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7.追想編
32ダブルブラインド・スタディ 前編
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「……ね、どう思う」
軽い口調の中に重みを混ぜる。相手が答えるまでの間、彼女は手持ち無沙汰にグラスを揺らした。薄茶の液体の中で、大きめの氷が涼やかな音を立てていたが、やがて口を開いたもう一人の女性の、輪をかけて清涼な声音に恥じ入ったのか、氷は鳴りを潜めた。
「そうね、もう二年目だし……あまりのんびりしていられないのは事実ね」
ちびちびとグラスに口をつけると、彼女はブラウンの髪をひと梳きして、ことりと飲み物をテーブルに置いた。
「私もちょうど、その件に関しては案じていたところなの。けれど、どう策を講じたものかと考えあぐねていたのよ」
「なんだ、あんたもか。お互い苦労するね」
「ええ」
二人はくすりと静かに笑うと、
「こういうのはね、露骨にやっても駄目だと思うんだ。こっちが策士になってやらないとね」
「なんだか、あきちゃんが言いそうな言葉ね。でも、賛成。どうしましょうかしら」
「どうにかして、火をつけないとね……。あ、ちなみにあんたのとこは、今、どこまでできてるの?」
「たぶん、そっちよりも進んでいないわ。今ねぇ……」
色白の女性が頬に手を当てて斜め上を見上げたところで、ぴたりと動きを止める。旧友は視線を交錯させあい、数秒間静止。
やがて、よからぬことを考えたいたずらっ子のような笑みが二つ浮かんだ。
「いいこと思いついちゃった。ね、あんたも同じこと考えてるでしょ」
「正解、私もよ。ああ、でも、言っちゃだめ。念には念を押して……」
女性は、音もなく立ち上がると、引き出しから二人分のメモと筆記用具を取り出した。座ったままそれを見たポニーテールの友人は、閉ざした口で弧の字を描き、了解の合図を出す。
よい子は寝静まる真夜中。それからは、会話の声も夢見心地で、ただペンの走る音と、ささやくような笑い声が、静謐な居間で夜を更かしていた。
***
風中フーは、特別な家柄の子であった。フィライン・エデンの代表者の片割れである風中家に生まれ、もしも君臨者からの神託があれば、正統後継者として人間と交流することになる。神託は夢の中に現れる……と、聞いている。君臨者の姿を見るわけでも、声を聞くわけでもないが、なぜか自分のパートナーとなる人間の顔と名前のみがわかる夢を見る。これが百発百中で正夢になることが、科学的根拠はないものの、ほかの事象と合わせて帰納的に「君臨者」という存在を形作る一つの要素なのである。
今、春よりずっと早起きした太陽が窓越しにモーニングコールを送る先で、彼女は白猫の姿で夢のさなかにいた。朝日にまぶたをくすぐられ、ふにゃっと表情を変えながら寝言をこぼす。
「もう食べられないってぇ……え、まだあるのぉ? しょうがないなぁ……」
「フー、そろそろ起きなさい」
「そうね、そろそろフォークを置いたほうがいいわよね、太っちゃう……」
「もう、ねぼけちゃって」
ため息交じりの声に、フーはようやくぱちりと目を開けた。しなやかな動作で起き上がると、きょろきょろとあたりを見回す。
「あれ? ケーキは?」
「ないわよ。本当にショートケーキが好きね」
「夢かぁ……。あれ、なんでショートケーキの夢って知ってるの?」
「フーの考えることくらいわかります。私を誰だと思ってるの?」
フーは、布団のそばに二本足でちょこんと立つ白猫を見た。フーより一回り大きく、耳の形が少し丸っこい。左腕には、いつも通りピンクのリボンを巻いている。腰に手を当てて、寝起きのフーを愛情のこもった視線で見つめる彼女に、フーは笑って答えた。
「私のお母さん」
「その通り。さ、起きてきなさい」
母・風中ウィンディは喜色をあらわにすると、フーの部屋を出ていこうとして、
「ああ……その前に」
思い出したようにつぶやいて、ついてきた娘を振り返った。フーは首をかしげて次の言葉を待つ。
「最近、正統後継者のお勉強はどうなってる?」
「う……えっと……」
「本は全部読めた? 術の練習はどこまでできた?」
「お、お料理の練習ばっかりしてて、ちょっと進みが遅めかも……。ごめんなさい」
