずりをする。そんな彼の行動に、鈴の心臓は跳びはねるが、鈴も彼に問いかける。
「ぐっすり眠れました。しろさまは、ゆっくりお休みになられましたか?」
今は温泉宿兼銭湯として経営が成り立っているいぬがみ湯だが、その昔は彼を祀る神社だった。天河村は、地主神である白妙を祀るために開かれた村なのだ。そのときから現在にいたるまで、村人たちは彼に見守られて幸せに暮らしている。
鈴が女将になるまでは、彼はずっと大浴場のタイル画の中にいた。大浴場の白狼のタイル画はいぬがみ湯のシンボルだ。それは今も基本的には変わらないが、夜はタイル画から出てきてひとつの布団で一緒に寝てくれる。
昼間どれほど忙しく働いてくたくたに疲れたとしても、夜彼にくっついて眠れば朝には元気いっぱいになるのだ。
「私もよく眠れたよ。鈴とこうしていると心から安らぐのだろう、ついつい眠りすぎてしまう」
そう言って彼が鈴を包む腕に力をこめて至近距離からジッと見つめると、鈴の頬は熱くなる。
白狼姿の彼にはいつも自分から抱きつくけれど、人の姿のときはそうはいかない。しじら織の浴衣からチラリと覗く胸元と、自分を見つめる綺麗な目を直視することができなかった。
鈴が彼への恋心を自覚して、さらに想いが通じ合ってからしばらく経つが、こういう反応は、いつまでたってもそのままだった。
「鈴……」
彼の手が寝起きの鈴の髪を優しく梳いていく。視線がゆっくりと降りてきて、あと少しで唇と唇が触れ合うというところで……
「「おはようございまーす!」」
元気な声とともに番台と和室を隔てるガラス戸がガラリと開く。白妙の動きがぴたりと止まり、ため息をついた。
ガラス戸の向こうに並んでいる二匹の小猿、太郎と次郎が声をあげる。
「あー! また、うちの神さまは! 鈴さまと一緒に寝てはならないと、あれほど佳代さまに言われているのに!」
「まったく油断も隙もない!」
鈴は慌てて起き上がり布団の上に正座した。あらぬところを見られてしまい真っ赤になる。
白妙も起き上がり、彼らをじろりと睨んだ。
「無粋な猿たちだ。主人のいいところを邪魔するしもべなど聞いたことがない」
太郎と次郎は、まだここが神社だったときの守り神で、夜は宿の前にある鳥居のそばで石像になって眠っている。白妙とは、ここが神社だったころから主従関係だ。温泉宿となってからは、番頭として働いている。
「だいたい私と鈴は夫婦になると約束した仲なんだ。同じ布団で眠るのにいったいなんの問題があるというのだ」
白妙が腕を組み不満そうにぶつぶつと言う。
太郎と次郎は白妙にというよりは、どちらかというと前女将であり鈴の祖母でもある大江佳代に忠誠を誓っているふしがあり、彼女の言うことをよくきく。
祖母は、昔から白妙が鈴を嫁にしたいと言っていたことに反対だったのである。
それは鈴に苦労をさせたくないという愛情からだったが、鈴自身が彼と夫婦になりたいと願うようになり、しぶしぶ了承してくれた。しかし、まだ正式に結婚していないうちに白妙が鈴に手を出すことがないよう見張ってくれと太郎と次郎に厳命しているというわけだ。
祖母自身は、村の病院で療養中だ。
「まだ夫婦ではありません。許嫁にございます」
太郎が白妙に言い返すと、彼は呆れたようにため息をついた。
「お前たちは、人の常識を知らないな? 許嫁同士ならば、一緒に寝るくらいは当たり前だ」
次郎が目をパチパチさせた。
「人の常識って……。ですが佳代さまも人ですよ」
「佳代はもう年寄りだから、時代遅れなんだよ」
そんなやり取りをしながらも、太郎と次郎は白妙の髪を結んだり、浴衣を整えたり彼の身支度を始める。口でやり合うほど両者の関係は悪くないのだ。
鈴も布団を畳んで押し入れにしまい、窓を開けて朝の空気を取りこんだ。十二月の晴れた朝の空気は冷たいけれど心が澄み渡るようで気持ちいい。
