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9.過去編
45一期一会と頬の色 ①
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星音リンは震えていた。
いくばくの距離もないところから、クロならまだしも、ダークの視線につかまっているのだ。幼い少女がすくみ上がるのも無理はない。
家が立ち並ぶ通りから少し離れたところにある米屋のシャッターを背に、猫姿のリンはあたりを見回した。だが、広い道のどこにも通行人の影はない。希兵隊執行部を総動員して塔に向かっている以上、普段のパトロールや出動はできないことから、安全のため、一般市民は今日限り不要不急の外出を控えるよう通達されていた。
ダークがにじりよる。リンは黒い巨体を見上げて、ひっと息をのんだ。希兵隊でない者でも、猫術に長けていればダークを牽制することは可能だし、それが何人もいれば、危険な行為ではあるが倒すこともできなくはない。
だが、いたいけな子猫一人にできることなど、おびえることぐらいである。
「た、助けて……」
目じりに涙が浮かぶ。燃やされてしまうのか、凍らされてしまうのか、はたまた触手できゅうとひねられてしまうのか。
「助けて、ファイ……!」
兄のように慕う少年の名を呼び、身じろぎしたダークにぎゅっと目をつぶった、その時。
「穿て、流丸っ!」
明瞭な言霊、そして細かい粒が叩き込まれる音。
目を開けたリンは、ダークの横腹が少しだけ削れ、その視線が脇にそれているのを認めた。
ダークが注意を向ける先で、白猫を肩に乗せた少年が叫ぶ。
「リン! 大丈夫かい!?」
「アワ……フーも……!」
安堵に涙をあふれさせるリンに、ダッフルコートの少年はほっと息をつくと、「こっちだよ!」と店の裏側に連れて行った。
ひとまずダークから距離をとったアワは、呆れたようにリンを見下ろした。
「何やってんのさ、今日は家から出ちゃダメだって言われていたじゃないか! 特に子供は!」
「ごめんなさい、でもファイが電話で『オレがリンのために片っ端からやっつける!』って言ってそのまま切っちゃったから、出て行ったんだと思って……危ないと思って探しに行こうと……」
「それでリンを危ない目に合わせてたら世話ないね!? 何やってんだよ、ファイのやつ……」
黒髪をくしゃっとかき混ぜてため息をつくアワと、その肩で苦笑するフーを見比べて、リンは首をかしげた。
「あれ? それじゃ、二人はどうして外に?」
「知らなかったかい? ボクたちは――」
問いへの答えを呈しようと口を開きかけた瞬間。アワの背中に強烈な水の塊が激突した。方向にして、体の向きを米屋の壁と垂直にして並んで立っている彼の後方から。
前のめりに吹っ飛んだアワは、肩から落ちかけたフーをとっさに両手でつかみ、体で下敷きにしてしまわないよう前方に突き出した。結果、両手がふさがったアワは、フーを突き出したまま顔面から地面にダイブした。
呆気にとられるリンの耳にも、その拡声器越しの声は届いた。
「ほーら、そこー。油売らなーい」
女性の声。がばっと起き上がったアワは、声のするほうへ体ごと振り返った。道二辻離れたところにある、二階建ての図書館の屋根の上で、アワと同じカラーリングの猫が人間用の拡声器を抱えている。
アワはフーを大事そうに抱きかかえながら猛抗議した。
「何するのさ、お母さん!? ボクはいいとして、フーに当たったらどうすんの!?」
「その時はアワの責任であーる」
「バブルったら、遊んでる場合じゃないわよ」