学院も卒業して、そろそろ本格的に家事を学んでいきたい年ごろ。その傍ら、本業である正統後継者を目指しての精進は、少しずつ進んではいるものの、必要な素養は理想的なペースで身についているとは言いがたかった。
風中家と、もう一つの流清家で伝統的に学ばされているのは、人間について知るための人間界学だけではない。
まず、基本的な純猫術は完璧に。そして自分の属性の猫術、フーなら風術をある程度操れるよう習熟しておかなければならない。人間をフィライン・エデンに招いた際、もしクロやダークに襲われるようなことがあったら、何があっても守り抜かなければならないからだ。ダークに太刀打ちするのは難しいとはいえ、せめて人間界へ逃がすまでの時間稼ぎぐらいは義務である。
それから、人間界の情報を手に入れるためには、より人間界になじむ必要がある。必要とあらばと編み出された記憶改竄などの一子相伝の奥義も免許皆伝をなさなければならない。加えて、パートナーやそれ以外の人間たちとうまく付き合い、情報収集でフィライン・エデンに寄与するための外交術、時に連携が必要な三大機関とのコネクションづくりなど、やることはてんこ盛りである。
つまるところ、学院の勉強が倍に増えて継続しているくらいの負担なのだ。
しかし、いくら我が子が家事を覚えたいという嬉しいことを言ってくれていても、元正統後継者は甘やかすわけにはいかない。
「悪いけれど、私が子供のころもこれくらいをこなすよう言われていたから、大目に見るわけにはいかないの。学院も卒業したし、前よりも時間は取れるでしょ?」
「う、うん、まあ……」
「じゃあ、家事はお母さんに任せて、フーは頑張ってちょうだい。あ、そうそう、アワちゃんは今日から一か月くらい、缶詰特訓するらしいから、連絡も訪問もダメだって。邪魔になっちゃうから、来月まで我慢してね」
「はーい……え?」
素直に返事してから、ぴたと固まる。
「……アワが? 缶詰? 連絡も会いに行くのもダメ!?」
「ええ、がんばるんだって。フーも置いてかれないようにね」
「そ、そんなこと、前に会った時には何も……」
「昨日、バブル……アワちゃんのお母さんから電話があって、そう聞いたわ。ちょうど学院にいたころは今日くらいから夏休みだったし、それで思い立ったのかしらね」
母親はそう言い残して部屋を出て行ったが、フーは仰天のあまり、文字通り天井を振り仰いだ。
(……ええええ!?)
***
物心ついた時にはそばにいたアワは、幼馴染にして同じ境遇を背負う少年だ。学校での質問攻めも、他の子はしなくていい勉強も、将来への不安も、全部分かり合える唯一の同級生。
そんな彼を軽んじるつもりはこれっぽちもないのだが、正直、一か月を全て学習時間に充てるほどストイックだとは思っていなかった。価値観は自分と同じくらいだと思っていたのだ。
「うう、今日もアワと電話しようと思ってたのにぃ……」
私室の座卓に本を広げ、かくんと頭を垂れるフー。ちなみに、広げている本とは、学院の人間界学研究科で使われている参考書の中で最も高額で最もかさのあるシロモノで、改訂されるたびに流清家ともども寄贈されているものであり、それを置いている座卓とは、人間姿でも両側で八人は座れようという、一人で使うには巨大すぎる長方形の机であり、それを中央に据えたフーの私室とは、和洋折衷の数寄屋造りである風中家の屋敷の一角にある、少し現代風の趣を取り入れた十二畳の和室である。お嬢様、という風体ではないが、壮大な空間の中に溶け込むフーは、やはり由緒正しき家の娘であった。
ノースリーブワンピースに着替えたフーは、午前は純猫術の練習、午後は人間界学の勉強と決めて取り掛かった。が、さすがに朝から励んで八つ時ともなると、集中力が蒸発してくる。
「集中できない……アワはこんなことやってるの……? お散歩に行きたいよぅ……ショートケーキ食べたいよぅ……。そうだ、人間界学の勉強も、ショートケーキで考えたら楽しくなるかな? よし、この大阪ってところは交通網が発達している……ってことは、いろんなケーキをすぐに買いに行けそうね。で、ここに住んでいる中年以上の女性は、飴を持ち歩いている……。ショートケーキ味とかならいいなぁ。礼を言うときは『おおきに』……おおきに? 『おおきなショートケーキをありがとう』って覚えようっと」
