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真実を口にしない理由
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「鏡子ワイン飲む?」
とある日の仕事後の夜。
今日はあたしが住むマンションに鏡子が泊まりに来ていた。
あたしがそう言って白ワインを取り出すと、リビングの床に座る鏡子が言う。
「え、あたしワインって初めて飲む。ってかどうしたのそれ。エリナが買ったの?」
「買ったっていうか、貰った。去年誕生日プレゼントに」
「へー」
「でも一人で飲むのも何だし開けないで持ってたんだけど、明日仕事定休日で休みだし、せっかくだから飲もうよ」
あたしはそう言うと、栓抜きと一緒にワインを持って、リビングに戻る。
鏡子が座る前には小さなテーブル。
その上には、さっき仕事帰りに二人で買ってきた夕飯兼おつまみのおかず達が並んでいる。
たまにはこういうのもいいよね、なんて。
「料理に合うかどうか全然わかってないけど」
「貰った時に何か聞いてないの?」
「…シャル…シャルドネ?って言ったかな。あ、魚に合うって言われた。白だから」
「今食べようとしてんの肉だけど」
鏡子とそんな会話をしながら、ワインの開け口を探す。
でも、赤より白の方が飲みやすいって言われて貰ったけどな。
…っていうかこれ、どうやって開けるんだろ。
「え、鏡子開け方知ってる?」
「ワイン飲んだことないのに開け方は知らないよ」
「だよね。え、どうやって開けるんだろ」
「あ、待って。動画で検索してみる」
鏡子はそう言うと、自身のスマホで早速開け方を検索してくれる。
「鏡子ってほんと将来良い奥さんになりそうだよね~」
「ちょっと、からかわないでくんない」
「ごめんって。でもさ、もうすぐ仕事辞めるのって、所謂寿退職なんでしょ?あたしは勝手にそう思ってるよ」
「…、」
あたしがそう問いかけると、鏡子は特に言葉を返すことなく「あったよ」とワインの開け方の動画をあたしに見せる。
…仕方ない。まぁまだ時間はいっぱいあるわけだし、この話はワインを開けてからでもいいか。
「んー?…え、何か開けるの大変そう。ってかこの栓抜きじゃ開けらんないじゃん」
「あるの?この…ソムリエナイフ?」
「…あった。と思うけどな。ちょっと待ってて」
「じゃあおかずレンチンしとくよー」
「うん、お願い」
あたしはまたキッチンに戻ると、そのソムリエナイフとやらを探す。
まぁワインは飲めなくても、チューハイはいくつか買ってあるんだけど。
でもほんと、一人じゃ飲めないしこういう誰かが来た時じゃないと…
しかしそう思いながらソムリエナイフを探していたら、その時ふいに何かを思い出したらしい鏡子が突然叫んだ。
「…あっ!!」
「わっ、なにいきなり」
「っ、ごめんあたし今日お酒飲めない!」
「え!?何で!」
そして突然レンジの前でそんなことを言い出すから、さすがに意味わからなくてあたしが顔を上げると、鏡子が言葉を続ける。
「…あ、ほら、明日…病院…病院行くから」
「え、病院ってなんで。風邪か何か?」
「えと…ほら、い、胃もたれ…とか」
「でも今日揚げ物ばっか買ってるよ。しかも食べたいって言ったの鏡子だし」
っていうか、今?今胃もたれしてるってこと?まぁ胃は不調になるとなかなか治らないって聞くけど。
でも何か、怪しくない?明日病院に行くなんて、今初めて聞いたけど。
あたしはそう思うと、ふいに「あること」に気が付いて鏡子に言った。
「…っ、え、もしかして鏡子!」
「~っ、」
「“妊娠”してるとか?え、仕事辞めるのも寿っ…ってか、デキ婚!?」
「!!」
あたしはそう言うと、すぐ様レンジの前にいる鏡子に駆け寄る。
