フィライン・エデン Ⅲ

夜市彼乃

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11.七不思議編

51降臨コーリング ③

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***

 かくして、慣れ親しんだ日常に戻ってきた雷奈は、今日もいつものように友人たちと帰宅中であった。
 が、今日に限っては、この後、氷架璃と芽華実とともに一つのアポイントメントを予定していた。
「美雷が来るのは四時やったよね?」
「ええ。今日はホームルームも短かったし、雷華が雷志さんを迎えに行って帰ってくるほうが早いくらいね」
 雷奈が帰還してから約四ヶ月。その後、美雷に会うのは今日が初めてなのだ。
 ガオンのこと、そして雷志のことも、美雷に聞けばわかるかもしれないと思っていたのだが、なかなか会えずにいたのだった。
 ガオンはその後出現することはなく、一区切りつけられた心地だったが、雷志復活の謎はずっと少女たちの頭に引っ掛かり続けていた。なので、今日、美雷の口から答えが聞けるかもしれないと思うと、四時の会合が待ちきれない。
 その雷志も、光丘に新居を構えて四ヶ月になるということだが、不思議なほど生前と同じように過ごせているようだ。この町では、雷奈たちの叔母として通すつもりらしい。彼女も、今日は自身の謎が明かされるかもしれないことを心待ちにしていた。
 ちょうどT字路で、人通りが絶えた。それを見計らって、アワとフーの姿がすうっと溶けて縮む。瞬く間に、アワは水色の、フーは白色の毛並みの猫の姿へと戻った。
「じゃ、ボク達は帰るから、美雷や雷志さんによろしくね」
「あーはいはい。伝えとくわ」
「また明日ね、アワ、フー」
 三人は手を振って、ワープフープへ向かう二人を見送ると、再び歩き出した。行先は会合場所にして雷奈の居候の地、光丘神社だ。
 氷架璃が鞄ごと両手を頭の後ろに回してぼやく。
「しっかし、最近ホント付き合い悪いなぁ、あの二人」
「帰ってすぐに術の修業しとるっちゃろ?」
「修行ってなんだよ。少年マンガかよ」
 鼻で笑う氷架璃に、複雑そうな顔をした芽華実が、ささやくように言った。
「……それくらい、私たちをガオンと戦わせてしまったのが悔しかったのよ」
 雷奈が戻ってきて諸々が落ち着いたころ。二人は、「今回の件を重く受け止めて、しばらく猫術の修業をする」と言い出し、三学期からは放課後の付き合いを断るようになった。それがループして至るこの四月下旬まで続いているというわけである。
 どこでどんな修行をしているのか気になる三人だが、両者とも何も教えてくれなかった。案外、家でやっているのかもしれないが、思えば二人の実家は場所すら知らない。
「アワもフーも、精いっぱいやってくれたわけやし、気にせんでいいのにね。アワは希兵隊でもないのに親父に挑んでいったし、フーは医療関係者でもないのに私を回復させてくれたし、見直したったい」
「私もそう思うけど……正統後継者としてのプライドがあるんじゃないかしらね……」
 芽華実がどこか気の毒そうに言った傍らで、氷架璃が「あ」と人差し指を立てた。
「修行といえばさ、ルシルたちも今、躍起になってるんだろ?」
 ニヤニヤした表情は、いたずらを思いついた子供の顔。芽華実が苦虫を噛み潰したように唇を横に引く。
「……氷架璃ったら、まさか」
「チャチャ入れに行かない?」
「イイ趣味しとるねー」
 芽華実の斜め後ろで、雷奈も皮肉気味に苦言を呈する。
 ルシル達とは、美雷同様、雷奈が生還してからは会っていない。とはいえ、事の経緯は美雷からすでに聞き及んでいるようだ。メールの返信によると、どうやら勤務外時間を返上して稽古に励んでいるらしい。
 またルシルの悪いワーカホリック癖が……と思いきや、コウと霞冴も仲間入りしていた。仲良し三人組そろって、人間たちには目もくれず、ストイックな向上心の奴隷となってしまったわけだ。
 ただ、彼らがアワやフーと異なるのは、居場所が分かっている点である。希兵隊本部には、きちんと道場や運動場が整備されているのだ。雷奈たちのいざ知らぬ山へこもりに出かける由もあるまい。
 ゆえに、会いに行こうと思えば、こちらから会いに行けるのである。
「な、今日なら『美雷を迎えに来たついでに~』って感じでいけるんじゃね?」
「私たちのことを思って頑張ってくれてるのよ。からかっちゃダメよ」
「ばってん、根詰め過ぎてもいかんしね。私達が行ったら、立ち話でもしてちょっと息抜きできんかね?」
「確かに……遮二無二し過ぎるのはよくないわね……」
 一番たしなめる姿勢を見せていた芽華実もなびいてきたので、氷架璃は「決まり!」と足先を方向転換させた。雷奈も楽しげにそれに続く。
「なんだかんだで、もう三か月ぶりだな!」
「そうっちゃね。それじゃ、久々に行くったい、フィライン・エデン!」

