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7.追想編
34虹は呼ぶ、手の鳴るほうへ 前編
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ノックは三回。入室を促されたら丁寧な所作で入り、挨拶とともに礼をする。最初の角度は三十度。もし相手が主体であれば、見下ろさないようこちらも主体に変化する。指定時刻まであと三十秒。団体行動の基本は時間の厳守だ。遅刻はもとより、早すぎても迷惑をかける。左手の準備は万全だ。人差し指の第二関節で戸を叩くまであと五秒、四、三……。
ガチャッ。
「ひぁっ!?」
「あら、やっぱりいたわね。気配は感じてたのよ」
だしぬけにドアを開き、中から顔を出した少女が小さく笑った。律儀というより潔癖なまでに作法を遵守しようとしていた訪問者は、緊張のピークに不意打ちを食らって動転の一歩手前だったが、すぐに姿勢を正して、夕べ十回二十回と練習したとおりにふるまった。
「お初にお目にかかります。私が此度、青龍隊に新規入隊いたしました、河道流知でございます。不束者ではございますが、どうぞご指導ご鞭撻のほど、宜しくお願い申し上げます!」
滑舌よく言って頭を下げる。三十度のはずが最敬礼をする小柄な新人に、年上の少女はくすりと声を漏らした。
「そんなに緊張しなくていいのに。中でお茶でも……と言いたいところだけど、それだけあがってたら逆にプレッシャーかな。初めまして、私が青龍隊の隊長、宇奈川羽留よ。ちなみに風猫」
ルシルは一度顔を上げ、予想外に優しそうな初の上司にほっとしながら、軽く会釈した。
希兵隊の寮に入ってから一週間。年度替わりの明日から仕事が始まる。それに先立ち、最高司令官から指定された時間に、配属先の隊長に挨拶に行くよう命じられていた。寮を案内してくれた別の隊の先輩いわく、ルシルの四つ上で長身、しっかり者で力も強い女隊長……ということだったので、少し恐れていたのだ。
だが、目の前の隊長は、確かに年齢の差を考慮しても長身であるが、柔和で母性的な雰囲気の漂う少女だった。小豆色の髪はセミロングで、かすかにせっけんの香りがする。声は落ち着いた心地よい響き。話し方も仕草も尖ったところはなく、警察・消防組織の一リーダーというより、何人もの弟妹に囲まれるお姉さん、といった風だ。
「どうしてドアの外でじっとしていたの?」
「あの、訪問時刻ぴったりにお伺いしようとしていたので……」
「もう時間だったと思うけど」
「いえ、あと二秒でした」
大真面目な顔でルシルが言うと、うとめは一瞬だけ面食らった後、口元を押さえてふきだした。
「謹厳実直な子ね。いいことだけど、固くなりすぎてもダメよ。あ、お互い主体も見せ合っておきましょうか」
うとめがそう言って変化したので、ルシルも慌ててそれに倣った。髪と同じ小豆色の猫になったうとめは、青い首輪をつけている。ルシルが着用しているものと同じ、青龍隊の証だ。
先っぽだけふさふさした尾を揺らして、うとめは思い出すように斜め上を見て小首をかしげた。
「えっと、最司官から言われているのは顔合わせくらいかしら。何か質問とかある?」
「あ……それでは、私のほかに青龍隊の新入隊員は……」
「いないわ、ルシルちゃんだけよ。よかった、一人でも増えて。副隊長と二人だけでどうしようかと思ってたのよ」
「……え!?」
ルシルは思わず声を上げ、希兵隊の定員人数を指折り数えようとした。が、左手は肉球のついた前足だったことに気づき、気まずそうに下ろす。頭の中で行った簡単な計算の結果に、戸惑いを隠しきれなかった。
希兵隊は、全部で七つのグループからなる。大きくは総司令部、執行部、開発部。執行部の中でさらに細分化され、本部から見て南を担当する朱雀隊、同じく東の青龍隊、西の白虎隊、北の玄武隊、そして隊舎にとどまって医務室を預かる麒麟隊だ。執行部の定員は二十五名と聞いているので、一隊あたり五名。なのに、うとめの口ぶりからすると、ルシルが入るまでは三人の欠員があったかのように聞こえる。