和室の窓の外はいぬがみ湯の裏庭になっている。天河山の森の木立ちの間から鹿がこちらを覗いていた。
「おはようございます」
少し大きな声で鈴が言うと、鹿は驚いたように耳をピンと立ち上げて、すぐに森の中へ消えていった。
「あれはただの鹿ですね」
いつの間にか隣に来ていた太郎が言う。
もとは神社の守り神だった太郎次郎が番頭をしているいぬがみ湯は、むろんただの温泉宿ではない。よろずの神さまが泊まりにくる温泉宿だ。普段は人間の願いを叶えることに忙しい神さま方に、ゆるりと過ごしていただき、宿代として天河村にご利益をいただく決まりになっている。そのおかげで天河村は、山深い場所にありながら活気に満ちている、というわけだ。
神さまたちの宿泊予約は、使いである鹿が伝えてくれる。だから鈴は、山の鹿を見かけるたびにこうして声をかけることにしている。
「この時期は、秋の収穫から新しい年を迎えるための準備で神さま方もお忙しいですから、お泊まりになられる方は少ないです」
太郎の言葉に、鈴は頷く。
宿のほうに余裕があるうちに、新年を迎えるための準備をしなくてはならない。なにせ、銭湯だけでも毎日忙しいのだ。合間を見て少しずつ……
そんなことを考えているうちに鈴の頭が女将モードに切り替わった。
胸いっぱいに冷たい空気を吸いこむと、完全に目が覚める。
今日もいぬがみ湯の忙しい一日が始まった。
本格的に女将を引き継いでから新調したあずき色の作務衣に着替えて、朝食を済ませた鈴がまず向かったのは、裏庭の水場だ。
山からの湧水が竹の筒からチョロチョロと流れ出ている。コップ一杯ぶんくらいを鉄瓶に入れ、台所へ戻り火にかけた。しばらくして沸騰した湯を、湯呑みに注ぐ。白妙に風呂上がりに飲んでもらうための白湯だ。
いぬがみ湯の湯は恵みの湯として地元の人たちに愛されている。湯に浸かると年寄りでも肌はつやつや、足腰はぴんしゃんすると評判だ。それにはもちろん秘密があって、地主神である白妙に一番風呂に入ってもらうことで、温泉がご利益を発揮するからだ。
以前は彼は白湯だけを飲んでいたのだが、鈴が女将になってからはラムネも好んで飲むようになった。水色の瓶に入った甘いラムネを嬉しそうに楽しんで、最後に白湯で喉を潤すのだ。
次に鈴が向かうのは、二階の客室だ。水を張ったバケツと雑巾を持って番台の脇の階段を上る。宿泊客がいなくても毎日簡単に掃除をすることになっている。まずは和室と廊下を隔てる襖と窓をすべて開けて空気を入れ替える。そして畳を乾拭きしてから、机や廊下を水拭きしていく。
ひと通りのことを終えて、鈴が階段を下りると、番台の横に太郎がいた。
「鈴さま。大浴場をお願いします。『ててて』たちが待ちかねておりまして、次郎が困っております」
「てててたちが? わかりました」
鈴は頷いて、大浴場へ続く渡り廊下へ向かう。渡り廊下では、『せわし男』が「せわし! せわし!」と言いながら走り回っていた。
彼はいぬがみ湯に住み着いているあやかしで、時折こうやって出てきては、居合わせた人をなんだか忙しい気持ちにさせるのだ。鈴が女将になってからは毎日出てくるようになった。
「おはようございます、せわし男さん」
鈴が声をかけると、はたと立ち止まり頷いてどろんと消えた。
大浴場の手前に休憩処があり、その先に藍色と朱色の暖簾が下がっている。暖簾の奥が脱衣所だ。休憩処の窓からは、天河村を見渡すことができる。日が差しこむ明るい中に、お坊さんが座ってゆらゆらと身体を揺らしていた。
「崔老師、おはようございます。今日もよろしくお願いいたします」
鈴が声をかけると、彼は揺れるのをやめて振り向き頷く。そしてまた向こうを向いて揺れ始めた。
彼はあんま師のあやかしで、入浴客の中に疲れた人がいれば、休憩処にて勝手に身体を揉む。恵みの湯といわれているもうひとつの秘密だ。
鈴が男湯の暖簾をくぐると、脱衣所にはたくさんの白くて丸いものが次郎を取り囲んでいる。てててだ。
