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12.文武抗争編
57モノクロームの君 ②
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「……あ」
筐体の向こうに認めた姿に、雷奈の焦点がそちらへ移った。
黒髪がおそろいの二人のうち、左側のパーカーにスキニージーンズの少女が、小さく手を挙げて挨拶した。
「先ほどぶりだ、皆。……木雪さんは帰られたのか」
「うん、ついさっき。すれ違わんかった?」
「ああ」
その隣、親密さを感じさせる距離でもう一人が目を輝かせた。
「それが話に聞くチエアリ検出センサーね! すごいじゃない、快挙の開発だわ!」
パーカーの少女・ルシルから聞いていたらしいせつなは、雷奈のもとまでやってくると、四方八方からその筐体をのぞきこんだ。
「こんな小さな、おもちゃみたいな物体がねぇ! でも、これが量産されたら先の侵攻みたいな大きな犠牲も出ずに済むかもね。最初の犠牲って、不意打ちだったんでしょう?」
「まあな……」
太刀打ちできるかどうかは別問題だが、少なくとも存在を察知できれば、警戒態勢には入れる。
(……まだ実証実験できてない未完成品やけど)
テンションの上がっているせつなに水を差しても悪いので、一応、それは黙っておいた。
ともかく、客人が到着したのだ。部屋に案内し、お茶を出すのが主の役割である。
「さあ、上がって、せつな。あ、奥にいるのが双子の妹の雷華ったい」
「こんにちは。あら、本当にそっくりね。表情は全然違うけど」
にこにこと笑いかけるせつなに、雷華が視線をくれた。そのまま「む」と一言に足るか足らないかの反応をして、湯を沸かしているポットに目を戻す――と思いきや。
「お前か」
「一応訊くわ。何が、かしら」
「これから雷志の蘇生の謎を解いてくれるというのは」
さしもの雷華も興味を引かれるゆえんが、それだ。
雷志復活の謎を解くべく、本人との面会に美雷が指名した人物。それこそが、猫力学研究者・天河雪那なのだ。
「期待には応えてみせるわ」
その氷猫は、三つの笑顔をもつ。十四歳の少女としての無邪気な破顔。垂河村の一の姫としての上品な微笑。そして、異才の猫力学者として見せる、この不敵な笑みだ。
「入隊を諦めた私に、希兵隊の最高司令官から命を受けるなんて、千載一遇の機会だわ。腕の見せ所よ」
「うむ、お手並み拝見だ」
「あんた何様だよ」
続いて上がってきた氷架璃にそうツッコまれたが、雷華はどこ吹く風だ。
ちょうどその時、湯が沸いた。
「あ、お茶入れるけん、座って。氷架璃や芽華実たちのも入れなおすね」
「サンキュ」
「ありがとう」
雷奈が甲斐甲斐しくお茶の準備をする。しばらく流し目でそれを見ていた雷華も、ホストの自覚はあるらしく、無造作に手伝い始めた。
湯呑みの緑茶を受け取りながら、せつながくつろぐ。
「それにしても、やっぱり和室はいいわねぇ。落ち着く」
「どげんしたと、急に」
「今住んでるところは洋室なんだけど、実家は和風建築でね。自室も和室だったから、恋しいのよ」
村長本家の邸宅は広大な日本家屋で、納屋から蔵から、庭には鹿おどしまである。脅す鹿もいないのだが。
「懐かしいわね。あの頃はよく、畳の真ん中に敷いた布団の中で本を読んだり、お見舞いに来るルシルをどうからかってやろうか考えたりしてたなー」
「お前、そんなくだらないこと考えてたのか。ちゃんと休んでいろよ」
何気ない会話の中に垣間見えた、幼少期のせつな。彼女には、初めから今の日常があったわけではないのだ。
「そっか。せつな、昔は今より体が……」
「あの時はまだ薬も封印もなかったからね。でも、こっちに来て、最新の対症療法を受け始めてからはだいぶ楽よ。この前みたいな無茶をしない限りね」
言って、手をひらひらと振るせつなは、たいして気にした様子もない。
