上 下
7 / 66

7話 ルセリアのノート

しおりを挟む
屋敷に帰ってきた私は、緊張感が抜けて、すごく、げんなりしている。自身の部屋に戻り、ベットで横になる。よかったんだよね?これで。
私は改めて、今までのことを振り返る。この世界に転生したこと。両親のこと。王族のこと。魔眼のこと。そして、ルセリア・アストライアのこと。
私のことを大切にしてくれる両親。
父親のカイムは娘のすごくかわいがってくれる。社交界の令嬢達の間でも結婚しているのに人気が高く、そのかっこよさに思わず見惚れてしまうようだ。ただ母親のティアナにべた惚れしているようで、浮いた話などはない。
母親のティアナは天然と言えばよいのかマイペースな人だ。綺麗よりもかわいいといった方が正解だ。器量良しで愛想もよい、こんな女性なら男性は守ってあげたくなるのだろう。

今日合った王族の人たち。

国王陛下は、威張っている様な国王ではなく、慈愛に満ちた国王だと思う。家族の前ではいい父親のようのようにふるまっている。なにより、私が婚約を断ったことも、認めてくれた優しい人だ。
王妃は綺麗な顔をしていた。きつめの美人といった感じだが優しい瞳で子供たちを見ていた。きっとすごく子供を大事にする人なんだろう。
アトラン王子は、馬車の事故では助けられた。あの子がいなかったら、私はほとんど何もできず予知でみた光景を現実でみなければならなかったのだから。そう考えるとあの時であったのは運命かなと思ってしまう。
ロベルト王子は、少し反抗期かと思える態度を取ってくるが、根が真面目なため、間違ったことにはきちんと謝罪してくる。ある意味、馬鹿正直なのかもしれない。
エクリシア王女は、かわいいの一言だ。もしこんな妹がいたら、兄は嫁に出すのに反対してしまいそうになるんじゃないかしら。正直、お姉様と呼んでくれた時はうれしかった。

予知の魔眼。

未来をみることができる力。今のとこ転生してから2回みただけだが、この力で母親と多くの民を救えたことは間違いない。
ルセリア・アストライアのことについて。
転生してからのこれまでのことを1つ1つ思い出していく。その中で、゛あれ、そういえば´と、あることを思い出す。それは机の中に入っていた数冊のノートだ。転生したときはこの世界の文字が読めず、断念したが、今の私ならきっと読める。そう思い、私は机に近づき机の中からノートを出す。

古そうなノートから読んでいくことにする。

それはルセリアが書いた日記だった。なかなかに読みにくい文字。ずいぶん昔から書いていたと分かる。初めは何の変哲もない日常のことを書いていた。小学校の連絡帳に書く1日の日記くらいの内容だ。

{今日は、お母様が私のためにおいしいお菓子を買ってきてくれました。一緒に食べてとてもおいしかったです。}

{教師の教え方が厳しい、もう勉強なんてしたくない}

{新しい服をお願いしたら、赤い服をお父様が買ってくれました}

{今日はお父様とお母様とで外に食べにいきました。}


私はページを読んでいく。
しかしそれは途中から魔眼のことについて書かれる日記に変わっていった。眼に力を入れると変なものがみえる。眼が熱くなる。私が魔眼で未来をみるときにおこる症状のことが書かれていた。そしてルセリアはそれが未来の出来事であることを理解していく。
予知の魔眼を持っていると知ったルセリアは一番に聖女という言葉が頭に浮かんだ。歴史に名を残す存在。ルセリアは聖女というものに憧れ、そして聖女になることが夢になった。伝え聞くお話を何度も読んだり、聞いたりした。日に日にその思いは強くなっていったと。
しかし、予知でみる未来は楽しい未来ばかりではない、悲しい未来をみることもあった。しかし、子供のルセリアにはどうすることもできないため。みてみぬふりをするしかできなかった。
子供のルセリアが憧れた民衆を救い導くもの聖女。それに比べ幼いルセリアは何もしない何もできない。それが辛かったと。
しかし、ある出来事がきっかけでルセリアは変わる。それは魔眼でみた映像に父上が殺されていたのだ。
領地にいく途中に運悪く盗賊に出会い、金目のものは奪われ、最後は命まで奪われる。それをみたルセリアはだだをこね、泣き、父上に行かないでと懇願する。父上は「わかったよ」とやさしい笑顔でそう言い、領地に行くことを断念してくれた。ルセリアは父上が救えたことがとても嬉しかった。そして、未来は変えることができるのだということを知った。
ルセリアは自分のやり方で、悲しい未来をかえていこうと強く思ったと。
私は最初のノートを読み終える。
ルセリアは聖女になんるのが夢だったのね。とノートを呼んだ私は、ルセリアがどんな少女なのか少しわかった気がした。