扇風機に髪をなびかせながら、黙々と近畿地方について学んでいったフーは、夕方に切り上げるころには清々しい達成感で胸をいっぱいにしていた。この爽快感をアワと共有したかったのだが、それができないから一人での勉強とは孤独な戦いなのだ。せめて缶詰明けに、「私も頑張ったよ」と言えるように、このペースを継続しようと、さっそく翌日の計画を立て始めた。
最初の一週間で、地理の今年分の範囲を終わらせたフー。ちょうど二週目の始まりの日、たまには友達とお茶でもしようと思い立ち、母親に相談してみると、
「そうなの? まあ、フーがいいならいいけれど……」
「どういうこと?」
「いいえ、ただ、バブルから聞いた感じ、アワちゃんはけっこう勉強進んでたなーって。比べるつもりはないから、別にいいけどね」
「…………」
比べるつもりはない、と言われても、意識せずにはいられない。なにせ、学院のクラスメイトとは違い、同じ土俵に立つのがアワ一人しかいないのだ。アワが優秀になれば、相対的な劣等感を味わうのもフー一人。同じくらいの点数を取った同級生、などというものは存在しないのだから、プレッシャーはその比ではない。
もしも、いつか人間のパートナーを得たときに、アワの造詣との雲泥の差を指摘されてしまったら――。
(無理! 死ぬ! 恥ずかしすぎて、穴があったら入ってそのまま自分で生き埋めにしちゃう!)
何より、風中家の顔に泥を塗るわけにはいかない。フーは、電話をかける相手をリーフにしようかユウにしようかという迷いを彼方へ吹き飛ばし、母に詰め寄った。
「お母さん、アワはどこまでできてるって!?」
「そうね、今年分の人間界の地理と日本史は終わって、今は文学史に取り掛かったところって」
「早っ!?」
春のうちからずいぶん進んでいたに違いない。そうでなければ、あの膨大な量の日本史が、たった一週間で終わるわけがないのだ。
(すでに後れを取ってる。追いつかないと……!)
その一週間も、フーは休みなしの勉強三昧に明け暮れることとなった。何の因果か、自分まで根を詰める羽目になっていると気づいたのは、二週目が終わるころだった。
***
集中特訓三週目。
「そうか……フーも大変だな」
「ええ、そうなの。まあ、勉強疲れか、ちょっと体重減ったのはうれしかったけど。えへへ」
からっと晴れた週の半ば、彼女は希兵隊本部に来ていた。学院卒業前から、三大機関にはお見知りおきをと挨拶に通っているが、ちょうどフーの同期が就職した年から、希兵隊に同い年の友人ができて、足を運びやすくなっていたのだ。
稽古の休憩中にもかかわらず、二人はフーとのおしゃべりに付き合ってくれた。おしゃべり、と一口に言っても、ただの世間話と侮るなかれ、希兵隊の事情や、希兵隊だからこそ知っている現在の情勢などを聞ける貴重な機会なのだ。つまり、これも正統後継者になるための段階の一つなのである。
少女・河道ルシルは、体術の稽古中にできた腕のあざを気にしながら、フーに質問した。上京してきたという彼女は、飛壇の子供たちに比べて、人間接待の二家について疎いらしく、かつて学院の教室でされたように、よくいろんなことを尋ねてくる。
「そういえば、フーはお姉さんがいると言っていたな。彼女も正統後継者の勉強で忙しいということか?」
「ううん、お姉ちゃんはもうだいたい知るべきことを知り尽くしてるから、そんなに忙しくないの。最近は、新しい情報をチェックする傍ら、女子力アップに励んでいるわ」
最近耳飾りにハマってるみたいでね、と続いた話に退屈の予感を覚えたのか、もう一人の友人が口をはさむ。手慰みに木刀をくるくる回している大和コウだ。
「けど、正統後継者は一人だろ? ってことは、もし今、神託がやってきたら、お前の姉さんとお前とどっちが継ぐんだ?」
「もちろん、神託を受けたほうよ」
「だよな。そしたら、もしお前が神託を受けたら、お前の姉さんは勉強損じゃねえか」
「まあ、完璧に損かはわからないけど、言ってみればそうね。それが人間接待を担う家の子に生まれた宿命よ」
「エグっ……」
「……まあ、同じことが私にも言えるけどね」
軽く笑いながら言うが、それがどれほど重荷になっているかは、図らずも低まった声色で、二人にも伝わったようだった。