雷奈はといえば、せつなが抱える複雑な葛藤に同情しながら、ふとあることに気づいた。
あの時――ホムラと対峙した時、せつなは通常では考え難い現象を起こした。
水を操ってみせたのだ。氷猫の彼女が。
フィライン・エデンの猫は、生まれつき、源子を変換できる属性が決まっている。それは原則として、一つに決まるはずなのだ。だからこそ、雷奈が雷と星の二種の猫力を使えることが疑問視されているわけである。
もう一人の例外である彼女に、雷奈は問うてみた。
「あの、せつな。ちょっと訊きたいっちゃけど」
「なぁに?」
「せつなって、水猫と氷猫の二種類の猫種をあわせもっとると?」
真剣な顔で見つめてくる雷奈に、せつなは意外な言葉を聞いたように目を丸くして、それからくすっと笑った。
「まさか。もしそうだったら、私が研究対象になっちゃうわ」
「じゃあ、あれは……」
「こいつの研究成果だ」
隣でルシルが親指でくいっと従姉を指した。
「せつなの個人研究テーマは『猫種変換』。源子を物質に変換する段階ではなく、物質になった後の源子に手を加えることで、別の物質に転化させることができるんだ」
「ミストは『源子の運動および状態の人為的変容』なんて大層な言い方してたけど、要はそういうことよ」
「……ということは……」
「一度源子を氷に変換し、氷塊を作った後、それを構成している源子の結合をほどいて、運動を活性化させてやることで、融解させる。それが、私があの時見せた技よ。液体にした後の源子は、原理上は水術として扱えるはずだから、将来的には私は氷猫でありながら水術が使えるようになるかもね。まだ無理だけれど」
雷奈はせつなの言葉を反芻し、咀嚼した。なるほど、氷と水は自然界でも行き来しうる近しい物質だ。というより、状態が違うだけで同じものだと言っていい。だから、氷猫のせつなが、何らかのテクニックを用いて故意に氷を溶かし、水を生み出せるのも理解できる。
だが、雷と星はどうだろう。雷が星になることもなければ、星が雷になることもない。無意識であったとしても、源子の運動を変えることで二種の猫術を使えるようになったとは思えない。
雷奈の思考を見透かしたように、せつなが微笑む。
「ルシルから聞いてるわよ。あなた、雷と星の二種の猫力をもっているんでしょう。お察しの通り、それは私がやってるようなことでは説明がつかない」
「そうったいね……」
何か糸口がつかめるかも、と思ったが、そううまくはいかなかった。
なおも思索していた芽華実が、首をかしげる。
「四姉妹で雷奈だけに猫力が宿ったことは関係あるのかしら。雷帆ちゃんや雷夢さんに比べて、お父さんの血を濃く受け継いだと考えても、双子の雷華には猫力が宿らなかったのは不思議よ」
「確かに。じゃあ何か、雷華の分まで吸い取っちゃった、的な?」
「返せ、雷奈」
「いや、まだ決まったわけやないし!」
即座に雷奈に返還要求した雷華に、せつなも「その可能性は低いわ」と否定を口にする。
「遺伝元の父親は星猫だったわけで、雷の遺伝子がどこから来たかわからないわ。仮に三日月ガオンの両親のどちらかが雷猫だったとしても、雷と星とでは星は潜性遺伝子。星猫が雷の遺伝子をもっているとは思えないのよ。だから、後天的と考えた方が自然」
「双子なのに猫力の有無に差があるのは?」
「双子は同じものをもって生まれてくると考えられがちだし、実際そういう側面もあるけれど、その逆もある。つまり、一つのものを分け合って生まれてくることがあるのよ。片方がもつことで、もう片方がもたざる者になるということが」
「……ということは、やはり私のもつべきものを奪い取って生まれてきたのが雷奈ということか。強欲な」
「別に奪いたくて奪ったわけやなかけん!」
きゃんきゃんと吠える雷奈を、雷華が他人事のように涼しくいなす。
双子の妹にもかかわらず、雷華が猫力をもたずに生まれてきた理由の一つの可能性は明らかになった。だが、そもそもの疑問は結局晴れないままだ。
「あんたみたいな猫力学者が研究すれば、この謎も分かりそうか?」