青い猫と背中を合わせていた白猫が振り向いてたしなめる。バブルと呼ばれた女性は、やけに拡声器を気に入っているような素振りで声を発した。
「遊んでいるのは息子たちであーる。さっさとダークを倒すー」
「無茶言わないでよ、人間を守るために訓練を積んでいるとはいえ、希兵隊じゃあるまいし……ってぎゃあ!?」
米屋を回り込み、のっそりと顔をのぞかせてきたダークに、アワが情けない悲鳴を上げた。
すると、その背中で可憐な声とともに二つの足音。
「お兄ちゃん!」
「あっ、アクア! と……」
「お疲れー。アワ君、足止めありがとう!」
髪を低い位置で一つくくりにした少女が連れてきたのは、紺青色のボブヘアーに柘榴の瞳をした、心強い協力者だ。女性らしくも華奢とは遠い引き締まった体つきをした助っ人の登場に、アワはぱっと表情を輝かせた。
「あかしさん! 助かった!」
かつての「明詩」の名を寿退職とともに捨て去った女性、郭あかしは、にっと頼もしい笑顔で応じた。
「助かってるのはこっちだよ。希兵隊が過疎ってる今、町中に現れた輩の討伐に、流清家と風中家も手を貸してくれるなんて。君たちも、宮希に頭下げられて快諾してくれたんだろう? ありがとうね。あたしらみたいな元希兵隊のボランティアも何とか頑張ってるけど、寄る年波には勝てないねえ」
言いながら、片手間にダークに灼熱の嵐を浴びせる。引退してもこの実力、さすがは元朱雀隊隊長である。
「私たちじゃ時間稼ぎくらいにしかなりませんけど……」
「十分、十分! さあ、アクアちゃん。そこのお友達を連れて逃げといて。ここから先は年長者の仕事だよ!」
「待って、ファイを探さないと……」
「あいつは大丈夫だよ。何なら一回ぎゃふんと言わせてから家に帰すから」
兄の言葉に、アクアは失笑した。そして、まだ渋っている様子のリンを抱き上げて、アクアはあかしに一礼、アワとフーにアイコンタクトして、走り去った。
安全な高みからバブルが手を振る。
「あかしさーん、うちの若造をよろしくー!」
「はいよー! お母さん方は、引き続き遠方の哨戒をよろしくねー! じゃあ行くよ、アワ君、フーちゃん、リーゼちゃ……あれ? リーゼちゃんは?」
「そういえば……。さっきまでいたよね、フー?」
「バブル、拡声器貸して。……すみませーん、うちのリーゼ、あっちの裏でクロと高鬼してるみたいで……」
「お姉ちゃぁぁん!?」
「仕方ないね。じゃあ、クロは風中家長女に任せて、こっちはダーク退治だ! 二人とも、援護を頼むよ!」
「は、はいっ!」
「心配だぁ……」
***
「やっぱり来たわね」
希兵隊本部の敷地に、ご丁寧に正門から忍び寄るダークを、少女は菖蒲色のツリ目で見据えた。リボンでツインテールに結わえられた長い髪は、木も揺れていないのに、プリーツスカートとともにはためく。
「ダークが本部に近づいてきたことなんて、私の在籍中は一度もなかった。さしずめ、チエアリの差し金でしょ? 十中八九、手薄を狙って放ってるわね」
ダーク自身に、今は希兵隊が手薄で狙い時だなどわかるはずもない。けれど現れたということは、もっと高位の者の命令。本日の彼女の依頼人は、それを見越して本部の守護を頼んできたカーキ色の元相棒だ。
少しずつ近寄ってくるダークを十分に引き付けた後、風をまとった万屋店主・つかさはバッと手を挙げて叫んだ。
「深翔、風向き調整! 木雪さん、発射用意!」
「了解!」
つかさの頭上、屋根の上で二つの声が重なる。直後、唯一本部に残っていた麒麟隊員・深翔が、ココア色の髪をたゆたわせながらダークに向けて風流を作り、その隣で、今年から開発部部長となった白衣の少女・花雛木雪が二匹の猫に細かく指示を飛ばす。二匹に挟まれて鎮座しているのは、銀色をした大きなボンベだ。