アワもそうだが、これほど学に勉励して、それを生かすことなく人生を終える可能性だってある。選ばれし人間が現れるかもしれない、そしてそれが自分のパートナーになるかもしれない可能性のために、全力で備えるのが仕事。他の業種とは異なる意味で、なかなか精神力のいる立場なのだ。
「最近、アワがすっごく頑張ってるみたいでね。私もしっぽに火が付いた感じで、精を出しているつもりなんだけど……。最近アワのお母さんとよく連絡を取ってるらしい私のお母さんによると、アワはもう今年分の地理と日本史と文学史を終えちゃってるみたいでね。役に立つかどうかなんて考えてる暇は、本当はないのよ。私も頑張らないと、置いてかれちゃう」
「そうか……」
ルシルはしばし黙った後、一瞬だけ傍らの少年を一瞥して、
「でも、まあ、フーの気持ちは、少しはわかるよ。同じ立場にある者がどんどん先に行っていると、焦るよな」
「なんだ、ルシル、お前誰かと競争してんのか?」
「別に」
つんとよそを向くルシルに、フーはくすっと笑って、
「お話聞いてくれてありがとう。私、頑張るから、またここへ来たときはしゃべろうね」
***
――とは言ったものの、三週目の終わりごろには、フーの精神も苦境にあった。
問題集があるわけでもないこの勉強は、ゴールはどこかといえば、ずばり完全に頭に入ったときである。そのため、手を動かせば終わりに近づけるとは一概には言えず、せっかく身についたと思っても忘れてしまっていればもう一度学びなおす必要がある。
受験勉強でもないため、こと細かに丸暗記する必要はない。ただ、フィライン・エデンとは異なる価値観、歴史、事物に言及されても、あるいは本物に触れても、違和感なく人間と同様にふるまえる程度には求められている。その水準は、低いとは言えない。
新作スイーツが出ても目をそらし、ユウからのお出かけの誘いも断り、夜更かしと早起きを繰り返して、何とか知識を詰め込もうとするが、焦れば焦るほどうまくいかない。一年のスパンで考えれば、今ここまで奮励する必要はないかもしれない。だが、アワとの差が開いたら、それで風中家の評価に影響したら。そんな考えが、集中力をぶつ切りにしていく。
限界に近いものを感じて、フーは席を離れた。部屋から出て、廊下を歩き、庭を目指す。座ったまま余計なことを考えてしまうくらいなら、風術の精度を上げる練習をして、少しでも体を動かそう。一石二鳥だ、と自分に言い聞かせ、角を曲がった時、
「あら、フー。休憩?」
主体のウィンディとばったり会った。フーは焦燥感をできるだけ表に出さないよう努め、応じる。
「ううん、気分転換に風術の練習をしようかと思って。詠言なしで発動できるようにするのも、大事なことでしょ?」
ウィンディは殊勝な娘に、嬉しそうにしっぽを揺らして、
「ええ、もちろん。ちょうど、アワちゃんも五つの術をそらで使えるようになったらしいし、フーも……」
その先を言うことなく、母は固まった。目の前に落ちてきた水滴が、自分の頭上、人間姿のフーの目からあふれてこぼれたものと気づき、ぎょっと身を引く。
「フー……?」
二本足で立って、わたわたと手を振るウィンディの前で、フーは座り込んで叫んだ。
「もう……いやあぁっ!」
その勢いで、わんわんと泣き出した。喉の奥から思い切りわき出した声は、廊下じゅうに響き渡った。父や姉が飛んでくるかもしれないが、お構いなしだ。
「なんで私、こんなにできない子なの! なんでアワはそんなにどんどん進めるのよー……!」
「フ、フー、落ち着いてって」
「私、頑張ってるのにぃ……全部全部、我慢して、努力してるのに……私、きっと向いてないのよー……!」
そう吐き出したところで、何が変わるわけでもない。アワに追いつけるわけでもない。覚えるべきことが減らされるわけでもない。正統後継者候補から外れるわけにもいかない。
結局、感情をぶちまけるだけぶちまけて、母を困らせて、時間を無駄にするだけだ。そうとはわかっていても止められない自分にさえ、嫌悪感を覚える。
滂沱と涙を流して慟哭するフーの前で、ウィンディはたっぷり狼狽した後、「これは仕方ないよねー……」と深くうなだれた。
「あの、フー、聞いてちょうだい」
「……なによぅ」
「ごめんなさい、そこまで負担をかけるつもりじゃなかったの。……私たちが悪かったわ」