そして、二冊目のノートに手を伸ばす。

一冊目と同じ日記だが、内容は魔眼でみた人たちを救う内容だった。
例えば、食事を作ってくれるコックの一人がパーティーで忙しく、そのためスープを運んでいるときに転び大やけどをしてしまう予知をみると、ルセリアはそのコックにその日は自分が好きな物を作るようにと別のものを作ってもらう命令をし、そのコックから迷惑そうな顔をされた。


「お嬢様、勘弁してください。スープを作らなくてはならないのです」


「でしたら、別の人に替わってもらって、私はあなたにデザートを作ってほしいの」


「・・・わかりました。お嬢様」

足場が悪い木に登り、庭師が先手をしていて足を滑らせ木から落ち足を骨折してしまう予知をみると、ルセリアはその庭師に遊んでもらうため声をかけ、困った顔をされながらも遊んでもらい、後で両親にとっても怒られた。

「お嬢様、わしは今からこの木の先手があるんですよ」

「私が遊んでと言ってるの、だから私と遊んでください。これは命令です」

「わかりました。ハァー 今日は先手はできないなぁ」

メイドの人がおしゃれをして、休みの日に街に買い物に出かける時、公爵家のメイドなのでお給金がいいのか、ほかの人よりも身に着けているものがきれいだったため、町を歩いていると、後ろから知らない男にカバンを奪われる予知をみると、出かける前に、ルセリアはそのメイドに水をかけて服やカバンを別のものになるようにする。あとで両親からすごく怒られた。

「お嬢様、どうして私に水をかけたのですか?私はこれから町で買い物に行くはずだったんですよ」

「あなたの恰好が私よりも目立っていたから、腹が立ったの。もっと目立たない服を着ていきなさい」

「ひどいです。お嬢様」

行動はどうかと思うが、幼いながらも、自分で考え、予知の未来をかえるため頑張ったことが書かれていた。
前世の私の子供時代はたくさんの夢があった。
アイドルや教師、スポーツ選手、あげればきりがない、しかし、ほとんどの人間は夢を追いかけるが、すぐに現実を知り、あきらめるか。それでもあがくかの、どちらかだ。私は前者だった。自分には無理、できるわけがないとあきらめ、どんなに頑張っても叶えることができなかった。だから、私は子供なのに、悲しみ、苦しみ、もがきながらも一歩一歩進むルセリアの生き方に私はノートをみながら、気が付けば頬に涙が流れていた。
ルセリアの今、自分ができることに頑張る姿に。そして、聖女になろうと努力する姿に。

私よりも全然、りっぱだなぁ、と精神年齢が大人な私は感動した。
私は、三冊目のノートに手を伸ばす。
そのノートは、ルセリアが今までに、みてきた予知の内容が書かれていた。いつの予知なのかわからず。みた予知の内容を自身がわかる限り頑張って書いていたが、12歳より幼い子が書いたものということもあり、詳しくは分からなかった。