うとめはルシルの言わんとしていることを察して、苦笑いした。
「ええ、そうなの。欠員だらけなのよ、ちょっと色々あってね。だから、ここのところは、もっぱら他の隊の助っ人要員やパトロール程度に甘んじていたのよ。まあ、一人新人が増えたところで、それも変わらないけれど」
「そ、そうなんですか……」
何があったのか聞いてみたい気もしたが、戦闘集団である希兵隊からメンバーが消える理由など、問うまでもなく明らかだ。少なくとも楽しい話ではなさそうだったので、ルシルはその話題をそっと脇に置いた。
「まあ、でも、新入りの育成っていう仕事が増えて、明日からは楽しくなりそうね。がんばりましょうね、ルシルちゃん」
朗らかな笑みでそう言われ、ルシルはみたび頭を垂れた。
***
希兵隊員という仕事は、もともと志望者がそう多い職業ではないが、他の公務員同様、かなり狭き門として知られている。理由の一つは、毎年決まった数が募集されるわけではないということである。次の四月に退職が決定している人数分だけ、補完する形で新米を募る。そのため、年に一、二名、もしくは何年も募集なしということだってありうる。さらに、募集人数を必ずとるわけでもなく、採用基準は絶対評価だ。入隊試験の結果、学院での成績、健康状態、面接選考、どれか一つでも最司官がハねれば不採用。運と実力で仮に最司官のお眼鏡にかなっても、定員を超えて同程度の実力者がいれば、少しでも優秀な志願者をとる。そういう職場だ。
それを踏まえて、現状を見直してみると。
新入隊員が六名もいる。今年は優秀な若者が多かったのだろう。……いや、そこではない。彼らを迎えてまだなお、欠員がいるのだ。実に、過去何があったか掘りおこすのは、誰もがはばかられるところであった。
驚くほど若いトップによる歓迎の挨拶が終われば、いよいよ仕事開始である。ルシルはうとめの指示に従って、一度部屋に戻り、主体から双体になって執行着を着付けた。
人間界に後れを取ってまだ着物風の衣服が主流だったころ、通常の数倍の耐久性をもつよう特別な製法で作られた制服が執行着だ。これに匹敵する洋服型はいまだ開発されていない……というよりも理論上難しいとして、現在でもやや時代錯誤ながら着物袴が仕事着となっている。ちなみに、戦闘要員ではない救護班の麒麟隊や研究職の開発部は洋服だ。また、最高司令官も、「死守されるため戦う必要がなく、唯一の権力を明示する服装」という意味合いで水兵風の洋装である。
村にいた時から道着で稽古をしていたルシルにとって、袴に着替えるのは造作もないことだった。素早く身支度すると、指定された道場へと走る。他の隊はまだ来ておらず――あるいは、まず道場以外で新入り指導をするのかもしれない――、執行着のうとめともう一人、黒髪の青年のみだった。
「お待たせいたしました」
「予想よりずっと早いわ。……うん、上手に着られてる」
うとめは背面ものぞき込んで、にっこりとうなずいた。そして、傍らに立つ、黒い柱のような痩身長躯の男を手で示した。
「紹介するわ、副隊長の竈戸さん。私より希兵隊歴は長いのよ」
「どーも、竈戸火槌です。今年ハタチの炎猫。うとめちゃんのことは入隊当時から面倒見てたけど、地位は抜かされちゃいました。テヘッ」
覇気のない表情と、おどけたように手を挙げて言うセリフが、いかにも気楽そうだ。平坦な声でふざける副隊長の脇腹を肘で小突きながら、うとめは呆れ返ったため息をつく。
「あなたが責任の重い職は嫌だと言って私に譲ったんでしょう。語弊のある言い方をしないでくださいな」
「最司官が認めたんだから、実力的にも抜かされたようなものじゃん。……ところで、ちょいと聞きたいんだけど」
「何ですか」
「この子、なんて名前?」
カヅチは気後れもせずルシルを指さして問うた。ルシルは先輩に先に名乗らせてしまったことに気づき、焦りを覚えながら頭を下げた。
「失礼いたしました! 私は青龍隊配属となりました、河道流知と申します。どうぞよろしくお願いいたします!」