「あ、鈴さま、よかった。てててたちが早く鈴さまに会いたいと言っていて」
次郎が鈴の姿を見てホッとしたような表情になった。
すると、次郎のまわりのてててたちが、鈴に気がついてぴょんぴょんと跳びはねながらこちらへやってくる。あっという間に今度は鈴が彼らに取り囲まれた。
ててては、いぬがみ湯の床掃除を手伝ってくれるあやかしだ。白くてぷにぷにの身体で廊下や脱衣所をててて、てててと転げ回り、床を綺麗にしてくれる。
「おはよう。今日もよろしくね」
声をかけながらひとりずつ撫でていく。すると、彼らは嬉しそうにくすくすと笑って、仕事に取りかかった。
脱衣所と廊下の床はてててたちに任せて、鈴は大浴場の掃除に取りかかる。脱衣所から浴場へ続く戸をガラガラと開けると、男湯女湯両方にまたがる大きなタイル画が鈴を迎えた。いぬがみ湯のシンボル、白狼のタイル画だ。
壮大な天河山を背にして、白狼姿の白妙が寝そべっていた。
「しろさま、今からお掃除をさせていただきます。うるさくして申し訳ありません」
彼に向かって鈴がそう断ったのは、営業時間外で彼がタイル画にいるときは、寝ていることが多いからだ。太郎と次郎はそんな彼をぐうたら神さまと言うけれど、営業時間中は入浴客のために、神さまらしくカッコよくポーズを決めていてくれる。今くらいゆっくりとしてほしかった。
「いや、かまわないよ。掃除をする鈴を見るのは好きだ。一生懸命で可愛らしい」
そう言ってタイル画の彼は白い尻尾をふりふりとした。
「そ、そうですか……では……」
『好きだ』『可愛らしい』という言葉に鈴の頬が熱くなる。うまく返事ができないまま掃除を始めた。腕まくりをして桶や椅子、鏡を磨いていく。その間、彼はにこにこ笑って鈴を見ていた。
大浴場が終わると、てててたちと一緒に脱衣所や渡り廊下、番台がある玄関の床掃除をする。ひと通りのことを終えると、一旦休憩に入る。
掃除が終わったことを白妙に伝えて一番風呂に入ってもらうようお願いするため、鈴は大浴場へ引き返した。
「しろさ……、きゃあ!」
暖簾をくぐると、彼は脱衣所にいた。浴衣を半分脱いでいる。
「すすすみません!」
慌てて鈴は回れ右をして出ていこうとするが、手を引かれて腕の中に閉じこめられてしまった。
「謝ることなど何もないよ、鈴。私たちの仲じゃないか。風呂に入ってくれと言いに来たんだろう?」
「そ、そうです。でででも、あの……!」
上半身裸の彼に抱きすくめられているという状況に、鈴は頭から茹で上がるような心地がする。どこを見ていいかわからずに目を閉じてジタバタする。
それなのに彼のほうはその鈴の動揺をまったく意に介さずに、平然としてあろうことか鈴の頭に口づける。
「今日もピカピカに掃除をしてくれたね。鈴が掃除をしてくれたあとの一番風呂は、これ以上ないくらいに心地よい」
そんなことを言いながら今度は頬に口づける。その甘い感覚に鈴の鼓動は跳びはねた。
「鈴も一緒に入ろう。たくさん動いて汗をかいただろう? 気持ちいいよ」
もはやこのまま大浴場に連れていかれそうな勢いである。慌てて鈴は首を横に振る。
「い、一緒に⁉ そ、そういうわけにはいきません」
鈴の言葉に白妙が残念そうにした。
「どうしてだ? 嫌なのか? 毎日一緒に寝ているのに」
もちろん嫌だというわけではない。でもご利益をいただくための大切な一番風呂に、人間の鈴が一緒に入るわけにいかない。それにこれから女将としての仕事がある。何より……
「ふたりでお風呂はちょっと……」
鈴はごにょごにょ言ってうつむいた。
ひとつの布団で寝るのとはわけが違うと思う。何せ服を脱ぐのだから。最後まで言えない鈴の考えを、白妙はお見通しのようだ。彼はにっこりと笑って真っ赤になっている鈴の頬を突く。
「可愛いなぁ鈴は。じゃあ、風呂はまたにしよう。でも、許嫁同士なんだからこのくらいは慣れてもらわないと」
