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鏡子の心理とウワサ②

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「あれ?鏡子ちゃん?」
「!」

修史さんが出張中。
あたしは偶然、「ある人物」と街で出くわしていた。

「…祐くん」

彼の名は、「祐樹くん」。通称「祐くん」。
あたしと同い年のイトコで、最近近くのとある街に引っ越してきたらしい。
そういえば、前に引っ越した時にハガキだけもらってて、全然連絡はとっていなかった。
まさか偶然出会えると思っていなくて、せっかくだからと二人で入った喫茶店で、あたしは祐くんに修史さんのことや妊娠のことを相談していた。

「どうしたらいいかな?やっぱり修史さんに言ったほうがいいかな?」
「んん~…」

そしてあたしの相談に、やがて祐くんが言った。

「そもそもそのウワサって全部真実なのかな?」
「…それは、」
「その彼に内緒でさ、ちょっと調べてみたら?例えば…卒業アルバム見てみるとか!もしもただのウワサだったら安心してその彼に“妊娠した”って言えるじゃん。あ、調べるのは俺も手伝うよ」

…卒アルかぁ…。
祐くんの考えを聞くと、あたしはとりあえず修史さんが出張でいない今のうちに、祐くんと二人で卒業アルバムを探してみることにした。

その日はそのあと二人で遊んで、祐くんが住むアパートには祐くんの妹のコも一緒にいるらしく、久しぶりに三人で寝泊まりして夜を過ごした。
そして、「卒業アルバム」を探してみることになった日。
修史さんの出張最終日。修史さんが出張から帰って来る日、あたしと祐くんはマンションで見つけてしまったのだ。
メッセージを書くページに、女の子たちからのたくさんのメッセージの横にかでかと「DIABLE」と書かれたアルファベットを。

「でぃあぶる…?何て読むの?ってかどういう意味だろ」
「?…待って、俺調べてみる」

祐くんはそう言うと、自身のスマホでその意味を調べる。
するとやがて、また口を開いて言った。

「…あ、あった。“ディアーブル”だって」
「どういう意味なの?」
「…悪魔」
「!」

『彼は悪魔そのものだったの』
『柳瀬修史って男は誰もが認める悪魔だ』

「…そ、卒アル以外に何か手掛かりとかないのかな。鏡子ちゃん何か知らない?」
「さあ…修史さんのものは、あんまり触らないようにしてるから」
「友達、の…悪戯メッセージかもよ?」
「だったらいいけど…」

しかし、そう話していると…

「…でもなんか、怯えてるみたいに見えない?」
「え、」
「写真で見るか限り、この柳瀬さんって人に近寄らないようにしてるように見えるな。おとなしそうな人たちなんて特に」

あたしは祐くんの言葉に写真に目をやると、「…ほんとだ」と気が付く。
そしてまた、募る。大きな不安が。でも…

「決めるのは鏡子ちゃんだよ」
「…」
「それでも一緒にいたいなら、俺止めない。でも離れたいなら、俺たちが住むアパートに逃げてきなよ。鏡子ちゃんには俺たちもいるんだから頼っていいよ」

祐くんとそんな話をして、あたしはその時に初めて決めた。
修史さんから逃げようと。黙って離れて、お腹の子のことはあたしが自分で育てようと。
そして…

「…あ、なんか車の音がする」
「え、」
「修史さん帰って来たかも!」
「!」

そのあとは急いで卒業アルバムを元の場所に戻して、祐くんは慌てて自分のアパートへ帰って行った。


******


…そして今現在、マンションを黙って出たところで修史さんに待ち伏せされていた今に至る。

「…お前何隠してんの」
「~っ、」
「全部、正直に話して?」

あれこれ思いつくままに何とか誤魔化してみたけど、修史さんには通用しない。
だけど、正直に「修史さんとの子供を身ごもっている」と話すのも怖かった。
だって…

『もう何人妊娠させて中絶させてるかわからないって。鏡子お前その話知ってた?』

もしもここで正直に話して、喜んでくれなかったらどうしよう…。
下すように言われたらどうしよう。
そんなこと言われてどのみちダメになるくらいだったら、あたしから終わりにしてしまいたい。
…修史さんにとって、もしも、あたしの妊娠が面倒な対象だったら…。

「鏡子?」
「!」

独りでそう悶々と考え込んでいると、ふいにまた修史さんの声が降って来る。
でも、何かを隠してるのは、きっと修史さんも同じ。
だから、あたしは自分のことを話す前に修史さんに言った。

「な、何かを隠してるのは、修史さんだって同じでしょう?」
「は、」
「…」

怖いけど、聞きたくないけど、あたしは勇気を出して修史さんに問いかけてみた。

「聞いたよ。修史さんが昔“悪魔だった”こと」
「!」
「あたしが話す前に、修史さんから話してよ」





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