「へー、よろしく」
「へーじゃないですよ、名前くらい先に確認してください。というか、せめてルシルちゃんが来る前に私に聞いてくださいよ。いっつも大事なことは二の次なんですから!」
腰に手を当てて自分より大きな男を叱るうとめ。それを適当に流すカヅチ。このような構図が、最司官にうとめを隊長に推させたのかもしれない。
「時間がもったいないから続けるわ。ルシルちゃん、まずは猫術と剣術の見極めからさせてもらえる? 剣の経験はあると聞いているから」
「はいっ」
「そのことなんだけど、うとめちゃん」
「今度は何ですか」
「この子に渡す真剣、持ってくるの忘れちゃった。メンゴ」
「最初におっしゃってちょうだい!」
***
うとめの所見でいえば、ルシルの実力は新人にしては文句なしの上出来だった。
もちろん、技術や力のある者が受かるのだから、一定水準以上であるのは当然だ。だが、剣術を習っていた者でも、いざ木刀を真剣に持ち替えると体がぶれてしまったり、術の得意な者でも精度か威力のいずれかが欠けていたりはするものだ。その点、ルシルは最前線に立たせるには早すぎるとはいえ、実戦練習を行っても差し支えない出来栄えであった。
……という経緯があり、うとめはカヅチにルシルを任せ、「裏の運動場で走り込みでもさせておいて」と言い添えて、総司令部室へ進度の相談に行っていた。一方の最高司令官も、新人指導と通常業務、加えて年度初めにかかる追加の仕事に追われており、相談開始までに十分、途中さらに十分待たされ、結局部屋を後にする頃には三十分が経過していた。
今日は天気も良く、四月には珍しいほどの夏日ということで、開け放った窓からの風を楽しみながら、運動場へ向かって廊下を急ぎぎみに歩いていると、
「おーい、うとめちゃん」
「竈戸さん?」
特徴がないのが特徴的な青年が、早歩きで向こう側からやってきた。ルシルの姿はない。
「ここは涼しいねえ。もうお昼だし、外は暑くってさ。廊下のほうが風通るよね」
「そんなことより、どうしてここに? ルシルちゃんは?」
「ああ、そうそう。あの子すごいね、実戦に向けて袴とわらじで走らせたら、初めてなのに転ぶ様子なくってさ」
「……はあ」
「あまりにも規則正しく走ってるものだから、ボク退屈でうとうとしちゃってさ」
「しないでください。……それで?」
「ハッと目を覚ましたら、ルシルちゃん、熱中症で伸びてた。医務室ナウ」
「それを! 先に! 言いなさいってば!」
うとめに乱暴に襟首をつかまれ、引きずられそうになったカヅチは、どうせなら連れて行ってもらおうと主体に戻った。そういうわけで、初日から麒麟隊の世話になったルシルがベッドの上で見たのは、グレーの毛並みに靴下をはいたような白い模様のついた猫と、その首輪をひっつかんだ汗だくのうとめだった。
「た、隊長? ……と、副隊長ですか?」
「うん、カヅチだよ。もう大丈夫? ごめんね、ボクが冗談でグラウンド百周なんて言ったせいで」
「そんなこと言ったんです!?」
「ああっ揺らさないで、揺さぶられっ子になっちゃう」
体ではなく首輪をつかんでガクガクと揺さぶるうとめ。首筋を保冷材で冷やしながら、その光景にどう反応したものかと困っていると、うとめはルシルにも苦言を向けた。
「あなたも、いくら律儀とはいえ、そんなバカげた指示を実行することもないでしょう。避けられるトラブルは避けないと、周りに心配も迷惑もかけるのよ?」
「す……すみません」
しゅんと肩を落とすルシルに、うとめは懐から出したメモを見ながら言った。
「せっかく次のステップへ進む許可をもらってきたけど、今日はもうおやすみね」
「っ……そんな、午後からでも……」
「だーめ。今日は休養。走り込み一つでも自分の限界さえわからない子に、無理はさせられません。……何を焦っているの?」
少しばかり厳しい口調だったが、最後の問いは、責めるニュアンスではなく率直に疑問に思っているようなものだった。ルシルはしばらく黙った後、うつむいてぽつりとこぼした。