***

 薄暗い路地裏、袋小路。
 人払いの術が常時かかっている状態なのか、人間は無意識に避け、動物たちは本能的な警戒心から近づこうとしないその奥に、異世界への扉はある。
 大きめのマンホールのような円からは青白い光が常時漏れており、足を踏み入れれば燐光があふれる。眩さに目を閉じ、そのまぶたを再び開けた時には、もう一つの世界が視界いっぱいに広がっていた。
 まるで祀られているように四辺を紙垂のついた柱で囲まれたワープフープは、小高い芝地にあるため、絶景というほどではないものの、一帯の町が見下ろせる。さっそく長い階段を降り、通りに出ると、舗装されていない土の道沿いに、ぽつぽつと家屋が並ぶ風景に迎えられる。
 昭和レトロにも見えるが、建物同士の間隔がそれほど詰まっているわけではなく、電柱や電線もない町並みは、どの地域、どの時代を探しても人間界で同じものを見つけることは困難だろう。人間界の知識で例えるなら、ロールプレイングゲームに出てくるシティやらタウンやらを三次元に起こせばこんな感じだろうか、という地理だ。
 希兵隊の本部は、ワープフープから二十分ほど歩いた場所にある。前世代的な家屋が多いフィライン・エデンでも、もう一時代さかのぼったような建物の集合体がそれだ。
 黒い瓦屋根に鼠色の石壁の平屋が、要である中央隊舎を囲むようにいくつも立ち並ぶ。それらの中の一つが、道場だ。
 雷奈ほど上手く猫術を使えなかった氷架璃と芽華実は、たびたびここで隊員に特訓に付き合ってもらっていた。そのため、武道経験のない二人にとっても、体育館に似て非なるこの建物は、すっかり珍しい風景ではなくなっていた。
「正門を通してくれた子によると、道場にはルシルとコウがいるんだよな」
「霞冴は運動場って言ってたったいね。まあ、一対一の稽古だとすると、三人いても一人が暇しちゃうけんね」
「それにしても、やっぱり門番の子も、ちょっと微妙な顔してたじゃない」
 本部の門には、面識のない隊員が二名、それぞれ人間姿と猫姿で立っていた。彼らに、ルシル達に会いに来た旨を伝えると、「今は稽古中みたいですけど……」と戸惑い気味に答えられた。それでも入れてくれないわけではないようで、中に通されたものの、顔を見合わせて躊躇するような二人の様子が、少なくとも芽華実には気にかかった。なぜ戸惑うのかはわからないまま、足は進めるのが雷奈、毛ほども気にしないのが氷架璃である。
 道場は、正門から見て奥のほうだ。手洗い場がある他は木々が立ち並ぶだけの道場裏へと回ると、開け放たれた大扉から、稽古の様子が聞こえてくる。木刀の打ち合う音、足が床を打つ振動、残響。間隔を開けず、せわしなく続けざまに聞こえてくるところからすると、彼ら二人以外にも稽古に励む者がいるのかもしれない。
「なんてからかってやろうかね。『ルシル、それ以上頑張ると背が縮むぞー』ってか?」
「低身長同盟の私がそれは断固反対するったい。人権侵害ったい」
「そこまで!? じゃあ、とりあえずコウにはシャトルランの新記録を出させてやろうか」
「かわいそうよ……前に二〇〇回以上走った後、しばらく話すこともできないくらいヘトヘトだったじゃない……」