{雨がたくさんふっていました}

{町で人が転んで怪我をしていました}

{明日、私が食べるのはローストビーフン}

{私はドレスを着て王子様に合う。とてもきれいな王子様と会う}

{食べ物がないのか、みんなが困っている。最後は殴り合いになり食べ物を奪い合っている}

      ・ 

      ・   

      ・ 

      ・ 

      ・ 

      ・



呼んでいる内容は、いつの話なのか分からない。ただ、このノートを呼んで分かったのは、私と違って、以前のルセリアは自分の意志で予知の魔眼がつかえていたのではないか?今の私は自分の意志で予知の魔眼を使うことができない。いきなり眼が熱くなり、未来がみえるのだ。どうしてだろうかと考えるが、結局は答えが出なかった。
ページをめくっていくと、、だんだんノートの書き方がおかしくなっていた。ページを指で握ったのか、しわしわになっていたり、書いた内容を上から線で消していたり、涙がノートに流れ、そこだけ紙がへこんだり、盛り上がったりしていた。

何があったの?と考えてしまうが、どんなにノートを読んでも原因は分からなかった。
ただ、どうしようもなく辛く悲しいことがあったのだろうと、考えてしまう。

「ルセリア、いったい何があったの?」

心配になる。もしかしたら、私がこの体に転生したことと関係があるのかもしれないと考えたが、答えはでない。
不安な気持ちのまま、本を机に戻し、夕食の時間が来るまでベッドの上で足を組み、不安な気持ちにさいなまれた。
夕食で、両親と一緒に食事を摂っているが、食欲がわかず、食事が進まなかった。

「ルセリア、どうしたんだね」

「ルセリア、大丈夫?」

私の様子を心配した両親が声をかけてくる。

「少し、気分がすぐれないので、すいません」

両親がお互いの顔を見てまた私を見る。

「一か月前のルセリアとそっくりだったから、心配してしまったよ」

「えぇ、そうね、一か月前のルセリアも同じような表情だったわ」


「え、?そうだったんですか?あの、その時、私は何か言っていなかったですか」

「いいや、理由は聞いても話してくれなかったよ。無理な笑顔を作って、大丈夫です、と」

「そうですか」

それからおよそ5分くらい無言の時が過ぎる。

「少し聞いていいかい?ルセリア」

「はい、なんでしょう」

「いつ、自分に予知の魔眼があると知ったんだね」

これは以前の私が、、ということだろうか、それとも今の私が、、というとだろうか。なんと言っていいのかわからないため、

「・・・、わかりません」

「・・・、そうだったね、高熱でそれまでの記憶がないんだったね」

私の眼を真剣に見てくる。おそらく、私が嘘をついていないか、確認しているのだろう。親バカでも公爵、人を見る目はあるのだろう。

父上は一度目を閉じ、深呼吸する。

「ルセリア、ありがとう」

「えぇ。なんですか、いきなり」

「憶測になるかもしれないが、私たちや使用人に我儘なことをしていたのは、もしかしたら、私たちを助けるためだったのではないかと、ルセリアが予知の魔眼を持っていると知った時思ってしまってね」

そして、両親は優しい笑顔で

「ルセリア、私たちを助けてくれて、本当にありがとう」

「ありがとう、ルセリア」

とゆっくり、お辞儀をされる。
両親の姿が映る眼から気が付けば、涙が出ていた。なぜかは分からないがとても切ないような、うれしいような気持になる。今まで、自分一人で頑張って、みなに我儘と言われながらも、、助けていたことに感謝された、それがどれほどうれしいことだったろうか。たぶん私が今涙を流しているのは、私ではなく本当のルセリアなのではないだろうかと、私は思った。
食事か終わり、自室に帰ってくる。食事前の不安や恐れの感情は今はない。

そうだ。たとえ、どんなにつらいことが待っていようと、私の生き方は変わらない。長生きしたい、恋がしたい、誰かを助け笑顔にしたい。それだけは、絶対に変わらない。

「ルセリア、私、絶対に負けないから、みていて」

覚悟を口にする。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

婚約者の義妹に結婚を大反対されています

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:42,979pt お気に入り:4,998

【本編完結】貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:12,204pt お気に入り:10,059

子悪党令息の息子として生まれました

BL / 連載中 24h.ポイント:4,019pt お気に入り:476

徒然草

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:99pt お気に入り:2

聖女の取り巻きな婚約者を放置していたら結婚後に溺愛されました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7,568pt お気に入り:455

処理中です...