「……強くなりたいんです」
「強く?」
「強くならなければならないんです。もう誰にも守られず、自分が前面に立って誰かを守れるように……」
詳しい経緯は話さなかった。いちいち話していても長くなるし、何より「河道」の名がどういう意味を持つのか、村から離れたこの町では誰も知らないままでいてほしかったのだ。
カヅチの「グラウンド百周」を、ルシルは冗談と思わなかった。希兵隊員として、ダークと戦い、時には遠方へ休憩なしで馳せなければならないことを考えると、体力は必須だ。それくらいがここの常識なのだろうと思ったがゆえに、生真面目に実行したのだった。
だが、それで空回ってこのざまでは世話がない。突然壁にぶち当たってしまい、浮かない顔をしていると、
「体を鍛えたら強くなれると思ってる?」
うとめが柔らかい声音で尋ねてきた。初対面の時と同じ、年下を慈しむ目だ。ルシルがゆっくりとうなずくと、彼女はゆるゆると首を振った。
「そうとは限らないのよ。強さとは、体力だけじゃない。体力がなくても強いひとだっている。全然別物なのよ。そしてそれは、みんなそれぞれ違うもの」
「違うもの……。では、隊長は……?」
「そうね、私が目指す強さは、『誰かに何かをしてあげられること』かな。だって、それって、自分のことは当然十分できて、なおも他人を気にかけてあげられる余裕があるってことでしょ?」
ルシルは口の中で「おぉー……」とつぶやいた。自分を十全にした上で、まだ労力や時間が余っていても、それを周りのひとに使ってあげるというのは、人徳がなければ思いつかないだろう。
ルシルの感服した表情を、納得したものと読みとったうとめは、優しく微笑むと、「休みながら、考えてみてね」と言って医務室を後にした。
***
「強さって、何だと思う?」
道場裏の水道で水を飲んでいたコウが、それを聞いて、きょとんとルシルを見つめ返した。
朱雀隊の配属になったコウとは、村にいたころと比べれば、一緒にいる時間はめっきり減ったが、たまにこうして休憩時間などに顔を合わせると、近況報告をしたりして言葉を交わしていた。向こうも向こうで、いい仲間に恵まれているようだった。
コウは濡れた口元を袖で乱暴に拭うと、隠すことなく眉根を寄せた。
「……出し抜けに何だ?」
「その、私は強くなりたいと思って村を飛び出したわけだが、どうやら力の強さが真の強さではないらしい。ひとそれぞれ違うものを強さと定義づけ、目指す。……それを隊長に教えてもらってから、一か月ほど考えてみたが、よくわからないんだ」
汗をぬぐっていたタオルで、後半の言葉を隠すように口元を覆う。ちらとコウを見れば、げんなりと情けなさそうな顔をしていた。
「なんじゃそりゃ。目標が迷子になったのかよ」
「お、お前はどうなんだ。『強くなろう』って言ってついてきたのなら、お前には強さの正体がわかっているんだろうな?」
痛いところを突いてやった……はずが、コウは小さな嘆息の後でさらりと言った。
「オレは、まずは宣言通り、お前の背中を守れれば、それが強さだと思う。道場で敵なしだったお前は強いんだ。そのお前と同格に背中を預けあえたなら、オレも成長したってことなんだろうさ」
虚を突かれて言葉を失うルシルに、コウはさらに続けた。
「お前はユキルの件があって、強くなりたいと思って希兵隊の門を叩いたんだろ? あの事件の時、お前はどんな強さを想像したんだ?」
「……」
「それが、お前が望み、目指す強さなんじゃねえか?」
まっすぐに投げかけてくれるヒントを吟味している間に、コウを呼ぶ声が道場内から聞こえた。「隊長が呼んでる。じゃあな」と手を振って戻るコウを見送りながら、ルシルはあの日の荒くれた悲願を思い起こした。
(術が上手ければクロを蹴散らせた? 足が速ければユキルに手が届いた? 果たして、そうか?)
いくら精度よく水術を使えたところで、身体能力が秀でていたところで、それでもきっと、あの時のユキルとの間には永遠の隔たりがあった。それこそが、拳を震わせ声を荒らげて悔いたものではなかったか?
