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9話 ライバル

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「ライバルですか。私が?」

「はい、公爵令嬢と侯爵令嬢、みんながあなたのほうが立場は上だというでしょうが、しかし、それはわたし達のお父様の地位のものです。娘である私たちの力ではありません。なので、学園では私のほうが優れていると、証明してみせます」

私は知らなかったが、母親のアストライア公爵夫人とステラ様のアルテミス侯爵夫人の相性は、良くない。二人とも、決して『公爵と侯爵という爵位の違い』を口に出すことはなかった。夫の身分によるものであり、自分達の優劣の差とは何の関係もない。しかし他家や子供達に配慮する必要があまりないパーティーにおいて顔を合わせると、いつも、酷いことになる。そのためなのか、ステラは母のアルテミス侯爵夫人から私に負けないように、と厳しい教育、マナーなどを強要されたようだ。
別に勉強ができなければ叩かれたり、ご飯をなしにされたり、部屋から出さない。といったような教育ではなく、母親と二人三脚で頑張る環境だったようだ。
前世の私がテレビで時々見ていた、スポーツで将来を期待されている子供が、親の協力のもとにどんどん成長し、その成果をテレビで紹介する、その番組を話を聞いたとき思い出した。
私への対抗心のようなものが、生まれていったのだろう。私はそう思い、少しうれしい気持ちになり、かわいいなぁと思った。

「私も負けません、学園ではお互いに頑張りましょう」

握手を求め、私は手を前に出す。

「・・・ええ、お互い頑張りましょう。しかし、最後に勝つのはわたくしです」

ステラ様も前に手をして、お互いに握手をする。
いいわね。こういう青春の一ページのようは場面。
初めてのお茶会だったが、おいしいお菓子を食べることができ、母親の意外な一面を知ることができた。それだけでも楽しい時間を過ごしたが、それ以上にお茶会で‘一生のお友達‘を見つけることはできなかったが、私は‘生涯のライバル‘を得ることができた。帰りの馬車の中では、外の景色を見ながら、私の口は笑っていた。
しかし、なぜかお茶会では、男の子からも女の子からも私から話しかけることはあっても、その逆は、ステラ様だけだった。私って、話しかけずらい雰囲気があるのかしら、と少し不安になる。
実際は、身分が上のものから話しかけるのがルールだが、お茶会のようなきちんとしたパーティなどではないため、守る必要はあまりない。ましてやまだ幼い子供たちのお茶会ならなおさらだ。ルセリアが話しかけられなかったのは、身分もあるが、その容姿のた、高嶺の花である彼女に話しかける勇気のある子どもは今日のお茶会ではステラ一人だった。その事実にルセリアが気が付くことはなかった。
屋敷に帰ってきた私は‘一生の友達‘ではないく、‘生涯のライバル‘が出来てしまったことに、ずっと、うれしいような、恥ずかしいような、楽しいような、どうにも言えない感覚を抱いていた。ルセリアとしての以前の記憶がないため、これまでルセリアがどのような人間関係を作ってきたのかわからない。

ルセリアのノートを呼んだが、

{お父様とお母様と、パーティーに出かけました}

{きれいなドレスを着て、みんなが私のほうを見ていました}

{食べたことない、食事が出てきて、最初は驚いたけれど、食べてみると、とてもおいしかったです}

{かっこいい男の子がいました。男の子が話かけてくれるまで、待っていましたが、話しかけてはくれませんでした}

{私よりもきれいな服をきている女の子がいました。今度お父様にお願いしてもっといい服を買ってもらう}

という内容が多く、ルセリアの友達のような存在は書かれていなかった。この国では、12歳まで貴族は、専属の家庭教師や先生を招き教えてもらう。そのため、私の前世の小学校のようなものはなく、子供だけで交流する場が少ない。今日のお茶会で私のように一人グループだけの子が何人かいたが、12歳くらいになれば、性格や思考も自立してくる。私の世界で言えば、反抗期や難しいお年頃の時期になる。
もしかして、ルセリア!友達がいないことに絶望して、と3冊目のノートのことを思い出し考えたが、それはないだろうと思う。公爵令嬢ということもあり、学園に行けば何かしらの注目は受けるし、いじめや仲間外れのようなことも多分起きない。自分で言うのもなんだが、少なくとも友達はできると思う。

その夜、両親との夕食のとき、お茶会でのことを話した。ステラ様にライバル宣言されたと。‘一生の友達‘はできなかったが、‘生涯のライバル‘が出来たと。

「そうですか。アルテミス侯爵の令嬢がそのようなことを」

母親のティアナは笑顔だが、なぜかその笑顔が怖い。

はーー。と父親のカイムがため息をはく。
前からティアナとアルテミス侯爵夫人の中が犬猿の仲だと言ことは知っているが、女の戦いに男であるアストライア公爵もアルテミス侯爵も口は出せない。静観して見守るくらいだ。実際パーティーなどに参加し、顔を合わせたときは、龍虎のように向き合う夫人を後ろに、すべてを諦めたアストライア公爵とアルテミス侯爵の姿があった。

「ルセリア、学園では決してステラ嬢に負けてはなりませんよ」

いつもは優しい母親のティアナの性格と口調が変わっている。ライバルの存在というのはこれほどまで、人を変えてしまうのか?自分も将来こうなるのかと、まだ12歳? の私は将来が少し不安になった。
同じ時間帯にアルテミス侯爵家の夕食でも似たような状況だったことは、ルセリアは知ることはなかった。


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