ダークが口元でスパークを起こす。雷属性、と頭に浮かべながら、つかさはその喉笛に風の刃を飛ばした。
「刈れ、鎌鼬!」
ダークがひるみ、スパークが止む。「今よ!」とつかさが合図すれば、彼女の頭上で気体を勢いよく噴射する音が鳴った。シュ――ッと音を立てて、木雪が構えた管から発射された白いガスは、深翔の風に乗り、ダークの顔面に命中。とたん、その動きがのろくなった。
「よし、的中!」
「存分に食らってください、希兵隊独自開発・対ダーク用の麻酔、但し開発途中につき臨床試験及び効果機序未検討、です!」
「こっわ!? 検討してから使いなさいよ! もしかして、私吸い込んだら危ないやつ!?」
つかさは慌てて鼻と口を覆い、ジャンプ力に上昇気流を重ねて屋根の上に飛び上がった。「状況が状況ですから」と微笑む木雪に戦慄してから、ひとまず刀印を構えて詠唱を開始する。
「立ちて颯颯、揺れ動きて飄々、警告するは不在の牙」
つかさの周囲で風向きが強制的に変わり、刀印と逆の手を突き出した前には、触れれば切れる風の渦が現れる。
徐々に速度を増す強風は、そばに立っている仲間たちをもあおる。これ以上はバランスを崩すと判断した深翔はしゃがみ込み、同じく腰を落とした木雪が、ボンベを支えながら二匹を白衣の下にかばった。
「百面相の結晶が無二を嘲笑う、此方へ来たる栄えに習いて静寂を奪え――切り刻め、三十二方鎌鼬ッ!」
風術の中でも屈指の威力を持つ、四方八方からの鎌鼬が弓なりに飛んでいき、ダークを頭の周囲から襲う。後頭部、眉間、あご、耳の付け根と、次々に切り裂かれたダークは、大量の黒煙を上げながら縮んでいった。だが、まだ消滅には至っていない。一発で消せるようなら希兵隊も苦労しないのである。
「はぁ、はぁっ……どうよ!」
「さすが元護衛官、現役時代と遜色ないですね」
「つかささん」
深翔が小さく拍手する横で、木雪がピッチを手に、それなりに親睦のあった後輩を呼ぶ。
「みちねちゃんから連絡です。裏にもう一体接近中とのこと」
険しい顔をする木雪に、つかさは「ああ」とそちらを振り向く。言われてみれば確かに、離れたところから邪悪な気配が漂ってくる。
「まあ、大丈夫よ。あっちには、まつりがいてくれてる」
「しかし、彼女は希兵隊員ですらないでしょう? 早く力添えに行かないと……」
「心配いらないわ、木雪さん。あ、でも、心配といえば心配か……。一応見てくるから、このダーク、頼んでいい?」
「お任せを」
医療従事者一名に科学者三名と、一見心もとないメンバーだが、フィライン・エデンの猫である以上、多かれ少なかれ戦闘力はある。四人のチームワークを信じて、つかさは屋根伝いに正門と真反対へ向かった。
***
希兵隊本部の、正面以外の三辺は、中へ入るための切れ目のない石塀で仕切られている。クロなら手出しできない高さのそれだが、ダークの触手の前には何の意味もなさない。それでも、今までは本部に近づかれるまでに討伐されるため、問題になってはこなかった。
だが、現状は正統後継者や討伐ボランティアの目をかいくぐって敷地に接近してくる事態だ。今も、正面入り口と真逆の高い塀へとにじりよってくる黒き怪物の姿があった。その目前には、横髪だけ胸まで伸ばしたボブヘアーの少女がたたずんでいる。
少女は、いつもは朗らかな瞳をすっと冷やして敵を見据えた。恣意的ながら彼女が決めたラインを超えて近寄ってきたところで、その細身に風をまとう。
「それ以上近づかないで」
言葉が通じる相手ではないが、発した殺気は伝わっているはずだ。しかし、ダークは少女の忠告をものともせず進んでいく。きっとにらんだ彼女を目障りに思ったのだろう、ダークは低い声を発しながら、胴体から触手を伸ばした。
