魔眼がみつめるこの世界~転生した私は好きに生きる。だから聖女にはなりたくない~

悪転

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1年の長期休暇後のルセリア

103話 掟は誰のために

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「まず初めに、獣人の皆様をだますような真似をしたことを謝ります。申し訳ありませんでした」

獣人達の前で謝った私を見て、ステラや獣人たちは少し戸惑いだすが、それからしばらくして、ステラといっしょに獣人たちの前に出て説明をしていく。
先ずは皆に飲んでもらった、野菜と果物の食前酒についてだ。
前世では、私も野菜はあまり食べるほうではなかった、そのため、よくお世話になっていたのが野菜ジュースだった。よくCMで一日の野菜はこのくらいの量を食べないといけないがこれ一本で補えますと何度見たことか?そのことを思い出し、野菜を”食べずにとる”ならこれしかないと思い、ステラに話してみたら、案の定野菜ジュースに賛同してくれた。
城の厨房でステラと私で一緒に研鑽を重ね栄養価の高い野菜と甘い果物をすりつぶして、抵抗感がないように口当たりを注意しながら、飲みやすく、美味しいと言える一品を決して”不味いもう一杯”ではなく”美味いもう一杯”を目標とした。そして先ほど納得ができる味ができた。
厨房で研鑽しているときにすごいと思たのがステラの栄養学の知識。本から学んだ知識なのだろうが、どの野菜、どの果物にどんな栄養が含まれているのか熟知していて、とても役に立った。野菜は緑黄色野菜がメイン、果物は柑橘系をメインとした。そしてここからが最大の試練、味についてが大変だった。ただ単に野菜のジュースと果物のジュースを混ぜればOKというわけではなく、何度も何度も試飲をしては失敗を繰り返し、新しい分量で試した。うまくできたものは料理人たちにも試飲してもらい意見をいただいた、もちろん一番試飲したのは作っていた私とステラだが。
獣人たちに説明をしている今でも少し動くだけでもお腹の中がチャポチャポとなっているのが分かる。

野菜ジュースについて、一通り説明し終えると、獣人たちが先ほど飲んだ食前酒の容器を見つめていた。

「皆さまが、犬獣人族の掟を大切に守っているのは理解していますわ。しかし、 掟とは守るべきものとして定められている事柄。私たち人族からすれば、法になりますわ。この法は時代の流れと共に、そして国民の暮らしと共に変化していきました。なぜなら、新しい時代を生きていくために変えなければ、生きていけなかったからですわ」

ステラが強い口調で、獣人に語る。
普段の貴族令嬢な落ち着いていて優雅に語る口調ではなく、感情を込めた強い口調なため、言い終えると肩で息をしていた。
私は横目でステラを見ながら、少し震えているステラの手を静かに握ってあげる。私の方に顔を向けて、少し驚いた顔をするが、すぐにいつもの顔に戻り、「ふん」と手を振って私が握っていた手を払う。ステラらしいと思いながら、心の中では本当にステラがいてくれて、良かったと感謝する。

しばらくの間、重たい空気の中、無音になる。
どのくらいたっただろうか、5分くらい、いや10分くらい?もしかしたら1分くらいしかたっていないのかもしれない。
獣人たちの顔を見ると、不安な顔をしているものが多く。まだ、野菜を摂ってしまったと、容器を持ったままの獣人もいた。
今の状態では、掟について考えることよりも、やはり掟を破ってしまったと、恐れている者の方が多いようだ。
それならば、

「皆様、もし戸惑っているのでしたら、私からのアドバイス、、、助言になります。”食べる”とは本来食物をかんで、のみこむことを意味します。そのため、今皆様が野菜を摂った行動は”飲む”という行動です。そのため、掟の”食べる”という行為には該当しないと思うのですが?」

私の言葉で、獣人の皆が、はっ、とうつむきかけた顔を上げて、私を見て来る。気が付いたようで、今の野菜を摂る行為が犬獣人族の掟にぎりぎり背いてないことを。
かなり怪しいと思うが、もし掟が”食べる”ではなく”摂ってはいけない”だったらアウトだったけれど、そこは、時代なのだろう。前世で生きていた世界では、法律がいくつもあり、それこそ一庶民の私からすれば、法律の内容など1mmくらいしか知らないけど生きてきた。良くTVで政治家たちが憲法や法律と議論を繰り返していたが、そういったこともあって前世の世界では時代と共に法律や憲法は変わっていき、厳しくなっていった。それに比べれば、犬獣人族の掟は穴がありすぎるように思う。私ですら、こうやって簡単に抜け道を見つけることができるのだから、

私の説明により、掟を破っていないと獣人たちは安堵し始める。それはサンガも同様だったが、

「サンガ様、掟とは誰のためにあるものですか?」
サンガに私が問う。突然の質問に驚き、しばらく考えた後、
「・・・・それは、、一族のため、、、」
言葉に詰まってしまうサンガをみて、まだ子供に言うことではないことだが、長の息子として、これから犬獣人族を率いていくものとして、ここで言っておかなくては。

「民の、部族のためですよね」
少し強い口調で言うと、ビクッとサンガが身体を震わせる。
「生きていくため、民が幸せになるため、そのための掟でしょう。今、その掟により、大きな問題が起こっているのです。それならば、その掟を変えていかなけばならないのは明白です。長の息子であるあなたが、これから犬獣人族を率いていくあなたが、獣人族の未来を変えていくんです」

訴えるような口調で話す私を他の獣人たちもサンガと同じ表情で眺めている。

「先ほどお話したように、犬獣人族の問題は野菜を摂らないために起きていると、我々は考えています。そのため、我が国といたしましても、支援できるのは今皆様に飲んでいただいた、野菜ジュースを提供するくらいになると思いますわ。原因が分かっていて、解決案もある。これ以上のことは、我が国といたしましてもできないと思いますわ」

ステラが獣人達に結論を話す。
まだ、陛下に話してはいないが、話をすれば同じことをおっしゃられるだろうと思う。
原因が分かり、解決する案もある。ただ、”掟”というものが邪魔をし、どうにもできない状態。ここから先は私たちには何もできない。ここからは、獣人たちの問題なのだから。
獣人達は何とも言えない顔になっていた。お互いに顔を見合わせては、尋ねたいのに声が出ない、そのような雰囲気になっていた。

そんな空気の中、ドアが開き、料理人たちが「お待たせしました」とテーブルに料理を置いていく。料理を並べ終ると、「それでは」と言って部屋を出ていく。
おいしそうな匂い、おいしそうな料理を前に、獣人たちの重たい空気が少し和む、その様子を見て

「それでは皆様、引き続き、料理をお楽しみください。私たちは、これにて失礼いたします」

ステラは、そう言うと私の手をつかみ、扉まで、少し強引だが引っ張っていく。そして、ドアの前で「失礼しましす」と一礼してから、私たちは獣人達の部屋を後にした。
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