危険な恋の始めかた

みららぐ

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危険な恋の始めかた

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彼と出会った瞬間。
あたしは、ビックリしてその場に立ち尽くした。

整ったかわいい顔。
程よい身長、体型。
透き通るような優しい声。

とにかく、全部全部…出会ったその瞬間にあたしは彼の虜になった。
名前は、ショウタくん。
これは、あたし萩原由香とその彼が出会ったばかりの頃のお話…。

…………

ケーキ屋さんは、小さい頃からの憧れだった。
見た目からもう可愛すぎるその存在に囲まれてお仕事が出来たら、毎日がどんなに幸せだろうって。
だから今は凄く幸せだ。いや、幸せなんだと思うことにしてる。
だって、実際は大変すぎるくらいに大変だから。

「ほら由香ちゃん、笑顔笑顔」
「…はぁい」

そして今日も、思わずため息を吐きかけた時、ふと先輩にそうやって注意を受けた。
…仕事中に指摘されることなんかしょっちゅうだ。
ああもう本当に面白くない。
特に、あの噂の「彼」が表に出たその瞬間はあたしのストレスがピークに達する。

「あの、ショウタくんいますか!?」
「ちょっと呼んでほしいんですけど、」

それでも笑顔を保ってお仕事を続けていたら、ふいにお客さんにそう言って声をかけられた。

ああ、またか。
あたしはこの瞬間がきらい。

「…はい、少々お待ち下さいませ」

だけど相手はお客さんだし、一応笑顔で対応する。
まぁ、ショウタくんに話しかける口実になる、って思ってることはナイショで。

「ショウタくん、お客様が呼んでるよ」
「あ、はい」

あたしがそう言ってショウタくんに声をかけると、ショウタくんは仕事を一旦中断させて表に出てくる。
そのお客さんの元に案内したら、ショウタくんの存在に気がついたらしい他のお客さんまでもが嬉しそうな歓声をあげた。

「あ、ショウタくん!」
「きゃー!ショウタくんがいる!」
「ねぇ写真撮ってー!」

…彼は、このお店に初めてやって来たその日からの超人気者だ。
たまに恥ずかしがって呼ばないお客さんもいるけれど、毎日必ずしょっちゅうこうやってみんなショウタくんを呼びたがる。
だけどあたしは、この光景を見るのが嫌なんだ。
だって、胸が痛いしムカつくから。

「ありがとうございます。あ、このタルト今日からの新商品で、」
「ねぇショウタくん、そんなことはいいからさ、一緒に写メ撮ろー!」

…ケーキ食べに来たんじゃないんかい。
ショウタくんとそのお客さんの会話を遠くから眺めながら、あたしは思わずそう思う。
だってそうでしょ。皆ここ何のお店だと思ってんのよ。
だけどショウタくんは優しいから、終始優しい笑顔でお客さんに対応していた…。

…………

そして、その夜。
ようやく今日の仕事が終わって、その帰り。
更衣室で私服に着替えてキッチンを通ると、中にはまだショウタくんがいた。
…覗きに来たわけじゃない。ただ、キッチンを通らないと、裏口には行けないから。
お疲れ様です。
あたしはショウタくんにそう声をかけようとして、だけど思わずその言葉を飲み込んだ。
…何故かショウタくんが、独りで悲しそうな…寂しそうな何とも言えない顔をしていたから。

…ショウタくん…?

だけどそのまま見つめていたら、そのうちショウタくんにあたしの存在を気づかれた。

「…あれ、どうしたの?」
「!」

いきなり、顔を上げるから。
逃げるタイミングを失って、こっちがビックリしてしまう。
だけど、気づかれたんなら仕方ない。

「や…お疲れ様って声かけようとしたら、何だか思い悩んでるように見えたから。ショウタくん」
「え、僕?そう?」

…ついさっきまでは本当に心配になるくらいの顔をしていたのに、あたしの存在に気付いた途端にショウタくんはいつもの調子に戻る。
ほら、またそうやってとぼけた顔。
どれくらい悩んでいたんだろう。作業が進んでないみたい。
あたしは内心そんなことを考えながら、またショウタくんに言う。

「あ…もしかして、お客さんに悩んでた?ケーキ目当てじゃないもんね」
「…」
「でも、あたしはショウタくんが作るケーキ好きだな。見た目も可愛いし、もちろん味も完璧だから!毎日食べたいくらい!」
「…」
「だから…ほら、元気だしてよ」

あたしはそう言うと、ショウタくんの気持ちを知ってるかのように励ます。
するとショウタくんは、あたしと目が合った瞬間に優しく笑って…

「…ありがと」
「…」
「萩原さんて優しいんだね。お陰でちょっと元気出たかも。っつか、優しいし可愛いから、モテるでしょ」
「!」

そう言って、恥ずかしくなるくらい、あたしの目を真っ直ぐに見てきた。
…その言葉と眼差しに、あたしの心はもうトキメキすぎて限界で。
あたしはついに、言ってしまった。
いや、言おうとした。

けど…

「あっ…でもあたし、実はショウタくんのこと凄く好きでっ…!」
「僕も」
「…え?」
「僕も萩原さんとおんなじ気持ち。奇遇だね。でも、一応断っておくけど…」

ショウタくんはそう言いながら…あたしの目の前まで歩み寄ってくる。
一瞬、聞き間違いかと思った。
でもショウタくんは言葉を続けて、今度はあたしの耳元で…囁くように言ったのだ。

「オレ、けっこう悪い男だよ?」
「…!」





【危険な恋の始めかた】





(…あれ?でもショウタくんて彼女いるんだっけ?)
(あ、違う。片想い中だっけ?え?)
(いや、実は全然………あれ?)
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