と、
「渦巻け、旋風!」
先端が少女に届く寸前、渦巻く突風が巻き起こった。巻き込まれた触手は弄ばれ、激しくねじれて頭を垂れる。
「希兵隊員じゃないからって甘く見ないで。わたしを誰だと思ってるの?」
そこから間髪入れずに生まれたのは、竜巻と言って差し支えない暴風の渦。砂埃を巻きあげ、砂埃以外のものも巻き上げ、中心に閉じ込めたダークをぐわんぐわんと揺らす。
両手を突き出した少女は、きりりと眉を吊り上げて言い放った。
「風羽谷政の……元護衛官の妹よ!」
まるで回された起き上がりこぶしのように揺れ動くダーク。目の前で轟々と風が吹き荒れる中、唯一後ろから、とんっと軽やかな足音が聞こえた。それを聞いてぱちりとまたたくと、彼女はそっと腕を下ろして一歩下がった。
「切り刻め、三十二方鎌鼬!」
鳴り響く裂帛の言霊。再び炸裂した不可避の刃が、さっきと同じようにダークの頭を多方向からえぐった。
頭一つ分高さを縮めながらも、不定形の化け物は胴体の体積を犠牲に頭部を修復する。その目が爛々と少女をにらみつけるが、恐れるに足りない。何といっても、全幅の信頼を寄せる姉が隣に到着したのだから。
「ナイスよ、まつり! 怖くなかった?」
「ちょっと怖かったけど、でも、危なくなる前にお姉ちゃんが助けてくれるって信じてるから」
「そっか。がんばったわね」
つかさは、自分よりほんの少しだけ低い位置にある頭をよしよしと撫でた。まつりは嬉しそうに目を細める。が、つかさは「でも~っ」とうなだれた。
「お願いだからもう少し自然を大事にして……罪なき木に謝りなさい……」
「え? ……きゃああ!? ご、ごめんなさい、木の皆さん!」
まつりは飛び上がらん勢いで悲鳴を上げた。竜巻の余波に巻き込まれた周囲の木立が、無残な姿を呈している。ほとんどが、小枝を吹き飛ばされただけではすまなかった。そこそこ太い枝まで根元からぼっきりと折られ、皮一枚でつながったままぶらんと垂れ下がっている。
「頼むわよ、これも万屋の仕事なんだから。周りのもの壊しちゃったら、宮希からの報酬が減るじゃない……」
だから心配だったのよ、とぼやくつかさの声に、ダークの雄たけびが重なった。四つの菖蒲色が、激昂するダークを寸分たがわぬ輝きで見据える。
妹の頭を最後にひと撫でしてから、姉はダークに向き直り、見下したようにふんと鼻を鳴らした。
「かわいいからって油断した? 残念ね、この子は単純な猫力の強さでいえば私と同格。もうちょっと小手先がきいていれば、希兵隊員・風羽谷政になれた実力なのよ」
胸を張るつかさに、ダークの触手が大きく振るわれた。ばらまいたように、流星のごとき弾丸が飛ぶ。
しかし、それらは全て薄いオレンジ色の結界に阻まれて散った。まつりが突き出した手を下ろすと、結界が消え切らないうちにつかさの鎌鼬が見舞われる。胸元に食らったダークは霧を吹き出しながら悶えた。
「チエアリも読みを間違えたわね。今日の希兵隊本部、ぜんっぜん手薄じゃないんだから」
半身になって向かい合う双子の少女。髪や目の色も、着ている洋服もおそろいの二人は、互いがまとう風を溶け合わせて一体になる。
普通ならぶつかり合って相殺されるはずの風流が、ぴったりとシンクロしてその速さと強さを増していく中で、姉妹は堂々と啖呵を切った。
「不器用ゆえに希兵隊には向かなかったこの子、だから手加減なんか知らないわよ!」
「お姉ちゃんと霞冴ちゃんの大切な場所を、絶対に壊させはしないんだから!」
いくばくの距離もないところから、クロならまだしも、ダークの視線につかまっているのだ。幼い少女がすくみ上がるのも無理はない。
