魔眼がみつめるこの世界~転生した私は好きに生きる。だから聖女にはなりたくない~

悪転

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70話 就職祝いの言葉

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お昼前に私はメシスと一緒におじさんに会いに向かっていた。もちろん、黒髪のアリスとして。

家に着くとまずドアをノックする。しばらくして、ドアを開けておじさんが出てきた。



「昨日のお嬢ちゃんか?今日はどうしたんだい」

「実は、おじさんにいい話があるんです」

「いい話?なんだい」

「昨日、私の友達におじさんのことを話したら、いい仕事先があると言ってくれて、今日おじさんを連れていくるように言われたの」

「また急な話だなぁ。仕事とはどんなことをするんだ」

「私も詳しくは知られないけど、アーロット商会で雇ってもらえるという話で、」

「ア、アーロット商会って、この街でも1・2を争う商会だぞ。そんな商会で働けるのか?」

「まだ、正式に決まっていませんから、昼過ぎにおじさんを面接に連れてきてほしいと言われたので、これから準備してもらおうかと」

「め、面接だって!」

「はい、なので、まともな恰好に着替えてきてください」

「お、おう」



家に入ったおじさんは面接のために身なりを整える。しばらくして、髭もそり、髪もといたおじさんが家から出てきた。まだ少しびっくりするおじさんをメシスといっしょに引っ張っていく。抵抗はしないが、街まで出てきた。そして、大きな商会の前まで歩く。商会の前には、警備の人が何人かいて、常に警備しているようだ。それだけでこの商会が大きいのだとわかる。



「すいません。ローザ様から、アーロット商会で雇ってもらえるとのことで、こちらの人を連れてきました」

「アリス様ですか?話は伺っています。中でお待ちください」



警備の人が私たちを案内してくれる。面接が行われる部屋の前まで行き、廊下の横に豪華な椅子があり面接官が訪れるまでそこで座って待っていた。しばらくして面接官がこちらに向けて歩いてきた。



「よろしくお願いします」



緊張気味な声でおじさんが挨拶をする。



「ええ、こちらこそ、どうぞ中に入りましょう」



おじさんが一人面接が行われる部屋に面接官と入っていった。私たちは部屋の外で椅子に座り、面接が終わるまでおじさんを待つ。しばらくして、おじさんが部屋から出てきた。とても信じられないといった顔をしている。



「どうでしたか?おじさん」

「手ごたえはありましたか?」





「雇ってもらえたよ。信じられない。俺がアーロット商会で働けるなんて!う、う、うう////」



おじさんが泣きながら頷いてくれた。「早速、明日から来てほしいと言われたよ」と嬉しそうに話してくれる。「おめでとうがございます」とメシスが言う。私も「おめでとうございます」と言う。それから、私たちはアーロット商会を出て、街を歩いた。



「しかし、お嬢ちゃんの友達がアーロット侯爵の令嬢とわなぁ。面接を担当した人から聞いたときは驚いたよ。本当にありがとうな。あんたの紹介がなかったら、雇ってもらえなかったと思うよ」

「でしたら、私の紹介がなくても雇ってよかったと商会の人に思われるくらい頑張って下さいね」

「ああ、レインのことも話したら、可能な限り援助してくれると言ってくれたよ。ありがたい」

「尚更、頑張らないといけないですね」



それから、おじさんの家の近くまでくると、私とメシスはおじさんと別れた。帰りながらメシスと私はおじさんがどんな仕事をするのか、お互いに話し合いながら歩いていると、周りの人のはなし声が聞こえてくる。そのほとんどがイリンガの谷の崩落の話だ。怪我人や死人が出なかったため、騒ぎは思ったほど起きていないが、それでも街の人は驚きをかくせないでいる。



「なんでも、女王が崩落の危険を感じて、道を封鎖していたらしいぞ」

「すごいなぁ、女王は」

「イリンガの谷を何で封鎖してんだと思ったが、まさか崩落の危険があったからとわ」

「俺、二週間前に通ったんだ、もし崩落が俺が通った時に起こったらと考えると怖いわ」

「しかし、よくわかったよなぁ、崩落の危険があるなんて」

「女王のおかげで多くの人の命が助かったわけだ、女王陛下万歳だ」



崩落の話なのに、街の人たちの顔は明るい。この騒ぎもしばらくすると落ち着くんだろうなぁと思いながら、私とメシスはお城に帰っていった。









*レインの視点

お母さんが病気で早くに亡くなり、お父さんが一人で私を育ててくれた。でも私が病気になり仕事よりも私の面倒を見てくれていたためお父さんは仕事を失ってしまった。医者にはお金がかり、貯金はすぐに底をついてからは医者に診てもらえていない。病気で何もできない私は、お父さんのお荷物でしかなく、早く死んでお父さんを楽にされたいと、最近は何度も思うようになっていた。お父さんからも日に日に生気が無くなっているような感じがして、明日を今を生きることに辛かった私とお父さん。

そんなお父さんが昨日は様子が少し変だった。「悩みを聞いてもらった」と話をするお父さんは少し肩の荷が下りたような表情を昨晩はしていた。そして今日、出かけて来ると言って、戻って来たお父さんは嬉しそうな顔で私の部屋にはいってきた。一昨日までの暗い顔とは違い明るく希望に満ちた顔だ。



「レイン、父さん仕事が決まったぞ。アーロット商会というとても大きなところだ。お前のこともできるだけ援助してもらえることになった」







「本当に?、、おめでとう、お父さん。本当におめでとう。ほ、ほん、、、とうに、おめでとう////」



泣き出す私にお父さんは話を中断する。そして、しばらくして話せるくらいには落ち着いた私は



「私も頑張って早く良くなるから」

「そうだな、そうなったらお前にも紹介したい子がいるんだよ」

「誰?」



それからお父さんは紹介したい子について話してくれた。とても不思議な子で、しかもアーロット侯爵令嬢のお友達だと。自分が雇ってもらえたのは、その子のおかげなんだと。話を聞いているうちに、私もその子に会ってみたいと思い始めた。こんな顔のお父さんを見るのは本当に何年ぶりだろう。お母さんが亡くなってからは、見たことがないんじゃないかと思うほどに。



「その子は貴族の子なの?」

「たぶん、貴族ではないと思うが?いや、でも騎士の青年と一緒にいたから貴族なのか?」

「なんて名前の人なの?」

「アリスという子だ。黒髪で青い眼をしている女の子だよ」

「アリス・・・」



レインは両手を握り祈るような姿勢で、本当にありがとう。アリスさん、お父さんを救ってくれて、会えたら私からもお礼が言いたい。そしてできるなら友達になてってもらいたい。と心の中で思った。
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