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鍵が無い!
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「…お邪魔します」
「ん、どーぞ」
結局あれから柳瀬さんに事情を説明して、帰る前に柳瀬さんの家で鍵を探すことにした。
到着するなり柳瀬さんが家の鍵を開けてあたしを招き入れ、あたしは中に入るなりキョロキョロと玄関からそれを探し始める。
するとそんなあたしに、柳瀬さんもなんとなく探しながら言った。
「鍵に何かキーホルダーは?ついてるの?」
「ド●え●んのキーホルダーがついてます。5センチくらいの、」
「…ないと思うけどなぁ」
そして玄関には無さそうで、あたしは今度はリビングに進んでみる。
でも、寝室が一番怪しいか。
「まぁ確かに昨日も二人でここにいたけども」
「絶対どこかに落としたんですよ!でもあたし柳瀬さんの家以外に行ってないんでここにあるはずなんです!」
「……」
そう言って、あたしはとりあえずカバンを置いていた周辺を探してみる。
だけどそれらしきものは全く見当たらず、テーブルの下や部屋の隅を見てみても無い。
そして寝室にも行って、探してみるけれど…
「…あった?」
「いや…全然ないです」
「…そう」
「どうしよ~…」
「……」
それはやっぱりどこにも無くて、やっぱり柳瀬さんのマンションにはないのかもしれない。
え、だとしたら居酒屋かな?確かにそこにも行ってるし、そうじゃなくても会社に落としてる可能性もあるのかな…。
そしてあたしが独り悶々と考えていると、そのうち柳瀬さんが言った。
「まぁまぁ、大丈夫だよ心配しなくても。どのみち広喜くんのこともあるし毎日ちゃんと帰る方が危ないんだから」
「で、でも失くすのはマズイです」
「じゃあ今度大家さんに言って、新しいの作って貰ったら?とりあえず今日は仕事で疲れたでしょ?」
そして、「俺んとこまた泊まれば?」と。
寝室の入口でそう言ってくれる柳瀬さん。
でもそれじゃああたし、いくら何でも甘えすぎじゃない?
だけど明日も仕事だし、正直そうしてもらえると助かる。
そしてあたしが柳瀬さんの言葉に頷いてお願いすると、柳瀬さんは突如安心したようにニッコリ笑った。
「そ、じゃあ俺夕飯買ってくるね。何がいい?」
そう言って、自身のスマホを手に取る柳瀬さん。
でも、一方のあたしはそんな柳瀬さんに違和感を覚える。
ん、あれ?今の笑顔は…何?
あたしはそう思いながらも、とりあえずその問いかけに答えた。
「あ、よかったらあたし作りますよ!」
「え、マジで!」
「だってここ数日泊めてもらってるしそのお礼も兼ねて。柳瀬さん何食べたいですか?あたし一応料理は得意ですよ」
あたしがそう言うと、柳瀬さんは和食系がいいとリクエストしてくれて、あたしはとりあえず冷蔵庫の中を見させてもらった。
「…買い物行った方が良さそうですね」
「ああ、毎日コンビニで済ませてるから」
「それは体に良くないです!」
「!」
「わかりました。今日はあたしが柳瀬さんのために栄養つくもの作ります!」
そうだこれだ。今まで良くしてもらったぶん、あたしの得意な料理でお返しすればいいんだ。
するとあたしの言葉に柳瀬さんは「楽しみにしてるよ」と言ってくれて、買い物は近所のスーパーまで、柳瀬さんが車を出してくれることになった。
…なんだか、こうしていると同棲してるカップルみたいで少し照れちゃうな。
まだ、付き合ってもないのにな。
未だ鍵が見つからない不安も残る中で、あたしは一旦スーパーに出掛けるべく柳瀬さんと一緒にマンションを後にした。
…………
「貸して」
「あっ、」
スーパーで必要な食材を買ったあと、重たい荷物は柳瀬さんがそう言って持ってくれた。
隣を歩くだけでもあたしなんて不釣り合いなのは百も承知なのに、まさか柳瀬さんのマンションに数日泊まりがけなんて自分でもビックリだ。
