渡り廊下の恋

抹茶もち

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え、嫌ですけども

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 只今より、第41回体育祭を開催します。選手宣誓───・・・




 担任の先生達も自分達の受け持ちのクラスの団Tシャツを着て校庭に出ている今、団が色ごとで分かれているから校庭はすっごくカラフル。

 僕達黒団は、黒地がベースの団Tシャツを着て真っ黒なハチマキを頭に巻いているうえ、学校指定のジャージもベースが黒色なので運動靴以外は全身真っ黒黒スケ。


 心なしか白い体操服を着ている時より暑い気がするのは、黒が熱を吸収しやすいからなのか体育祭の熱気故なのかは定かじゃあ無いけど。



 各団長が前に出て一言ずつリレーのように選手宣誓をしている様を見ている周囲の人の瞳がキラキラしていて、なんだか僕も釣られてワクワクしてきちゃった。



 ───こうしてついに始まりました、高校初めての体育祭っ!




 開会式が終わった後、団ごとに分けられている大きなテントに置いてある椅子に各々座って応援したり自分の競技を待ったりするんだけど、特に座る場所は決まっていなくて。



 上級生は軒並み後ろ側に座っていくから、僕達は1番前の右端に座る事にしたんだ。


 右端から、匠、僕。

 1つ後ろの席に陸、静の順番で2列に並んで座った。


 1列で座ると端っこ同士は話しにくいしね。




 蓮先輩、どうしてるかな?蓮先輩が出場する競技は気合入れてたくさん応援しなきゃだ!なんて思いつつもそのまま体を捻って後ろを向いて、4人で最初の競技の話をしてたんだけど。





 突然隣に誰かが座った気配がしたので、匠の方から後ろに捻っていた体を戻して匠と逆隣の人に視線を向けようとした瞬間、僕の両肩に何かがバサリとかけられた。



 なになになに!?って一瞬パニックになりかけちゃったんだけど、その後聞こえてきた大好きな声に肩の力が一気に抜けた。



 「結翔、それ着ときな?日に焼けたら真っ赤になって痛くなるって言ってただろ」

 「蓮先輩!これって・・・、蓮先輩のジャージですか?」



 蓮先輩の声に安心した僕が肩にかけられたものに視線を向けると、僕には大きすぎる学校指定のジャージが羽織るように僕の肩にかけられていて。


 胸元に入っている『Tahara』って刺繍に気付いた僕はコテリと首を傾げつつ蓮先輩に視線を向けた。



 「ん、そう。競技中以外は着といた方が良い」

 「え、でも蓮先輩のジャージ、僕が着ちゃってて良いんですか?」

 「良いの。俺はどう頑張っても焼けない体質みたいだからジャージ無くても平気だし。・・・それに俺のジャージ着てる方が結翔は俺のって分かりやすいだろ?な、分かった?」

 「ひゃ・・・ひゃいぃ・・・!」



 蓮先輩が話しながら僕の腕を取って肩にかけてくれていたジャージに袖を通させようとしてくる。

 グッて近くなった距離と、僕が着たらぶかぶかになっちゃった蓮先輩の大きなジャージからいつも抱きしめてくれる時に香る大好きな香りを感じて、なんだか蓮先輩に体全部抱きしめられてるみたいな錯覚を起こしちゃって。

 極め付けに、『俺のジャージ着てる方が結翔は俺のって分かりやすいだろ?』ですよ!!!


 蓮先輩は僕の心臓をどうしたいの!!


 もうびっくりしちゃうくらい忙しなくバックバク動く心臓のせいで、分かった?って言われて、思わず反射的に変な返事しちゃった。



 そんな僕を見てハハって少し笑った蓮先輩は、そのまま褒めるように僕の頭を撫でてくれたんだけど。


 「ん、良い子。俺、もう出ないといけない競技の集合時間迫ってるから行くけどさ、俺が居なくてもちゃんとこまめに水分補給しなきゃダメだぞ?今日、割と暑いから。約束できる?」



 僕の顔を覗き込むように見ながらそう言われて。


 このままちゅーしちゃいそうな距離感に余計に大きく鳴り始めた心臓と、自分も忙しい筈なのに僕の心配までしてくれる蓮先輩の気持ちに胸がギュッてしちゃってなにも言えなくなっちゃった僕は、必死で何度もコクコクと首を縦に振って答えたんだ。



 「よし。じゃあ行ってくるな」



 そう言って笑顔で立ち上がった蓮先輩。

 わぁ!僕まだ蓮先輩に頑張ってくださいって言えてない!ってハッてした僕は思わず蓮先輩の団Tシャツの裾を掴んで引き止めちゃった。



 「れ、蓮先輩っ!頑張ってくださいっ!僕、たくさん応援してますっ!」


 一気に言い切った僕は、言えてよかったぁ!ってホッとしてふにゃりと顔を緩ませて蓮先輩を見上げた。


 「引き止めちゃってごめんなさい。行ってらっしゃいです!」



 「あー・・・新婚さんみてぇ。俺の結翔がクソ可愛い」


 掌で目を覆って空を見上げた蓮先輩が何かを呟いてたんだけど、声が小さくて聞き取れなかった。


 「え?」

 「・・・ありがとな、結翔。結翔に応援してもらえたら俺もっと頑張れるわ。行ってくるな」


 僕が聞き返そうとした瞬間、サッと顔を戻して僕の頭を撫でて笑ってくれた蓮先輩に聞き返すタイミングを逃しちゃった。


 そのまま少し早足で集合場所へと向かう蓮先輩に手を振りながら、さっきなんて言ってたんだろうなぁってちょっと考えてたんだけど。




 「過保護が凄いね」
 「溺愛だね」
 「彼シャツならぬ彼ジャージ・・・ずるい」




 ヒソヒソとそんな会話が交わされていた事に、蓮先輩の事に気を取られていた僕は全く気付けなかった。



 
 うーん・・・蓮先輩って意外と独り言多いのかな?なんて言ってたのか聞き取れない事よくあるんだよねぇ。

 でも独り言だったら聞き取れない方がむしろ良いのかなぁ?

 僕だったら誰にも聞かれて無いはずの独り言に反応されちゃったらちょっと恥ずかしいし。


 うん、そうだよね、もう気にするのはやめようっ!





 スッカリ自己完結しちゃった僕は、なんとなくすっきりとした気持ちでまだなにやら話している3人の方へ体を向けたのであった。



 「ごめんね、なに話してたの~?」

 「「「なんでもないよっ!」」」




 ・・・・・・えぇ?




 
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