「つまんねーの」
 唇を尖らせる氷架璃とともに、二人も大扉の前へと足を運ぶ。縁側のように二段ほど高くなっているそこへ上り、靴は履いたまま上半身だけ中へのぞかせた。
「うーっす、チャチャ入れに来……」
 そんな氷架璃ののんきな第一声を、激突した木刀の鋭い叫声が一喝した。
 ダダンッ、と床が鳴る。呆然と立ちすくむ雷奈達の視界に、たたらを踏むように後退した長身が躍り出た。
 上下紺の道着袴に身を包んだ彼を、突っ込むように小さな姿が追撃する。道着は白、袴は紺の彼女は、次の瞬間、目にも止まらぬ速さで動いた。硬質な音が三つ響いたのを聞いて、三連撃を繰り出したのだと理解したのは、懐に入り込んだ少女が、木刀の柄頭で胴の側面を穿った後だった。
 不意打ちを食らった灰色髪の少年だが、少し体の軸をぶらされただけで、すぐに反撃に出た。右から左への横薙ぎの一撃。防具をつけた胴を狙って振りぬかれた刀身は、一瞬で全身の力を抜いたように軽やかにしゃがみこんだ少女の、額金からのびる白い布にもかすらなかった。
 直後、バネのように立ち上がった彼女の剣から、続けざまの斬戟が繰り出された。それを故郷でずっと見てきたはずの幼馴染は、しかし、かろうじて防ぐのに精いっぱいだった。
「ちょ、待っ、うわっ……なんつー猛攻……!?」
「無駄口を叩くな! 舌を噛むぞ!」
 ついていくのに必死な相手にも、手心の一つも加えられていないことは遠目から見ても分かった。
 三人は、つい先ほどまでの認識を改めた。
 今、この道場には、河道ルシルと大和コウしかいない。ただ、音にして数倍の人数を錯覚させるほどの、激しいかかり稽古を繰り広げていただけで。
 ルシルの息つく暇もない猛攻は、まるで親の仇でも討つかのように容赦がない。それをギリギリで防ぎ、かわすコウともども、雷奈たちの来訪には気づいていない。気づく余裕など、あるわけがない。
 少しからかってやろうなどと、立ち話をしようなどと、そう思っていた来訪者達は、自らの浅薄さを恥じた。
 彼らは、鬼気迫るほどに、本気だ。
 しばらく、棒立ちになってその様子を見ていた雷奈たちの視線の先で、変わらず浴びせられ続ける斬戟の中、コウがハッと目を見開いた。
「待て、ストップだ、ルシル!」
 制止も聞かず、ルシルが渾身の一太刀を繰り出す。何度目とも知れぬ硬い音を響かせ、コウと切り結んだ直後だった。
 カランッ、と木刀が床に落ちた。その乾いた音が、三人が思わず口に出したわずかな驚嘆をかき消した。
 片手に木刀を持ったまま片膝をついたコウの反対の腕の中で、倒れ込んだルシルが激しく咳き込んでいた。
「げほ、げほっ……かはっ」
「だから今日はもう切り上げようって言ったろ。しばらく肺炎で伏せってて動いてなかったんだし、まだ上気道に炎症残ってんだから」
 返事はできないまま、無理を通したことに罪悪感はあるのか、小さく頷くルシル。その背中をさすり続けるコウ。
 その光景を最後に、三人はそっとその場を離れた。最初の氷架璃の呼びかけが聞こえていなくてよかった、と心底思いながら。
 