上目遣いにフーを見るウィンディは、保護者とは思えないほど気後れした、しおらしい表情で、とある夜の話を始めた。
軽い口調の中に重みを混ぜる。相手が答えるまでの間、彼女は手持ち無沙汰にグラスを揺らした。薄茶の液体の中で、大きめの氷が涼やかな音を立てていたが、やがて口を開いたもう一人の女性の、輪をかけて清涼な声音に恥じ入ったのか、氷は鳴りを潜めた。
「そうね、もう二年目だし……あまりのんびりしていられないのは事実ね」
ちびちびとグラスに口をつけると、彼女はブラウンの髪をひと梳きして、ことりと飲み物をテーブルに置いた。
「私もちょうど、その件に関しては案じていたところなの。けれど、どう策を講じたものかと考えあぐねていたのよ」
「なんだ、あんたもか。お互い苦労するね」
「ええ」
二人はくすりと静かに笑うと、
「こういうのはね、露骨にやっても駄目だと思うんだ。こっちが策士になってやらないとね」
「なんだか、あきちゃんが言いそうな言葉ね。でも、賛成。どうしましょうかしら」
「どうにかして、火をつけないとね……。あ、ちなみにあんたのとこは、今、どこまでできてるの?」
「たぶん、そっちよりも進んでいないわ。今ねぇ……」
色白の女性が頬に手を当てて斜め上を見上げたところで、ぴたりと動きを止める。旧友は視線を交錯させあい、数秒間静止。
やがて、よからぬことを考えたいたずらっ子のような笑みが二つ浮かんだ。
「いいこと思いついちゃった。ね、あんたも同じこと考えてるでしょ」
「正解、私もよ。ああ、でも、言っちゃだめ。念には念を押して……」
女性は、音もなく立ち上がると、引き出しから二人分のメモと筆記用具を取り出した。座ったままそれを見たポニーテールの友人は、閉ざした口で弧の字を描き、了解の合図を出す。
よい子は寝静まる真夜中。それからは、会話の声も夢見心地で、ただペンの走る音と、ささやくような笑い声が、静謐な居間で夜を更かしていた。
***
風中フーは、特別な家柄の子であった。フィライン・エデンの代表者の片割れである風中家に生まれ、もしも君臨者からの神託があれば、正統後継者として人間と交流することになる。神託は夢の中に現れる……と、聞いている。君臨者の姿を見るわけでも、声を聞くわけでもないが、なぜか自分のパートナーとなる人間の顔と名前のみがわかる夢を見る。これが百発百中で正夢になることが、科学的根拠はないものの、ほかの事象と合わせて帰納的に「君臨者」という存在を形作る一つの要素なのである。
今、春よりずっと早起きした太陽が窓越しにモーニングコールを送る先で、彼女は白猫の姿で夢のさなかにいた。朝日にまぶたをくすぐられ、ふにゃっと表情を変えながら寝言をこぼす。
「もう食べられないってぇ……え、まだあるのぉ? しょうがないなぁ……」
「フー、そろそろ起きなさい」
「そうね、そろそろフォークを置いたほうがいいわよね、太っちゃう……」
「もう、ねぼけちゃって」
ため息交じりの声に、フーはようやくぱちりと目を開けた。しなやかな動作で起き上がると、きょろきょろとあたりを見回す。
「あれ? ケーキは?」
「ないわよ。本当にショートケーキが好きね」
「夢かぁ……。あれ、なんでショートケーキの夢って知ってるの?」
「フーの考えることくらいわかります。私を誰だと思ってるの?」
フーは、布団のそばに二本足でちょこんと立つ白猫を見た。フーより一回り大きく、耳の形が少し丸っこい。左腕には、いつも通りピンクのリボンを巻いている。腰に手を当てて、寝起きのフーを愛情のこもった視線で見つめる彼女に、フーは笑って答えた。
「私のお母さん」
「その通り。さ、起きてきなさい」
母・風中ウィンディは喜色をあらわにすると、フーの部屋を出ていこうとして、
「ああ……その前に」
思い出したようにつぶやいて、ついてきた娘を振り返った。フーは首をかしげて次の言葉を待つ。
「最近、正統後継者のお勉強はどうなってる?」
「う……えっと……」
「本は全部読めた? 術の練習はどこまでできた?」
「お、お料理の練習ばっかりしてて、ちょっと進みが遅めかも……。ごめんなさい」
学院も卒業して、そろそろ本格的に家事を学んでいきたい年ごろ。その傍ら、本業である正統後継者を目指しての精進は、少しずつ進んではいるものの、必要な素養は理想的なペースで身についているとは言いがたかった。