こんな素敵な人が旦那さんだったら、奥さんはきっと幸せなんだろうな…。
そう思いながら、車の中でもその運転する姿を何気なく見ていたら、それに気がついたらしい柳瀬さんが言った。
「…どうかした?」
「あっ、や…別に」
「?」
まさか気付かれていたなんて思わなくて、あたしは慌てて目を逸らす。
でも、柳瀬さんは「あなたには俺がいる」ってよく言ってくれるから、もしかしたら、将来、柳瀬さんの隣にはあたしがいたり…とか。
思わずそんなことを柳瀬さんの隣で考えてしまったけれど、あたしは「まさか」と首を横に振った。
きっと、それは別物。結婚は別物。
あたしは何だかこれ以上考えていることが恥ずかしくなって、マンションに帰るまでの間、ただ街の風景を車内から眺めていた。
…………
マンションに帰ったら、柳瀬さんには先にお風呂に入ってもらって、あたしはその間に夕飯の支度をした。
柳瀬さんはキッチンをあまり使わないらしく、だけど調理器具はそれなりに揃っている。
今日作るのは、野菜たっぷりの肉じゃが。
あとはお魚を焼いて、お味噌汁も作ろう。
あとは卵焼きに、サラダも。
柳瀬さん、喜んでくれるといいな…。
あたしはそう思いながら、早速肉じゃがの具材を切り始めた。
…………
鏡子ちゃんが夕飯の支度をしてくれている間、俺は脱衣所でネクタイを外して上着を脱ぐ。
「あたしは夕飯の支度をしますから、柳瀬さんは先にお風呂に入っちゃって下さい」なんて鏡子ちゃんに言われたから風呂入ろうとしてるけど、これもう完全に夫婦みたいだな。
キッチンに立つ鏡子ちゃんがもう愛おしすぎて、見ているだけで幸せすぎて困る。
いや、自分が何をしてるのかはわかってる。
けど仕方なくない?
だってこうでもしなきゃこんな光景、見れなかったわけだし。
俺は上着のポケットから『あるもの』を取り出すと、とりあえずそれを着替えの服の上に置いておいた。
『あたし、柳瀬さんのマンションに鍵を失くしたかもしれません!』
その『あるもの』とは、鏡子ちゃんがさっきまで必死に探し回っていた、マンションの鍵だった。
「ん、どーぞ」
結局あれから柳瀬さんに事情を説明して、帰る前に柳瀬さんの家で鍵を探すことにした。
到着するなり柳瀬さんが家の鍵を開けてあたしを招き入れ、あたしは中に入るなりキョロキョロと玄関からそれを探し始める。
するとそんなあたしに、柳瀬さんもなんとなく探しながら言った。
「鍵に何かキーホルダーは?ついてるの?」
「ド●え●んのキーホルダーがついてます。5センチくらいの、」
「…ないと思うけどなぁ」
そして玄関には無さそうで、あたしは今度はリビングに進んでみる。
でも、寝室が一番怪しいか。
「まぁ確かに昨日も二人でここにいたけども」
「絶対どこかに落としたんですよ!でもあたし柳瀬さんの家以外に行ってないんでここにあるはずなんです!」
「……」
そう言って、あたしはとりあえずカバンを置いていた周辺を探してみる。
だけどそれらしきものは全く見当たらず、テーブルの下や部屋の隅を見てみても無い。
そして寝室にも行って、探してみるけれど…
「…あった?」
「いや…全然ないです」
「…そう」
「どうしよ~…」
「……」
それはやっぱりどこにも無くて、やっぱり柳瀬さんのマンションにはないのかもしれない。
え、だとしたら居酒屋かな?確かにそこにも行ってるし、そうじゃなくても会社に落としてる可能性もあるのかな…。
そしてあたしが独り悶々と考えていると、そのうち柳瀬さんが言った。
「まぁまぁ、大丈夫だよ心配しなくても。どのみち広喜くんのこともあるし毎日ちゃんと帰る方が危ないんだから」
「で、でも失くすのはマズイです」
「じゃあ今度大家さんに言って、新しいの作って貰ったら?とりあえず今日は仕事で疲れたでしょ?」
そして、「俺んとこまた泊まれば?」と。
寝室の入口でそう言ってくれる柳瀬さん。
でもそれじゃああたし、いくら何でも甘えすぎじゃない?