「マジ!?隠さなくていいのに!あたしらの仲!」
「ちっ、違うよ!そんなわけないでしょ!っていうかまだ結婚とかそういう話にすらなってないし!」
「じゃあ何!おかしいでしょ、スーパーに寄った時にはそんなこと一言も言ってなかったじゃん!」
「いやその時には気づかなかったっていうか…」
「胃もたれに?」
「…うん」
鏡子があたしの言葉に頷くと、その時から揚げが温まったレンジの音が鳴る。
柳瀬さんと鏡子が付き合っているのは鏡子から聞いて知ってるし、あたしは何を聞いても受け入れるけどな。
だけど見た感じ鏡子は言いたくなさそうに見えて、とりあえずあたしは鏡子の言葉を信じてあげることにした。
「…そっか。じゃあ仕方ないね。残念だけど」
「ご、ごめん」
「じゃあ鏡子の分のチューハイ明日持って帰ってよ。…鏡子が飲まなくても柳瀬さん飲むんじゃない?」
「そう…だね。多分飲むと思う」
鏡子はそう言うと、また違うおかずを温め始める。
…柳瀬さんに聞いたら何かわかるかな。
でも売り場の店長である柳瀬さんは現在出張中でまだ数日は帰って来ない。
それに、万が一「何も知らない」で「何それどういうこと?」ってなったら大変だからやっぱ黙っておこう。
あたしはそう思うと、話を逸らそうと何気なく口を開いた。
「…鏡子が仕事辞めるのいつだっけ」
「柳瀬さんが出張から帰ってきたすぐあと」
「もういなくなるじゃん。寂しー」
「でも、またこうやって泊まりに来るよ」
鏡子はそう言うと笑顔を浮かべてくれるけど、でも寂しいのは本当なんだ。
鏡子はあたしの同僚だから。
あたしはそう思いながら、鏡子の方を見て、独り黙ったまま考える。
考えていたら、そのうちにまた「あること」に気が付いた。
…もしかして、鏡子がお酒を飲めない理由をあたしに言わない本当の理由って…。
だけどそれは考えたくなくて、あたしはふっと鏡子から目を逸らした。
……やめよう。こんなこと考えるのは。
鏡子はちゃんと柳瀬さんと仲良くやってるんだ。
とある日の仕事後の夜。
今日はあたしが住むマンションに鏡子が泊まりに来ていた。
あたしがそう言って白ワインを取り出すと、リビングの床に座る鏡子が言う。
「え、あたしワインって初めて飲む。ってかどうしたのそれ。エリナが買ったの?」
「買ったっていうか、貰った。去年誕生日プレゼントに」
「へー」
「でも一人で飲むのも何だし開けないで持ってたんだけど、明日仕事定休日で休みだし、せっかくだから飲もうよ」
あたしはそう言うと、栓抜きと一緒にワインを持って、リビングに戻る。
鏡子が座る前には小さなテーブル。
その上には、さっき仕事帰りに二人で買ってきた夕飯兼おつまみのおかず達が並んでいる。
たまにはこういうのもいいよね、なんて。
「料理に合うかどうか全然わかってないけど」
「貰った時に何か聞いてないの?」
「…シャル…シャルドネ?って言ったかな。あ、魚に合うって言われた。白だから」
「今食べようとしてんの肉だけど」
鏡子とそんな会話をしながら、ワインの開け口を探す。
でも、赤より白の方が飲みやすいって言われて貰ったけどな。
…っていうかこれ、どうやって開けるんだろ。
「え、鏡子開け方知ってる?」
「ワイン飲んだことないのに開け方は知らないよ」
「だよね。え、どうやって開けるんだろ」
「あ、待って。動画で検索してみる」
鏡子はそう言うと、自身のスマホで早速開け方を検索してくれる。
「鏡子ってほんと将来良い奥さんになりそうだよね~」
「ちょっと、からかわないでくんない」
「ごめんって。でもさ、もうすぐ仕事辞めるのって、所謂寿退職なんでしょ?あたしは勝手にそう思ってるよ」
「…、」
あたしがそう問いかけると、鏡子は特に言葉を返すことなく「あったよ」とワインの開け方の動画をあたしに見せる。