「本格的に取り組めば、あるいは。でも……」
氷架璃の問いに答えた後、笑いをこらえるように口元に力を込めながら、せつなが視線を向けたのは、水色と白の二匹の猫だ。
「誰かさんたちが容易には許してくれないからねぇ」
「どんな手続きを踏むのかをきっちり説明してもらったうえで、ボクたちの立ち会いの下でなら認めなくはないけど」
「それと、その結果が三人にショックを与えないという保証付きでね」
「ここまで言われたら、倫理審査も通らないわよねぇ」
学院で研究を行うには、倫理審査というものに通す必要があるらしい。これは、その研究は誰かに、あるいは何かに悪影響を与えないか、モラルに反した研究でないかを他の研究者の目で審査するプロセスだ。その承認を得ないと、研究は実行には踏み出せない。
「そういう保守主義が学問の発展を遅らせているという見方はあるけれど」
「人間との関係が悪化した結果、二家はより強固な保守主義に出るしかなくなる。その先は学問どころかフィライン・エデンの発展の遅滞さ」
「八方ふさがりね」
お手上げのポーズをとってから、せつなは「まあでも」と付け加える。
「なぜか猫力を授かった氷架璃と芽華実。父親の遺伝で猫力を授かった雷奈。二種の猫力を使えるのは後者のみ。なら、雷奈の出生が鍵を握っていると見ていいでしょうね。とはいえ、それ以上のことは今はわからないし、ついでに氷架璃と芽華実が猫力を授かった理由も謎のまま」
「結局、分からずじまいちゃかぁ……」
さしもの学者も、探究を取り上げられてしまえば、常人と同じ憶測を口にするしかなくなる。
雷奈の力の抜けたような言葉を最後に、一同の間に沈黙が落ちる。
しばしの静けさの後、そこへ雷華の小さなため息が滑り込んだ。
「名誉挽回の機だ、猫力学者」
その人差し指は、障子だけ閉じた縁側の方を指していた。薄い紙に透けて、一つの人影が見える。
「次こそ期待に応えてみろ」
おじゃまします。品のいい声とともに、障子が開かれた。
せつなが挑戦するブラックボックス・三日月雷志の到着だ。
筐体の向こうに認めた姿に、雷奈の焦点がそちらへ移った。
黒髪がおそろいの二人のうち、左側のパーカーにスキニージーンズの少女が、小さく手を挙げて挨拶した。
「先ほどぶりだ、皆。……木雪さんは帰られたのか」
「うん、ついさっき。すれ違わんかった?」
「ああ」
その隣、親密さを感じさせる距離でもう一人が目を輝かせた。
「それが話に聞くチエアリ検出センサーね! すごいじゃない、快挙の開発だわ!」
パーカーの少女・ルシルから聞いていたらしいせつなは、雷奈のもとまでやってくると、四方八方からその筐体をのぞきこんだ。
「こんな小さな、おもちゃみたいな物体がねぇ! でも、これが量産されたら先の侵攻みたいな大きな犠牲も出ずに済むかもね。最初の犠牲って、不意打ちだったんでしょう?」
「まあな……」
太刀打ちできるかどうかは別問題だが、少なくとも存在を察知できれば、警戒態勢には入れる。
(……まだ実証実験できてない未完成品やけど)
テンションの上がっているせつなに水を差しても悪いので、一応、それは黙っておいた。
ともかく、客人が到着したのだ。部屋に案内し、お茶を出すのが主の役割である。
「さあ、上がって、せつな。あ、奥にいるのが双子の妹の雷華ったい」
「こんにちは。あら、本当にそっくりね。表情は全然違うけど」
にこにこと笑いかけるせつなに、雷華が視線をくれた。そのまま「む」と一言に足るか足らないかの反応をして、湯を沸かしているポットに目を戻す――と思いきや。
「お前か」
「一応訊くわ。何が、かしら」
「これから雷志の蘇生の謎を解いてくれるというのは」
さしもの雷華も興味を引かれるゆえんが、それだ。
雷志復活の謎を解くべく、本人との面会に美雷が指名した人物。それこそが、猫力学研究者・天河雪那なのだ。
「期待には応えてみせるわ」