風中家と、もう一つの流清家で伝統的に学ばされているのは、人間について知るための人間界学だけではない。
まず、基本的な純猫術は完璧に。そして自分の属性の猫術、フーなら風術をある程度操れるよう習熟しておかなければならない。人間をフィライン・エデンに招いた際、もしクロやダークに襲われるようなことがあったら、何があっても守り抜かなければならないからだ。ダークに太刀打ちするのは難しいとはいえ、せめて人間界へ逃がすまでの時間稼ぎぐらいは義務である。
それから、人間界の情報を手に入れるためには、より人間界になじむ必要がある。必要とあらばと編み出された記憶改竄などの一子相伝の奥義も免許皆伝をなさなければならない。加えて、パートナーやそれ以外の人間たちとうまく付き合い、情報収集でフィライン・エデンに寄与するための外交術、時に連携が必要な三大機関とのコネクションづくりなど、やることはてんこ盛りである。
つまるところ、学院の勉強が倍に増えて継続しているくらいの負担なのだ。
しかし、いくら我が子が家事を覚えたいという嬉しいことを言ってくれていても、元正統後継者は甘やかすわけにはいかない。
「悪いけれど、私が子供のころもこれくらいをこなすよう言われていたから、大目に見るわけにはいかないの。学院も卒業したし、前よりも時間は取れるでしょ?」
「う、うん、まあ……」
「じゃあ、家事はお母さんに任せて、フーは頑張ってちょうだい。あ、そうそう、アワちゃんは今日から一か月くらい、缶詰特訓するらしいから、連絡も訪問もダメだって。邪魔になっちゃうから、来月まで我慢してね」
「はーい……え?」
素直に返事してから、ぴたと固まる。
「……アワが? 缶詰? 連絡も会いに行くのもダメ!?」
「ええ、がんばるんだって。フーも置いてかれないようにね」
「そ、そんなこと、前に会った時には何も……」
「昨日、バブル……アワちゃんのお母さんから電話があって、そう聞いたわ。ちょうど学院にいたころは今日くらいから夏休みだったし、それで思い立ったのかしらね」
母親はそう言い残して部屋を出て行ったが、フーは仰天のあまり、文字通り天井を振り仰いだ。
(……ええええ!?)
***
物心ついた時にはそばにいたアワは、幼馴染にして同じ境遇を背負う少年だ。学校での質問攻めも、他の子はしなくていい勉強も、将来への不安も、全部分かり合える唯一の同級生。
そんな彼を軽んじるつもりはこれっぽちもないのだが、正直、一か月を全て学習時間に充てるほどストイックだとは思っていなかった。価値観は自分と同じくらいだと思っていたのだ。
「うう、今日もアワと電話しようと思ってたのにぃ……」
私室の座卓に本を広げ、かくんと頭を垂れるフー。ちなみに、広げている本とは、学院の人間界学研究科で使われている参考書の中で最も高額で最もかさのあるシロモノで、改訂されるたびに流清家ともども寄贈されているものであり、それを置いている座卓とは、人間姿でも両側で八人は座れようという、一人で使うには巨大すぎる長方形の机であり、それを中央に据えたフーの私室とは、和洋折衷の数寄屋造りである風中家の屋敷の一角にある、少し現代風の趣を取り入れた十二畳の和室である。お嬢様、という風体ではないが、壮大な空間の中に溶け込むフーは、やはり由緒正しき家の娘であった。
ノースリーブワンピースに着替えたフーは、午前は純猫術の練習、午後は人間界学の勉強と決めて取り掛かった。が、さすがに朝から励んで八つ時ともなると、集中力が蒸発してくる。
「集中できない……アワはこんなことやってるの……? お散歩に行きたいよぅ……ショートケーキ食べたいよぅ……。そうだ、人間界学の勉強も、ショートケーキで考えたら楽しくなるかな? よし、この大阪ってところは交通網が発達している……ってことは、いろんなケーキをすぐに買いに行けそうね。で、ここに住んでいる中年以上の女性は、飴を持ち歩いている……。ショートケーキ味とかならいいなぁ。礼を言うときは『おおきに』……おおきに? 『おおきなショートケーキをありがとう』って覚えようっと」