家が立ち並ぶ通りから少し離れたところにある米屋のシャッターを背に、猫姿のリンはあたりを見回した。だが、広い道のどこにも通行人の影はない。希兵隊執行部を総動員して塔に向かっている以上、普段のパトロールや出動はできないことから、安全のため、一般市民は今日限り不要不急の外出を控えるよう通達されていた。
ダークがにじりよる。リンは黒い巨体を見上げて、ひっと息をのんだ。希兵隊でない者でも、猫術に長けていればダークを牽制することは可能だし、それが何人もいれば、危険な行為ではあるが倒すこともできなくはない。
だが、いたいけな子猫一人にできることなど、おびえることぐらいである。
「た、助けて……」
目じりに涙が浮かぶ。燃やされてしまうのか、凍らされてしまうのか、はたまた触手できゅうとひねられてしまうのか。
「助けて、ファイ……!」
兄のように慕う少年の名を呼び、身じろぎしたダークにぎゅっと目をつぶった、その時。
「穿て、流丸っ!」
明瞭な言霊、そして細かい粒が叩き込まれる音。
目を開けたリンは、ダークの横腹が少しだけ削れ、その視線が脇にそれているのを認めた。
ダークが注意を向ける先で、白猫を肩に乗せた少年が叫ぶ。
「リン! 大丈夫かい!?」
「アワ……フーも……!」
安堵に涙をあふれさせるリンに、ダッフルコートの少年はほっと息をつくと、「こっちだよ!」と店の裏側に連れて行った。
ひとまずダークから距離をとったアワは、呆れたようにリンを見下ろした。
「何やってんのさ、今日は家から出ちゃダメだって言われていたじゃないか! 特に子供は!」
「ごめんなさい、でもファイが電話で『オレがリンのために片っ端からやっつける!』って言ってそのまま切っちゃったから、出て行ったんだと思って……危ないと思って探しに行こうと……」
「それでリンを危ない目に合わせてたら世話ないね!? 何やってんだよ、ファイのやつ……」
黒髪をくしゃっとかき混ぜてため息をつくアワと、その肩で苦笑するフーを見比べて、リンは首をかしげた。
「あれ? それじゃ、二人はどうして外に?」
「知らなかったかい? ボクたちは――」
問いへの答えを呈しようと口を開きかけた瞬間。アワの背中に強烈な水の塊が激突した。方向にして、体の向きを米屋の壁と垂直にして並んで立っている彼の後方から。
前のめりに吹っ飛んだアワは、肩から落ちかけたフーをとっさに両手でつかみ、体で下敷きにしてしまわないよう前方に突き出した。結果、両手がふさがったアワは、フーを突き出したまま顔面から地面にダイブした。
呆気にとられるリンの耳にも、その拡声器越しの声は届いた。
「ほーら、そこー。油売らなーい」
女性の声。がばっと起き上がったアワは、声のするほうへ体ごと振り返った。道二辻離れたところにある、二階建ての図書館の屋根の上で、アワと同じカラーリングの猫が人間用の拡声器を抱えている。
アワはフーを大事そうに抱きかかえながら猛抗議した。
「何するのさ、お母さん!? ボクはいいとして、フーに当たったらどうすんの!?」
「その時はアワの責任であーる」
「バブルったら、遊んでる場合じゃないわよ」
青い猫と背中を合わせていた白猫が振り向いてたしなめる。バブルと呼ばれた女性は、やけに拡声器を気に入っているような素振りで声を発した。
「遊んでいるのは息子たちであーる。さっさとダークを倒すー」
「無茶言わないでよ、人間を守るために訓練を積んでいるとはいえ、希兵隊じゃあるまいし……ってぎゃあ!?」
米屋を回り込み、のっそりと顔をのぞかせてきたダークに、アワが情けない悲鳴を上げた。
すると、その背中で可憐な声とともに二つの足音。
「お兄ちゃん!」
「あっ、アクア! と……」
