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第一章
26 思案
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月光の部屋のベッドに月光を寝転ばせて布団をかける。ありがと、と小さな声が聞こえ、翔は月光の頭にそっと触れた。
「……翔、時計持ってない?この部屋、時計がないから翔が帰ってくる時間分からない……」
そう言われて周りを一通り見たが確かに時間の分かるものが置かれていない。翔の部屋にもなかったことを思い出し、そう伝える。
今度美颯に頼む事にして、不安そうな月光の頬を撫でた。
「……ぼくのスマホは?ここに来てから一回も見てないんだけど、もしかしてアパートに忘れてきちゃった?」
「ここに来た日に錬さんから電話がかかってきて使ったぞ。そのあと枕元に置いた」
「……そうなの?ないんだけど……」
「あとで美颯に聞いてくれ。寝れるまでいてやるから早く寝ろ」
そう言って月光の目元に手を当てた。
「うん。……翔」
月光の手が翔の手を持ち上げたので、翔は仕方なく月光の目から手を離す。
「何だ?」
「……ぼく、……帰りたい」
頬を紅潮させた月光が消え入りそうな声で呟いた。
「……美颯が嫌いか?」
出会った頃はほぼ毎日、美颯さんかっこいい!と言っていたが、いつからか聞かなくなった。
もしかしたら何かをきっかけに嫌いになっていたのかもしれない。
「そうじゃない、大好きだよ。でも、学校もバイトもだめって、今は良くても絶対いつか困るもん。美颯さんが学校行くの許してくれないなら一緒に住みたくない。中卒だと就職する時良いお仕事見つからないから」
それが理由ならどうにかなる。そう思って翔は少し安心した。
「仕事のことは考えなくて良い。しばらくは美颯が世話してくれるし、俺が働けるようになったらずっと養ってやるから。月兄が働くなんて危ないからやめてくれ」
過保護だという自覚はある。だがそれを治そうとは思わない。もし月光が両親のように突然殺されたら、翔はきっと自殺してしまう。そうなれば静奈にも美颯にも錬にも迷惑がかかるだろう。そうならないためにも月光には翔や美颯の目が届く範囲で生活していてもらいたい。
「……やだ。みんな大人になったらお仕事するって翔も知ってるでしょ?」
「……ほかの人のマネをする必要ないだろ。月兄、早く寝てくれ。遅刻する。その話がまだしたいなら美颯に言え」
スマホで時間を確認すると、そろそろ学校に向かわなければいけない時間になっていた。
それを言い訳に翔は月光を黙らせた。
「……いつ帰ってくる?」
「五時前には家に着く。俺が帰ってくるまでいい子にしていろ」
「……うん」
心配そうにこちらを見つめる月光の頭を撫でてから翔は部屋を出た。
☆
翔が月光の部屋から出て来たので、いってらっしゃいと見送ってから交代で美颯が月光の部屋に入った。
「大丈夫?冷えピタ貼る?」
月光の赤い頬を撫でてそう尋ねると、月光は弱々しく首を横に振った。
熱の原因は自分が与えた牛乳に混ぜたクスリだが、美颯は心配している風を装う。…できれば月光に危ないものを飲ませたくない。それが本音だが、月光を自分の側から離さずに済む方法がほかに思いつかないのだから仕方がない。
「美颯さん、ぼく学校――」
「飲み物持ってくるから待ってて」
聞こえていないふりをして美颯は一度部屋を出た。
廊下に出た美颯は思わずため息をついた。月光はどうすれば学校に行くことを諦めてくれるのだろうと考えを巡らせたが良い案は思いつかない。
月光を言いくるめられる言葉を、美颯は何日間も考え続けた。
「……翔、時計持ってない?この部屋、時計がないから翔が帰ってくる時間分からない……」
そう言われて周りを一通り見たが確かに時間の分かるものが置かれていない。翔の部屋にもなかったことを思い出し、そう伝える。
今度美颯に頼む事にして、不安そうな月光の頬を撫でた。
「……ぼくのスマホは?ここに来てから一回も見てないんだけど、もしかしてアパートに忘れてきちゃった?」
「ここに来た日に錬さんから電話がかかってきて使ったぞ。そのあと枕元に置いた」
「……そうなの?ないんだけど……」
「あとで美颯に聞いてくれ。寝れるまでいてやるから早く寝ろ」
そう言って月光の目元に手を当てた。
「うん。……翔」
月光の手が翔の手を持ち上げたので、翔は仕方なく月光の目から手を離す。
「何だ?」
「……ぼく、……帰りたい」
頬を紅潮させた月光が消え入りそうな声で呟いた。
「……美颯が嫌いか?」
出会った頃はほぼ毎日、美颯さんかっこいい!と言っていたが、いつからか聞かなくなった。
もしかしたら何かをきっかけに嫌いになっていたのかもしれない。
「そうじゃない、大好きだよ。でも、学校もバイトもだめって、今は良くても絶対いつか困るもん。美颯さんが学校行くの許してくれないなら一緒に住みたくない。中卒だと就職する時良いお仕事見つからないから」
それが理由ならどうにかなる。そう思って翔は少し安心した。
「仕事のことは考えなくて良い。しばらくは美颯が世話してくれるし、俺が働けるようになったらずっと養ってやるから。月兄が働くなんて危ないからやめてくれ」
過保護だという自覚はある。だがそれを治そうとは思わない。もし月光が両親のように突然殺されたら、翔はきっと自殺してしまう。そうなれば静奈にも美颯にも錬にも迷惑がかかるだろう。そうならないためにも月光には翔や美颯の目が届く範囲で生活していてもらいたい。
「……やだ。みんな大人になったらお仕事するって翔も知ってるでしょ?」
「……ほかの人のマネをする必要ないだろ。月兄、早く寝てくれ。遅刻する。その話がまだしたいなら美颯に言え」
スマホで時間を確認すると、そろそろ学校に向かわなければいけない時間になっていた。
それを言い訳に翔は月光を黙らせた。
「……いつ帰ってくる?」
「五時前には家に着く。俺が帰ってくるまでいい子にしていろ」
「……うん」
心配そうにこちらを見つめる月光の頭を撫でてから翔は部屋を出た。
☆
翔が月光の部屋から出て来たので、いってらっしゃいと見送ってから交代で美颯が月光の部屋に入った。
「大丈夫?冷えピタ貼る?」
月光の赤い頬を撫でてそう尋ねると、月光は弱々しく首を横に振った。
熱の原因は自分が与えた牛乳に混ぜたクスリだが、美颯は心配している風を装う。…できれば月光に危ないものを飲ませたくない。それが本音だが、月光を自分の側から離さずに済む方法がほかに思いつかないのだから仕方がない。
「美颯さん、ぼく学校――」
「飲み物持ってくるから待ってて」
聞こえていないふりをして美颯は一度部屋を出た。
廊下に出た美颯は思わずため息をついた。月光はどうすれば学校に行くことを諦めてくれるのだろうと考えを巡らせたが良い案は思いつかない。
月光を言いくるめられる言葉を、美颯は何日間も考え続けた。
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