扇風機に髪をなびかせながら、黙々と近畿地方について学んでいったフーは、夕方に切り上げるころには清々しい達成感で胸をいっぱいにしていた。この爽快感をアワと共有したかったのだが、それができないから一人での勉強とは孤独な戦いなのだ。せめて缶詰明けに、「私も頑張ったよ」と言えるように、このペースを継続しようと、さっそく翌日の計画を立て始めた。
最初の一週間で、地理の今年分の範囲を終わらせたフー。ちょうど二週目の始まりの日、たまには友達とお茶でもしようと思い立ち、母親に相談してみると、
「そうなの? まあ、フーがいいならいいけれど……」
「どういうこと?」
「いいえ、ただ、バブルから聞いた感じ、アワちゃんはけっこう勉強進んでたなーって。比べるつもりはないから、別にいいけどね」
「…………」
比べるつもりはない、と言われても、意識せずにはいられない。なにせ、学院のクラスメイトとは違い、同じ土俵に立つのがアワ一人しかいないのだ。アワが優秀になれば、相対的な劣等感を味わうのもフー一人。同じくらいの点数を取った同級生、などというものは存在しないのだから、プレッシャーはその比ではない。
もしも、いつか人間のパートナーを得たときに、アワの造詣との雲泥の差を指摘されてしまったら――。
(無理! 死ぬ! 恥ずかしすぎて、穴があったら入ってそのまま自分で生き埋めにしちゃう!)
何より、風中家の顔に泥を塗るわけにはいかない。フーは、電話をかける相手をリーフにしようかユウにしようかという迷いを彼方へ吹き飛ばし、母に詰め寄った。
「お母さん、アワはどこまでできてるって!?」
「そうね、今年分の人間界の地理と日本史は終わって、今は文学史に取り掛かったところって」
「早っ!?」
春のうちからずいぶん進んでいたに違いない。そうでなければ、あの膨大な量の日本史が、たった一週間で終わるわけがないのだ。
(すでに後れを取ってる。追いつかないと……!)
その一週間も、フーは休みなしの勉強三昧に明け暮れることとなった。何の因果か、自分まで根を詰める羽目になっていると気づいたのは、二週目が終わるころだった。
***
集中特訓三週目。
「そうか……フーも大変だな」
「ええ、そうなの。まあ、勉強疲れか、ちょっと体重減ったのはうれしかったけど。えへへ」
からっと晴れた週の半ば、彼女は希兵隊本部に来ていた。学院卒業前から、三大機関にはお見知りおきをと挨拶に通っているが、ちょうどフーの同期が就職した年から、希兵隊に同い年の友人ができて、足を運びやすくなっていたのだ。
稽古の休憩中にもかかわらず、二人はフーとのおしゃべりに付き合ってくれた。おしゃべり、と一口に言っても、ただの世間話と侮るなかれ、希兵隊の事情や、希兵隊だからこそ知っている現在の情勢などを聞ける貴重な機会なのだ。つまり、これも正統後継者になるための段階の一つなのである。
少女・河道ルシルは、体術の稽古中にできた腕のあざを気にしながら、フーに質問した。上京してきたという彼女は、飛壇の子供たちに比べて、人間接待の二家について疎いらしく、かつて学院の教室でされたように、よくいろんなことを尋ねてくる。
「そういえば、フーはお姉さんがいると言っていたな。彼女も正統後継者の勉強で忙しいということか?」
「ううん、お姉ちゃんはもうだいたい知るべきことを知り尽くしてるから、そんなに忙しくないの。最近は、新しい情報をチェックする傍ら、女子力アップに励んでいるわ」
最近耳飾りにハマってるみたいでね、と続いた話に退屈の予感を覚えたのか、もう一人の友人が口をはさむ。手慰みに木刀をくるくる回している大和コウだ。
「けど、正統後継者は一人だろ? ってことは、もし今、神託がやってきたら、お前の姉さんとお前とどっちが継ぐんだ?」
「もちろん、神託を受けたほうよ」
「だよな。そしたら、もしお前が神託を受けたら、お前の姉さんは勉強損じゃねえか」
「まあ、完璧に損かはわからないけど、言ってみればそうね。それが人間接待を担う家の子に生まれた宿命よ」
「エグっ……」
「……まあ、同じことが私にも言えるけどね」
軽く笑いながら言うが、それがどれほど重荷になっているかは、図らずも低まった声色で、二人にも伝わったようだった。