「慣れるって、……どうしてですか?」
「どうしてってそりゃあ……」
そのとき。
「あー! 白妙さま! またべたべたしてる!」
次郎が暖簾から顔を出し、大きな声をあげる。
白妙が舌打ちをして鈴をつかまえていた腕を緩めた。
鈴は慌てて、彼から離れた。
「そうだ! 私、おばあちゃんのところへ行かなくちゃ」
掃除が終わったあとの休憩を利用して、鈴は毎日祖母の見舞いに行くことにしているのだ。
「じろちゃん、お留守番をお願いね。しろさま失礼します!」
今度こそ回れ右をして、暖簾をくぐり玄関を目指して渡り廊下を早足で歩く。火照る頬に手を当てて冷やそうとするけれど、なかなかもとに戻らなかった。
祖母が入院している病院は、天河村役場の近くにある。太郎と次郎に留守を頼み、鈴が病室を訪れると意外な先客がいた。
母、大江孝子である。
彼女は、ベッドの脇のパイプ椅子に座って祖母と話をしていたようだ。鈴の姿を見ると腕時計を見て立ち上がった。
「あら、鈴。ちょうどよかった。お母さんもう戻らなくちゃならないの。お昼休みで抜けてきたのよ。そしたらお義母さん、また」
祖母にそう言って、病室を出ていった。
母が校長として勤めている天河小学校はここからすぐ近くだから、仕事を抜けて祖母の顔を見に来たのだろう。着替えを届けに来たのかもしれない。
それ自体はいつものことだ。それよりも鈴が意外に思ったのは、母が病室に腰を落ち着け祖母と話をしていたことだった。
鈴の記憶にある限り祖母と母の関係は良好なものとは言えなかった。同じ村に住んでいながら互いの家を行き来することはほとんどなかったのだから。
祖母が倒れて入院してから、母はよく病院へ足を運んでいるけれど、それはただ息子の妻としての役割をこなしているだけだと鈴は思っていた。荷物を届けているのは知っていたが、あんなふうに話をしていたのが意外だった。
「最近は、よく話をするんだよ」
鈴の考えを読んだように祖母が言った。
「そうなんだ」
鈴はさっきまで母が座っていたパイプ椅子に腰を下ろした。
「おばあちゃんとお母さんは、お互いに嫌いなわけじゃないんだけど、似たところがあるからね。嫁と姑という関係だし、距離を取るほうが平和だという暗黙の了解があったんだよ。鈴には申し訳ないことをしたけど」
「それは別に……」
鈴は首を横に振った。関係が良好でないのは感じ取っていたが、ふたりともお互いの悪口を鈴に言うようなことはなかった。
「私が倒れてからお母さんにはずいぶん世話になったし、お母さんからは鈴がいぬがみ湯をやるサポートをしてやってほしいと頼まれてね。よく話をするようになったんだよ。お互いに歳を取って丸くなったのもあるだろうけど」
穏やかに微笑む祖母の笑顔に、鈴の胸があたたかくなる。鈴にとって大切な人たちが仲よくしてくれるのが嬉しかった。
「それに今回のことで、おばあちゃん、お母さんを見直したんだよ」
「今回のこと?」
「鈴と白妙さまの結婚のことだよ。お母さんが、まだ早いって白妙さまを止めてくれたんだろう?」
その言葉に鈴は頷いた。
「う、うん。まぁ……」
蛇のあやかし蛇沢喜一に、天河村を乗っ取られそうになるという事件のあと、想いが通じ合った鈴と白妙はそのまま夫婦になるつもりだった。それに、待ったをかけたのが、母だったのである。
鈴はまだ二十歳で女将を始めたばかりなのだから、まずは仕事に専念するべきだと主張して。
教師である母らしい意見に、鈴も納得した。
想いが通じ合った直後は、白妙を恋しく想う気持ちが先行して、すぐにでも夫婦になりたいと願った。しかし、冷静になって考えると女将の仕事だけでも毎日てんてこまいなのだ。同時に地主神の妻としての役割までできる自信はない。何より母には心から祝福してもらいたい。
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