魔眼がみつめるこの世界~転生した私は好きに生きる。だから聖女にはなりたくない~

悪転

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11話 静止の魔眼

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騎士と街中をしばらく歩く。賑わいを見せていた場所から離れると馬車に乗って見ている時と違い、治安の様子が見えてくる。いくら王都といっても、そこには貧困の差があり、事件がおこならない日はないのだろう。だから、所々に見回りのひとや立派な建物の前には警備する人がいる。
いろいろ考えながら歩いていると、目の前で事件が起こる。
前を歩いていたお年寄りが持っていたカバンを前から歩いてきた男がひったくった。一瞬のことなので、お年寄りは反応できず、カバンを奪われる。そして奪った男は私に近づいてくる。私はとっさのことで身体を動かせない。そんな私の前に騎士様が前に出る。

「ん!どけーーー」

男が走りながら叫ぶが、騎士様は表情を変えず、突進してくる男と対峙する形になる。男が腕を上げ肘を曲げようとした時、鞘にはいったたまま剣で腹に一撃をあたえる、動きが止まったそのすきに騎士様は男の腕をつかみ、柔道でいう一本背負いのような投げで相手を転ばす。受け身をとれない男は勢いと体重が乗った重さで地面に身体がぶつかる。

「うっう、はぁぁぁぁ」

右腕は騎士様に拘束されている男が叫ぶ、お年寄りから奪ったカバンが転がり、唖然としていた私は、はっ、と転がったカバンのほうに向かう。カバンをとり、お年寄りの方に近づく。

「大丈夫ですか?おばあさん」

「あぁ、、ありがとう。お嬢さん」

カバンをお年寄りに渡す。特に怪我とかはない様子だったので、大丈夫だろうと思う。「それじゃ、わたしはこれで」と帰ろうとされたので、「気をつけて帰ってください」と、お年寄りを見送った。私の前世の世界では警察が来て、現場検証や事情聴取などがあるものだが、この世界ではないようだ。
お年寄りと別れ、男を捕らえいる騎士様のほうに向かう。窃盗をした男は騎士様にとり押さえられているが、どうも様子がおかしい。額に汗がにじみ、身体が震えている。そして、左肘が過伸展していた。いわゆる、脱臼だ。肘関節の上腕骨と橈骨が離れている。男はすごく痛そうにしている。男の服装は庶民の服よりも汚く、ボロボロで下級層の住人のようだった。

まともな生活ができていないことが、一目でわかる。

今私にできることはと考えたら行動していた。

「騎士様、その方は肘を脱臼しているみたいです。整復するので手伝ってください」

「ルセリア様。何を言っているのですか。脱臼しているのなら、医者に診てもらったほうがいいです。ルセリア様がなさることではありません。何よりこの男な罪人です」

騎士様の言っていることは正しい、公爵令嬢の私がするべきではないし、普通はできない。けれど

「‘罪を憎んで人を憎まず‘ですよ。お願いします手伝ってください」

?という顔をするが私に熱意に負けたようで、

「わかりました」

患者を仰向けに寝かせ、騎士様に左上腕を持って、固定してもらう。私は左手で肘の後方を持ち、右手で手首を持つ。そして右手で少し伸展してから、手のほうに引っ張り、円を描くように曲げていく。そして出っばっている肘の部分をもとの位置にはめる。

「う。」と患者が声を漏らすが、うまくいったようだ。体の震えもだんだんと止っていき、顔色がよくなってくる。よかったと思い私は立ち上がる。
しばらくして、警備隊の人が駆けつけてくる。おそらく、私たちの様子を見ていた街のだれかが呼んでくれたのだろう。私たちは警備の人に事情を話し、男を預ける。
警備の人に捕まっているが、抵抗することはない様子の男に、

「応急処置なので、もし肘が痛くなったり、体調が悪くなったら、医者に診てもらってください」

と別れ際に男に言う。男は目を見開き私を見る。何か言いたそうにされていたが、私は後ろを向き騎士様とともに歩き始める。
しばらく、騎士様と歩いて、私は思っていたことを口にする。

「騎士様は、王子達の生誕祭の日に起きた事故で馬車の前に出て、馬を転ばせた騎士ですよね」

「・・・、はい、そうです。いつ、気が付かれたのですか」

「先ほどの男が私たちに向かって走ってきた時です。馬の時と同じように思えたので」

「なるほど」

「聞いていいですか?・・・、何をされたのですか」

私の質問に騎士は息を吐く

「・・・魔眼ですよ。私が持つ静止の魔眼です」

「静止の魔眼?」

「ええ。動きが遅くみえるんで。視覚の時間的な精度を上げて「良く見える」ようにしている状態になるんですよ。時間精度 を上昇させる魔眼ですよ」
そうか。だから猛スピードで走ってくる馬の右足に見事に剣をあてれたんだ。

「できれば、他言無用でお願いします。騎士団では、ほとんどのものが知っていますが、できれば知っている人は少ないほうがいいので、予知の魔眼を持っているあなた様ならわかるでしょう?」

驚き、青い眼と騎士様の琥珀色の眼が合う。
どうしてそのことを知っているのか?そのことを知っているのは、あの日王族の方たちと会った時、部屋の中にいた人達だけだ。
私は少し考えて、答えを導いていく。

「国王陛下ですか?」

「正解です」

少しうれしそうに答えてくれる。

「国王陛下から信頼されている騎士団長が私の父なのですが、その父から事情を聴き、この護衛の任務を受けました。絶対にあなたを守るようにと」

答えを聞き、国王陛下に対し、すこしむっとするが、私のことを思っての采配なのであきらめる。

「しかし、さすがは予知の魔眼を持つ御方ですね。罪人であっても救おうとされる、先ほどの行動を見て、まさしく聖女の行動だと思いましたよ」

楽しそうに騎士は話してくる。

「私は、聖女では。ただ、ほおっておけなかっただけです」

「そうであっても、同じ行動ができる人間がどのくらい、いるでしょうか?」

以前のルセリアは聖女を夢見ていた。でも、私は・・・。

「すいませんが、騎士様、私が男の方を整復、、、なおしたことは秘密にしてください」

「・・・わかりました。ルセリア様の御心ののままに。それでは、私の魔眼のことも秘密で、あと国王陛下のことも、ばれたら私が怒られますので」

私と騎士様はお互いに顔が笑顔になり笑い出す。

「あと、ルセリア様、私のことはメシスとお呼びください」

「わかりました。メシス様、午後の護衛もよろしくお願いします」

私は今日一番の目的場所に向かって、歩きだした。
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