アワもそうだが、これほど学に勉励して、それを生かすことなく人生を終える可能性だってある。選ばれし人間が現れるかもしれない、そしてそれが自分のパートナーになるかもしれない可能性のために、全力で備えるのが仕事。他の業種とは異なる意味で、なかなか精神力のいる立場なのだ。
「最近、アワがすっごく頑張ってるみたいでね。私もしっぽに火が付いた感じで、精を出しているつもりなんだけど……。最近アワのお母さんとよく連絡を取ってるらしい私のお母さんによると、アワはもう今年分の地理と日本史と文学史を終えちゃってるみたいでね。役に立つかどうかなんて考えてる暇は、本当はないのよ。私も頑張らないと、置いてかれちゃう」
「そうか……」
ルシルはしばし黙った後、一瞬だけ傍らの少年を一瞥して、
「でも、まあ、フーの気持ちは、少しはわかるよ。同じ立場にある者がどんどん先に行っていると、焦るよな」
「なんだ、ルシル、お前誰かと競争してんのか?」
「別に」
つんとよそを向くルシルに、フーはくすっと笑って、
「お話聞いてくれてありがとう。私、頑張るから、またここへ来たときはしゃべろうね」
***
――とは言ったものの、三週目の終わりごろには、フーの精神も苦境にあった。
問題集があるわけでもないこの勉強は、ゴールはどこかといえば、ずばり完全に頭に入ったときである。そのため、手を動かせば終わりに近づけるとは一概には言えず、せっかく身についたと思っても忘れてしまっていればもう一度学びなおす必要がある。
受験勉強でもないため、こと細かに丸暗記する必要はない。ただ、フィライン・エデンとは異なる価値観、歴史、事物に言及されても、あるいは本物に触れても、違和感なく人間と同様にふるまえる程度には求められている。その水準は、低いとは言えない。
新作スイーツが出ても目をそらし、ユウからのお出かけの誘いも断り、夜更かしと早起きを繰り返して、何とか知識を詰め込もうとするが、焦れば焦るほどうまくいかない。一年のスパンで考えれば、今ここまで奮励する必要はないかもしれない。だが、アワとの差が開いたら、それで風中家の評価に影響したら。そんな考えが、集中力をぶつ切りにしていく。
限界に近いものを感じて、フーは席を離れた。部屋から出て、廊下を歩き、庭を目指す。座ったまま余計なことを考えてしまうくらいなら、風術の精度を上げる練習をして、少しでも体を動かそう。一石二鳥だ、と自分に言い聞かせ、角を曲がった時、
「あら、フー。休憩?」
主体のウィンディとばったり会った。フーは焦燥感をできるだけ表に出さないよう努め、応じる。
「ううん、気分転換に風術の練習をしようかと思って。詠言なしで発動できるようにするのも、大事なことでしょ?」
ウィンディは殊勝な娘に、嬉しそうにしっぽを揺らして、
「ええ、もちろん。ちょうど、アワちゃんも五つの術をそらで使えるようになったらしいし、フーも……」
その先を言うことなく、母は固まった。目の前に落ちてきた水滴が、自分の頭上、人間姿のフーの目からあふれてこぼれたものと気づき、ぎょっと身を引く。
「フー……?」
二本足で立って、わたわたと手を振るウィンディの前で、フーは座り込んで叫んだ。
「もう……いやあぁっ!」
その勢いで、わんわんと泣き出した。喉の奥から思い切りわき出した声は、廊下じゅうに響き渡った。父や姉が飛んでくるかもしれないが、お構いなしだ。
「なんで私、こんなにできない子なの! なんでアワはそんなにどんどん進めるのよー……!」
「フ、フー、落ち着いてって」
「私、頑張ってるのにぃ……全部全部、我慢して、努力してるのに……私、きっと向いてないのよー……!」
そう吐き出したところで、何が変わるわけでもない。アワに追いつけるわけでもない。覚えるべきことが減らされるわけでもない。正統後継者候補から外れるわけにもいかない。
結局、感情をぶちまけるだけぶちまけて、母を困らせて、時間を無駄にするだけだ。そうとはわかっていても止められない自分にさえ、嫌悪感を覚える。
滂沱と涙を流して慟哭するフーの前で、ウィンディはたっぷり狼狽した後、「これは仕方ないよねー……」と深くうなだれた。
「あの、フー、聞いてちょうだい」
「……なによぅ」
「ごめんなさい、そこまで負担をかけるつもりじゃなかったの。……私たちが悪かったわ」
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