「お疲れー。アワ君、足止めありがとう!」
髪を低い位置で一つくくりにした少女が連れてきたのは、紺青色のボブヘアーに柘榴の瞳をした、心強い協力者だ。女性らしくも華奢とは遠い引き締まった体つきをした助っ人の登場に、アワはぱっと表情を輝かせた。
「あかしさん! 助かった!」
かつての「明詩」の名を寿退職とともに捨て去った女性、郭あかしは、にっと頼もしい笑顔で応じた。
「助かってるのはこっちだよ。希兵隊が過疎ってる今、町中に現れた輩の討伐に、流清家と風中家も手を貸してくれるなんて。君たちも、宮希に頭下げられて快諾してくれたんだろう? ありがとうね。あたしらみたいな元希兵隊のボランティアも何とか頑張ってるけど、寄る年波には勝てないねえ」
言いながら、片手間にダークに灼熱の嵐を浴びせる。引退してもこの実力、さすがは元朱雀隊隊長である。
「私たちじゃ時間稼ぎくらいにしかなりませんけど……」
「十分、十分! さあ、アクアちゃん。そこのお友達を連れて逃げといて。ここから先は年長者の仕事だよ!」
「待って、ファイを探さないと……」
「あいつは大丈夫だよ。何なら一回ぎゃふんと言わせてから家に帰すから」
兄の言葉に、アクアは失笑した。そして、まだ渋っている様子のリンを抱き上げて、アクアはあかしに一礼、アワとフーにアイコンタクトして、走り去った。
安全な高みからバブルが手を振る。
「あかしさーん、うちの若造をよろしくー!」
「はいよー! お母さん方は、引き続き遠方の哨戒をよろしくねー! じゃあ行くよ、アワ君、フーちゃん、リーゼちゃ……あれ? リーゼちゃんは?」
「そういえば……。さっきまでいたよね、フー?」
「バブル、拡声器貸して。……すみませーん、うちのリーゼ、あっちの裏でクロと高鬼してるみたいで……」
「お姉ちゃぁぁん!?」
「仕方ないね。じゃあ、クロは風中家長女に任せて、こっちはダーク退治だ! 二人とも、援護を頼むよ!」
「は、はいっ!」
「心配だぁ……」
***
「やっぱり来たわね」
希兵隊本部の敷地に、ご丁寧に正門から忍び寄るダークを、少女は菖蒲色のツリ目で見据えた。リボンでツインテールに結わえられた長い髪は、木も揺れていないのに、プリーツスカートとともにはためく。
「ダークが本部に近づいてきたことなんて、私の在籍中は一度もなかった。さしずめ、チエアリの差し金でしょ? 十中八九、手薄を狙って放ってるわね」
ダーク自身に、今は希兵隊が手薄で狙い時だなどわかるはずもない。けれど現れたということは、もっと高位の者の命令。本日の彼女の依頼人は、それを見越して本部の守護を頼んできたカーキ色の元相棒だ。
少しずつ近寄ってくるダークを十分に引き付けた後、風をまとった万屋店主・つかさはバッと手を挙げて叫んだ。
「深翔、風向き調整! 木雪さん、発射用意!」
「了解!」
つかさの頭上、屋根の上で二つの声が重なる。直後、唯一本部に残っていた麒麟隊員・深翔が、ココア色の髪をたゆたわせながらダークに向けて風流を作り、その隣で、今年から開発部部長となった白衣の少女・花雛木雪が二匹の猫に細かく指示を飛ばす。二匹に挟まれて鎮座しているのは、銀色をした大きなボンベだ。
ダークが口元でスパークを起こす。雷属性、と頭に浮かべながら、つかさはその喉笛に風の刃を飛ばした。
「刈れ、鎌鼬!」
ダークがひるみ、スパークが止む。「今よ!」とつかさが合図すれば、彼女の頭上で気体を勢いよく噴射する音が鳴った。シュ――ッと音を立てて、木雪が構えた管から発射された白いガスは、深翔の風に乗り、ダークの顔面に命中。とたん、その動きがのろくなった。
「よし、的中!」