その氷猫は、三つの笑顔をもつ。十四歳の少女としての無邪気な破顔。垂河村の一の姫としての上品な微笑。そして、異才の猫力学者として見せる、この不敵な笑みだ。
「入隊を諦めた私に、希兵隊の最高司令官から命を受けるなんて、千載一遇の機会だわ。腕の見せ所よ」
「うむ、お手並み拝見だ」
「あんた何様だよ」
続いて上がってきた氷架璃にそうツッコまれたが、雷華はどこ吹く風だ。
ちょうどその時、湯が沸いた。
「あ、お茶入れるけん、座って。氷架璃や芽華実たちのも入れなおすね」
「サンキュ」
「ありがとう」
雷奈が甲斐甲斐しくお茶の準備をする。しばらく流し目でそれを見ていた雷華も、ホストの自覚はあるらしく、無造作に手伝い始めた。
湯呑みの緑茶を受け取りながら、せつながくつろぐ。
「それにしても、やっぱり和室はいいわねぇ。落ち着く」
「どげんしたと、急に」
「今住んでるところは洋室なんだけど、実家は和風建築でね。自室も和室だったから、恋しいのよ」
村長本家の邸宅は広大な日本家屋で、納屋から蔵から、庭には鹿おどしまである。脅す鹿もいないのだが。
「懐かしいわね。あの頃はよく、畳の真ん中に敷いた布団の中で本を読んだり、お見舞いに来るルシルをどうからかってやろうか考えたりしてたなー」
「お前、そんなくだらないこと考えてたのか。ちゃんと休んでいろよ」
何気ない会話の中に垣間見えた、幼少期のせつな。彼女には、初めから今の日常があったわけではないのだ。
「そっか。せつな、昔は今より体が……」
「あの時はまだ薬も封印もなかったからね。でも、こっちに来て、最新の対症療法を受け始めてからはだいぶ楽よ。この前みたいな無茶をしない限りね」
言って、手をひらひらと振るせつなは、たいして気にした様子もない。
雷奈はといえば、せつなが抱える複雑な葛藤に同情しながら、ふとあることに気づいた。
あの時――ホムラと対峙した時、せつなは通常では考え難い現象を起こした。
水を操ってみせたのだ。氷猫の彼女が。
フィライン・エデンの猫は、生まれつき、源子を変換できる属性が決まっている。それは原則として、一つに決まるはずなのだ。だからこそ、雷奈が雷と星の二種の猫力を使えることが疑問視されているわけである。
もう一人の例外である彼女に、雷奈は問うてみた。
「あの、せつな。ちょっと訊きたいっちゃけど」
「なぁに?」
「せつなって、水猫と氷猫の二種類の猫種をあわせもっとると?」
真剣な顔で見つめてくる雷奈に、せつなは意外な言葉を聞いたように目を丸くして、それからくすっと笑った。
「まさか。もしそうだったら、私が研究対象になっちゃうわ」
「じゃあ、あれは……」
「こいつの研究成果だ」
隣でルシルが親指でくいっと従姉を指した。
「せつなの個人研究テーマは『猫種変換』。源子を物質に変換する段階ではなく、物質になった後の源子に手を加えることで、別の物質に転化させることができるんだ」
「ミストは『源子の運動および状態の人為的変容』なんて大層な言い方してたけど、要はそういうことよ」
「……ということは……」
「一度源子を氷に変換し、氷塊を作った後、それを構成している源子の結合をほどいて、運動を活性化させてやることで、融解させる。それが、私があの時見せた技よ。液体にした後の源子は、原理上は水術として扱えるはずだから、将来的には私は氷猫でありながら水術が使えるようになるかもね。まだ無理だけれど」
雷奈はせつなの言葉を反芻し、咀嚼した。なるほど、氷と水は自然界でも行き来しうる近しい物質だ。というより、状態が違うだけで同じものだと言っていい。だから、氷猫のせつなが、何らかのテクニックを用いて故意に氷を溶かし、水を生み出せるのも理解できる。
だが、雷と星はどうだろう。雷が星になることもなければ、星が雷になることもない。無意識であったとしても、源子の運動を変えることで二種の猫術を使えるようになったとは思えない。
雷奈の思考を見透かしたように、せつなが微笑む。