***

 次にやってきたのは運動場だ。希兵隊本部の運動場は、一周百メートルほどのやや小さめの規模。町の通りと同じく、もちろんコンクリート舗装などされておらず、皇学園のグラウンドのように人工芝が生えているわけでもない。公立の小中学校のような、砂の地面だ。
 霞冴は、本腰を入れて鍛錬したい時、希兵隊の道場では剣を振らない。美雷によると、その理由は単純で、霞冴よりも腕の立つ剣士がいないため、彼女自身の成長にはつながらないからだ。そのため、霞冴が己を鍛える時には、出身の道場へ行くか、もしくは体づくりをしているらしい。筋力や体力のなさがネックであることを自覚しているためである。
 今日はこの後、美雷の護衛官として神社に来るため、道場へは赴いていない。本部でも奥の方に位置する運動場で、ひたすら走り込みをしていた。
 やはりこちらも必死のあまり雷奈達には気づいていないようで、霞冴はポニーテールに結えたアリスブルーの長い髪を躍らせながら、シャツと短パンの裾から伸びる細い腕と足を懸命に動かしていた。グラウンドの入り口付近の壁際には、タオルと魔法瓶が置いてある。後者はよほど愛用しているのか、柄が少しかすれかけたものだ。
 あからさまに出ていくのも気まずくて、建物の陰から覗くようにしていると、背後から柔らかなソプラノが聞こえた。
「こんにちは」
 突然の声に、彼女らは少なからず驚いたが、あまりにも柔和な響きだったので、飛び上がらずにすんだ。
 琥珀色のまっすぐな髪に同じ色の瞳、オレンジと白を基調としたセーラー服、気品漂う佇まい。フィライン・エデンの警察・消防組織の頭、時尼美雷だ。
「びっくりしたったい。こんにちは、美雷」
「三人とも、様子を見にきてくれたの?」
「まあ、そんなとこったい」
「そう。ありがとうね」
 美雷はふんわりと微笑むと、ちょうど運動場の一番向こうを走っている霞冴を目を細めて眺めた。
「あの子達、ガオンに負けたのがよっぽど許せなかったみたいね。仕事の合間を縫っては、ああやって鍛錬を積んでいるのよ」
 美雷の眼差しは、まるで我が子を見守るようなものだ。雷奈達より三つしか違わないはずなのに、人生をひと回り多く経験してきたかのような霊妙ささえ感じられる。
「……まあ、でも」
 美雷が苦笑した。視線の先、規則正しく走っていた霞冴が、右に体を傾けるようにして、よたよたとした足取りになっている。どうやら、脇腹が痛くなってしまったようだ。雷奈達も体育の持久走で一度は経験したことがある現象である。
 こういう時、雷奈達なら、教師の目を盗んでこっそり手を抜くところだ。動かしているのは足だが。
 ところが、霞冴はそのまま走り続けようとしていた。痛みに顔をしかめながら、足を引きずるようにして前へ進む。悲鳴をあげる体に鞭を打つように。
「向上心があるのはいいことだけれど、無理して体を壊したら本末転倒だものね。この辺で止めておきましょう」
 言って、美雷はすっと雷奈達の後ろから運動場の方へと抜けた。雷奈達も、隠れているような状態がきまり悪くて、表に出る。
「霞冴ちゃん」
 ちょうど一周回ってこちらへ戻ってくるところだった霞冴は、美雷と、後ろからついてくる雷奈達に気がついたようで、息を荒らげながら目をぱちぱちさせている。
「美雷さん、雷奈達も……はぁっ、見られてたなんて、はぁ、なんか恥ずかしいね」
 顔が紅潮しているのは、羞恥心のせいではない。真っ赤な頬を、滝のような汗が流れ落ちていた。右の脇腹を押さえながら、やはりよたよたと歩み寄ってくる。
「霞冴ちゃんたら、今から護衛官のお仕事なのに、そんなふらふらになるまで走っちゃダメじゃない」
「あ、す、すみません……」
「この前だって、ご飯も食べられないくらい無理してたでしょう。ダメよ、霞冴ちゃん。めっ」
「はい……」