「存分に食らってください、希兵隊独自開発・対ダーク用の麻酔、但し開発途中につき臨床試験及び効果機序未検討、です!」
「こっわ!? 検討してから使いなさいよ! もしかして、私吸い込んだら危ないやつ!?」
つかさは慌てて鼻と口を覆い、ジャンプ力に上昇気流を重ねて屋根の上に飛び上がった。「状況が状況ですから」と微笑む木雪に戦慄してから、ひとまず刀印を構えて詠唱を開始する。
「立ちて颯颯、揺れ動きて飄々、警告するは不在の牙」
つかさの周囲で風向きが強制的に変わり、刀印と逆の手を突き出した前には、触れれば切れる風の渦が現れる。
徐々に速度を増す強風は、そばに立っている仲間たちをもあおる。これ以上はバランスを崩すと判断した深翔はしゃがみ込み、同じく腰を落とした木雪が、ボンベを支えながら二匹を白衣の下にかばった。
「百面相の結晶が無二を嘲笑う、此方へ来たる栄えに習いて静寂を奪え――切り刻め、三十二方鎌鼬ッ!」
風術の中でも屈指の威力を持つ、四方八方からの鎌鼬が弓なりに飛んでいき、ダークを頭の周囲から襲う。後頭部、眉間、あご、耳の付け根と、次々に切り裂かれたダークは、大量の黒煙を上げながら縮んでいった。だが、まだ消滅には至っていない。一発で消せるようなら希兵隊も苦労しないのである。
「はぁ、はぁっ……どうよ!」
「さすが元護衛官、現役時代と遜色ないですね」
「つかささん」
深翔が小さく拍手する横で、木雪がピッチを手に、それなりに親睦のあった後輩を呼ぶ。
「みちねちゃんから連絡です。裏にもう一体接近中とのこと」
険しい顔をする木雪に、つかさは「ああ」とそちらを振り向く。言われてみれば確かに、離れたところから邪悪な気配が漂ってくる。
「まあ、大丈夫よ。あっちには、まつりがいてくれてる」
「しかし、彼女は希兵隊員ですらないでしょう? 早く力添えに行かないと……」
「心配いらないわ、木雪さん。あ、でも、心配といえば心配か……。一応見てくるから、このダーク、頼んでいい?」
「お任せを」
医療従事者一名に科学者三名と、一見心もとないメンバーだが、フィライン・エデンの猫である以上、多かれ少なかれ戦闘力はある。四人のチームワークを信じて、つかさは屋根伝いに正門と真反対へ向かった。
***
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だが、現状は正統後継者や討伐ボランティアの目をかいくぐって敷地に接近してくる事態だ。今も、正面入り口と真逆の高い塀へとにじりよってくる黒き怪物の姿があった。その目前には、横髪だけ胸まで伸ばしたボブヘアーの少女がたたずんでいる。
少女は、いつもは朗らかな瞳をすっと冷やして敵を見据えた。恣意的ながら彼女が決めたラインを超えて近寄ってきたところで、その細身に風をまとう。
「それ以上近づかないで」
言葉が通じる相手ではないが、発した殺気は伝わっているはずだ。しかし、ダークは少女の忠告をものともせず進んでいく。きっとにらんだ彼女を目障りに思ったのだろう、ダークは低い声を発しながら、胴体から触手を伸ばした。
と、
「渦巻け、旋風!」
先端が少女に届く寸前、渦巻く突風が巻き起こった。巻き込まれた触手は弄ばれ、激しくねじれて頭を垂れる。
「希兵隊員じゃないからって甘く見ないで。わたしを誰だと思ってるの?」
そこから間髪入れずに生まれたのは、竜巻と言って差し支えない暴風の渦。砂埃を巻きあげ、砂埃以外のものも巻き上げ、中心に閉じ込めたダークをぐわんぐわんと揺らす。
両手を突き出した少女は、きりりと眉を吊り上げて言い放った。
「風羽谷政の……元護衛官の妹よ!」