「ルシルから聞いてるわよ。あなた、雷と星の二種の猫力をもっているんでしょう。お察しの通り、それは私がやってるようなことでは説明がつかない」
「そうったいね……」
何か糸口がつかめるかも、と思ったが、そううまくはいかなかった。
なおも思索していた芽華実が、首をかしげる。
「四姉妹で雷奈だけに猫力が宿ったことは関係あるのかしら。雷帆ちゃんや雷夢さんに比べて、お父さんの血を濃く受け継いだと考えても、双子の雷華には猫力が宿らなかったのは不思議よ」
「確かに。じゃあ何か、雷華の分まで吸い取っちゃった、的な?」
「返せ、雷奈」
「いや、まだ決まったわけやないし!」
即座に雷奈に返還要求した雷華に、せつなも「その可能性は低いわ」と否定を口にする。
「遺伝元の父親は星猫だったわけで、雷の遺伝子がどこから来たかわからないわ。仮に三日月ガオンの両親のどちらかが雷猫だったとしても、雷と星とでは星は潜性遺伝子。星猫が雷の遺伝子をもっているとは思えないのよ。だから、後天的と考えた方が自然」
「双子なのに猫力の有無に差があるのは?」
「双子は同じものをもって生まれてくると考えられがちだし、実際そういう側面もあるけれど、その逆もある。つまり、一つのものを分け合って生まれてくることがあるのよ。片方がもつことで、もう片方がもたざる者になるということが」
「……ということは、やはり私のもつべきものを奪い取って生まれてきたのが雷奈ということか。強欲な」
「別に奪いたくて奪ったわけやなかけん!」
きゃんきゃんと吠える雷奈を、雷華が他人事のように涼しくいなす。
双子の妹にもかかわらず、雷華が猫力をもたずに生まれてきた理由の一つの可能性は明らかになった。だが、そもそもの疑問は結局晴れないままだ。
「あんたみたいな猫力学者が研究すれば、この謎も分かりそうか?」
「本格的に取り組めば、あるいは。でも……」
氷架璃の問いに答えた後、笑いをこらえるように口元に力を込めながら、せつなが視線を向けたのは、水色と白の二匹の猫だ。
「誰かさんたちが容易には許してくれないからねぇ」
「どんな手続きを踏むのかをきっちり説明してもらったうえで、ボクたちの立ち会いの下でなら認めなくはないけど」
「それと、その結果が三人にショックを与えないという保証付きでね」
「ここまで言われたら、倫理審査も通らないわよねぇ」
学院で研究を行うには、倫理審査というものに通す必要があるらしい。これは、その研究は誰かに、あるいは何かに悪影響を与えないか、モラルに反した研究でないかを他の研究者の目で審査するプロセスだ。その承認を得ないと、研究は実行には踏み出せない。
「そういう保守主義が学問の発展を遅らせているという見方はあるけれど」
「人間との関係が悪化した結果、二家はより強固な保守主義に出るしかなくなる。その先は学問どころかフィライン・エデンの発展の遅滞さ」
「八方ふさがりね」
お手上げのポーズをとってから、せつなは「まあでも」と付け加える。
「なぜか猫力を授かった氷架璃と芽華実。父親の遺伝で猫力を授かった雷奈。二種の猫力を使えるのは後者のみ。なら、雷奈の出生が鍵を握っていると見ていいでしょうね。とはいえ、それ以上のことは今はわからないし、ついでに氷架璃と芽華実が猫力を授かった理由も謎のまま」
「結局、分からずじまいちゃかぁ……」
さしもの学者も、探究を取り上げられてしまえば、常人と同じ憶測を口にするしかなくなる。
雷奈の力の抜けたような言葉を最後に、一同の間に沈黙が落ちる。
しばしの静けさの後、そこへ雷華の小さなため息が滑り込んだ。
「名誉挽回の機だ、猫力学者」
その人差し指は、障子だけ閉じた縁側の方を指していた。薄い紙に透けて、一つの人影が見える。
「次こそ期待に応えてみろ」
おじゃまします。品のいい声とともに、障子が開かれた。
せつなが挑戦するブラックボックス・三日月雷志の到着だ。
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