 きょうび聞かないような叱り方をされた霞冴は、しゅうんと肩を落としてしまった。だが、厳しい顔でもない美雷に「シャワーを浴びていらっしゃい」と微笑みかけられると、気まずそうにしながらも照れ笑って、もう一度「はいっ」と返事をした。
「それじゃ、雷奈達も、また後でねー」
「うん! しっかり水分補給するとよー!」
 タオルと魔法瓶を取りに早歩きで移動する霞冴を見送ると、美雷はくるりと踵を返した。
「さて、私もそろそろ行く準備をしなくちゃ。雷奈ちゃん達はどうする? よければ寄合室を貸すけれど」
「あ、私もお茶の準備するけん、戻るったい」
「じゃあ私らも神社かな」
「そうね」
 美雷を迎えにきた名目にしようなどと話してはいたが、その美雷が朗らかに「様子を見にきた」ことを歓迎してくれたので、彼女の出発に先立って神社に戻ることにした。
 最高司令官室が収められた屋舎まで道中を共にすることになった雷奈達に、美雷は「ごめんなさいね」と口を開いた。
「本当ならもっと早くに雷志さんに挨拶するべきだったんだけど。もう冬も終わって春になってしまったわ」
「よかよ、気にせんで。……もう体は大丈夫と?」
 その件については、氷架璃と芽華実も気にかかっていたので、二人も歩きながら美雷を見つめる。
 ガオン襲撃の騒動にかかり、美雷はとにかく様々な対応に追われた。隊員の配置、作戦の立案、他機関との連携、情報の把握、取捨選択の判断。そして騒動が済んでからも、事態の全容把握に度重なる会議と、休む間もなかった。
 それらを片付けつつ、二月の上旬に一度、雷志と面会するためのアポイントメントを取り付けていた美雷は――過労だろう、三日前になって熱で寝込んでしまった。
 代理の霞冴からキャンセルの連絡があったのだが、他の隊員達もたいそう動揺したようだ。なにせ、いつも万事を些事のようにいなし、笑顔と余裕を手放さないあの美雷が倒れたのだ。雷奈達も、スカイツリーが倒れる方がまだありえそうだと思ったほどだ。
「ええ、今はもう大丈夫よ。心配をかけてしまったわね」
 振り返って笑顔を見せる美雷は、すっかりいつもの彼女だ。いっそ熱を出している間もこの調子だったのではないかと思われるほどだが、いくら何でもそれはないだろう。
「寝ている場合じゃなかったのだけど、三十八度七分も出ちゃったからね。さすがにおやすみさせてもらったわ」
「あんたもそれくらいの常識はあったんだな」
「三十八度六分までだったら、いつも通り出勤するところだったんだけど」
「前言ひっくり返すわ! 何その中途半端な一分の差!?」
 そのような事情で、雷志との面談は三月下旬に持ち越されたのだが。
「年度末の忙しい時期に一週間もおやすみしちゃったから、熱が下がったその日から張り切ってお仕事したの」
「そしたら?」
「今度は三十九度を超えちゃったわ」
「だろうな!?」
 三月半ばに高熱で再度倒れた後、結局そのまま、月末まで体調不良が長引いてしまい、雷志との面会はまたも中止となってしまった。こうして、三度目の正直でようやく本日、対面が叶うことになったのである。
「その間の霞冴ちゃんは頼もしかったわね。頻繁に私の様子を見に来ながら、てきぱき仕事を回してくれて」
「そりゃそうだろ。あいつは元最高司令官なんだから」
「霞冴、随分心配していたでしょう」
「美雷も無理しちゃいかんとよ。霞冴のこと言えんよ」
「ふふ、そうね」
 聞き入れてくれたのかどうか怪しいのんきな笑顔を見せると、美雷は「それじゃ、私はここで」と中央隊舎の方へ足を向けた。彼女に手を振ると、雷奈達は正門から希兵隊本部を後にする。
 結局、何をしにきたのかよくわからないことになってしまった。すでに雷志を連れて帰宅しているであろう雷華に、お茶の準備もせずに出て行っていたことをどう説明するか考えなければならないことに気づいたのは、ワープフープを通って見慣れた世界に戻ってきた後だった。
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