まるで回された起き上がりこぶしのように揺れ動くダーク。目の前で轟々と風が吹き荒れる中、唯一後ろから、とんっと軽やかな足音が聞こえた。それを聞いてぱちりとまたたくと、彼女はそっと腕を下ろして一歩下がった。
「切り刻め、三十二方鎌鼬!」
鳴り響く裂帛の言霊。再び炸裂した不可避の刃が、さっきと同じようにダークの頭を多方向からえぐった。
頭一つ分高さを縮めながらも、不定形の化け物は胴体の体積を犠牲に頭部を修復する。その目が爛々と少女をにらみつけるが、恐れるに足りない。何といっても、全幅の信頼を寄せる姉が隣に到着したのだから。
「ナイスよ、まつり! 怖くなかった?」
「ちょっと怖かったけど、でも、危なくなる前にお姉ちゃんが助けてくれるって信じてるから」
「そっか。がんばったわね」
つかさは、自分よりほんの少しだけ低い位置にある頭をよしよしと撫でた。まつりは嬉しそうに目を細める。が、つかさは「でも~っ」とうなだれた。
「お願いだからもう少し自然を大事にして……罪なき木に謝りなさい……」
「え? ……きゃああ!? ご、ごめんなさい、木の皆さん!」
まつりは飛び上がらん勢いで悲鳴を上げた。竜巻の余波に巻き込まれた周囲の木立が、無残な姿を呈している。ほとんどが、小枝を吹き飛ばされただけではすまなかった。そこそこ太い枝まで根元からぼっきりと折られ、皮一枚でつながったままぶらんと垂れ下がっている。
「頼むわよ、これも万屋の仕事なんだから。周りのもの壊しちゃったら、宮希からの報酬が減るじゃない……」
だから心配だったのよ、とぼやくつかさの声に、ダークの雄たけびが重なった。四つの菖蒲色が、激昂するダークを寸分たがわぬ輝きで見据える。
妹の頭を最後にひと撫でしてから、姉はダークに向き直り、見下したようにふんと鼻を鳴らした。
「かわいいからって油断した? 残念ね、この子は単純な猫力の強さでいえば私と同格。もうちょっと小手先がきいていれば、希兵隊員・風羽谷政になれた実力なのよ」
胸を張るつかさに、ダークの触手が大きく振るわれた。ばらまいたように、流星のごとき弾丸が飛ぶ。
しかし、それらは全て薄いオレンジ色の結界に阻まれて散った。まつりが突き出した手を下ろすと、結界が消え切らないうちにつかさの鎌鼬が見舞われる。胸元に食らったダークは霧を吹き出しながら悶えた。
「チエアリも読みを間違えたわね。今日の希兵隊本部、ぜんっぜん手薄じゃないんだから」
半身になって向かい合う双子の少女。髪や目の色も、着ている洋服もおそろいの二人は、互いがまとう風を溶け合わせて一体になる。
普通ならぶつかり合って相殺されるはずの風流が、ぴったりとシンクロしてその速さと強さを増していく中で、姉妹は堂々と啖呵を切った。
「不器用ゆえに希兵隊には向かなかったこの子、だから手加減なんか知らないわよ!」
「お姉ちゃんと霞冴ちゃんの大切な場所を、絶対に壊させはしないんだから!」
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分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
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"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
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*念のためのセルフレイティングです。
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