ぼんやりと見つめる中空に、何かが見えた気がした。
ぬぐい忘れられた汗が一滴、足元にぽたりと落ちた。
ガチャッ。
「ひぁっ!?」
「あら、やっぱりいたわね。気配は感じてたのよ」
だしぬけにドアを開き、中から顔を出した少女が小さく笑った。律儀というより潔癖なまでに作法を遵守しようとしていた訪問者は、緊張のピークに不意打ちを食らって動転の一歩手前だったが、すぐに姿勢を正して、夕べ十回二十回と練習したとおりにふるまった。
「お初にお目にかかります。私が此度、青龍隊に新規入隊いたしました、河道流知でございます。不束者ではございますが、どうぞご指導ご鞭撻のほど、宜しくお願い申し上げます!」
滑舌よく言って頭を下げる。三十度のはずが最敬礼をする小柄な新人に、年上の少女はくすりと声を漏らした。
「そんなに緊張しなくていいのに。中でお茶でも……と言いたいところだけど、それだけあがってたら逆にプレッシャーかな。初めまして、私が青龍隊の隊長、宇奈川羽留よ。ちなみに風猫」
ルシルは一度顔を上げ、予想外に優しそうな初の上司にほっとしながら、軽く会釈した。
希兵隊の寮に入ってから一週間。年度替わりの明日から仕事が始まる。それに先立ち、最高司令官から指定された時間に、配属先の隊長に挨拶に行くよう命じられていた。寮を案内してくれた別の隊の先輩いわく、ルシルの四つ上で長身、しっかり者で力も強い女隊長……ということだったので、少し恐れていたのだ。
だが、目の前の隊長は、確かに年齢の差を考慮しても長身であるが、柔和で母性的な雰囲気の漂う少女だった。小豆色の髪はセミロングで、かすかにせっけんの香りがする。声は落ち着いた心地よい響き。話し方も仕草も尖ったところはなく、警察・消防組織の一リーダーというより、何人もの弟妹に囲まれるお姉さん、といった風だ。
「どうしてドアの外でじっとしていたの?」
「あの、訪問時刻ぴったりにお伺いしようとしていたので……」
「もう時間だったと思うけど」
「いえ、あと二秒でした」
大真面目な顔でルシルが言うと、うとめは一瞬だけ面食らった後、口元を押さえてふきだした。
「謹厳実直な子ね。いいことだけど、固くなりすぎてもダメよ。あ、お互い主体も見せ合っておきましょうか」
うとめがそう言って変化したので、ルシルも慌ててそれに倣った。髪と同じ小豆色の猫になったうとめは、青い首輪をつけている。ルシルが着用しているものと同じ、青龍隊の証だ。
先っぽだけふさふさした尾を揺らして、うとめは思い出すように斜め上を見て小首をかしげた。
「えっと、最司官から言われているのは顔合わせくらいかしら。何か質問とかある?」
「あ……それでは、私のほかに青龍隊の新入隊員は……」
「いないわ、ルシルちゃんだけよ。よかった、一人でも増えて。副隊長と二人だけでどうしようかと思ってたのよ」
「……え!?」
ルシルは思わず声を上げ、希兵隊の定員人数を指折り数えようとした。が、左手は肉球のついた前足だったことに気づき、気まずそうに下ろす。頭の中で行った簡単な計算の結果に、戸惑いを隠しきれなかった。
希兵隊は、全部で七つのグループからなる。大きくは総司令部、執行部、開発部。執行部の中でさらに細分化され、本部から見て南を担当する朱雀隊、同じく東の青龍隊、西の白虎隊、北の玄武隊、そして隊舎にとどまって医務室を預かる麒麟隊だ。執行部の定員は二十五名と聞いているので、一隊あたり五名。なのに、うとめの口ぶりからすると、ルシルが入るまでは三人の欠員があったかのように聞こえる。
うとめはルシルの言わんとしていることを察して、苦笑いした。
「ええ、そうなの。欠員だらけなのよ、ちょっと色々あってね。だから、ここのところは、もっぱら他の隊の助っ人要員やパトロール程度に甘んじていたのよ。まあ、一人新人が増えたところで、それも変わらないけれど」
「そ、そうなんですか……」