…仕方ない。まぁまだ時間はいっぱいあるわけだし、この話はワインを開けてからでもいいか。
「んー?…え、何か開けるの大変そう。ってかこの栓抜きじゃ開けらんないじゃん」
「あるの?この…ソムリエナイフ?」
「…あった。と思うけどな。ちょっと待ってて」
「じゃあおかずレンチンしとくよー」
「うん、お願い」
あたしはまたキッチンに戻ると、そのソムリエナイフとやらを探す。
まぁワインは飲めなくても、チューハイはいくつか買ってあるんだけど。
でもほんと、一人じゃ飲めないしこういう誰かが来た時じゃないと…
しかしそう思いながらソムリエナイフを探していたら、その時ふいに何かを思い出したらしい鏡子が突然叫んだ。
「…あっ!!」
「わっ、なにいきなり」
「っ、ごめんあたし今日お酒飲めない!」
「え!?何で!」
そして突然レンジの前でそんなことを言い出すから、さすがに意味わからなくてあたしが顔を上げると、鏡子が言葉を続ける。
「…あ、ほら、明日…病院…病院行くから」
「え、病院ってなんで。風邪か何か?」
「えと…ほら、い、胃もたれ…とか」
「でも今日揚げ物ばっか買ってるよ。しかも食べたいって言ったの鏡子だし」
っていうか、今?今胃もたれしてるってこと?まぁ胃は不調になるとなかなか治らないって聞くけど。
でも何か、怪しくない?明日病院に行くなんて、今初めて聞いたけど。
あたしはそう思うと、ふいに「あること」に気が付いて鏡子に言った。
「…っ、え、もしかして鏡子!」
「~っ、」
「“妊娠”してるとか?え、仕事辞めるのも寿っ…ってか、デキ婚!?」
「!!」
あたしはそう言うと、すぐ様レンジの前にいる鏡子に駆け寄る。
「マジ!?隠さなくていいのに!あたしらの仲!」
「ちっ、違うよ!そんなわけないでしょ!っていうかまだ結婚とかそういう話にすらなってないし!」
「じゃあ何!おかしいでしょ、スーパーに寄った時にはそんなこと一言も言ってなかったじゃん!」
「いやその時には気づかなかったっていうか…」
「胃もたれに?」
「…うん」
鏡子があたしの言葉に頷くと、その時から揚げが温まったレンジの音が鳴る。
柳瀬さんと鏡子が付き合っているのは鏡子から聞いて知ってるし、あたしは何を聞いても受け入れるけどな。
だけど見た感じ鏡子は言いたくなさそうに見えて、とりあえずあたしは鏡子の言葉を信じてあげることにした。
「…そっか。じゃあ仕方ないね。残念だけど」
「ご、ごめん」
「じゃあ鏡子の分のチューハイ明日持って帰ってよ。…鏡子が飲まなくても柳瀬さん飲むんじゃない?」
「そう…だね。多分飲むと思う」
鏡子はそう言うと、また違うおかずを温め始める。
…柳瀬さんに聞いたら何かわかるかな。
でも売り場の店長である柳瀬さんは現在出張中でまだ数日は帰って来ない。
それに、万が一「何も知らない」で「何それどういうこと?」ってなったら大変だからやっぱ黙っておこう。
あたしはそう思うと、話を逸らそうと何気なく口を開いた。
「…鏡子が仕事辞めるのいつだっけ」
「柳瀬さんが出張から帰ってきたすぐあと」
「もういなくなるじゃん。寂しー」
「でも、またこうやって泊まりに来るよ」
鏡子はそう言うと笑顔を浮かべてくれるけど、でも寂しいのは本当なんだ。
鏡子はあたしの同僚だから。
あたしはそう思いながら、鏡子の方を見て、独り黙ったまま考える。
考えていたら、そのうちにまた「あること」に気が付いた。
…もしかして、鏡子がお酒を飲めない理由をあたしに言わない本当の理由って…。
だけどそれは考えたくなくて、あたしはふっと鏡子から目を逸らした。
……やめよう。こんなこと考えるのは。
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