だけど明日も仕事だし、正直そうしてもらえると助かる。
そしてあたしが柳瀬さんの言葉に頷いてお願いすると、柳瀬さんは突如安心したようにニッコリ笑った。
「そ、じゃあ俺夕飯買ってくるね。何がいい?」
そう言って、自身のスマホを手に取る柳瀬さん。
でも、一方のあたしはそんな柳瀬さんに違和感を覚える。
ん、あれ?今の笑顔は…何?
あたしはそう思いながらも、とりあえずその問いかけに答えた。
「あ、よかったらあたし作りますよ!」
「え、マジで!」
「だってここ数日泊めてもらってるしそのお礼も兼ねて。柳瀬さん何食べたいですか?あたし一応料理は得意ですよ」
あたしがそう言うと、柳瀬さんは和食系がいいとリクエストしてくれて、あたしはとりあえず冷蔵庫の中を見させてもらった。
「…買い物行った方が良さそうですね」
「ああ、毎日コンビニで済ませてるから」
「それは体に良くないです!」
「!」
「わかりました。今日はあたしが柳瀬さんのために栄養つくもの作ります!」
そうだこれだ。今まで良くしてもらったぶん、あたしの得意な料理でお返しすればいいんだ。
するとあたしの言葉に柳瀬さんは「楽しみにしてるよ」と言ってくれて、買い物は近所のスーパーまで、柳瀬さんが車を出してくれることになった。
…なんだか、こうしていると同棲してるカップルみたいで少し照れちゃうな。
まだ、付き合ってもないのにな。
未だ鍵が見つからない不安も残る中で、あたしは一旦スーパーに出掛けるべく柳瀬さんと一緒にマンションを後にした。
…………
「貸して」
「あっ、」
スーパーで必要な食材を買ったあと、重たい荷物は柳瀬さんがそう言って持ってくれた。
隣を歩くだけでもあたしなんて不釣り合いなのは百も承知なのに、まさか柳瀬さんのマンションに数日泊まりがけなんて自分でもビックリだ。
こんな素敵な人が旦那さんだったら、奥さんはきっと幸せなんだろうな…。
そう思いながら、車の中でもその運転する姿を何気なく見ていたら、それに気がついたらしい柳瀬さんが言った。
「…どうかした?」
「あっ、や…別に」
「?」
まさか気付かれていたなんて思わなくて、あたしは慌てて目を逸らす。
でも、柳瀬さんは「あなたには俺がいる」ってよく言ってくれるから、もしかしたら、将来、柳瀬さんの隣にはあたしがいたり…とか。
思わずそんなことを柳瀬さんの隣で考えてしまったけれど、あたしは「まさか」と首を横に振った。
きっと、それは別物。結婚は別物。
あたしは何だかこれ以上考えていることが恥ずかしくなって、マンションに帰るまでの間、ただ街の風景を車内から眺めていた。
…………
マンションに帰ったら、柳瀬さんには先にお風呂に入ってもらって、あたしはその間に夕飯の支度をした。
柳瀬さんはキッチンをあまり使わないらしく、だけど調理器具はそれなりに揃っている。
今日作るのは、野菜たっぷりの肉じゃが。
あとはお魚を焼いて、お味噌汁も作ろう。
あとは卵焼きに、サラダも。
柳瀬さん、喜んでくれるといいな…。
あたしはそう思いながら、早速肉じゃがの具材を切り始めた。
…………
鏡子ちゃんが夕飯の支度をしてくれている間、俺は脱衣所でネクタイを外して上着を脱ぐ。
「あたしは夕飯の支度をしますから、柳瀬さんは先にお風呂に入っちゃって下さい」なんて鏡子ちゃんに言われたから風呂入ろうとしてるけど、これもう完全に夫婦みたいだな。
キッチンに立つ鏡子ちゃんがもう愛おしすぎて、見ているだけで幸せすぎて困る。
いや、自分が何をしてるのかはわかってる。
けど仕方なくない?
だってこうでもしなきゃこんな光景、見れなかったわけだし。
俺は上着のポケットから『あるもの』を取り出すと、とりあえずそれを着替えの服の上に置いておいた。
『あたし、柳瀬さんのマンションに鍵を失くしたかもしれません!』
その『あるもの』とは、鏡子ちゃんがさっきまで必死に探し回っていた、マンションの鍵だった。
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