何があったのか聞いてみたい気もしたが、戦闘集団である希兵隊からメンバーが消える理由など、問うまでもなく明らかだ。少なくとも楽しい話ではなさそうだったので、ルシルはその話題をそっと脇に置いた。
「まあ、でも、新入りの育成っていう仕事が増えて、明日からは楽しくなりそうね。がんばりましょうね、ルシルちゃん」
朗らかな笑みでそう言われ、ルシルはみたび頭を垂れた。
***
希兵隊員という仕事は、もともと志望者がそう多い職業ではないが、他の公務員同様、かなり狭き門として知られている。理由の一つは、毎年決まった数が募集されるわけではないということである。次の四月に退職が決定している人数分だけ、補完する形で新米を募る。そのため、年に一、二名、もしくは何年も募集なしということだってありうる。さらに、募集人数を必ずとるわけでもなく、採用基準は絶対評価だ。入隊試験の結果、学院での成績、健康状態、面接選考、どれか一つでも最司官がハねれば不採用。運と実力で仮に最司官のお眼鏡にかなっても、定員を超えて同程度の実力者がいれば、少しでも優秀な志願者をとる。そういう職場だ。
それを踏まえて、現状を見直してみると。
新入隊員が六名もいる。今年は優秀な若者が多かったのだろう。……いや、そこではない。彼らを迎えてまだなお、欠員がいるのだ。実に、過去何があったか掘りおこすのは、誰もがはばかられるところであった。
驚くほど若いトップによる歓迎の挨拶が終われば、いよいよ仕事開始である。ルシルはうとめの指示に従って、一度部屋に戻り、主体から双体になって執行着を着付けた。
人間界に後れを取ってまだ着物風の衣服が主流だったころ、通常の数倍の耐久性をもつよう特別な製法で作られた制服が執行着だ。これに匹敵する洋服型はいまだ開発されていない……というよりも理論上難しいとして、現在でもやや時代錯誤ながら着物袴が仕事着となっている。ちなみに、戦闘要員ではない救護班の麒麟隊や研究職の開発部は洋服だ。また、最高司令官も、「死守されるため戦う必要がなく、唯一の権力を明示する服装」という意味合いで水兵風の洋装である。
村にいた時から道着で稽古をしていたルシルにとって、袴に着替えるのは造作もないことだった。素早く身支度すると、指定された道場へと走る。他の隊はまだ来ておらず――あるいは、まず道場以外で新入り指導をするのかもしれない――、執行着のうとめともう一人、黒髪の青年のみだった。
「お待たせいたしました」
「予想よりずっと早いわ。……うん、上手に着られてる」
うとめは背面ものぞき込んで、にっこりとうなずいた。そして、傍らに立つ、黒い柱のような痩身長躯の男を手で示した。
「紹介するわ、副隊長の竈戸さん。私より希兵隊歴は長いのよ」
「どーも、竈戸火槌です。今年ハタチの炎猫。うとめちゃんのことは入隊当時から面倒見てたけど、地位は抜かされちゃいました。テヘッ」
覇気のない表情と、おどけたように手を挙げて言うセリフが、いかにも気楽そうだ。平坦な声でふざける副隊長の脇腹を肘で小突きながら、うとめは呆れ返ったため息をつく。
「あなたが責任の重い職は嫌だと言って私に譲ったんでしょう。語弊のある言い方をしないでくださいな」
「最司官が認めたんだから、実力的にも抜かされたようなものじゃん。……ところで、ちょいと聞きたいんだけど」
「何ですか」
「この子、なんて名前?」
カヅチは気後れもせずルシルを指さして問うた。ルシルは先輩に先に名乗らせてしまったことに気づき、焦りを覚えながら頭を下げた。
「失礼いたしました! 私は青龍隊配属となりました、河道流知と申します。どうぞよろしくお願いいたします!」
「へー、よろしく」
「へーじゃないですよ、名前くらい先に確認してください。というか、せめてルシルちゃんが来る前に私に聞いてくださいよ。いっつも大事なことは二の次なんですから!」
腰に手を当てて自分より大きな男を叱るうとめ。それを適当に流すカヅチ。このような構図が、最司官にうとめを隊長に推させたのかもしれない。
「時間がもったいないから続けるわ。ルシルちゃん、まずは猫術と剣術の見極めからさせてもらえる? 剣の経験はあると聞いているから」
「はいっ」
「そのことなんだけど、うとめちゃん」
「今度は何ですか」
「この子に渡す真剣、持ってくるの忘れちゃった。メンゴ」
「最初におっしゃってちょうだい!」
***
うとめの所見でいえば、ルシルの実力は新人にしては文句なしの上出来だった。
もちろん、技術や力のある者が受かるのだから、一定水準以上であるのは当然だ。だが、剣術を習っていた者でも、いざ木刀を真剣に持ち替えると体がぶれてしまったり、術の得意な者でも精度か威力のいずれかが欠けていたりはするものだ。その点、ルシルは最前線に立たせるには早すぎるとはいえ、実戦練習を行っても差し支えない出来栄えであった。
……という経緯があり、うとめはカヅチにルシルを任せ、「裏の運動場で走り込みでもさせておいて」と言い添えて、総司令部室へ進度の相談に行っていた。一方の最高司令官も、新人指導と通常業務、加えて年度初めにかかる追加の仕事に追われており、相談開始までに十分、途中さらに十分待たされ、結局部屋を後にする頃には三十分が経過していた。
今日は天気も良く、四月には珍しいほどの夏日ということで、開け放った窓からの風を楽しみながら、運動場へ向かって廊下を急ぎぎみに歩いていると、
「おーい、うとめちゃん」
「竈戸さん?」
特徴がないのが特徴的な青年が、早歩きで向こう側からやってきた。ルシルの姿はない。
「ここは涼しいねえ。もうお昼だし、外は暑くってさ。廊下のほうが風通るよね」
「そんなことより、どうしてここに? ルシルちゃんは?」
「ああ、そうそう。あの子すごいね、実戦に向けて袴とわらじで走らせたら、初めてなのに転ぶ様子なくってさ」
「……はあ」
「あまりにも規則正しく走ってるものだから、ボク退屈でうとうとしちゃってさ」
「しないでください。……それで?」
「ハッと目を覚ましたら、ルシルちゃん、熱中症で伸びてた。医務室ナウ」
「それを! 先に! 言いなさいってば!」
うとめに乱暴に襟首をつかまれ、引きずられそうになったカヅチは、どうせなら連れて行ってもらおうと主体に戻った。そういうわけで、初日から麒麟隊の世話になったルシルがベッドの上で見たのは、グレーの毛並みに靴下をはいたような白い模様のついた猫と、その首輪をひっつかんだ汗だくのうとめだった。
「た、隊長? ……と、副隊長ですか?」
「うん、カヅチだよ。もう大丈夫? ごめんね、ボクが冗談でグラウンド百周なんて言ったせいで」
「そんなこと言ったんです!?」
「ああっ揺らさないで、揺さぶられっ子になっちゃう」
体ではなく首輪をつかんでガクガクと揺さぶるうとめ。首筋を保冷材で冷やしながら、その光景にどう反応したものかと困っていると、うとめはルシルにも苦言を向けた。
「あなたも、いくら律儀とはいえ、そんなバカげた指示を実行することもないでしょう。避けられるトラブルは避けないと、周りに心配も迷惑もかけるのよ?」
「す……すみません」
しゅんと肩を落とすルシルに、うとめは懐から出したメモを見ながら言った。
「せっかく次のステップへ進む許可をもらってきたけど、今日はもうおやすみね」
「っ……そんな、午後からでも……」
「だーめ。今日は休養。走り込み一つでも自分の限界さえわからない子に、無理はさせられません。……何を焦っているの?」
少しばかり厳しい口調だったが、最後の問いは、責めるニュアンスではなく率直に疑問に思っているようなものだった。ルシルはしばらく黙った後、うつむいてぽつりとこぼした。
「……強くなりたいんです」
「強く?」
「強くならなければならないんです。もう誰にも守られず、自分が前面に立って誰かを守れるように……」
詳しい経緯は話さなかった。いちいち話していても長くなるし、何より「河道」の名がどういう意味を持つのか、村から離れたこの町では誰も知らないままでいてほしかったのだ。
カヅチの「グラウンド百周」を、ルシルは冗談と思わなかった。希兵隊員として、ダークと戦い、時には遠方へ休憩なしで馳せなければならないことを考えると、体力は必須だ。それくらいがここの常識なのだろうと思ったがゆえに、生真面目に実行したのだった。
だが、それで空回ってこのざまでは世話がない。突然壁にぶち当たってしまい、浮かない顔をしていると、
「体を鍛えたら強くなれると思ってる?」
うとめが柔らかい声音で尋ねてきた。初対面の時と同じ、年下を慈しむ目だ。ルシルがゆっくりとうなずくと、彼女はゆるゆると首を振った。
「そうとは限らないのよ。強さとは、体力だけじゃない。体力がなくても強いひとだっている。全然別物なのよ。そしてそれは、みんなそれぞれ違うもの」
「違うもの……。では、隊長は……?」
「そうね、私が目指す強さは、『誰かに何かをしてあげられること』かな。だって、それって、自分のことは当然十分できて、なおも他人を気にかけてあげられる余裕があるってことでしょ?」
ルシルは口の中で「おぉー……」とつぶやいた。自分を十全にした上で、まだ労力や時間が余っていても、それを周りのひとに使ってあげるというのは、人徳がなければ思いつかないだろう。
ルシルの感服した表情を、納得したものと読みとったうとめは、優しく微笑むと、「休みながら、考えてみてね」と言って医務室を後にした。
***
「強さって、何だと思う?」
道場裏の水道で水を飲んでいたコウが、それを聞いて、きょとんとルシルを見つめ返した。
朱雀隊の配属になったコウとは、村にいたころと比べれば、一緒にいる時間はめっきり減ったが、たまにこうして休憩時間などに顔を合わせると、近況報告をしたりして言葉を交わしていた。向こうも向こうで、いい仲間に恵まれているようだった。
コウは濡れた口元を袖で乱暴に拭うと、隠すことなく眉根を寄せた。
「……出し抜けに何だ?」
「その、私は強くなりたいと思って村を飛び出したわけだが、どうやら力の強さが真の強さではないらしい。ひとそれぞれ違うものを強さと定義づけ、目指す。……それを隊長に教えてもらってから、一か月ほど考えてみたが、よくわからないんだ」
汗をぬぐっていたタオルで、後半の言葉を隠すように口元を覆う。ちらとコウを見れば、げんなりと情けなさそうな顔をしていた。
「なんじゃそりゃ。目標が迷子になったのかよ」
「お、お前はどうなんだ。『強くなろう』って言ってついてきたのなら、お前には強さの正体がわかっているんだろうな?」
痛いところを突いてやった……はずが、コウは小さな嘆息の後でさらりと言った。
「オレは、まずは宣言通り、お前の背中を守れれば、それが強さだと思う。道場で敵なしだったお前は強いんだ。そのお前と同格に背中を預けあえたなら、オレも成長したってことなんだろうさ」
虚を突かれて言葉を失うルシルに、コウはさらに続けた。
「お前はユキルの件があって、強くなりたいと思って希兵隊の門を叩いたんだろ? あの事件の時、お前はどんな強さを想像したんだ?」
「……」
「それが、お前が望み、目指す強さなんじゃねえか?」
まっすぐに投げかけてくれるヒントを吟味している間に、コウを呼ぶ声が道場内から聞こえた。「隊長が呼んでる。じゃあな」と手を振って戻るコウを見送りながら、ルシルはあの日の荒くれた悲願を思い起こした。
(術が上手ければクロを蹴散らせた? 足が速ければユキルに手が届いた? 果たして、そうか?)
いくら精度よく水術を使えたところで、身体能力が秀でていたところで、それでもきっと、あの時のユキルとの間には永遠の隔たりがあった。それこそが、拳を震わせ声を荒らげて悔いたものではなかったか?
ぼんやりと見つめる中空に、何かが見えた気がした。
ぬぐい忘れられた汗が一滴、足元にぽたりと落ちた。
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